表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一人連載会議

マジカルホームズ~異世界で名探偵になる方法~

作者: 白井直生

 異世界召喚×探偵!

 推理物ということで短編としてはかなり長いですが、最後までお付き合いよろしくお願いいたします。

 今から僕がお話しするのは、ある一人の少女の物語である。

 彼女は稀有な才能と類稀なる頭脳を持ち、難事件を次から次へと解決する探偵だ。

 だが、普通の探偵ではない。

 何しろ、彼女が活躍する舞台は――



***********



「異世界召喚――」


 僕は思わずそう呟いた。そうとしか説明が付かない状況だ。

 直前の記憶は全く無い。気が付いたら、見知らぬ場所にいきなり突っ立っていた。

 どこかの街の中、そしてその街並みが明らかに『中世ヨーロッパ』然としているのだ。中世ヨーロッパとか詳しく知らないけど、なんか雰囲気で。


「うーん……」


 トラックに轢かれただとか、謎の光に包まれたとか、始めて見たドアを開けたとか、そういったきっかけはあったのだろうか。

 記憶を辿ってみても、何も思い出せない。昨日の晩御飯は思い出せるのに、今日どこで何をしていたのか、それが全く思い出せないのだ。


「いや、じゃあ夢ってことか!」


 今日の記憶が無いということは、まだ今日を迎えていないということだ。

 そう結論付けて、『夢』の世界を堪能してやろうと僕は歩き出した。


「わぷ」


 しかし、意気揚々と歩き出しのも束の間。


「変な格好の男……お前だな?」

「本当に変な格好だな。でもまあちゃんと持ってりゃ関係ねえ」

「だな。さっさとブツを寄越しな!」

「な!」


 吾輩はチンピラである、名前はまだない。

 そんな風体の男たちが、雁首揃えて4人も僕の前に立ちはだかっていた。

 とりあえず日本語が話せるようだが、話が通じるかは疑問だ。


 異世界召喚お約束、主人公に絡むチンピラ。いや、異世界召喚じゃなく夢だと思うんだけど、そこは外さないのか。


「主人公は大体、この場面で覚醒した自分の実力を知る……よし、行けるんじゃ!?」


 まあ、上手く行かなくても夢だし。現実なら即決で全裸土下座するところだけど、ちょっと戦ってみたりしてしまおう。


 そう決めてお気に入りの特撮で見たファイティングポーズを取る。

 さあ、ここから僕の無双タイムが――!


「でやあああぁぁぁ……」


 始まらなかった。

 勢い込んで突き出した拳は、あっさりとチンピラAに受け止められた。


「おうおう、なんのつもりだそのへなちょこパンチは」

「これ、同意なしのパターンか? どっちにしろ、いい度胸じゃねえか。」

「やっていいんだな?」

「な?」


 いえ、ダメです。

 しかし、そんな言葉は聞き入れられるはずもなく。

 右の頬を、全力でぶん殴られた。左の頬まで突き抜ける痛みです。


「え、痛い痛い! 何これ、夢なのに痛い! あっちょっ、ぎゃああああ! 折れる! いや折れた! 誰か、誰か助けてー!!」


 叫び声も空しく、4人がかりでフルボッコにされる哀れな少年、それは僕。夢とは思えない痛みで、だんだん意識が遠のいていった。



**********



 目が覚めると、見知らぬ天井が目に入る。夢の中で気絶して、起きてもまだ夢の中とはこれ如何に。


「あ。目、覚めた?」


 と、ぼんやりした意識に女性の声が飛び込んでくる。

 ――これはもしや、『ボコボコにされた後美少女に助けられる』というパターンでは!?

