新しい幸せ
そうやってルイズは死んだ。もうあのふたりに会える手立ては消え去ったからな、生きてる意味なんてないって考えたら簡単だった。
それで下に落ちて頭かち割って、前までのお前、アークみたいな魂状態になったんだ。
実体がなくなってそうなった時は、すごく動きづらかったけど、解放感があった。体自体すごく身軽で、なにもかもから逃れられたようなさ。
周りを見たらまだ寮とかが見えた。救急車やら警察やらが来てて、当然あの遺書も警官たちに押収されてた。それを魂のまま目撃したルイズは、最高に嬉しかったよ。喉があったら声が枯れるまで叫んでただろうな。
でもさぁ……もう最悪だよ、打って変わってさ。警察はルイズの遺書をその場で読んで、イーザに問い詰めてたんだ。
「この遺書は、あの亡くなっていた子供が書いたものですか? ここにはまるで、あなたが自殺の原因になったように書かれていますが」
そんな感じでな。でもイーザは余裕たっぷりに言いやがったんだ。
「そんなもの、子供の妄言、戯言にすぎないですよ。寮長の私がそんなことをする訳ないでしょう」
「しかし、その子供は現に身を投げています。万に一つ可能性がないとも言い切れません。……念の為、ご同行いただくかどうか上司に相談させてもらいます。それなりの覚悟をしていてください」
どうやら警官は上の立場ではなかったらしくて。でも核心はついてて、イーザに傷をつける為の希望も見えた。だけど、それでもやっぱり敵わない部分があった。
「……覚悟するのはあなたの方です」
「どういうことです?」
「教えてあげます、私にはあなたには想像もつかないくらいの権力があるのです。あなたの所属する警察署の署長をも封じ込められるようなね。そのことを前提としてお聞きしますが、この紙切れ、どこにも公表しないようにしてください」
「なんだ、その権力というのは」
「知る必要はないですが。どうしてもというなら、裏組織に関わっているとでも言っておきましょうか。警察に詳しく話す気は無いですが、かなり良い立場なのです。偉い人間というのは、裏を頼りたがりますから」
「……お前を調べて、その裏組織を摘発してもいいんだぞ。大人しく従うと思うのか」
「あら、裏の人間と言いましたよね? 秘密の道具も持っているんですよ。ふふ、社会的に抹殺してもいいですね」
「くっ……」
イーザは危ない人間だったらしい。麻薬だか拳銃だか密売してるのか、そりゃあ態度が余裕だった訳だよ。寮長っていっても人任せだから、昼暇そうだしな。
ま、そんなこんなで、ルイズの遺書はなかったことになった。ビリビリに破かれて暖炉で燃やされて、ただの灰になった。
生きる意味失ったとはいえさ、自分の身を犠牲にしてまで傷をつけようと頑張ったんだ。なのにそれは簡単に無下にされた。……またふつふつと、怒りが湧いてきたよ。
ルイズはまさに、怒り狂ってたね。もう息をしてない血まみれの自分の肉体に入り込んで、大暴れすることにした。
ルイズには恨み憎しみが強くあって、そのせいか、悪霊みたいなものになっちゃったんだ。まあその時は、力が出るから好都合だと思って、飛んでイーザのところに向かおうとした。
力を使って本気で殺そうと思ってて、そうしたら声が聞こえてきた。ルイズを呼び止めるというか、引き止めるような感じのさ。
「ちょっと待ちなさい! そこのあなた!」
「……え、私?」
ルイズは間一髪というか、まだ体に入り込んではいなかった。だから生身の人間には見えない、魂の姿で振り返った。
そうしたらそこにいたのは、今の相棒。つまりリィだ。今からじゃ考えられない、真面目で真剣な顔をしてたな。
当たり前だけどその時は知った顔じゃなかったから、戸惑いながらもなんとか会話してた。
「あなた、今なにをしようとしていたの?」
「え、上にいる憎い奴を殺しに行くんですけど」
「ああ、やっぱりそんなことだろうと思ったわ。そうね、あなたは今非常に危険な状態よ」
「私の問題です、口出さないでくれます」
「だめよ。放っといたらこの世界に甚大な被害を与えて、迷惑をかけるから。それよりあなたは死んだのよ。わかってるでしょ。着いてきて」
「う……死んでるとは思ってたけど。変なところ行くんじゃないんですよね」
