ラフィーの人柄
「ラフィー?」
ゼルの口から発せられた言葉に、ぼくは色んな意味で当惑した。
ラフィーといえば。まだ顔を合わせた回数は少ないが、ヒールの尻に敷かれているようなひ弱そうな印象を受けた天使だ。
あまり目立つような雰囲気でもなかったが、そんな彼がこんな大胆なことをしでかすとはあまり思えない。
「知らないかな?」
ゼルが気を利かせ聞いてくる。
「いや、一回会ったよ。ヒールも居たんだけど、そっちの方が気が強そうだった」
「はは、そうかい。一応四大天使の一人で、一部の天使達の監督なんだけどね。全然威厳がないだろ? そこら辺にハインとかは困ってるらしいよ」
「へー……結構偉かったんだ」
確かに言う通り、下っ端の天使と言われても納得できるような弱々しいオーラだった。いや、オーラも放っていなかったような。
それに、四大天使の一人だなんて、ハインとは大違いだ。ゼルはぼくの言葉に頷く。
「そうだね。それにもっと困りものだったのは、ラフィーが人間好きだったことだ」
「人間好き……」
「僕みたいに地上を放浪したりなんてことは、忙しいっていうのもあってしてないけどね。稀でも少し時間が空こうものなら、地上に行っていたよ」
「それ、怒られないの?」
「彼の管理役はヒールだから。辛いのは一瞬だろうね」
代わりにダメージも大きいんだろうな、と同情した。
と、ラフィーの話を聞くうち、ぼくは感じていたことがあった。
「なんか、ゼルと似てるね」
「まあね。どっちも、変な奴扱いで誰かに嫌悪されてるのは合ってるよ」
「あ、嫌われてるの……」
「可哀想扱いはやめてくれよ。人が好きかどうかなんて、些細な価値観の違いだとは思うけどね。別に支障はないからいいんだけど」
そう言って自称嫌われ者は、いつも張り付いているような笑顔を浮かべた。何回この表情を見ただろう。小さなことに喜びを感じられているということなのか。
「おっと、脱線したね」
思い出したように手を合わせる。漫画だったら小さな集中線かなにかが入っていそうだ。
「ま、人間好きで休みがあれば地上に降りて……そんな彼が、人間に対してなにをするかはわからない。正直言ってぼくよりも愛情は深いだろうね」
「ゼルの好き度も中々のものだと思うけどな。家具とかティーバッグとか、集めてるくらいだし」
「そうだけど。ぼくは地上にいるとき喜んだり困ったりしている人間を見て、自己満足して帰っていくんだ。人は面白いなぁって。でも、ラフィーは人間が困っていたら、全部手伝ってやろうとするんだ」
「ゼルも性格悪そうだけど、ラフィーは度が過ぎてるかな」
彼は手をぶんぶんと振る。
「面白いって、そういう意味じゃないからね。まあそれほど人間マニアのラフィーだから、若くして死んでしまう君のような人間は救いたいだろうね」
「ねえ、でもさ。噂の犯人が、ラフィーがぼくを生かしているっていうのを前提にするのは、まだ早くない?」
「ん、そうかな」
ゼルは腕を組んだ。なにかを考えているような感じだ。というか本当に考えているようで、小屋の中に静寂が風のように通っていった。
「あの、なんとなく言っただけだからそんなに気にしなくていいし……」
「いや、でも、一度指摘されると気になってね」
「それに、わからないなら直接聞けばいいんじゃない?」
「え?」
ぼくは思ったままを素直に述べた。それにゼルは戸惑ったようだ。
ゼルは脳内で、ラフィーを責め立てる完璧な計画を立ててから立ち向かおうとしているのだろうか。
「さっきの話で、ラフィーが噂のような行動をしている可能性が高いっていうのはわかったし。その先は考えるより、動いた方が早いんじゃないかな」
「動くって、聞くって……アークの体に治癒を施しましたかって?」
「うん。理由とかはなにもわからないけど、やったって可能性は高い。聞く価値はあるでしょ」
うーん、とまたゼルは考え込む。なにか問題があるのだろうか。ぼくは問いただしてみる。
「いや、噂はグリウから聞いたんだけど、彼やハインもラフィーを探していたようだったんだよ。あの丁寧で有名なハインが探しても見つからない、気まぐれくんだからね。見つかるかなぁ」
「居場所がわからない、か。前はリザレイの居場所を聞くのにリィに会った気がするけど。今回は相棒のヒールがいいかな」
「ヒールか。確かに彼女なら見つけてくれそうだね。彼女すら見つからなかったらどうしようね?」
冗談っぽくゼルは言う。けれど、ぼくはそんな冗談に本気で返してやることにした。これに関しては自信があったからだ。
「そこは大丈夫だよ。前、ルイズとヒールの仲違いが直ってからふたりはずっと一緒にいる。あのふたりはまだ喋りたがっていたらしいし、Gホールにまだいるよ。多分」
「多分か。まあきっちりしてそうな根拠はあるし、いいか」
そうしてぼくらは方針を固めた。
天使たちの間で流れる噂と、ぼくの生きる体の関連性。噂の犯人と体を弄った犯人は共通である可能性。高まるラフィーへの怪訝度。
そろそろ、天界でしてきた努力の末に辿り着きそうだ。高ぶりかける胸の鼓動を抑えながら、Gホールへヒールを探しに行くことにした。
「なんだか、あそこにはやっぱりなんだかんだでお世話になっちゃうね」
もう慣れたGホールへの道を、喋りながら飛ぶ。
「あそこを生活拠点にしてる人もいるくらいだからね。立派な建造物だと思うよ」
「ヘブンバックのビルくらい大事かな?」
「人間にとっては、かな」
「かもしれない」
他愛ない会話も緊張なくできている。外から見たら表情は乏しいかもしれないが、かなり頬が緩むようになってきた気がする。
ぼくはここに来てから、やっと成長できたのかもしれない。
お読みいただきありがとうございます。
どこかに行ってはGホール。
そこから出ては一悶着し、またGホール。
冷静に物語を追うと、そうなっている気がします。名前は執筆中につけた感じですが、馴染んでいるでしょうか。
次話はラフィーが登場するでしょうか。
お楽しみにしていてください。




