ルイズとアーク
「……なに?」
ヘブンバックに佇んでいたルイズの機嫌は、声色からわかるほど悪い。
前々から、どうしてここまで眉間を深めさせることになってしまったのか。ルイズの心中はなにが渦巻いているのか全く予想もつかない。
とにかくまずは、彼女の逆剥けの心を刺激しないようにする。
「確かに、今はラフィーの為……っていうか自分の為に動いてる。でも……」
「じゃあいいでしょ。ルイズに構ってる場合じゃないだろ」
「違うんだ。僕たちは真実を話してくれないラフィーを説得する計画を進めているんだけど、それにはルイズも必要なんだ。いてくれないと」
「なんで?」
「それは……」
ルイズの目が鋭い。今だけは、馬鹿正直になるのは阿保かもしれない。
「前ラフィーと会った時、ふたりは戦ってたよね。喝入れるとか言って」
「そうだったかな」
「そう。だから、もしもラフィーがやけになったとしたら、ルイズの力が必要かもしれない。いや、必要なんだ」
「……」
腕組みをして眉を潜めている。まだ駄目だろうか。多分だけれど、これまでそっぽを向いてきた感情から素直になるのが恥ずかしいのか。
ぼくは女の子の気持ちを理解できるほど、経験が豊富なわけでもなんでもないけど。ぼくはさらにもう一押し、声をかける。
「それだけじゃない。ルイズには見届けて欲しいんだ」
「……なにを?」
「ぼくはラフィーから真実を聞けたら、地上で未練にケリをつけて来ようと思う。地上と天界は世界線が違うから、ルイズもそれを問題なく見れると思う」
ここで、これまで真顔か眉と口を歪めるだけだったルイズの表情が一変した。不思議そうにきょとんとしたのだ。
「あの、どういうことかちょっと……」
「幼馴染の話はしただろ。彼と、はっきりお別れを伝えてくるつもり」
「でもさ、その、詳しい事情は知らないけど。結局はラフィーの返事次第なんだろ? そんなすぐ地上に行くとか決めていいのか?」
「決めていいって?」
「だから……結構大事な事なんだろ、その返事。そんな軽く扱っていいのかって」
そういえばルイズには、それほどラフィーとかの説明をしていなかったような。ぼくと同じ理解はしていないはず。
「返事なんか、変なことしなくてもわかってんじゃないか? もう諦めてんのか?」
少し調子の戻ってきたルイズが言う。
「そんなわけじゃないけど。別の答えがあるとも考えにくいしさ。ぼくはずるずる引きずってきた思いを断つ。それを見届けてほしい」
「え、それこそなんで……」
ぼくは疑問を唱え続けるルイズの肩に手を置いた。そして、ちょっとだけ口角を上げてぼくはルイズに言う。
「訳はよくわかんない。まあ、証人がほしいんだよ。それに最初に会った天界の住民だしさ。なんか思い入れあるんだ」
「そ、そうなのか……?」
まだなにもよくわかっていないルイズだけど、目を丸くするような表情は普段の彼女と似ている。不機嫌は治ったようだ。
「そう。だから、とりあえずはぼくについて来てよ。これからラフィーのところに行くから」
「ラフィーか。因みに、具体的にはなにするんだ?」
「えっとね。彼にぼくの地上の体を治癒したかどうか、神様に説得してもらって話させるんだ」
「えっ、神ぃ!?」
じっとりとしたヘブンバックには合わない、いつもは元気溢れるルイズには似合う、ハツラツした声が響いた。
「そこまでやんのか……」
「まあね。そろそろ行こうよ。誰か合流すると思うし」
「あーうん。わかった!」
ルイズがハキハキした声を出すようになった。ぼくの前を歩くようにもなった。どこに行くかもわからないのに。
ぼくはそんな彼女の背中を、元気になって良かったと微笑ましく見ていた。
お読みいただきありがとうございます。
自分で書いてて思いますが、アークは女の子の扱い慣れてますね。ふたりの関係性にも注目してほしいかなと思います。