 そちらのルートも悪くない、全然悪くないと視界を左右に振ると――


「って、おばちゃんやないかい!」


 寝かされているベッドの枕元に居たのは、どうみても40代くらいのおばちゃんだった。

 想像とのジェネレーションギャップに、思わず関西弁でツッコミを入れてしまう。


「ごめんねぇ、若くて可愛い女の子じゃなくて」


 彼女は笑いながらそう言って枕元を離れる。思わず失礼な口を叩いてしまったが、機嫌を損ねた様子はないので一安心だ。


「あ、いえ。すいませんいきなり。あの、あなたが助けてくださったんですか……?」

「助けたって程大袈裟なもんじゃないよぉ。アンタが裏路地でぼろ雑巾になって倒れてたから、ウチに連れ帰ってちょっと治療しただけ」


 それを世間一般では助けたと言います。

 隣の部屋らしき空間に行った彼女に声を掛けると、彼女は答えながら何かを持って戻ってきた。


「ほら、とりあえず食べて食べて。もう起き上がれるでしょ? 回復魔法はアンタの体力も使うから、お腹空いてるはずだよ」


 彼女が持ってきたのはパンとスープで、喋りながらお盆ごと近くの机に置いた。

 『回復魔法』とか気になりすぎる単語が出てきたが、言われてみれば確かにお腹が空いているし、何より美味しそうな匂いが食欲を刺激した。


「すいません、ありがとうございます」


 そう答えて起き上がり、ベッドの横にあったスリッパを履いて机の前に座る。「いただきます」と手を合わせると、むしゃむしゃと食事を始めた。



**************



 パンもスープもおかわりして、満腹になった僕。


「で、アンタはあんなところで何をしてたの?」


 お腹をさすって食休みをしている僕に、おばちゃんはそう訊ねた。

 うーんと考えてみるが、答は出ない。強いて言うなら、


「カツアゲされてた?」

「そんなことは見りゃわかるよぉ、文字通り身ぐるみ剥がれてたんだからさ。その前の話」


 思い付いた回答に、おばちゃんは呆れ顔でさらに訊ねる。

 しかし、それが分かったら苦労は無い。

 というか、今の話で行くなら。


「身ぐるみ剥がされてた、って……」

「そのまんまだよ。なんだか見たことのない下着一丁で転がってたけど?」

「あの、僕の荷物は……」

「あるわけないでしょ。そのカツアゲ犯が持ってったに決まってるじゃないの」


 すわ一大事。

 そう、実は僕は荷物を持っていた。なんで持っていたかは分からないけれど。


「何さ青ざめた顔して。大事な物でもあったの?」


 おばちゃんの問に、僕はこくんと頷く。

 僕が持っていたのは、普段使っている鞄だ。ケータイとかいろいろ入っていたが、それは割とどうでもいい。ほとんど使ってないし。

 しかし、鞄の中には財布。そしてその財布の中には、大切な写真が入っていた。それ一枚きりしかない、大事な写真が。


「うーん……でも、見つけるのは難しいだろうねぇ。ここらじゃよくあることだから、衛兵だって動いちゃくれない。それに仮に見つけたとして、取り戻す方法もないでしょ」

「そんな……」


 おばちゃんの告げる事実に、僕は絶望を感じる。


「まあ、方法がないこともないけど」

「本当ですか!?」


 と思ったら、言を翻したおばちゃんに僕は思い切り食いつく。というか、それならそうと先に言ってほしいものだ。


「私の知り合いに、『タンテー』とかいうのをやってる子がいるんだよ」

「『タンテー』って……もしかして、探偵?」


 イントネーションが微妙におかしいが、この状況で出てくる単語なら『探偵』だろうと思う。


「そうそうそれそれ。何、アンタ知ってんの? なら話は早い。物探しなら、依頼として受けてくれるはずだよ」

「おお……まさか、探偵に頼る日が来るとは……! どこに居るんですか? すぐ行きましょう!」


 生探偵をこの目で拝めると思うと、逸る気を抑えられなかった。

 珍しいものを見れるし、上手く行けば写真も返ってくるし。一石二鳥とは正にこのことだ。


「それはいいけど、アンタお金ないでしょ。当然だけどあの子も仕事だから、お金は払わないといけないよ」

「あっ……」


 それは全く考えていなかった。というか、夢なのにそういうところは妙に現実的だ。


「あれ? これが夢だということは現実の写真は普通にあるのでは? なら別にお金を払って探す必要なんて……いや、そしたらお金だって夢の中だけか」


 なんだか頭がこんがらがってきた。ここは夢の中のはずだから、現実には何の影響もないわけで。


「ぶつぶつ何言ってんの? お金なら私が貸してあげてもいいし、大事な物なんでしょ?」


 おばちゃんの意見も加味しつつ、どうせ夢ならお金も何とかなると結論付ける。

 生探偵を見られるし、夢とは言え大切な物を見捨てるのは心苦しいところだし。


「最悪体で払えばいいし」

「それ、真っ当に働いてってことでいいんだよね? まあ、なら連れてってあげようかね」


 最後にぽろりと言った言葉におばちゃんは顔をしかめたが、ともあれその探偵のところに案内してもらうことになった。



************



 相変わらず見慣れない『中世ヨーロッパ』っぽい街を歩くこと、わずか5分。

 おばちゃんはこぢんまりとした家の前で立ち止まると、迷いなく入口の短い階段を上がった。

 全然普通の場所にあるんだなあと思いつつ、おばちゃんが扉を叩くのを見つめる。

 扉には質素な看板がぶら下がっていて、


「『豆霧探偵事務所』……超日本人的な名前」

「あら、これも読めるの? アンタもしかして……」


 もしかして何なのかは聞きそびれた。

 目の前の扉が、突然二人を招き入れるかのように開いたのだ。しかし、その向こうには誰も居ない。


「また無精して……入っていいってさ」


 呆れたように声を上げるおばちゃんは、そのままずかずかと中に入り込んでいった。


「い、今のは?」

「魔法だよ、もちろん。全く、魔力と才能の無駄遣いってやつだね」


 慌てて後を追いつつ問いかけると、鼻息も荒く答を吐き出した。ちょっと怖い。


 それはそうと周りを見回せば、中は思ったよりも広く、しかしその空間を埋め尽くすように見慣れない道具が並んでいた。

 正直ワクワクが抑えられない。


「お客様が来たら出迎えるのが礼儀ってもんでしょうよ、ハオ!」

「やだなあ、オバちゃんは身内でしょー。ちゃんと相手は選んでますー」


 おばちゃんが首を上に向けてそう叫べば、どうやら2階から答える声が降ってくる。

 「まったく……」と呟くおばちゃんの横で、僕は完全にフリーズした。


 吾輩は探偵である、名前はハオ。

 そう言いそうな程バッチリ探偵のイメージそのものな服を着て。帽子はもちろんチェック柄のハンチング帽。


 つぶらな瞳、丸みを帯びた柔らかそうな頬。色素の薄い唇は笑みの形で、どういう仕組みか茶髪が帽子の真ん中から突き出している。


 ぶっちゃけドストライクの美少女が、こちらを見降ろしていた。


「いらっしゃい。で、そちらはどちら様?」


 小首を傾げて訊ねる姿は、全僕をキュン死させる破壊力を持っていた。


「感謝してちょうだいな、『お客様』だよ! 名前は――そう言えば、まだ聞いてなかったねぇ」


 ふと思い出したようにそう振り返るおばちゃんには目もくれず、真っ直ぐに少女を見つめ。


「あっ――アイラリヒト! 愛に良い、李白の李に人と書きます! 高校3年生男子、彼女は居ませぇんっ!」


 要らない情報を乗せた自己紹介で、盛大に滑り倒したのだった。



***********



 その後僕たちは2階に案内され、客間らしきところで椅子に座って向かい合っていた。


「――さて。」

「……はい。」


 恥ずかしい。軽く死ねる。穴があったら入ったうえで、中から壊して生き埋めになりたい。

 盛大に外した自己紹介は一瞬空気を凍りつかせた後、二人から盛大に笑われたのであった。

 笑わせたのではない、笑われたのである。


「いろいろと衝撃的な自己紹介だったけど。本当にいろいろと――っ」

「まだ言いますか!?」


 ようやく落ち着いて話が始まるかと思えばこれである。口を押えて震えているのは、笑いをこらえているのが分かりやす過ぎてもう辛い。


「いや、ごめんそうじゃなくてさ。あなた、もしかして――日本から来たの?」


 徐々に真面目な顔を取り戻した彼女は、僕に向かってそう問いかけた。


「えーっと、日本から来たというか日本にいるというか――」


 確かに僕の出身は日本だが、今は夢の中に居る訳で。でも現実の僕は変わらず日本に居るはずで、やっぱり何が何だか。


「やっぱりっ! オバちゃん!」

「あらまあ。本当にあったんだねえ、ニホン」


 そんな僕を他所に、彼女たちは驚きと喜びの声を上げていた。


「あの?」

「ありがとう! これでもしかしたら、帰れるかもしれない!」


 なんなのかと問いかける僕の手を取り、ぎゅっと握りしめる彼女。近い。可愛い。手温かい。


「いや、えっと……」


 現実ではあり得ない事態に、思わず目を逸らす。やっぱりこれは夢だ。夢に違いない。


「あ、ごめんなさい! ついはしゃいじゃって……まずは説明しないとね」


 ぱっと離された手に、ほっとしたような残念なような気持ちで彼女を見る。

 だが落ち着けば、かなり気になることを言っているのでは。


「リヒトくん。落ち着いて聞いてください。」

「はあ……」


 なんとなく嫌な予感がして、気の乗らない返事をしてしまう。

 果たして、彼女は言った。


「ここは日本じゃありません。あなたの夢でもありません。あなたは私と同じ――異世界召喚されたんです」

「ええええぇぇぇっ!? ――ん? でもそう言われても……」


 彼女の真剣なトーンに思わず驚愕の声を上げるが、すぐに思い留まる。

 これが夢だとしたら、彼女が何を言ったってそれは夢である。

 夢か夢じゃないか、それが問題だ。だが夢が夢じゃないと誰が証明できる。


「そう、確かに今夢を見ているのかいないのか、証明はできない。でも、私は夢じゃないと知っているしあなたに協力してほしい。そしてあなたは、夢じゃなければ私に協力しないと帰れないし、夢なら私に協力しても損は無い。分かりますか?」

