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優雅なるデスアークエンジェル  作者: 幽幻イナ
天界の相棒お茶会
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恐怖に染まる

 「邪魔なんだよ!」


「生きてる価値ねぇんだよ、馬鹿が」



 そんな言葉の暴力も増えていきました。これまで肉体的暴力を受けて、亀裂だらけ穴だらけになった僕には、言葉の毒もするりと入り込みました。



 それが僕を蝕むことなんて、砂が零れ落ちる時間より速いことでした。僕はもっと塞ぎ込みがちになって、家族や普通に接してくれるクラスメイトに向ける笑顔は作り物になっていきました。どんどん僕は、傷だらけのハリボテ人間になっていきました。



 爆弾なんて大層なものを用意しなくても、指先でつつけばガラガラと崩れていきそうでした。それでも僕は、糊で雑に修繕しながら毎日襲ってくる衝撃の波に耐えていました。



 いじめも進行していたその頃、既に彼らにいじめの理由なんてなかったでしょうね。食事とかと同じ、毎日行うルーティーンになっていました。なんとなくの成り行きみたいな感じですね。



 目の前の処理に忙しくて盲目になっていた僕は、そんなことにも気付きませんでしたが。



 でも、数年が過ぎるのを待っているだけの、代わり映えしない異常な毎日が、ある時突如変貌しました。



 緊張感から解放されるはずの帰り道に、後ろから怒鳴り声が響いてきたのです。



「おい! 止まれ!」



 僕は肩を小さく震わせました。不意をつかれて、動揺してしまったんです。恐る恐る、スローモーションのように振り返ると、僕を無意味に虐げる彼らが走ってきていました。



 彼らに対応するモードになっていなかった僕は、恐怖で一杯いっぱいでろくに動けず、彼らに捕まってしまいました。



 彼らはいつもより機嫌が悪く、顔もゆがんでいました。僕は胸ぐらを掴まれ、怒鳴り散らされました。



「お前のせいで俺たちの名誉が傷つけられたんだぞ! わかってんのか!」


担任(あいつ)に怒鳴られたんだぞ、俺の耳が汚れちまっただろうが!」



 僕は怯えながらも、か細い声で質問をしました。でも彼らに聞こえないと殴られるかもしれないので、通る声を勇気と一緒に出しました。



「あの……ぼ、僕なにかしましたか?」



 予想通り、再び怒鳴られましたけどね。



「とぼけんな! 昼の時のこと覚えてねぇのか?」


「昼……?」


「掃除だよ!」



 僕は肩を強張らせながら、1日を振り返りました。



 その日の掃除の時間、僕は教室を雑巾がけしていて、彼らの内の数人が廊下を箒で掃いていました。



 僕は水拭きもしていて雑巾を濡らす必要があり、廊下に何度か出ることがありました。その時に彼らの掃除ぶりを見かけるのですが、当然のように箒で遊んでいました。いわゆるサボりです。



 以前僕や僕以外の人が注意しても止めなかったし、その時の立場上口も出せなかったので、そのまま通り過ぎてしまいました。罪悪感がのしかかってきました。



 そしてまた汚れた雑巾を洗う為廊下に出ると、そこに彼らの姿はありませんでした。遊びが発展してついにはどこかに行ってしまったらしいです。



 もう僕にはどうしようもできないな、とため息をついた時。担任の先生が後ろからいらしゃいました。廊下掃除の担当がいないことについて聞かれたので、僕は正直に答えました。



 彼らが箒で遊び、そのままどこかへ言ってしまったことを。……いじめられていたことですか? 言えませんよ。というか、頭の中にその考えが出る気配もありませんでした。僕の脳内まで、洗脳されて傀儡のようになっていたんでしょうね。



「そうか、ありがとう」



 先生はそう言うと立ち去っていきました。僕はその後ろ姿を見届けた後、雑巾の水拭きを再開しました。きっとその頃、僕の話を聞いた先生が彼らを見つけて叱っていたのだと思います。



 先生や大人の前では彼らは利口にしていましたから、通知表の評価が下がるような姿を見せることがないように気にしていた彼らです。汚いことですけどね。



 廊下を往復していたこともあり、僕が先生に報告をしたことにすぐ察しがついたのでしょう。



 これまで重ねてきた偽りの善行と本物だった信頼が一気の崩れ去ったのですから、かなり恨まれてしまったと思います。



 そんな出来事を思い出した、胸ぐらを掴まれたままの僕は、彼らに突き飛ばされました。そして怒鳴っているのが疲れたのもあったのか、1人が冷たく言い放った後僕は帰ることができました。



「お前は俺たちの邪魔してるんだよ。いい加減気づけよ、さっさと消えろよな」


「え…………」



 ああ。帰れたと言いましたが、ちょっと違いました。僕はしばらくショックで動けなかったんです。



 消えろってどういうことだろう。彼らに関わらなければいいのだろうか? それとも……



 帰りながらそう考えていましたが、先は考えたくなくて思考をループさせていました。とっくに答えは出ているのに、扉は開きかけているのに背を向けて知らないふりをしていました。



 でも家に帰って自室でじっとしていて、その残酷で認めたくない言葉が、勝手に脳に浮かび上がってきたんです。



「……」



 食事もろくにとれませんでした。ベッドに入っても、体は疲れているはずなのに眠る直前にその言葉が浮かんできて、恐怖に怯えて眠れなくなる。



 今までのいじめの中で、最も怖くて傷つきました。「消えろ」という言葉の真意。深く考えなくても、わかりますよね。



 …………「死ね」ってことです。

お読みいただきありがとうございます。

ついに、認めたくない事実と向き合うことになってしまったフォーリ。

真面目な彼も死ぬことは嫌なはずですが、どうなるのでしょうか。

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