縛りから逃げた少女の話
「……」
Gホールの貸し切られた大部屋。話し声はこそこそとするだけで、ほとんどがクッキーの割れる音に食器の当たる音だ。お菓子の中には、見たことのないものもある。
会は始まったばかり。ぼくは改めて、座っている相棒たちを見回して確かめてみる。
「過去かぁ……ヒールはどう? 話せるのか?」
「思い出すのは辛いけどね。もう受け入れてるから、多分大丈夫」
「ふーん。強いなぁ……」
最初に来たルイズとヒール。ヘブンバックで別れた後どうなったか気になっていたけど、仲よさげに話しているあたりうまくいったのだろう。
そして、横を見ていた目と頭を動かして、もう一組のふたりを見た。そのふたりもなにかを話している。
「フォーリ、あなたまだ不用品を売ってるの?」
「不用品でも売ってるんでもありません。使わないと思っていても、常に誰かが欲してるんですよ。後、貸してるんです」
「言い分はわかったわよ。でもあれは売ってるでしょ……」
お互い身分の高い天使の相棒だ。だから馬が合うんだろうなと思った。フォーリと、リザレイだ。どちらも品がいい感じがする。
リザレイも最初ここにきた時は渋っていた様子だったが、美味しいお菓子とお茶を味わい語らっている今は、楽しそうにしていた。
今はまだ、この場になれる時間。誰も話し出そうとはしない。だからそれを見計らったのか、ゼルが声をかけた。
「さて、このお茶会も楽しんでもらえてるようですね」
ゼルの言葉に、ここにきて動揺の色を見せていないヒールとフォーリだけが、はっきりとした反応を見せた。
ゼルは続ける。
「なのでそろそろ本題に入ろうと思います。皆さんに過去を語ってもらいます。初めはアークに喋ってもらおうと思っているのですが。一応聞きますが、最初に話したいという人はいますか?」
名前を言われたぼくは、これから話すということもあり緊張して座り直した。背中をピンと伸ばす。
椅子に座る4人の相棒たちは、手を膝に置いたまま黙っている。まあ、予想できた結果だ。ゼルと目を合わせる。頷いたので、さっきやった軽い打ち合わせ通り、口を開こうとした。
その時。視界の片隅でひとつの手が上がった。思わず全員がそっちの方を見る。
「あの……ルイズ、先にやるよ!」
「ルイズちゃん? どうしたの?」
ヒールまでもが不思議がっている。驚いたままのゼルだけど、ぼくに耳打ちをしてきた。
「アーク、ここはルイズにやらせてやってくれるかい?」
「う、うん。ぼくは全然いいよ」
彼はにっこり微笑むと、顔を上にあげた。
「理由はいいさ。それじゃあルイズ、頼めるかな。アークみたいな、なにも知らない人に説明するみたいにね」
「うん。長く喋るのは慣れてないから突っかかるかもしれないけど。先に終わらせちゃったほうがいいし、ゼルの言う通りみんなのことを知れるしね」
ルイズはさっきのおどおどした感じとは違い、いつも通りのシャッキっとした通る声で言った。
ルイズの隣に座るヒールは、口を出さないものの不安そうな心配そうな様子で彼女を見ている。
「ふー……」
紅茶を一口飲んで、そう呼吸する。彼女も緊張しているのだろう。しかしそう感じたのはその一度きりで、次には頬杖をついて口周りの筋肉を動かし出した。
「じゃあ、ルイズの人間時代の話をするよ。ここにくることになった理由だね。まあ……色々あったんだけど、大部分は世界の考え方って奴だな……
天界じゃ年をとんないから、ルイズが生きた時代とアークがいた時代とじゃ、色々と違うのかもな。ルイズが生きてた時代は、女子はお淑やかにっていうのが当たり前だったんだ。強いられてたんだ。きっとルイズみたいに、暴れたい女子もいただろうな。
で、お淑やかにっていうのは具体例を挙げると。声を荒げないこと、大きな声を出さないこと。丁寧な口調で常に話すこと。いつも微笑んでいること……あー、もう思い出せないなぁ。それぐらい縛られてたんだ。
でもルイズは、男と一緒に遊びたくてさ。大声出して、叫んで広い地面を駆けたかったんだ。大部分の女子はそう思っていたんだよ。
周りの女子は礼儀正しくお辞儀をしてくれるけど、それにはいつも裏があった。でもそれがどんな裏なのかはわからなくて、なんか人と関わるのが怖くなったよ。
……結論から言うとね、ルイズは自殺をしたんだ。そんな雁字がらめの世界に生きるぐらいなら死んでやろうって。
でも死ぬのは怖かった。でも死ぬことを決意させた出来事があったんだ。それが話の主題になるかなー。
前ルイズは女子寮にいた。全寮制の学校だったんだ。そしてその学校や寮はとても厳しい。特に寮長のおばさんは、典型的に嫌われるようなタイプの人だったよ。口うるさくてさ。イーザ、て名前だった気がする。
イーザは全ての女子に均等に厳しくして思うけど、ルイズのことを悪い意味で特別視してたよ。ルイズが男に憧れてるって感づいてたのかな。
勝手に部屋に入ってきては、「なんです! その座り方は!」とか。朝礼中に横に寄ってきて、「手はこの位置に、ほら、背中はもっとピンと!」とか。うざくてしょうがなかった。
厳しくしておいて実は優しいとかじゃなくてさ、ただ出されたマニュアルに則ってるだけ。一回怪しまれたら付きまとってくるのも、嫌われる原因だったね。
ところでだけど。寮は基本個室だけど、ある時刻までなら出入りしてもいいことになってた。後、糸電話もあったし。
そこで両隣の部屋の子と、愚痴言い合ったりもしてた。ひとりの子は「狙われて大変だねー」とか、もうひとりの子は「まー頑張ろっ」とか言ってくれて。なんとか耐えてたよ。
友達いないわけじゃなかったからね。でも、それでも死にたくなった出来事っていうのがあったよ。
ん、イーザのせいかって? もちろん。でも、他の女子からの影響もあったかなぁ。一番心に刺さったのはイーザの言葉だったけどね……。
……いや、大丈夫だよ。話したくなくなったら自分で判断するから。
お読みいただきありがとうございます。
アークかと思いきや、ルイズの話でした。
今回は悲惨な出来事の序章。ルイズはどうなってしまったのか考えながら待っていてください。