「は、はい! ……なんかエラい急に論理的になったな」


 滔々と語り出す彼女に気圧され、思わず頷いてしまう。

 いや、ちょっと待て。


「っていうか、心を読んだ!? やっぱり夢だ!」


 夢がどうとかは口に出していないはずなのに、当たり前のように彼女はその台詞を口にしたのだ。

 こんなことは普通あり得ない。


「探偵なので。最初に夢だと疑うのは当たり前だから、そこからどう考えるかくらいは分かります。――初歩的なことだよ、リヒトくん」


 説明の後、キメ台詞と共にちっちっと指を振る。ドヤ顔が額縁に入れて飾りたいくらい可愛い。


「それ、もしかしてずっと言いたかった?」

「実は。ネタ分かってくれる人この世界に居ないんだもん」


 てへ、と舌を出すのは普通許されないテンプレ行動だが、彼女に限ってはもっとやれと声を大にして言いたい。言わないけど。


 何はともあれ、彼女の言う通りである。

 ここが現実――異世界か、それとも夢か。それはひとまず置いておくことにしよう。


「それで、依頼があるんでしょ? お話を伺いましょう」


 可笑しいからではない優しい笑顔で、彼女はそう言ってくれた。



********



 かくかくしかじか。

 説明を終えた僕は、考え込む彼女が喋り出すのを待つ。


「ふむふむ、なるほど。つまり、そのチンピラたちを探し出して荷物を取り返せばいいわけね」


 その要約は全く正しいのだが――


「あっさり言いますけど、できるんですか? えっと……?」


 彼女の見た目からすれば、年齢は僕と大差無いように見える――というか、むしろ僕より下の疑惑すらある。

 年下好きとしては嬉しい限りだが、そんな彼女がそれを成し遂げられるのだろうか。


「ああ、そう言えばきちんと自己紹介してなかったね。私はマメギリハオ。豆に霧、羽に稲穂の穂。職業は探偵で年は17、恋人は難事件!」

「つまり独り身ですね」


 冷静な声でそう突っ込むが、内心は全力でガッツポーズである。

 っていうか本当に年下だった。


「……話を続けても?」

「どうぞ。」


 ハオがこちらをジト目で睨んでくるが、我々の業界ではご褒美です。

 全然動じていない僕に不満そうだが、気を取り直して彼女は喋り出す。


「さて。まず質問に答えるなら、状況的には五分ってところかな。さすがに換金されてたら追い切れないけど、まだ持ってるなら見つけることも取り返すこともできると思うよ?」


 やはりあっさりと言ってのける彼女だが、この際真偽や手段はひとまず置いておこう。

 彼女の言う通りなら、換金される前に取り返すのが必須条件ということになる。


「じゃあ、早く探しに行かないと……!」

「そうだねぇ。私が見つけてからもう5時間くらいは経ってるから、早ければもう金になっててもおかしくはないね」


 焦る僕を更に焦らせる発言をおばちゃんが入れてくる。そう言えばおばちゃんまだ居たんだ。


「まあ、後はリヒトくんの運次第かな。そんな訳で、依頼内容はわかりました。あとは代金の話なんだけど……」

「あ、やっぱりそこはしっかりやるのね。でも知っての通り、一文無しどころかこの服はおばちゃんからの借り物なんだけど」


 つまり、所持金はむしろマイナス。


「うん、知ってる。だから、今回はお金以外で払ってもらおうと思って――」

「この体で良ければいくらでも使ってください!」


 つい食い気味で言ってしまったが、他意は無い。あくまでそれだけ荷物が大事で、そしてきちんと対価を支払おうという意志の表れである。そうだったらそうだ。別に変なことは考えてない。


「え、やだこの人なんか危ない人だったりする? ……お金以外っていうのは、情報です。まあ確かに、足りない分は労働してもらうことになるけど」


 若干引いた顔もとても良いが、真面目な顔もとても良い。つまり最高。

 そんな彼女の為ならば、身を粉にして働くのもやぶさかではない。

 それはさておき、


「情報?」

「そう。元の世界に戻るために、あなたという存在は貴重な情報なの。だから、それに協力してもらうのが依頼を引き受ける条件」


 要するに、依頼を引き受けてもらったうえで彼女と思う存分トークできるということか。

 なんだこれ、得しかしてないぞ?


