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認めたくないこと

 「傷が浅い……? そんなことって……」



 同じ事故にあって天界にくることになったぼくとルシカさん。なんだけど、ルシカさんはぼくよりも傷が浅いのに死んでしまっている。



 ゼルはそんなぼくの話を聞いて、明らかに動揺していた。珍しく慌てながら質問する。



「グリウ、アークの資料はあるかい?」


「今ルシカのを見つけたばかりじゃないですか。ひとりをピンポイントで発見するのがどれだけ大変か……」



 グリウは心底面倒臭そうに言った。若干皮肉を込めたようにも聞こえた。一方のゼルは困ったというよりは、もどかしいようにいていた。



 それを見ていたぼくの近くで、ルシカさんが本を握りながら天使2人のやりとりを見つめていた。



「あの、どうしたの?」


「あ、あのね。さっき探してた時君のを見つけて、なにかに使うかなーと思ってページ挟んでおいたんですよね」



 そう言いながら持っている本をページを開いて、ぼくに見せてきた。それには小さな文字で様々な内容が書かれており、ぼくは見入っていた。



 彼女の話を聞いたふたりも本を見ていた。



「あの、ゼルさん。お役に立ちます?」


「……うん。これでなんとなく自分の中の見立てがついたかな」


「見立て?」



 ゼルは本から目を離すと、机に寄りかかって考え始めた。ぼくがどういうことかと問いただすと、「うん」と一拍おいて説明をしてくれた。



「完全に整理できてないからまどろっこしくなるかもしれないけど」


「うん」


「ルシカさんの方が軽い怪我なのに亡くなってしまった。それがおかしいと君は言ったね。確かにそれはおかしい。勿論打ち所が悪かったという説だってあるけど、あの本によればルシカさんは即死らしいんだ」


「え、そうだったんだ」


「ああ。だから運悪く亡くなったって訳ではないと思う。そうなるのは必須だったんだろうね。しかもなんだけど、ルシカさんの方が軽いとは言ったって、結構酷い傷なんだよ。アークのが惨すぎるってくらい」


「そうなの? 基準わかんないから……人間の死体とか見る機会あったの?」


「あんまりないね。あってもヘブンバックにあるきれいなのくらいだよ。僕の本来の役割って、迷ってる魂を案内してあげることだからね」


「じゃあ、なんでルシカさんのが酷いって判断できたの?」


「んー、まあ。医療的なことをかじってるからね。少しは知識があるんだ」


「ふーん……そうなんだ」



 そこらへんについてはあまり触れようとしない。深い意味があるのかどうかは、わからないんだけど。



「脱線したけど。まとめると、確かに比較するとルシカさんの方が軽い怪我なんだけどね。その軽い怪我でも亡くなるのは当たり前って感じなんだ。それよりも重い怪我なのにまだ病院で入院状態の君って、なんなんだろうね……」



 ゼルの説明をひとしきり聞いた後、その言葉を飲み込んで考え込む。そしてぼくは、あることがものすごく気にかかってしまった。



 ゼルが引っかかっていることとは全く別のことを思考していたぼくは、彼の呼びかけにまともに答えていなかった。



「アーク、聞いてたかい? この謎について見解を――」


「ゼル! あのさ、ルシカさんの傷が絶対に亡くなっちゃうもので、それよりも重いぼくって、それってさ、もう死んでるかもしれないってこと? 病院の人が気づいてないだけで」



 感情的にゼルに掴みかかっていた。周りからすれば突然騒ぎ出した子供だから、困惑させてしまっている。でもどうしても聞きたい。そうして頭を冷やしたい。



「気づかないことなんてないと思うけど……」


「だって! もし死んでたら、もうさ。勇樹に……会えないから……」



 勇樹に。彼にもう一度会える一心で、地上へ戻る為の努力をしてきたのに。



 とっくのとうに死んでいる? そんなことがあるのか?



 どうしても認めたくないまま、お互い無言のまま苦しさをゼルにぶつけていた。掴んだ服の裾を、ギチギチと握っていた。

お読みいただきありがとうございます。

今回は短くなってしまいました。

これまで「地上に帰る」ということを前提に来ましたが、それがひっくり返るかもしれません。

ここからの展開にご期待下さい。

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