「私は天使よ。信用してちょうだい」
「え、天使? なんか胡散臭い……」
そうやってぶつぶつ言いながら、行くあても殺した後のことも考えてなかったから、なんとなくでリィに着いて行った。
で、到着したのが天界だよ。そこからこれまで生きてきた世界以外のことを、たくさん知った。あんな小さい建物の世界だけじゃなくてな。
まあとにかく感動したね。同年代と大人以外の人とかがわんさかいるんだもの。見たことのない文化も、いろいろみて教えてもらったしね。
その案内をしてくれたのは、リィ。一通り感動し終えたところで、今更って感じで聞いたんだ。
「そういえば、天使がいっぱいいたけど。あなたもそうなんですか?」
「私? 私はねぇ……その天使の中のお偉いさんってとこかしら。四大天使って言って、4人の偉い天使がいるのよ」
「そのひとりなんですか? すごいですね」
ルイズが普通に感心して褒めたら、リィはふふって笑ったんだ。照れてるのか知らないけど、変に思って首を傾げた。そうしたらリィが言った。
「ごめんなさいね。見た目的にあなた、どうしても敬語が似合わなくて。ここはあの狭苦しい部屋じゃないのよ、もっと自由に、あなたを解放してごらんなさいよ」
「解放って。その狭い部屋から出れただけで充分ですよ」
「そんなんじゃだめよ、もっと欲に貪欲にならきゃ」
「じゃ、どうしろっていうんです?」
なにを言いたいのかはっきりしないリィに、ルイズは勢い余って言った。もやもやしてるの、ルイズ嫌いだからさ。
「あなた、私の相棒になりなさい。いわばパートナーみたいなものよ。その内にこの天界に慣れて、本当のあなたをさらけ出していきなさい」
「相棒? え……」
「そうだ! まだあなたに名前聞いてなかったわね。名前いいかしら?」
話は強引に進んでいっててな。でも相棒とかパートナーとかいうくらいだから、これからこの目の前の天使さんと過ごしていくんだろうなっていうのは予測がついた。
そして、名前。あるにはあるけど、もうこの過去は捨てるつもりだったからね。はぐらかしといた。
「私の名前は、覚えてない。あなたがつけて」
「私ネーミングセンスないって言われるんだけど。うーん……私叡智の天使だから、名前ならウィズダムとかどうかしら」
「……ちょっとダサいな」
「ほら、文句言う。じゃあなにがいいの?」
「えー……あ、ルイズとかどうかな。音の響きも似てるし、そんな名前のキャラクターかなにかがいるって、教えてもらったことがある」
「ルイズ、ね。私は叡智と哲学を司る天使、ウリエルよ。みんなはリィって言うからそっちでよろしくね」
「リィ、か。うん、よろしくリィ」
「敬語も抜けてきたかしら。そんな調子でゆっくり慣れていってちょうだいね」
それからルイズは、天界のことを知り尽くすと同時にリィの手伝いもするようになっていった。その内にリィ曰く、ルイズの才能が開花したらしいよ。
「想像していたよりも仕事ができて、何事もそつなくこなせるだろう」って。本当にそうなのか知らないけど、成長できたならいいかなって思ってる。
まあそんなこんなで過ごしているうちに、あいつらの記憶は薄れていった。小さなきっかけで思い浮かぶことはあったけど、すぐシャボン玉みたいに消えていった。
段々口調も自由になってきてな。最近じゃ地上に出て、私とかアークみたいな魂のままのやつがいないか地上をうろついてるよ。ゼルの仕事を代わりにやってやってるようなものだからな、感謝しろよ。
……うん。ルイズがここに来ることになったわけってのは、大体こんなところかな。
もう2人に会おうって気はないし、ここでの生活は楽しいからな。今は幸せさ。
よく考えたら、アークとルイズってここに来てからの境遇が似てるな。いや、大抵こんなものなのか? ま、これを聞いて参考にしていただけたら嬉しいな。
これにてルイズの話は終了! ちょっと辛かったけど、全部話したらすっきりしたよ。この会開いてくれてありがとな」
お読みいただきありがとうございます。
これにてルイズ編終了です。
ひとりの話がこんなに長くなるとは思ってませんでしたが、それだけキャラが濃厚になっていると思っておきます。
皆様にお楽しみいただけていたら幸いです。