「そんなことでいいなら、喜んで。よろしくお願いします」

「決まりね」


 二つ返事でOKする僕に、彼女は満足そうに頷いた。


「じゃあ、さっそく探しに行きましょう。フリちゃん!」


 彼女がそう声を上げると、どこからともなく赤い影が現れた。

 素早い動きで地面を駆け、彼女の体を登って肩に止まる。


「猫……じゃないね」


 パッと見は、サイズと言い毛並と言い、赤毛の猫らしき生き物である。だが、頭には耳だけでなく角が二本生えていた。


「かわいいでしょ。ペットのフリちゃんです。こう見えて結構頼りになるんだよ?」


 『フリちゃん』は、ハオが優しく撫でると目を細めゴロゴロと喉を鳴らす。うん、猫だな。

 しかし、羨ましい状況である。代われるものなら代わりたい。もちろん、代わるのはどちらでも可だ。


「よし。じゃあ、まずは貴方が倒れていたところに案内してもらえる?」

「あー……おばちゃん?」


 そんなことを言われても、当然覚えていない。目が覚めたらおばちゃんの家だった訳で、しかも土地勘は完全にゼロだ。


「二番街の裏路地だよ。八百屋への近道」

「りょーかい。じゃあ、行こっか」


 察したおばちゃんが答えてくれた。感謝。

 ハオはその言葉だけでどこのことか分かったらしく、近くにあった鞄を肩から掛けると僕を見てそう言った。


「気を付けてねー」


 ひらひらと手を振るおばちゃんに見送られ、僕たちは町へと出た。



**********



 先をすたすた歩く彼女について行くと、やがてぼんやりと見覚えのある風景が見えた。

 おそらくここが、僕が襲われた場所である。


「さて。襲われたって言ったけど、相手は魔法使ってた?」


 ハオは周りをざっと見ると、僕にそう問いかけた。

 当たり前のように『魔法』という単語が出てくるが、


「使ってない、と思うけど。っていうか、やっぱり魔法あるんだ」

「そっか、そこからかー。うん、あるよ」


 そう、そこからである。そもそも、僕はまだこの世界のことを全然分かっていないのだ。

 思い返せばおばちゃんも言っていた気がしなくもないが、あの時は絶対に夢だと思っていたからほとんど聞き流していた。

 今はもしかして、くらいには思っている。


「もしかして、マメギリさんも使えたり?」


 とりあえず興味の湧いたことを訊いておく。

 ここが本当に異世界だったとして、同じ日本出身の彼女が使えるなら僕にも使えるはずだ。

 そう考えたら、俄然ワクワクしてきた。


「もちろん。っていうか、ハオでいいよ。こっちの人、下の名前しかない人ばっかだし、私の方が年下だし」

「そ、そっか。りょーかい」


 期待通りの答だが、その後に続いた言葉で喜ぶタイミングを失った。

 そもそも、女の子とまともに話すのが久しぶりだ。それで下の名前で呼べなんて言われたら、気後れするのも仕方がないだろう。年下だし、ちゃん付けするということで手を打とうと腹の中で決める。


