自分と向き合う
なんとも言えない感情を抱きながら僕は天界にやってきました。
今ではすっかり友達となった天使に連れられて、色々な道や空を通っていきました。最終的にはハインのところに着きました。
どうやら当時はハインに相棒がいなかったらしいです。ヒールさんと同じように、僕も相棒にならないかと誘われました。
説明を受けた上で、僕は承諾しました。特に深く考えもせずです。軽度の放心状態のようになっていたからでしょうかね。なにも考えないことに集中していたので、でもどうにかなるだろうという思考になってしまったのだと思います。
いつかこの判断を後悔するだろうなぁ、なんて思って、まあいいかと諦めにも近い妥協をしていました。それぐらい、なんだかどうでも良くなっていたのです。
……いえ、今は後悔なんて全くありません。むしろ過去の自分を褒めたいくらいですよ。ほら、アーク君にも出会えたわけですし。
まだそのことに気づいていなかった頃の僕は、一旦ハインや天使と別れた後、ハインの家のバルコニーでひとり立っていました。独りになって、余計黄昏るようになりました。
自ら命を絶った時から、魂になって天界に来るまでの間。長い時間のはずですが、意識が飛んでいたりぼぅっとしていたりして、あっという間の時間に感じられました。だから、なんだか疲れた気がしたんです。
「はぁ……」
ため息なんてものもついてみました。自分から引き起こしたことなのに、変ですね。
「なんででしょう……」
気の向くままになんとなく、そんな風に呟いてみました。僕の小言は空に消え……ることはなく、背後からの訪問者が話す引き金になりました。
「フォーリ、なにをしているんだ?」
「……あ、僕のことですか? ハインさん……ですよね」
まだ僕がハインと知り合って間もない頃、色々とぎこちなかった時期です。
「せっかくの相棒だ。その呼び方も、慣れてきたら変えていいからな」
「は、はい」
「で、なにをしていたんだ?」
「えーと……ひとりになったので、その時間をゆっくり過ごしていたというか」
「なんだそれは」
呆れたように言ったハインは、僕がいた斜め後ろの位置から数歩歩んで、僕の隣に来ました。真似をするように、バルコニーの柵に寄りかかって言いました。
「まだ神のもとへ参ってはいないが、私たちは相棒だ。ここでの相棒というものがどんな意味を持つか、説明はしただろう」
「天使と人、対等に付き合っていき世界の為の働きをするんですよね」
「そうだ。だから変な言い訳はするな。プライベートに無神経に干渉する気はないが、私は今フォーリのことを知らなければならないからな」
「……失礼ですけど、僕が倒れた前後のことって調べられるんですよね?」
「ああ。だがそれで得た情報など意味がない。お前と私が語り合ってこそ、価値が生まれるのだ」
心なしか、そう話すハインの顔は僅かに楽しそうでした。
今では直感と経験でわかりますが、以前までは彼の微妙な表情の変化は読み取れませんでした。それなのにこの時、ハインを楽しそうに感じたのは、それほど感情の高ぶりがあったのでしょう。
ハインは惚けた顔をした僕を見て、さらに続けました。
「調べたことを元にお前と話すというのは、盗撮や盗聴で入手した情報でターゲットと親しくなる、ある職種の常套手段と同じだ。下心の透けた話し合いは好みではないだろう?」
「……そうですね」
「理解してもらえたら、この先私たちは上手くやっていけるはずだ」
「僕、地上の人間としては幕を引いてしまいましたけど、舞台から消えて奈落に降りても学ぶことがあったなんて、少し感動しました」
「奈落というのは……舞台の下にある空間のことだったな。よく知っていたな」
「はい、博識な兄に教えてもらいましたから」
「そうか。良くしてくれていた兄なのだろうな」
僕はその言葉を聞いて、自然と口角が上がりました。兄のことを褒めてもらって、素直に嬉しかったんです。
でもその嬉しさを感じるとともに、僕ははっとしてあることに気づきました。いえ、気づいたというより、はっきりと認識させられたのです。
僕には大切で誇れる家族の存在があったのだと。それなのに、周囲を落ち着いて見ずに勢い任せに自らを消したのだと。
やっとその時、きちんと心のわだかまりに向き合えたんです。僕は横にハインがいることも気にしないで、突如叫び声をあげました。
「う、うああああっ!」
「!? どうした、フォーリ?」
そして僕は、柵から手を外してしゃがみこみ、なにも気にしないで泣きじゃくりました。僕の心を覗けないハインには、心配をさせてしまいました。
叫んで泣いた理由は、ひとつにまとめきれません。悲しさとか悔しさとか後悔とか、数え切れないほどの数の感情が複雑に絡み合って、爆発しました。
まるで複数の楽器が集まって、ひとつひとつの音色が混じり合い曲ができていくような。そんな感じです。
僕は後にも先にも、明らかな弱みはその時にしか見せなかったと思います。ハインの前でだけで。
ハインは勿論訳がわかってなかったでしょうが、それでもなにかを察してくれて、背中を静かにさすってくれました。肩を優しく包み込んでくれました。
一言も声をかけないで、僕の気の済むまで付き合ってくれたのです。これは僕の想像ですが。「フォーリ」と「ハイン」が対等な関係、相棒であることを本気で思っていたから、僕の思いを全部吐かせてくれたのだと思います。
その日以来、一気に僕たちの結束は強まりました。神に相棒を認めていただくときも、良い相棒だと褒めてくださったそうです。グリウさんが物珍しそうに、教えてくれました。
普段は仕事のできるお堅い方ですけどね、優しい面もあるんですよ。僕は今、そんな色んな面を持つ彼と一緒にいることがとても楽しくて、有意義な時を過ごせている気がしてるんです。
一度絶ってしまった命はもう戻りませんから、意識のある限り過去を反省し続けて、この失敗をこれから伝えていきたいです。そう言った意味では、この茶会、開いていただけて良かったです。
地上にいる時に戻りたいと聞かれたら、答えあぐねますね。僕をいじめてきた彼ら……他に改善策はあったかもしれませんし、もっと冷静になって良い運命を辿れた可能性もあります。
でも今の生活が充実していることもまた事実です。タイムリープはできませんから、僕はこのままで構いませんかね。
……あ、論点がずれてきましたね。すみません。まあこんなのが僕の話でした。
僕として話を聞いていただくというよりは、この話を参考に、考えて行動できるように皆さんにお伝えしたかったんです。
特にアーク君にはね。これを機になにか考えてくれた嬉しいと思ってます。ご静聴ありがとうございました。
お読みいただきありがとうございます。
フォーリ編終了です。
彼の切実な思いが伝わったら幸いです。
次回はアークかリザレイですね。お楽しみに。




