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閑話

閑話の意味は、無駄話、だそうです。

今話はまさに無駄話、あってもなくってもどっちでもいいエピソードです。

こんなものでも楽しんでもらえたら、幸いです。

 「はー、なんでもう、こんな緊張するかな」



 ドアをバタン、と閉めた。たったそれだけのことをした後なのに、私は異様に汗をかいている。



 ――どうしよう、気づかれてないかな。ないよね。



 ドアノブが手汗のせいで湿らないように、すぐさま離す。そして大股早足でフローに向かい、頭から倒れ込んだ。



「フロー、包んで」



 そう、呼びかけてから。



 フローは優しく受け入れてくれる。訳もなにも聞かないで。ただ優しく。



 そう、なんのデリカシーもなく「ねえねえ」とか聞いてくる奴とは大違いなのだ。



「ねえ、ルイズったら」


「……」


「ちょっと〜」



 リィは私の名前をさっきから連呼し続ける。もううざくて仕方ない。黙り込みを決めていたけど、面倒臭いから返事することに決めた。



「……うっさい」


「つれないわねぇ。なに、アークのことが気になるの?」



 ああ、もう、ほら、面倒臭い。返事も面倒だしその対応も面倒だし。自分でもなにを考えてるのかよくわからなくなってきた。



 理由は知らないけど、アークの顔を見た瞬間心が寂しくなったというか、隙間が空いているというか、そうなった。しかもアークが笑ったら、不意に汗が吹き出てきた。



 なんだよ、これ。天界の人だけにかかる、病気?



 そんなことでもないだろうけどさ。



「気になるの?」


「ん〜、そう言われてもな。面白い奴だとは思うよ? でも、なんか変な気分になるんだよ」


「ふ〜ん」



 リィは嫌味ったらしく、低音ボイスで言った。そして、フローを動かし私の背後まで来ると、よくホラー映画なんかでありそうな囁きをしてきた。



「それって、恋、かもねぇ」


「……」



 とりあえず、そんな地底から聞こえてきそうな声色で言うことじゃないってことはよくわかった。



「あら、ルイズらしくないわよ。そこはほら、女の子らしく、全力で否定するものじゃ……」



 たった今まで元気だったリィも、このタブーにも気がついたらしい。私自身がいうことではないけど。



 気分が上がってるのはわかるけど、いい加減学んでくれないかなー、なんて思う。



 私はフローから顔を上げ、さらっと言い放つ。



「悪かったな、女の子らしく、なんて知らないんだ」


「……そうだった、ごめんねルイズ」



 別に、という意図をちょうど伝えたかったところに、欠伸がやってきた。私は盛大に体を伸ばす。



「まあ、気をつけてよ。でもさ、ホントに恋ってものを知らないんだけど……リィはあるのか?」


「え、ええ。なら恋のなんたるか、ルイズで言うところの1日は軽く語れるわ」



 リィは切り替えの達人だろうか。フローに深く腰掛けて、また雄大な態度を取り始めた。



「それは、困る!」


「わかってるわよ」



 さて、ようやくいつもの私たちに戻った。



「まあ最低限の知識として、まず恋した乙女が感じる気持ちについて」


「ふんふん」


「大抵の女の子たち、勿論天使も、恋をした時は希望に満ち溢れるか、胸が苦しむかよ」


「ふーん」



 天使が恋をするのかどうかは置いといて、私は胸が苦しむタイプなのかな?



「個人差はそりゃあるけどね。そして、恋する相手にあった時は、緊張でうまく喋れないか、とてつもないほどの早口、饒舌になるわ。これも勿論、個人差あり」


「ルイズはー……緊張?」


「さっきの様子からするにそうね。伝えたくても伝わらない、そんなもどかしい気持ちが、上手く話せない要因を作り出しているのかしら?」


「恋してるかどうかも怪しいけどー?」


「それはこの大天使が保証するから、安心なさい。貴方はまちがいなく恋している」


「キューピッドでもないくせにー」


「それに、アークはこの私から見てもいい子よ。顔もきれい、芯もメンタルも強いし、いざって時に頼りになるタイプだわ」


「そう?」


「そうそう、矢面は強がってても、寂しい時とか悔しい時に隠れて泣いちゃうルイズには、ぴったりのお相手だと思うんだけど。口挟みすぎかしらね?」


「はっ? リィ! なんでてめぇ!?」



 私は感情に任せてフローから立ち上がる。



「あらあら、口調が荒いわよールイズー」


「覗きか! 天使のくせに趣味が悪いことで!」


「なんとでも言いなさーい。天使は見ている、ってね」


「リィ! ルイズと勝負だ! 外に出ろ!」



 私はドアをまた勢いよく開くと、前にアークとも戦った広い空間に出る。



 リィは飄々としながら私についてくる。



「ルイズ、貴方勝てると思ってるの?」


「勝つか負けるかじゃない! 本気をぶつけられるかどうかだ!」


「あらそう、なら。本気のひとつやふたつ出しちゃおうかしら」



 リィは懐から、ガラス的な短剣を取り出す。



「戦闘狂なんて野蛮なものよ、いつまで経っても神に受け入れられないわ」


「はっ、神の受け入れなんてお断りだよ!ルイズはルイズがやりたいようにするんだよ!」


「ふぅーん……ルイズみたいな思いっきり主観の人材も、必要なのかもね」



 私は鎌を握る手に力を込める。



 リィも戦闘態勢に入っている。短剣の先に火を灯し、周りにも鬼火のように大量に飛ばしている。



 戦闘前の口上は、戦う爆弾の起爆スイッチ。



「ルイズが勝つっ!」

お読みいただきありがとうございます。

これをきっかけに、このふたりもしくは片一方でも気に入ってもらえたらなぁ、なんて思っています。

(因みに、リィの恋愛講座は作者の主観です。念の為ですが、鵜呑みにはしませんようお願いします)

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