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優雅なるデスアークエンジェル  作者: 幽幻イナ
天界の相棒お茶会
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いじめと家族

 彼らの、いじめのような意地悪のようなそれは、ほぼ毎日懲りず続けられました。飽きることなく幾度もです。



 内容は大方が暴力です。流石に先生方の前や授業中はしてきませんが、休み時間や放課後や登下校に、容赦なく暴力を振るってきました。



 彼らは僕よりもしっかりとした体を使い、頭を殴り顔を蹴り、とにかく僕を傷つけてきました。



 彼ら曰く、僕を見ていると苛つくから殴っていたらしいです。しかし僕なりに考えてみて、彼らにとって僕は「苛つきの生産機であると同時にストレスのはけ口でもある」と思いました。



 だから彼らの機嫌の悪い時は、特に青い痣ができていきました。しかしそれでも留まらないことがあり、骨折したこともありました。



 その時は体育の授業がある日だったので、「運動中に余所見をして折ってしまった」と言い訳するよう、彼らに脅されましたが。担任の先生に疑う様子はありませんでした。



 他には……雑用もよくやらされました。それに関しては良い学びになると捉えて、進んで行っていました。俗に言う()()()()が、いつか自分のためになると信じて快く。



 ただし、先生方の前では雑用は止めさせられ、彼らがさもこれまで雑用を行っていたかのように振るまっていました。大人には良い顔をしたかったのでしょうか。



 地上時代の僕はなるべくそれらの事実をポジティブに捉え、なんとか毎日を生きていました。世間的に見たら若かったのでしょうが、あの年で体を労わる努力を僕はよくしていました。



 ……ええ、大分やられましたよ。はは、僕が抵抗しなかったのが悪いんですけどね。そんな日々を過ごしていて、大丈夫だったかですか。それについては僕も思っていて、なんとかしようと考えていました。



 ただし、前の僕と今の僕では考え方が違っていました。



 ハインや皆さんに色んなことを教えていただいた今、変わるべきなのはあの彼らでもあると容易に思いつけます。しかし無知だった前の僕は、ただただ自分に非があるとばかり考えていました。



 だから今思えば、馬鹿なことばかりしてしまっていました。家族にも心配をかけたくなくて、僕には兄がいたのですが、最も会うその兄にもなにひとつ話しませんでした。



 僕の様子が変わったことは勘付いていたらしいです。社会人として仕事を終えた兄に、一度だけ聞かれたことがあります。



「なあ、お前最近なにか変わったか?」


「え? そうですか?」


「ああ。なんか、笑い方が歪だな。俺にはなんでも言えよ。それと、敬語は相変わらずなんだな」


「この話し方が楽なんですよ。生まれた時からこれですから。……変なことはなにもありませんよ。僕は大丈夫です、兄さんは自分のことを気にかけてください」



 図星をつかれた僕は、動揺しながら兄の質問に答えました。いつも通りを装ったつもりでしたが、やはり兄には敵いませんでした。



「そうか。随分と早口だけどな」


「えっ? あ、えっと……」


「ははっ、いいさ。お前のことなんだからお前に任せたぞ」


「あ、ありがとう……」



 予想外の言葉に、僕は普段の口調を忘れてしまいました。語尾も小さくなりました。誰がどう見たってあたふたしていた僕ですが、兄はその大きな掌を僕の頭に置いてくれました。



 それも極めて優しく。髪の上からでも温もりがよく伝わってきました。顔も柔らかかったです。



「無理はするなよ。……それだけだ」


「あ、は、はい」



 真面目で堅実な表情をよく見せる兄でしたが、その時は童心を思い出したかのように、くくっと笑いました。



「あー、言いたいことあったのに忘れちまったな。無駄に格好つけようとしたのに」


「はは、あははっ。自然体の兄さんが一番ですよ」


「ははっ、そうだな。お前もな」


「…………はい!」



 兄とそんな話もしましたね。後悔ばかりですけど、この話をした時点でどうして家族に打ち明けなかったんだろうと思います。



 骨折の件も、思い切り親に怪しまれていたのに。運動に特に長けているわけではありませんが、並程度にはなんでもこなせていましたから、あの日は結構くどく聞かれましたね。



 ……なんだかこうして思い返してみると、僕は本当に家族を大事にしていたのか疑問に思います。



 心の底から頼りにしていて信じているなら、彼らからの暴力のことも話せたはずだと思うんです。でも家族の誰にも言おうと頭が動かなかったのは、どこか信じていなかった部分があったからですよね。



 「家族に心配をかけたくない」というのは綺麗事で、自分を正当化したいだけの我がままなのかもしれません。



 ……ああ、こういう考えが前の僕だったんですよね。突然自分を語ってしまってました、すみません。今の僕は変わってますから、大丈夫なはずです。



 でも、家族自体はとても素敵なんですよ。僕の一番の自慢です。だから、打ち明けることはできなくても心の支えにはなっていましたよ。



 ただし、いじめはエスカレートする一方で、学校で与えられる傷は深くなるばかりでした。

お読みいただきありがとうございます。

今話はフォーリが想っている家族についてが中心でした。

彼の心情が読み取れたらいいなと思います。

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