狂った崇拝
ん? 神様に憧れてるっていうのは、どういうことかって?
そうね、さっきも言ったように私は周りの女の子たちから疎まれていた。そして神様の教えを信じて、それを気にせず自分らしく生きていた。
辛い時も苦しい時も、聖書を静かに深く読むことで心を救われてきた。癒されてきた。
そうしている内に、段々と神様や天使に会いたいという思いが芽生えてきたの。当然、下界に住む人間である私が天界に住まう方々と顔を合わせるなんて、不躾だとはわかっているわ。
でも、日に日にその感情は強まっていったの。天への憧れと地上での落胆の差はどんどん広まるばかりで。
「あっ! ごめんね〜ぶつかっちゃって」
「わざとじゃないんだ〜」
進学していくと各々の道は分かれて、私を知り尽くして支えてくれた人々は減っていく。だから年が上がるほどにそんな風な意地悪は増えていくの。
「……うん。気をつけてね」
まあそんな大胆なことをやるのは一部よ。殆どはなにもしていないし、していたとしても私にはわからない。時々、聞き慣れた陰口が飛んでくるだけでね。
「なに、良い子ぶってるんだか……」
「ねー。内申点でも狙ってる気?」
「私に聞かないでよー。あいつに直接言えばいいじゃん」
「やだよ! 真面目菌とか感染ったらどうすんの」
「なにそれー。あははっ!」
ま、そんな調子でね。
……なに、その顔。同情とかしてるの? 一応言っておくけど、少しも傷ついたりしてないから。
だって神様がいるもの。周りの人たちが全員私を裏切って全員消えたとしても、神様がいるから私は大丈夫なのよ。
心の拠り所は神様。地球を生み出し世界を生み出し、いつもお世話になっている神様にどうしても会ってみたかった。
もうその頃には誰よりも、神様に感謝していたわ。なにをするにも優先して考えるのは、「神様の教えにそぐっている」かどうか。
それほど神様を信仰していた私は、その思いに歯止めが効かなくなってこんなことを考えたの。
「……死ねば会えるかな」
色々と馬鹿だったとは思うわ。高等な存在なのに会おうとするとか、折角のいただいた命を自分から捨てようとするとか。
でも、楽しくもつまらなくもない地上の生活は飽き飽きしていて。転生する為に天界に行けたら、少しでも新しい世界を覗けるかと思ったら行く以外の選択肢は消えちゃったの。
丁度死のうかなって考えたのは家だったわ。学校でなにがあっても自分の部屋で聖書を読んでいればよかったから、その日も普段通り読んでいたんだけどね。
ふふ、脳が指示でもしたのかしら。そんな考えが急に浮かんできたわ。
ああ、それで居たのは家だったから、命をなくすための道具はいっぱいあったわ。それでまぁ、極力苦しまないようにひとりで静かに亡くなったわ。
親は共働きだから、大概は家にいないの。その日も例外じゃなかったわ。
……どうだっていいでしょ、どう死んだかなんて。私にとって大事なのは、死因とか周りへの迷惑とかじゃなくて、神様に会えるかどうかなのよ。
命を絶ってから自分が魂になったことに気づいた私は、すぐに家から出て空のその上へと急いで行ったわ。感傷に浸る意味なんてないからね。
誰もがそうだったと思うけど、魂になったばっかりの時はその体を上手く操れないと思うの。勿論私もそうだったわ。あっちへこっちへ、ふらふらしちゃって。
それでも私はね、ただ上を目指してもがき続けたの。もしかしたらこれが夢かもしれないなんて疑いも持ちつつ、折角のチャンスを逃さないようにってね。
「神様……今私の目指す天におられるのですか。それともそのまた天ですか……」
もう2回とない機会だって、死に物狂いでこの天界に上がってきたわ。魂の状態だから良かったけど、人型だったら顔が酷いことになってたかしら。
本来なら亡くなった人の魂というのは、地上を見回っている天使たちが発見して、冥界への経由点として天界に送るものなんだけど。私はそんな工程思い切り全部飛ばして天界に来て、ひとりで勝手に天使に会ったわ。後でハインさんのところに届けられたけど。
因みにだけど、その天使っていうのはグリウのことよ。今と変わらず、冷たい対応だったわよ。ふふ。
人の魂を見回る天使に一度ちゃんとしたところに送ってもらった後、何故かハインさんが私に用があると訪ねてきたわ。
「この中に、単身で天界に来たという魂がいると聞いたのだが。誰だ?」
「あ、私です……」
言いながらハインさんに近づいて行くと、そのままどこか別に場所に連れていかれた。なんだかたらい回しにされてるみたいでモヤモヤしたけど、黙ってついて行ったわ。
まだその時は見慣れない風景に見惚れながら到着したのは、グリウのところだった。
お読みいただきありがとうございます。
恒例通りならこだわって心理描写などをする亡くなる場面ですが、リザレイに関しては完全に淡白な感じでした。
リザレイ編はあと一話続きますのでお楽しみに。