「さて。魔法使ってないとなると、魔力残渣で追うのは無理、と。じゃあ、疲れるけどあれしかないかー」


 独りごちながら周りをきょろきょろと見回して何かを探している風な彼女。


「えーっと、ここは……あれか」


 いつの間にか肩から下りたフリが目的の物を見つけたらしい。

 にゃーごと鳴いて呼ぶフリのもとに、ハオはてこてこと小走りで駆け寄った。


「何やってるの?」


 しゃがみこんで何やら固まっている彼女に問いかける。

 こっそり顔を覗きこめば、軽く眉間に皺を寄せて目を閉じていた。


「分かりやすく言えば、監視カメラの記録を調べてるの」

「監視カメラ!?」


 目を閉じたままそう答える彼女に、僕は思わず大きな声を出してしまう。

 ここまでバッチリ異世界のお約束を踏襲してきたのに、急に現代的なものが登場したからだ。世界観どうなってるんだ。


「って言っても、魔法のね。実は私、ここら一帯に映像を記録する魔方陣をこっそり仕込んでるの。魔方陣に触れるか、パスを繋いだ鏡があればいつでも見られるんだ」


 ハオがそう補足を入れるが――けっこう道徳的にアウトじゃないのか、それ。

 そして、


「そんなシステマチックな魔法が……」


 魔法だということは分かったが、それにしたってお約束からはだいぶ外れた魔法である。


「実は、私のオリジナル魔法なんだ。ふふん、すごいでしょ」


 再びの可愛いドヤ顔、いただきました。

 後で聞いた話だが彼女は相当な魔法の才能を持ち合わせていたらしく、現代の科学的なシステムを代用する魔法を、独自に研究して創り上げているらしい。


「ただ、遡るのは結構魔力使うんだよねー。あ、でも映像はバッチリ見れたよ。随分強気だったけどなんで?」

「いや、それは見なかったことにしてください……」


 その発言で、本当に彼女は過去にここで起こったことを映像として見ているのだと痛いほど分かる。音声が聞こえていないことを願うばかりだ。


「まあいいや。じゃ、ちょっと移動するよ。危ないから逸れずについて来てね」


 下に手を伸ばし、フリがそれを駆け上がって肩に落ち着いたのを確認すると、ハオはそう言って立ち上がった。

 なんだかすごく子供扱いされている気がするが、事実この世界については赤子のようなものなので僕は素直に従った。



***********



 その後もハオは何度か魔方陣を調べ、どんどんと進んで行った。


「ちょっと聞いていい?」

「なに?」


 誰かと居る時沈黙が続くと、大体気まずさに耐えられなくなって喋ってしまうのが僕の癖である。

 例に漏れずついそう声を発すると、彼女は軽い声で返事をくれた。


「さっきから結構迷わず移動してるけど、見てるのってあくまでそこから見える映像だよね? それで行先なんて分かるものなの?」


 監視カメラの映像に映っていたとして、それで分かるのはどっちから来てどっちに行くかくらいのものだろう。

 もしかしたら音声も拾っているのかもしれないが、それにしたって偶然行先を喋っている可能性は低い。


「まあね。獲物を狩った後のチンピラが行くところなんて高が知れてるもん。飲み代にするか、換金しに行くか、ねぐらに帰るか――後は大体の方向が分かれば検討はつくよ」


 高が知れてると言ったって、この町の地理や店などをよく把握していなければできない芸当だ。

 自分の普段住む町だって、意識しなければ全然行かないところなんか山ほどあるだろうに。


「ほえー。本当に探偵みたい」

「みたいじゃなくて探偵ですー。こう見えてもそこそこ優秀なんだよ? 難事件ってのはまだだけど、ちょくちょく依頼も受けてるし」


 思わず小学生みたいに思ったままのことを口にすると、彼女はそう言って膨れた。

 あ、可愛いです。


「すごいなあ。俺より年下なのに……そう言えば、ハオちゃんはここに来てどれくらい経つの?」


 流れで思った疑問を訊いてみる。彼女は一体、どれくらいの時間をここで過ごしているのか。


「もう5年になるよ。最初のころは大変だったなあ……」

「そんなに!? つまり、俺も下手すればそれくらい帰れないってことじゃ……」


 しみじみとそう答える彼女だが、僕はそれどころじゃない。

 今から5年間帰れなかったら、僕は23歳。大学を卒業しているはずの歳である。


「そうならないように協力してって話でしょ。その辺はこれが終わったらちゃんと話そう」


 青ざめる僕を指で突っついて、彼女はそう微笑む。天使か。

 その仕草と言葉を心の中で思う存分反芻しているうちに――フリが僕を呆れた目で見ている気がするがそれは置いといて――、彼女はとある建物の前で足を止めた。


「さて、たぶんここだね――彼らの根城。足取り的にはまだ売られてないと思うよ」


 そう語る彼女が見上げるのは、どう見ても安普請な住宅だった。



**********



 歩いているうちに日もとっぷりと暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。

 どうやらフリは微かに発光できるらしく、それが灯りとなっているが。


 彼女がねぐらと目したその建物は、2階建てのいわゆる集合住宅らしい。廊下のような共有部分と、部屋が6つあるという造りだとか。

 裏手に回った彼女は部屋が全て見える位置――と言っても窓が無いから中は見えないが――に陣取り、なんだか目を文字通り光らせていた。


「中に人が居るのは……3部屋かな? あれ、あの部屋だけ感知できないな」

「え……もしかして、透視とかできちゃう?」


 彼女の呟きは、まるで中が見えているかのようだ。もしそうなら、もう犯罪的な魔法である。絶対に使えるようになりたい。


「そこまではできないよ、魔力を感知してるだけ。これで人が何人いるかくらいなら分かるんだけど……」


 僕にとっては残念な事実を述べながら、彼女は2階の真ん中の部屋を見て目を細める。


「やっぱり、魔粒子すら見えない。もしかして魔力遮断術式……だとしたら、ビンゴだね」


 ニヤリと彼女は笑うが、何を言ってるかほとんど分からなかった。


「どういうことか説明してくれると、僕もいっしょにニヤってできるんだけど」

「やめてよ、いっしょにする意味ないでしょ。……えっと、空気中にも魔力の粒子が漂ってて、魔力感知をすれば見えるの。でも、あの部屋だけはそれが見えない」


 しっかりツッコミを入れつつ、真面目に説明もしてくれる。いい子。よしよししたい。


「にゃーご」


 なんだか「ちゃんと聞いてんのか」という雰囲気でフリが鳴くので、僕はちゃんと聞く姿勢を取る。


「で、それはつまり誰かが意図的に感知できないようにしてるってこと。たぶん『魔力遮断術式』っていうのが使われてて、術式の中と外を魔力的に完全に遮断する壁みたいなものだと思ってくれればいいかな」


 要するに、防音室とか電波暗室とかの魔力版みたいなものか。


「つまり、それがあるってことは……」

「部屋の持ち主は、滅茶苦茶防犯意識の高い人か――探られたくない事情がある人ってこと。割と簡単な術式ではあるんだけど、組むのに時間と手間がかかる代物だから」


 なんとなく張ってみるようなものではない、ということだ。

 それならば彼らのような日陰者が潜んでいる可能性は高いと納得する。


「よし、じゃあ行こっか」

「へ?」


 あっさりとそう言って本当に歩き出す彼女に、僕は呆けた顔で置いてけぼりを食らう。


「何してるの? 早く返してもらおうよ」

「いや、そんな。返してって言われて返すくらいなら――」


 そもそもカツアゲなんかしてないだろう。

 彼女にそう返そうとしたところで――


「!?」


 件の部屋から、突然大きな音が聞こえてきたのだった。



************



 慌てて建物の正面に戻った二人だが、さっきの音が嘘のように辺りは静まり返っている。

 爆発音のようなものが断続的に続いてたのだが、走っているうちにそれは鳴り止んでいた。


「さっきの音で誰も出てこないとか、この辺の治安はどうなってんだ……」


 息を切らした二人の他には、文字通り人っ子一人居ない。

 彼女のさっきの言からすれば住人は他に居るはずなのだが、誰も出てきて様子を見ようとしないのだろうか。


「もしかしたらよくあることなのかも。ま、訊いてみればわかるか」


 彼女はそう言うと、さっさと建物の入口へと歩き出す。


「いや、訊くって言ったって……そんな、正面から堂々と?」

「悪いことしてるわけじゃないもん」

「いや、そういう問題じゃなく……」


 さっきといい今といい、彼女の危機管理能力はどうなっているのか。チンピラに盗った物を返せと言えばどうなるかなんて、考えなくたって分かる。

 しかしそんなことを考えている間にも彼女はずんずんと進んで行き、入口を開け放つと共用スペースを我が物顔で歩く。


「ちょっと、本当に……」

「ここ」


 やがて彼女は扉の前で立ち止まった。2階の真ん中の部屋だ。

 僕の制止は全く意に介さず、躊躇なく扉をノックする。


「……返事が無いね」

「ただの屍のようだ。……そうだね」

「にゃーご」


 フリは下らないことを言うなとばかりに不機嫌な鳴き声。

 また要らないことを言ってしまったなと反省しつつ、扉の前で固唾を飲む。

 ハオの言う通り、中からは何も反応が無い。


「リトラーイ」

「躊躇ないな!」


 再度ノックする彼女に思わずツッコミを入れた、その時。


 ――ドゴン。


 再び大きな音が部屋の中から聞こえてきた。交通事故かと錯覚するほど大きな、何かがぶつかるような音。心なしか建物が揺れた気がする。

 その後衝撃で物が落ちたのか、何かが割れるような音が立て続けに聞こえてきた。

 ハオの肩では、フリがフーッと息を荒げて扉を睨みつけている。


「うわあ、全力の壁ドン……? ハオちゃんがしつこくノックするから!」

「いや、まだ2回目だよ? それより、リヒトくんのボケが面白くなかったからじゃない?」

「そんなわけ! っていうか鉄板だよ、制作者に謝れ!」


 見解の相違でしばらくわーきゃーと口喧嘩が続くが、それだけ騒いでも中から誰かが出てくる様子はなかった。


「うるせえぞお前ら、イチャつくなら他所でやんな!」


 中からは出てこなかったが、隣からは出てきた。急に怒鳴られて心臓が止まりかけたが、右を振り向くと厳ついヒゲ面のおっちゃんがこっちを睨みつけていた。そこで心臓が一回止まったと思う。


