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散りばめられた資料室

 「ねぇ、ここどこ?」



 ぼくはきょろきょろして周りを観察する。ルシカさんも上半身のあたりで手を組みながら、同じように首を捻っている。お化け屋敷に来た女の子のようにも見えた。



 それもそのはずで、今ぼくたちが居る場所は天界らしからぬ暗闇に包まれているのだ。なにも見えないわけじゃないけど、資料の文字なんて見えなさそうだ。



「どこって、地下だよ。ここまで一緒に歩いてきたじゃないか」


「建物の地下っていうのはわかるけど、なにをするところなの?」


「なに……簡単に言うと、色々だね」



 天界なのに地下というのはどうなのか、という疑問もあるけど、つまりは建物の下層という訳だ。だから暗いし広い。



 ぼくにとって地下はそんなイメージがある。だだっ広くてやけに暗い。



「色々って、それを聞いてるんだけど……」


「本当に色々なんだよ。うーん、ちょっと説明してくれないかな?」



 ゼルは更に暗い空間を見ながら言った。そこにはぼくもルシカさんも居ない。



 ゼル以外がきょとんとしていると、奥からため息が聞こえてきた。同時にほんのりとした灯りがついた。



「あ……」



 ゼルが声をかけた相手の影が見えるようになった。それは動いて、こっちに近づいてきた。



「なんでここにいるんですか。何を企んでるんです? アークも、さっき受付に立っていた人間もいるし」



 面倒くさそうに寄ってきたのは、グリウだった。



「グリウさん……!? あれ、どうして?」



 素直に動揺を表現しているルシカさん。一見ぼくは平静にしているけれど、実際は彼女と同じように困惑している。



 それに、グリウとはお茶会で顔を合わせたばかりで、混乱度は増すばかり。



「まあまあ。お互い戸惑ってるとは思うけど、まずはふたりにこの場所の解説をしてあげてよ」



 なんだか、いつも皆がゼルに振り回されている気がする。ゼルだけが悠々としていて、他の天使たちが慌てふためいている。グリウも同様で、不満そうに言い返す。



「説明をもらいたいのはこちらです。何故貴方たちがここにいるのか。この場所を知っているゼルさんなら、それが必要なことはわかつでしょう」


「君も知らないわけじゃないだろ。アークのこと」



 ゼルはなるべく手短に済まそうとしている。でもグリウは律儀なのか、理由を追求したがっている。



 ぼくとしてはどっちの言い分もわからないでもない。こっちとしてはまどろっこしい話は要らないし、グリウとしてはきっと状況を把握できてないから理由がほしい。



 ごちゃごちゃと考えを巡らせた後、少し自分勝手に行動してみることにした。



 ゼルとグリウの言い合いの中にぼくは割り込んだ。



「グリウ! 悪いけど、説明をしてほしいんだ。ぼくたちからは後でじっくりするから」


「そうは言っても、ここは安易に訪れていい場所では……」


「今すぐ行動しなきゃいけないんだ。身勝手だけど、お願いしたいんだ」



 ぼくはグリウに響くよう、真剣な眼差しをしたつもりだった。威圧感みたいなものを出したかった。



 それが影響したのか、それとももう面倒くささが限界まで到達したのか。彼はまたため息をついた。諦めたように口を開いた。



「わかった。ここについて説明する。その代わり、必ずここにきた理由についても話すと約束しろ」


「う、うん。わかった。ありがとうグリウ」



 鋭くした目をやめて、今度は感謝を思いっきり顔で伝えた。冷めたグリウにとってはぼくの感情なんてどうでもよくて、無視したまま奥に進んでいった。



 歩きながら説明するのかな、と思いながら歩くグリウについていった。そんなぼくの肩に手が置かれた。



 振り向くと、予想通りゼルがいた。にっこり微笑みながら抑えた声で言ってきた。



「良い行動力だったよ、アーク。大分慣れてきたじゃないか」


「まあね。グリウに説明する時手伝ってよね」



 「もちろん」とでも言いたいのか、手を肩から外すと小さく頷いた。変わらず、いつもの調子だなぁと思いながらルシカさんを気にかけてみる。



「ルシカさん、ごめんね。ついてきてもらうだけなのに変なことに巻き込んで」



 しかもこんな暗いところだ。ぼくなんか一度叫んじゃっているし、ずっと受付嬢として過ごしてきた彼女にとっては怖いことかもしれない。



 両手を組んだままだし、そう思って話しかけてみたんだけど。



「とんでもないです! とってもスリルがあってドキドキしちゃいますよっ」


「……楽しそうですね。なら大丈夫そうです、よかった」


「…………そろそろ話してもいいか」



 煩わしそうにグリウが言った。



「あ、ごめん。お願い」


「……ここは、広い天界に散りばめられているいわゆる資料室のひとつ。つまり様々な情報が詰まった空間だ。紙の情報もあるから、こういう暗室に保管してあるのだ。お前の調べ物が捗るかどうかは知らないが」


「ここって、どんな資料があるの?」


「どんな資料? 役立つかは判断しかねるが、天界で過ごすものなど……リアルタイムの情報がある」


「ってことは! あの、全員の相棒の情報とかある?」


「相棒とは、人間ということか?」



 ぼくの勢いとグリウの冷静さには大きなギャップがある。当然のことだけど、ぼくは焦れったくなって直接質問した。



「ルシカさんの人としての情報が載ってたりとかしない?」


「なに? その人間……ルシカのだと?」



 グリウは考え始めてしまった。流石に絞り込みが過ぎたかな、とも思ったが、天界を知り尽くしているであろう彼の知識量は侮れなかった。



 「付いて来い」というグリウの姿は、灯りがあるとはいえどんどん暗闇に呑まれていった。



 少しでも目を離せば見失ってしまいそうだ。初めてくる、正に右も左もわからない状況で、つまづかないように小走りしていった。



「ちょっと、歩くの早いですよ!」



 くっついてきてるだけのルシカさんは、最後尾辺りからそう呼びかけている。



 一足先に、埃を被った机の上でページをめくっていたぼくたちとルシカさんは合流した。ゼルも同じスピードで来た。



「これってなんです?」


「ルシカ、お前のような、地上から天界に来て相棒となった人間の情報を詰めた書物だ。当然これ一冊では留まらないがな」


「そ、そんなに……そんな情報いりますかね」


「今がその時ではないのか?」



 ルシカさんとグリウが喋っている間も、ぼくは指に埃を詰まらせながら紙を擦る。一心不乱集中しているぼくの耳に、ゼルの声が入ってくる。



「流石にここから見つけ出すのは大変そうだね」


「だけど、見つけるしかない。これ以外にまとめてるものなんてないだろうから。こういうのって大変でしょ?」


「まぁ、ね」



 ルシカさんとゼルが到着するまでページをめくっていたとはいえ、まだ数十ページ。



 本格的に調べるのはここからだ。

お読みいただきありがとうございます。

謎の建物の地下に入って、ようやく調べるところまで来ました。

ルシカさんの人間時代がちょっと明かされるかもしれない......ので、楽しみにしてもらえたら嬉しいです。

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