エピローグの始まり
「……え?」
神がラフィーに審判を下した。その内容をラフィーに改めて聞かせると、拍子抜けし驚いていた。それはぼくも似たようなものだった。
「なにを驚いている。聞こえなかったのか」
「アークの手続きの手伝いと、ヒールさんの側にいることですよ」
神と四大天使の相棒。天界の住民にとって言葉通り神々しい2人組が、追い討ちのようにラフィーに言葉をかける。
「き、聞こえてましたけど。そうじゃなくてもっと厳しいものだと思っていて。だからこれまで覚悟してきたんです」
「お前の考えなんかは知らないが。存在を消したりなんかすれば、新しい四大天使を見つけるのが大変なのだ。なによりそんな簡単な思いで天使は消さない」
口調としては、吐き捨てるといってもいいかもしれないけど、ぼくには優しさが感じられた。
ラフィーは、神から伝えられる言葉の数々に混乱を覚えていた。口を半開きにして、そのままの姿勢を崩さないでいた。
放心状態というのは、そういうなにも手につかない時の事を言うのだろう。漫画じゃ、クエスチョンマークが頭上で飛び回っているような表情だ。
そんな間抜けみたいな事になっているラフィーの服の裾に、細い小さい指が縋っていた。
「良かったわね。死なないで」
小さな唇をぐっと引き上げ、心なしか小さなヒールが柔らかく言った。
「ほら、生きてるだけ儲けもんよ。もっと嬉しそうにしなさいよ」
ヒールはラフィーの肩をぱんぱんと叩く。続けて、それは誰から見ても可愛らしい笑顔を浮かべて円らな瞳をラフィーに向けた。
「私のこと守るんでしょ? 死んでも」
恥ずかしくなったのか、合わせていた目線を外して、1人で笑っていた。頬に手を当てることもしていた。
それは完全に女の子だった。少し離れたところからルイズが見ていて、なんとも言えない表情をしていた。
当のラフィーは、きっと訳がわかっていないだろう。それでもヒールの一言は、心に響いたらしい。
「ヒールを精神的に支える」ということの本質は、多分ぼくにはわからない。一番彼女を知っていて彼女が信用できるのは、ラフィーだから。そんな彼には、ヒールの言葉はすっと入ってくるんだろう。
「それで、ボクのやったことは許されるんですか?」
「許すことなんてものはない。お前がやった分返してもらおうか」
真面目に質問をしているラフィーに神はさっぱり言い放つ。
「そうですよ! 手続きも手伝ってもらいますよ」
猫の手も欲しいのだろうか。かなり必死な声色だ。そういったところから推測するに、本当に手続きとやらは面倒そうだ。
「今こんなことは言いづらいが、余暇時間など今は作っている場合ではないのだ。受け入れられたか?」
神はそうやって、気遣う面を見せた。が、なにかに気づいたようでその気配りはなくなった。
「いや、これはお前に与えられた罰だ。受け入れろ。教えるからさっさと理解して動け」
「だそうよ? 私も一緒だから、早くやろうよ」
ぼくが今まで見たことがない、この瞬間だけ見れる特別な笑顔をヒールはしている。一方のラフィーの顔のパーツはと言えば、間抜けなものなんてひとつもなかった。
「そうだね。……手続きについて教えてください。手伝います」
ラフィーは神の目を真っ直ぐ見つめた。ヒールはフォーリと頷き交わした後、ルイズの方を見た。
その女子同士の視線のやりとりが断ち切られたので、ヒールは直接ルイズのもとに歩いた。
「ルイズちゃん、私手伝ってねって伝えようとしたんだよ? 逃げないでよ」
「うー、ごめん。家事とか面倒で大っ嫌いな対応でさ」
「わかるけど。手続きは家事じゃないでしょ。頼んだらよろしくね」
気づけば、彼女の目尻にも涙はなかった。時間が経てばそれは勝手に消えるが、心からの笑顔でそれをなくすのは中々だなと品評してみる。
……今度はぼくの番かもしれない。
「さて、手続きといってもやることは山積みだ。そこで、アークに質問だが」
「あっ、ぼく?」
突然名指しされて驚いてしまった。一体なんだろうか。
「お前はもうこれから、地上にある体を完全に殺して、天界の人間となる。だから、地上でやり残していたことだとか、最後にこれを味わいたいだとか、そういうことはあるか?」
「最後……」
地上を捨て天界で生きていくなら。自分がもう地上には戻れないことを想定したことなんかいくらでもある。
色々と考えても、やっぱりぼくがしたいことはひとつだ。
「それじゃあ」
「なんだ」
「地上の人と同じ世界線に存在して。それで地上に降りたい」
お読みいただきありがとうございます。
ここから先は、結構前から想定していたアークのシーンです。しんみりした感じです。最終回も後ちょっとですので、次をお待ちください。