「す、すすすいませ……」

「あ、ちょうどいいやおじさん。この部屋の人たち全然返事してくれないんですけど」

「ちょっと!?」


 どもりながら全裸土下座の構えに入りかけていた僕に対し、ハオは躊躇なくおっちゃんに話しかけた。彼女の心臓は何でできているんだ。鋼か、フルメタルなのか。


「ああ!? そこのチンピラに客なんて珍しいな」

「チンピラって、4人組の?」

「おう、そうさな。なんだ、知り合いではねえのか」


 恐れ慄く僕を他所に会話を続ける二人。あれ、案外いい人かも。


「さっきの音からすると、また酔っぱらってケンカでもしてんだろ。今無理矢理入るととばっちり食らうぞ?」


 部屋の扉を睨みつけて苦々しげにおっちゃんは語る。


「よくあることなんですか?」

「しょっちゅうだよ。この前なんか壁に穴開けやがってな。流石に注意したんだが、奴らやめるんじゃなく魔力遮断術式を張りやがった」


 ハオがそう訊ねれば、おっちゃんはさらに顔を苦く、センブリ茶でも飲んだのかという表情に変えて答えた。


「あ、そーゆー意図だったんだ。でも、それじゃ騒音被害が深刻だよなあ」

「ま、他の住人も慣れっこだしな。ここに居る連中は訳ありがほとんどだから文句を言う輩もおらんし」


 ようやく安心して独り言をこぼした僕にも、おっちゃんは相槌を打ってくれた。やっぱりいい人っぽい。


「で、お前らはそんな奴らに何の用なんだ?」

「取られた物を返してもらいに」


 おっちゃんの問いかけにハオがあっさり答えると、彼は急に笑い出した。


「はっはっは! そいつはいい度胸だ。ちょっと退いてな」


 そう言って扉の前に移動すると、ガンガンとノックをする。


「おいお前ら! ここを開けやがれ!」

「ええ、そんな喧嘩腰で大丈夫なんですか……?」

「大丈夫さ、こう見えても俺はここの大家だからな。あいつらも強気には出れないのさ」


 そんなやり取りをして出てくるのを待つが、


「……出てこないね」

「だな。なんだなんだ、全員くたばったか?」


 ハオが呟くと、おっちゃんは顔をしかめて頭をがりがりと掻く。


「しゃあねえ、ちょっくら鍵取ってくるわ。流石に放置するわけにはいかんし」


 そう言い残すと、部屋の方へと戻っていった。


「ね、ねえ。なんか嫌な予感がするんですが……」

「何が?」

「いや、ほら。探偵あるところに事件ありっていうか。ハオちゃんが来たことでなんかとんでもないことが起こってたり……」


 事件が探偵を呼ぶのではない、探偵が事件を呼ぶのだ。つまり探偵なんて居なければそもそも事件は起こらない。米花町では一体何人死んでいるのか。

 訳の分からないことを考えているうちに、おっちゃんがジャラジャラと音を立てながら戻ってきた。


「おいお前ら! 出てこないなら勝手に開けて入るぞ!」


 最後にもう一度そう忠告すると、おっちゃんは鍵を扉に突っ込んだ。


「ん……なんだ、開いてんのか?」


 鍵を捻る前に扉が開き、おっちゃんの陰から中を覗き込んでいた僕の視界に映ったのは、ごちゃごちゃに散らかった部屋と――


「ひっ」


 ――4人の男の死体、そして血の海だった。



**********



「――落ち着いた?」

「なんとか……」


 初めて見た人の死体に、僕は当然耐えられなかった。その辺りの反応の描写はお約束だし不愉快だろうから省かせてもらうが、今はおっちゃんの部屋に上げてもらって落ち着いていた。


「そう、よかった。でもごめん、もう一回あの部屋に入らないと。現場保全のために物は動かしたくないから、荷物があるかの確認はあの部屋でやってほしいの」


 今は、おっちゃんに頼んで部屋に誰も入らないように見張ってもらっている。窓が無い部屋なので、扉さえ押さえておけば大丈夫だった。


「うーん、頑張る……元はと言えば僕の依頼だし」

「ん、えらいえらい。じゃあ行こっか」


 あの惨状を思い出しただけで身震いを抑えられないが、確かに荷物は確認しなければならない。

 なんとか格好つけた返事をすると、ハオはそう言って頭を撫でてくれた。さらに、手を引っ張って立たせてくれる。本当に天の使い。


「おじさん、ありがとう。ちょっと中入るね」

「ああ。どうせ内輪もめだろうし好きにやってくれ。お前さんの荷物があったら持って行ってくれて構わんし」


 部屋の前のおっちゃんにハオが話しかけると、そう言って扉を開けてくれた。


「うーん……まずは荷物を探すとして、本当に内輪もめなのかなあ」


 部屋に入ると、彼女は部屋を見て回りながらそう呟く。


「でも、扉はあそこだけだったじゃん」


 おっかなびっくり荷物を探しながら、気を紛らわすためにそれに相槌を打つ。

 部屋は散らかった上に4人の死体が転がり、床と言わず壁と言わず血が飛び散って見るも無残な状態だ。

 家具は最低限の机と椅子、それに棚があるくらいで、ベッドすらない。毛布らしきものがあるからそれで寝ていたんだろうなと思う。

 その上机も棚もほとんど物が留守になっていて、何だか生活感が薄かった。


 しかしよくわからない物は沢山ある――ほとんどが盗品なのだろうが。

 なんだか大きくて抽象的な絵が壁に立てかけてあったり、何故か大きくて重そうな鉄球が転がっていたり、金貨の入った麻袋が無造作に置いてあったり。

 それに加えて、陶器やら壺やら置物やら――だったらしい物が砕けて辺り一面に散らばっていて、一歩進むたびにじゃりじゃりと嫌な音と感触がしそうだ。


 ちなみに今はハオの魔法で二人とも地上から3mm浮いているらしく、実際には踏む心配は無い。


「それはそうだけど。少なくとも、リヒトくんの荷物が無かったら外部犯の可能性は高くなるよ。この人たちはまだ売ってなかったはずだし」


 「どう?」と彼女が問いかけてくるのでもう一度辺りを見回す。


「うーん、パッと見は見当たらないね」

「そっか……こっちもそれらしきものは見つけられなかったよ」


 さて、いよいよ困ってしまう。一体僕の荷物はどこに行ってしまったのか。


「でも、やっぱりこれは内輪もめじゃないって証拠なら見つけたよ」

「え?」


 不意に彼女がそう言うので、僕は目を丸くして訊き返す。すると彼女は、部屋に入って左側の壁の方を指差した。

 振り返るが、何を指しているのかは分からない。


「その絵、よく見て。血がかかってないでしょ? 周りの壁には派手に飛び散ってるのに」


 言われてよく見れば、確かに絵には一滴も血が付いていない。それはつまり、


「彼らが死んだあとで、絵をあそこに動かした人がいた……?」

「そういうこと。理由はともかく、それは揺るぎない事実ね」


 僕の言葉に、彼女は頷いてそう言った。そしてどこからか手袋を取り出すと、絵を動かす。


「見て。絵の裏の壁にはやっぱり血が付いてる。……あれ、でもここで途切れてるな」


 言われて隠れていた壁面を見ると、古めかしい土壁に血がべっとり付いていた。

 そして彼女の言う通り、そこに一部だけまっさらな空間が存在している。

 絵はけっこう大きくて幅1m、高さは1.5mくらいだろうか。そして血が付いていない部分は、それより一回り小さいくらいに見える。


「そこに別の物が置いてあった、とか?」

「そうかもね。何はともあれ、犯人にとって都合の悪い何かを隠そうとしてたみたい」


 とにかく、これが重要な証拠であることは間違いなさそうだ。

 

