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ゼルとアークの変化

 「グリウ、すまなかったね」



 地下に入った僕は、後ろ姿のグリウに声をかけた。ルシカさんとの楽しげな会話に水を差すのも気が引けたが、一言声をかけないのも気が利かないというものだ。



 真っ先に返事をしたのはルシカさんだった。



「ゼルさん! お帰りなさい」


「おや、アークはいないのですか」


「うん。彼も落ち着いて踏ん切りがついたようだからね。次の行動に移ろうと思うんだ」


「……結局ここに来た理由を教えてもらっていませんがね」


「それについては、ごめんとしか言えないな。多分また会う機会はあるから、その時にね」


「ちょっとゼルさん、だいぶ引き伸ばしてるみたいですけど、忘れません?」


「さあ、わかんないなあ。グリウが覚えていてくれたらいいんだけど」



 ちらりと彼を見ると、あと一歩でしかめっ面になりそうな感じになっていた。



 反省すると、ルシカさんにも片付けを任せていたり、グリウとの約束を色々と破っていて。最近無責任かと思うことが多いかもしれない。



 でも同時に、ここまで他人に物事を任せていたことは記憶に薄い。こうして人に頼ることも、必ずしも悪いことではないのかと思えてくる。



「……他にお話しすることはありませんか?」



 低い声でそう言ったのが聞こえた。



 グリウの怒りの沸点が達さない内に、言いたいことは済ませておこう。



「ああ、それで動き出したいから、ここで一旦お別れになるってことを伝えたかったんだ。ルシカさん、連れてきたのに送り届けられなくてごめん」


「かまいませんよ。ひとりで天界を遊覧するのも楽しいですから」



 彼女はにっこりして「それに本にも興味湧いちゃいましたし〜」と資料室の本棚を弄りだした。



 それにグリウが軽く注意を出して、僕の前に戻ってきた。



「じゃあそういうことで。ここを解放してくれてありがとう」


「ひとつ」


「ん?」


「さっきハイン様を見かけましたね? ハイン様から伝言を預かったのです。……ラフィーが人間を生きながらえさせていると」


「ラフィー? どういう……」


「詳しいことは噂ですのでなんとも。とにかく、特有の治癒力を使い命の(ことわり)に反することを行っているらしいです。頭のどこかに入れておいてください」



 グリウはそれだけ言うと、ずっと気になっていたのかルシカさんのところへ急いだように向かっていった。



 ラフィーの噂。言われた通り、頭の片隅に置いておくことにしよう。



 僕は回れ右で振り返り、軽く手を振って地下の部屋を出た。建物の一階部分に出ると、目が痛くなるくらいの眩しさを感じた。資料室が暗すぎたのが原因だろう。



 情報を管理していた資料は本。紙だから管理は暗室の方が良いというのはわかるが。



「にしても、暗すぎじゃないか?」



 そんなことを考えながら、外で待つアークの元に行った。



 アークは壁に寄りかかり、空を見上げるように首を曲げていた。実際ここは地上からすれば空の上なのだが、その横顔はやや晴れやかに見えた。



「アーク。挨拶済ませてきたよ」


「あ、うん。じゃあ……一回家に帰る? 色々とぶっ通しだし、じっくり考え事をするのには最適じゃないかな」


「かもしれないね。何日分頑張ったかわからない。腰を落ち着けて休むのも兼ねようか」



 アークは数歩歩き出し、キョロキョロして辺りを見回す。そして困った顔で言った。



「……右と左。どっちにいけばいい?」



 そういえば、僕は天界に長らく住んでいるから当然のように来ていたが、アークは文字通り右も左もわからないままでいたのだ。



 彼も天界に来て、地上時間にして数ヶ月も経っていないだろう。まだまだ知らないことの方が知っていることよりも多いのだ。



「右だよ。僕が先導するから着いてきて」


「わかった」



 アークを後ろに着けながら、いつもよりゆっくり家に向かう。



 先ほど聞いたラフィーの噂。内容は気になるが、このことをアークに話した方がいいのだろうか。



 しかし、アークの今の乱れた心に、余計な情報を追加してはいけない。もっと混乱してしまう可能性がある。



 それに、僕にはちょっとした考えがある。彼の心は未だ整理できていなようだった。だからいきなり答えを出して、すぐに行動をして終わらせてはいけない。アークが落ち着きながらも自分で推理を進めていき、ゆっくりと真実を吞み込めるようにさせないといけないのだ。



 その為に、ラフィーの噂も上手く扱えばそれの働きを助長できるだろう。



 どんな結末を導き出し、どんなけじめをつけるのかはアーク次第だ。その辺りは完全に任せるしかない。僕はそんなことを決意した。



 ……深く思考していたら、怒られてしまった。



「ゼル! ここ、上に上がらなくていいの?」


「あ、ごめん。気がつかなかったよ。上だ上だ」


「後ちょっとだからさ、ちゃんとしてよ」



 僕は彼の親でも知り合いでもないけれど、アークは出会った当初よりも随分変わったなあと、何故か今深く実感した。

お読みいただきありがとうございます。

この作品を推理物にする気はないので、そこのあたりはあまり重視していないのですが。ゼルのアークへの謎の解かせ方はこだわろうと思っています。

次回は解明パートだと思うので、一緒に考えたりしてみてください。

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