悲壮となった少女の話
「うん、話してくれてありがとう」
ゼルは語り終わったルイズに言った。当のルイズは口が渇いていたようで、お茶を口に含みながら、うんと頷いていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。数分くらいにしか感じなかったルイズの語りだけれど、その過去にははっきりとした重みがあった。
ひとりで気ままに過ごしているようなイメージのルイズ。でも昔に大切な友達をふたりも失くして、想像以上に辛い思いをしていることがわかった。あの一見馬鹿みたいな言動からじゃあ考えつかないな、なんて思った。
口内を潤すルイズの隣では、ヒールが気をかけながら話しかけていた。
「ルイズちゃん、話していて大丈夫だった? 辛いのにありがとう」
「……うん、大丈夫。なんかさっぱりしたからさ。今は割り切ってるし」
「なら良かった。あ、それよりほら、ちゃんと飲んでおいて」
「おいおい、せがむなって。ルイズのペースで飲ませてよ」
あそこは相変わらず仲が良さそうで、過去によって仲に亀裂が入るなんてことなさそうだった。これ以上詮索することもなくて、良い関係だなと思った。
そんなふたりはそのままにしておいて、ゼルが口を開く。
「まあ、こんな感じで過去をお話しいただけるといいですね。話した本人も結果的には良くなったようですし」
「……みたいですね」
小さく感情を表しながら話を聞いていたフォーリが、そう口を挟む。ゼルはにっこり笑って続ける。
「休憩はとりますが、この調子で次の方に語って欲しいですね。話したい人はいますか?」
ゼルは挙手を募る。「じゃあ」と手を挙げかけたフォーリが見えたけれど、その彼の反対側から勢いよく手が伸びてきた。
不意を突かれて椅子の大きな音もして、フォーリは少し驚いていたようだった。
「ヒール、話してくれるかい?」
「ええ。ルイズちゃんが話したなら、私もよ。当然でしょ」
「そうかい。じゃあ好きなタイミングでいいから、お願いするよ」
ヒールは立ち上がって挙手していたようで、きちんと座り直した。なんとなくルイズに目をやると、椅子に楽そうに深く腰かけていた。
「あ……それじゃあ次は、僕が話しますね」
「ああ、よろしく」
身を引いたフォーリは控えめにゼルに言った。ゼルはこくんと頷く。これでぼくの番はほぼ最後になりそうだけど。
ヒールは一口お茶を飲むと、さらさらと流れる川のように言葉を発し始めた。引っかかることなくスムーズに。
ぼくはそんな彼女たちを尻目に、横で立っているゼルの服の裾を引っ張った。彼は静かにしゃがんで、ぼくと目線を合わせる。
「なんだい、アーク」
「初めは、ぼくがお手本になる手はずだったけどさ。もうこれって流れに任せていいの?」
「んー、まぁいいんじゃないかな? みんな自身が言いたいって言ってるんだから」
「ふーん、そう。わかった」
ヒールの話なんて粉微塵ほども聞こえてなくて、余所見をしていたぼくに説教が飛んだ。
ゼルとの話は終わったし、そっちの方をさっさと向く。
「アーク? 私の話聞いてる? ……はあ、仕方ないわね。簡潔に、あなたの為に、説明してあげるわ。
私は地上での人間時代、ずいぶんと親に迷惑をかけていたの。私の軽率だったり自己中心的な言動で、母を困らせていた。私のせいで母が壊れて、父が一時的に出て行ってしまった。
……それがいわゆる、虐待だっていうのに気づいたのはここに来てから。この天界で、ハインさんに拾ってもらった時に。初めて教えてもらったわ。
だから非は全部自分にあるって考えてて、一生の終わりまでずっと申し訳なかった。
単刀直入に言って。結局の死因は、母からの虐待よ。私が母を怒らせて、それで殴られて蹴られて食事もなくて。そして胸から溢れそうなほどの罪悪感が生まれていった。
それで……衰弱していったのかしら。とどめは、母からの一発だった気がするけれど。
……ひどい親って? 側からすればそうか。でも私にとっては全てで。というか私が我がまま過ぎて、それにきっと耐えきれなかったのよ。
我がままそうに見えない、ね。それはそうね、天界に来てからハインさんたちに、みっちり根性を叩き直してもらったから。
私の過去は、自分勝手だった昔の自分ってことになるわね。情けなくって仕方ないけど、ルイズちゃんは頑張ったものね、親睦が深まるっていうなら語るわ。
あと、父が出て行っちゃったこととか、母がどんな葛藤を抱えていて私になにをしたかとかね。
ルイズちゃんのは明るいところもあったけど、私のは重くて湿っぽい話だからね、作業用BGMみたいな感じで聞き流してちょうだい。
お読みいただきありがとうございます。
話の始まりはいつも、短くなるのが恒例になるかもしれません。
ルイズに続くヒールの痛そうな過去、是非待っていてください。