「犯人か……でも、犯人はどうやってこの部屋から出たの? っていうかそもそも、この人たちの死因は?」

「それはまだ。死因に関して言えば、魔法による外傷が原因の失血死ね。ハチの巣になってるから何かを弾丸のように飛ばす魔法……メジャーどこなら土属性か氷属性か。水属性もあり得るな。まあとにかく、魔力残渣がすごいから魔法を使ったのは間違いないと思う」


 疑問を次々に口にすると、彼女はそれに答える。だが、疑問は膨らむばかりだ。


「魔法か……。で、その魔力残渣? って何? なんか前にも言ってた気がするけど」


 そもそも、魔法というものをよく分かっていないのである。それを使ったというのであれば、まずそこを理解しないことには始まらない。


「えっと、魔法を使うと、空気中に魔力が飛散してしばらく残るの。それが魔力残渣。詳しく解析すれば魔力パターンから個人の特定まで可能なんだけど、ここまで入り混じってると難しいかな……被害者も相当撃ったみたいだね」


 要するに、拳銃を撃てば証拠が残るように、魔法を撃っても証拠が残るということか。ただしその証拠には今回は頼れない、と。


「そっか……。あれ、でももしかして魔法を使えば簡単にこの部屋から出て行けたり?」

「普通の現場ならね。でも、この部屋には魔力遮断術式が張られているからそれは不可能かな」


 ふと思い付いて声を上げると、それは彼女に否定された。


「でも、部屋の中では魔法を使うことはできるんでしょ? なら、あるか知らないけど転移魔法とか、ものすごく小さい虫に変身して出ていくとか、やりようはあるんじゃないの?」

「言ったでしょ、この術式は中と外を魔力的に完全に遮断するの。体内の魔力以外……つまり、魔法となって発現した魔力は全部アウト」


 「見てて」と彼女が掌を何もない壁へ向けると、そこから火の玉が壁に向かって射出される。

 しかし、それは壁に当たると瞬時に霧散して消え失せた。壁には焼け焦げた様子はまったくない。


「ね? この部屋の壁と床と天井、その内側に沿って張り巡らされてる。転移魔法は魔力で道を作って通るって言えば分かるかな、その道がすっぱり切れるから無理。変身魔法の類も、術式にぶつかった途端に解けちゃうね」


