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優雅なるデスアークエンジェル  作者: 幽幻イナ
天界の相棒お茶会
31/107

大切な友達

 さて、そうやって辛かった日々だったけど、毎日毎夜愚痴り合える友達がいたからそれなりに楽しかったんだ。



 なんだけどある日突然、朝礼に向かう為に廊下に出たら、周りの目がよそよそしかった。向かいの部屋の女子や、朝礼の呼びかけに来た寮の大人たち。そして、両隣の友達までもが、なんだか冷ややかで。



 少し怖くなって気になったから、隣の友達に聞いてみた。その友達も、一瞬身を引いたように見えたけどな。



「ルバーナ? ……私、なんか変?」



 あ、その友達はルバーナっていうんだ。で、もうひとりの友達はシェフィアな。ルバーナは大人っぽい感じがして頼りになって、シェフィアは可愛げのある愛されるタイプの子だよ。



 それで、ルイズに質問されたルバーナは、毎日見せる自信家の顔じゃなくて、おどおどした動揺の顔をしていた。それで異変があったっていうことはわかったよ。



 ルバーナは目をあっちにこっちに泳がせながら、焦る感じで返事をした。



「い……いや、変じゃないわよ?」


「そう? そんなわけないと思うんだけど」



 集中が散っている様子のルバーナだったけど、曖昧だった目線がある一点に定まったらしい。ルイズが不思議顔をしている間に腕を掴んで、ルバーナが廊下の奥に歩いた。



 その先のいたのはもうひとりの友達、シェフィア。ルバーナと一緒に彼女のところへ歩いて行った時は、口を半開きにして驚いてたみたいだったけど、それを抑えて合流した。



 全員様子がおかしいから、シェフィアにも勿論質問したよ。したけどな……



「シェフィア、なにかあっ――」


「黙ってっ。……あの、後で説明しますから。今は朝会に行きましょう」



 シェフィアは小声でルイズに言ってきた。言いたいことはあったけど、ルバーナも睨んできていたからひとまず従うことにしたよ。



 え、なに? ……あー、口調が違うって? さっきも言ったけど、あの寮はすごく厳しい。部屋にいる間は自由だけど、一歩出れば一秒も気を抜けない、いわゆる戦場だよ。だから友達間とか部屋の中だと、口調とか性格とか色々違うんだな。



 じゃ、先行くぞ。ふたりと一緒に朝礼場について話を聞く。その間も、周りからは鋭い目で見られたり避けられたりしていた。



 イーザとかにそれをされるのは慣れてるんだけどね、流石に寮の全員にそうされるのはなぁと。あ、イーザといえば。その朝礼の時も目をつけられてたよ。



 あいつは、なんとなくルイズを避けてた女子たちとは違って、明らかな敵意を向けてきてた。それで一層、肩身が狭かったよ。



 で、なんとかいたたまれない感じを我慢しながら朝礼を終わらせて、朝食の為の食堂に並んだまま行った。



 空腹と窮屈さに耐えながら配膳を終えて、ルバーナとシェフィアと一緒に朝食を食べ始めた。テーブルと椅子を三角の形に動かして、向かい合ってる。



 何口か食べたところで、ルバーナが「美味しいわね」と言った。それは話し始める合図で、目を合わせたルイズたちは一応小声で話し出した。



「シェフィア! さっき説明するって言ったよね。なにがあったの?」



 女子はお淑やかに、だから。食事中は基本喋っちゃだめなんだけど、いろんな雑音に混じってルイズたちの声は聞こえてないはずだったよ。



「……あんまり直接は、言いたくないんだけど。変な噂が昨日一気に広まったの」


「変な噂?」


「あのね。……あの。寮が寝静まって静かになった深夜、女子寮から抜け出して男子寮に行って、夜な夜な遊んでいるっていうの。それに、それに……」



 シェフィアは続きを話そうとしていたけど、辛いのか口から言葉が出ないらしかった。それを見かねたルバーナが、続きを代わりに話し出した。流石だなって感心したなぁ。



「ひどい言葉遣いや態度で、先生たちに反抗しているって。しかも、きっと尾ひれが付いたんだろうけど、イーザに対して溜まりに溜まったストレスをぶつけたって……」


「え……なにその噂……?」



 その時のルイズには、なんというか口に出しづらい感情が急に湧き上がってきた。叫びたいけど叫べないし、大声で反論したいけどできない。ルバーナたちに怒るのはお門違いだしさ。



 ルイズの顔は多分明確に怒ってたけど、それでもルバーナは一緒に気持ちを考えてくれたよ。



「わかるよ。いや、わかったつもりだけど。今の今まで、ずっとずっと我慢してきたよね。なのにそんなありもしない、根拠のない噂で全部ぶち壊されて。悔しいよね」



 そう言って、ルバーナはルイズが言いたかったことの全てを代弁してくれたよ。シェフィアは下を俯きながらスープを飲んでいて、ルイズと目が合うと申し訳なさそうにしてたな。



