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Gホールの受付の女性

 「ちょっとゼル……?」



 ゼルがGホールの受付の前に立ち、そこにいる女性に声をかけている。完全な予想外の行動に、ぼくは体の反射で引き止めた。



 ゼルの服をつかんで引っ張り、顔をこっちによこす。それはぼくの行動に明らかな謎を示していた。



「なんだいアーク」


「まさか……あの人の体を調べようっていうの?」



 ぼくは彼の答えに、まだ疑問を持っていた。まだ別の答えがあるんじゃないかと。でもそんな訳はなかった。当然のように首を下に曲げ、当然のような口調でゼルは言った。



「そうだよ。僕の知り合いで体を調べてもいい人って、彼女くらいしか宛がないからさ」



 ぼくは大きく、大きく息を吐いた。まるで当てつけだとか皮肉のように。



「そんなに嫌かい? 待たせちゃってるんだけど……」


「あの人はただの受付の女性でしょ。それに、女の人の体調べるって……」


「あ、そんなこと気にしてるのか。大丈夫、僕は気にしないし大抵紙での調べ物だから。まあ天使の中にはもちろん、欲のある者もいるけどね」


「そうかもしれないけど! そういうことじゃなくてさ!」



 ぼくは小声で、それでも必死にゼルに訴えかけた。



 しかし彼は「うんうん」と言うだけで軽く流し、女性の方に行ってしまった。ふたりは笑っているが、これでいいのかとぼくは憂鬱だった。



 自分の為だし、多少の無理は必要だろうけど。といってもなりふり構っていられないっていう訳でもない。



 ぼくは悶々としながら2人の会話を聞いた。



「それで、相談とはなんですか?」


「以前と言うか、つい先ほどもお世話になったアークについてなんですが。彼はまだ地上に帰れる余地があって、その方法を探しているところなのですが。そこで協力をいただきたいのです」


「協力ですか? 私にできることとは……」


「はい。人の体を調べたいんですが、その為に資料やらなんやらをお借りしたいんです。管理は別ですけど、許可が必要なので」


「なるほど、そういうことですか。でしたら――」



 ぼくはぼくに合わず、大声を出して制止した。



「待って!」



 ゼルは困ったように、と言うよりは不思議そうにこっちを見た。でも今はゼルに用はなくて、ぼくは女の人の方をしっかり見た。



「ん、なあに?」


「あの、貴方はそれで――」


「ルシカと申します」


「……ルシカさんは、いいんですか? それを聞かないとどうにも収まらなくて。ぼくの中のプライドというか、なんというか」



 ぼくは思うがままに、言葉を放り出していった。結構な我がままだけどルシカさんはそっと微笑んで、丁寧に説明をしてくれた。



「私はかまわないですよ。こんなボランティアしてるくらいだし、実は結構前からここにいるんです。だから今更裸なんて、なんでもありませんよ。今の体と前の体は違いますしね」


「ふふ、それにルシカさんは肝が座ってるからね。世話焼きでもあるし」



 そんな、ゼルによる注釈も入った。ルシカさんは照れたようにしながら「やめてくださいよ〜」と否定している。



「……ふたりは仲良いんだね」


「彼女が昔から天界にいるように、僕も天使としてずっといるからね」


「ゼルさんはよく私を頼ってきますからね、顔も覚えちゃいますよ。一応七大天使様ですし」



 ルシカさんがそう言うと、また笑いが生まれた。



 なんだかこの場が和やかになっている。それほど、ルシカさんとゼルのは良い関係なんだろうなと感じた。



 笑いあっていたゼルだが、本題を思い出したようで咳払いをひとつした。



「話がずれましたね。つまり、少し僕たちと同行してもらえますか?」



 ゼルが手を差し出す。ルシカさんは、頰を熱くしながら口角をぎゅっと上げ、その手を強くとった。



「はい! 喜んで」



 彼女は受付から飛び出して、ゼルの横に着くと笑顔いっぱいに歩き出した。



 その様子はやけに揚々としていた。テンションが異様に高く場違い感のある僕だったけど、なんとかルシカさんに声をかけられた。



「なんか、やけに楽しそうですね?」



 Gホールの出口めがけて真っしぐらだった瞳を、こちらに向けてきた。そしてまた笑う。



「だって、こんな代わり映えしない日々にスパイスが加わったんだもの。楽しまない手はないでしょう!」


「あれ、暇だったの……?」


「そうですよ。さっきも言いましたけど、何年ここに平常心で居ると思ってるんですか。それに、七大天使様と一緒に行動していれば、スパイシーな出来事が起こらないわけないわ」


「あー……意外とはっちゃけるタイプの人だったんだ」



 いつも受付で見ているような、清楚で上品なイメージが強かったけど、やっぱりルシカさんも人間で楽しいことは好きなんだな。



 ぼくのなんとなくの呟きに、彼女は目を光らせて堂々と言い放った。



「はい! 私、見かけによらずお転婆ですよ! 子供の頃は男も女も大人だろうと言い負かす、最恐の子として恐れられたんですよ」



 泣かせないあたりがリアルだな、と思いながらゼルの方を見やる。



 一瞬目があったけど、ニヤニヤしながら瞬時にそらされた。ゼルはある程度知っていたのだろう。



 ルシカさんは外見も中身もしっかりしているから、幼少期は周囲から本当にとんでもなく思われていたんだろうな。



「あー、子供の時を思い出すなー。そういう意味では、幸も不幸も不平等に訪れる地上も、捨てたものじゃなかったのかも」



 彼女はまた呟いている。



 ゼルに同行して、ルシカさんの人としての体の在り処へ向かっている。到着するのはいつになるんだろうか。

お読みいただきありがとうございます。

今回は受付の女性、ルシカさんの正式登場回ですね。これまでちょくちょく喋っていたので、ちゃんと出せて嬉しいです。

彼女のことも好きになってくださいね。

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