 それで、なんでだか知らないけど、ルイズはこんな質問をしてた。



「それ、私の噂? 本当に……?」


「そうだよ……誰がこんな下らなくって、ひとりも得をしない噂を流したの」


「シェフィアの言う通りね。こんなの、なんの意味もないのに」



 ふたりとも同情してくれた。それに、そうだな。今思えばシェフィアの言葉通り、こんな得のない噂を流してなんの意味があるのか、当時しっかり考えるべきだったよ。ヒントはすぐそこに転がってたのになぁ。



 あ、気にしないで。で、混乱の中でもなんとか食事を3人でとって、その日はなんとか過ごした。



 学校にいる間はルバーナとシェフィアが一緒にいてくれて、独りにならないようにしてくれたよ。優しくて、支えになるふたりだったなぁ……っと、自分語りの時間じゃなかったな。



 それで寮に帰ってきて、夕食を食べて風呂に入って。そうしてようやく部屋に戻れる、と思った時に。



「あなた」



 って、後ろから呼ばれたんだ。背筋は悪寒が走ったけど、いつも通りだと言い聞かせて振り向いた。そうしたら居たのは、やっぱりイーザだった。



 ……「あなた」ってなんだよ。せめて名前で呼べよ……でも、それはそれで嫌か。悪い、続けるよ。



 部屋に帰る時、ルバーナとシェフィアとルイズの3人で歩いてた。でもイーザの鋭いような虚ろなような目は、ルイズだけを執拗に見ていた。



 情けないけど、イーザを見たとき数秒頭の中が真っ白になった。その日は疲れ切ってて、油断してたこともあるし。



 それをしばらく観察したイーザは、自分の中で判決を下して行動したんだろうな。目線が変わってた。



「ルバーナ、シェフィア。あなたたちは先に戻りなさい。もうすぐ消灯時間ですから眠るように。静かにしていなさい」


「……はい。今日もお疲れ様でした」


「…………お疲れ様でした」



 はっきり答えたルバーナに対して、シェフィアは何故だか、反応が遅れていた。常にとまではいかないけど、基本ルイズと一緒にいるからイーザに怯えることはないと思うんだけど。



 だから今考えると、シェフィアは感づいてたんだろうな。噂の実態について。……なんのことかって? ま、話進めればわかるよ。聞いてて。



 イーザに挨拶したふたりは、部屋へと戻っていった。そして、人気のない冷たい廊下には、ルイズとイーザのふたりだけ。そりゃ緊張したし怖かった。



 それでも活発な時間をとっくに過ぎた脳を、無理にでも回転させて言葉をひねり出した。なんだけど、その努力は泡になったよ。



「話、聞きましたよ」



 イーザが相変わらずの厳しい口調で言う。予想していた言葉とは違ったから、それに対する答えが中々出てこない。だからほとんど空っぽの頭で答えたよ。



「なんの話ですか?」


「これだけ広まっておいて、知らないとは言わせませんよ。大体張本人がとぼけたところで、白々しいだけです。私に暴言を言ったという情報は間違っているようですが、相手が違うだけでしょう。他の寮の方や先生方に暴言を放ったことは、容易に想像できますよ」


「えーと……えっ?」



 こっちの話を微塵も聞こうとしないで、自分の主観と空想を語りまくるイーザ。なんかのキャラクターとしてならウケるんだろうけど、実際目の前にしてみたら最悪だよ。



 前はこっちに目を向けてきたくせに、主観を語るときはなにもない空を見つめている。その空には、イーザの空想世界が広がっているんだろうな。思いついたまましゃべっているのかな。



「それに、男子寮に忍び込んだとか……規則にも触れていますし、なにより深夜に忍び込むなど、汚くて不躾で。長い説教では済みませんよ。…………」



 そこまでしか、覚えてないな。他にもなんだか言ってたと思うけど。心身疲れていたルイズは今すぐにでも寝たくて、意識はうつらうつらだったよ。



 最後までそんな感じで、終わりになにか怒鳴られた気がするけど、それも聞こえてなかった。覚えてないって言った方があってるか。



「今日は夜ですからこんなものですが、明日はみっちり反省文に規則の見直しなど、学校側とも連携して矯正していきますからね。今日はさっさと寝なさい」


「はーい……」



 そんな感じでぼぅっと返事して、部屋になんとか戻った。本当に瞼が重かったから、大事なことを言われていてもなにもわからなかっただろうな。



 そうしてその日は、ベッドに倒れこんで寝た。……と思ったけど。そういえば、糸電話がかたかた揺れていたな。あ、そうそう。ルイズが部屋に戻ってきたタイミングを見計らって、ルバーナから糸電話の着信が来たんだった。



 短い間だったけど、多分「大丈夫だったか」とか「今日はお疲れ」とか言われたんだろうな。



 とにかくその日は色々起こりすぎて。体がベッドに深く沈み込んだ感覚はよく覚えてるよ。だって、まともに眠れたのは、この日が最後だったから。

お読みいただきありがとうございます。

次回ルイズ編のクライマックスなはずです。これからどのようにして身を捨ててしまうのか、楽しみにしていてください。

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