 その説明で、一応は納得できた。魔法を使って出ようとしても、それは不可能だということだ。


「じゃあ、まだ隠れてるって可能性は?」


 しかし、ふとその発想に思い至った。変身魔法で小さくなってまだ実はこの室内に潜んでいるパターン。ある意味王道な展開だ。


「魔力感知も使ってるから、それはないって保証するよ。犯人は何らかの方法で、この部屋から出ていった。――正に密室殺人だね」


 しかし、その可能性もまた彼女によって否定された。彼女の言う通り、完全な密室殺人のようだ。


「とりあえず、現場検証はこれくらいでいいかな。リヒトくんの荷物もここに無い以上、その犯人が持ち去った可能性が高いし……ひとまず他の住人に話を聞きに行こう」


 と、これまた王道の進行を彼女は提案するのだった。



***********



「ええ、さっき帰って来ました。買い物に行っていて……まさか、あのチンピラがねえ」


 再び大家のおっちゃんに部屋を任せ、2人は聞き込みを開始していた。

 まずは1部屋目、1階の正面から見て左の101号室である。住人は若い女性だ。

 パッと見は普通の優しそうなお姉さん。名前はシアンというらしい。


「ちなみに、何を買ったんですか?」

「いや、それはちょっと……っていうか何なんですか貴方たち。衛兵じゃないでしょう?」



************



 隣、一階の真ん中。102号室。


「ああ、俺は出かけてたよ。仕事が長引いてな……」

「私はずっと居ましたが、騒音はいつものことで……」


 住人は2人、どうやら夫婦のようである。

 夫がダビデ、妻がミケ。歳は二人とも30代くらいだろうか。


「ちなみに旦那さんのお仕事は?」

「……なんでそんなことを答えなきゃならないんだ? 関係ないだろう」



***********



 一階の右の部屋、103号室。


「ああ、大きな音がした時ですよね。ずっと部屋で勉強してました。いつものことなんで」


 ガリ勉臭い眼鏡の男、イッサ。年齢はかなり若く、まだ10代だそうだ。



*************



 二階の左の部屋、201号室。


「酒場で飲んでたよ。」


 痩せぎすの男である。名前はクロムというらしく、年齢不詳、推定20代後半。


「それを証明できる人は?」

「知らねえよ、いちいちそんなこと気にしちゃいない。酒場のマスターにでも聞けば覚えてるかもしれないけど」

「じゃ、どこで飲んでたんです?」

「さあな。何軒かハシゴしたから、ちょうどその時どこに居たかなんてまったくわからん」



************



「で、202号室が被害者の部屋。そしてここが203号室、大家のおじさんの部屋と」


 ちなみに大家の名前はオキナ、年齢は40だそうだ。

 聞き込みパートは、あっさりと終わってしまった。前述のやり取りの後は、割とけんもほろろに追い返されていた。

 探偵というものも浸透していないし、疑われてるのはどうしても分かってしまうのだからさもありなん。


「それにしても、全員怪しかったね!」

「言っただろ、訳ありばっかだって。ここの住人は、お天道様に顔向けできる生活してるヤツの方が少ないのさ。そうでもしなきゃ生きていけないんだよ」


 全員が何かしら言葉を濁していたのだ、もう誰も彼も怪しく見えてしまう。

 そんな発言をした僕を、オキナがたしなめるようにそう言った。


「うーん。それにしたって、全員これと言ったアリバイが無いし。容疑者は5人……いや、おっちゃん入れて6人全員?」

「ううん、最初の音がした時部屋に居た3人は除外していいよ。私が魔力感知で見てたから」


 ハオによれば、魔力感知で姿を確認していたのは102号室のミケ、103号室のイッサ、そしてここ、203号室のオキナの3人だそうだ。


「それ、聞き込みの意味あった?」

「もちろん。全員矛盾の無い発言をしてたことは確かめられたからね」


 部屋に居た3人は部屋に居たと言ってたし、部屋に居なかった3人は外に出てたと言っていた。


「居なかったのに居たって言ってる人が居れば、一発で犯人って分かったんじゃ?」

「ちゃんと考えてる犯人だってことでしょ。そういう情報も大切だよ?」

「そんなもんですか……」


 しかし、実際の所どん詰まりだろう。新たな情報が出てこない以上、持っている情報で推測するしかない。


「で、何か閃きましたかハオさん」

「うーん。もう一回情報を整理しようか」


 僕の質問に答える代わりに、ハオはそう言って喋り始めた。


「容疑者は3人。101号室のシアン、102号室のダビデ、201号室のクロムね。それぞれの部屋と202号室の位置関係は、正面から見ると――」

「シアンの101号室は左下、102号室は真下。201号室は左隣だね」


 頭の中で建物の見取り図を思い浮かべながら、ハオの言葉の続きを喋る。


「気になる点は……5つ、かな」

「え、そんなに?」


 ハオは頷いて語りを続けるが、僕には2つくらいしか思い付かない。


「うん。まず1つ目。これはもちろん、『動かされた絵』ね」

「うんうん。部屋に誰か居たっていう証拠でもあるからね」


 これは言わずもがなだろう。僕も思い付いていたものだ。

 人為的に行われたことに間違いないし、何かしらの意図があるはずだ。


「2つ目はその続き、『絵の裏の途切れた血痕』」

「そうだね」


 これも一緒に確認したことだ。そこに何か別の物があったのでは、というのが僕の考えだが。


「3つ目は、『2回目の音』。建物の裏で音を聞いてから、随分時間が経った後に2回目の音が鳴ったことね」

「ああ、確かに。1回目で全員を殺し損ねたとか?」


 これはすっかり忘れていたが、言われてみれば気になる点か。

 僕は一応考えられる可能性を口にしてみるが、ハオは首を横に振った。


「だったらすぐにドンパチするはずでしょ? 2回目の音は、殺害とは無関係の音だと思う」

「なるほど」


 僕らが建物の正面に回り込み、中に入ってノックを2回する程の時間があったのだ。

 彼女の言う通り、それだけの間どちらも動かず睨み合っている、なんてことはまずないだろう。


「4つ目は……『床に散らばった陶器の破片』」


 次に彼女が持ち出したのは、あの歩きづらそうなほどの床の惨状だ。

 だが――


「ん? それはドンパチやったんだし、当たり前なんじゃ?」


 僕は特に違和感を覚えなかった点だ。何しろ部屋で殺し合いがあったのだから、荒れていて当然だろう。


「ううん。それにしたって割れすぎだし、何より――」


 ハオは答える言葉をそこで一旦切ると、僕に『大事なことを言いますよ』と目線で伝える。


「破片が全部、床にしかなかった・・・・・・・・の。普通流れ弾で割れたんなら、置いてあった場所にほとんどの破片が残るはずでしょ?」

「……確かに……」


 そしてその通り、彼女は僕が気付いていなかった事実を告げた。

 言われてみれば、棚にも机にも物がほぼ無かった。あれだけの陶器やら壺やらが、全部最初から床に置いてあったとは考えにくい。


「にも関わらず床に破片があったっていうことは、誰かが意図的に撒いた可能性が高い」

「ほえー、なるほど。なんのために?」


 彼女の観察眼に感嘆の声を漏らしつつ、ハオの推理を待つ。


「うーん……何かを誤魔化したかったのは間違いないと思うんだけど……」


 しかし、彼女は歯切れ悪くそう答えただけで考え込んでしまった。


「で、5つ目は?」


 しかし、まだ全部の気になる点を聞いていなかったので邪魔をさせてもらう。


「ん? ああ、5つ目は――『リヒトくんの荷物』、だよ」


 彼女が最後に何でもないように付け足したことは、僕自身もすっかり忘れていた僕自身の話だった。

 元はと言えば、それを探しにここまで来たはずなのだが。


「ああ……でも、あそこに無かったってことは、もう売られちゃったか捨てられちゃったんじゃ?」


 あまり考えたくはないが、その可能性は高いように思う。

 結局、彼らの行動をずっと見張っていた訳ではないのだし。


「さっきも言ったけど、売られてはいないはずだよ。それに、リヒトくんの荷物はこの世界じゃ宝の山みたいな物だし、鑑定に掛けて高値で売りさばくのが当然の成り行きだと思う」


 それが希望的な観測なのか信ずるに足る確かな推理なのかは、僕の経験値では判断できなかった。

 だが、彼女の言う通りならそれはそれで謎が残る。結局、僕の荷物はどこに行ったのか。


「そうなのか? お前、金持ちのボンボンか何かか」


 と、不意にオキナが口を挟んできた。

 そう言えばおっちゃんまだ居たんだ。いや、彼の部屋だから当たり前だけど。


「まあそんなとこ。さて、この5つは真実に繋がってるはず……」


 僕の素性を話そうとすると長くなるので、ハオがその話題は適当に流した。

 そして、目を瞑り顔を伏せ顎に手を当てじっくりと考え込む態勢に入ったようなので、僕は黙って見守る体勢に入った。

 うん、やっぱりかわいい。


「あの」


 とか思っていたら、不意にハオが顔と声を上げた。


「ん、何?」

「ちょっと、雑談とかしててくれない? あんまり静かにされても困っちゃう」

「あ、そう? って言ってもな……」


 適度な雑音があった方が集中できるという人もいるらしいが、彼女もそのクチなのだろうか。

 要望に応えて雑談を仕方なしにオキナとしようとしたが、話題がすぐに思い付かない。


「あ、そう言えば、魔力遮断術式、だっけ? あれって組むのが手間って聞いたけど、実際どれくらいかかるもんなの?」


 少し考えた後、気になっていたことを訊いてみることにした。

 というか、魔法絡みのことは楽しそうだし是非いろいろ訊きたいものだ。


「ん、知らねぇのか? そうさな、あの部屋なら一人だと一週間はかかるか。術式の込められた魔石は案外その辺で安く手に入るんだが、とにかく起動にかかる魔力が多くってなあ」

「ほう?」


 オキナは親切に説明をしてくれるが、言ってることはほとんど分からなかった。


「だから、時間をかけて魔力を注入してやる必要があるんだよ。ま、アイツらの場合手分けしてたから、3日かそこらでやってたな」

「へえー。そう言えば、壁に穴開けたからおっちゃんが怒ったんだっけ」


 一応単語の響きから推測するに、『魔石』に『魔力』を込めると『術式』が動き出す、ということだろうか。

 で、手間がかかるというのは魔力を大量に注ぎ込む必要がある、と。4人で3日なら、確かに『時間と手間がかかる』と言って差し支えない。


 とは言え、僕にとってこの話題は雑談にしては頭を使い過ぎるので流れに乗って話題を変えておいた。


「おうよ。あれが一週間くらい前で、次の日に壁の修理をしたから……術式が出来上がったのは一昨日か」

「壁の修理も大変そうだな……」

「いや? そっちは土魔法使える奴を呼んできたから物の5分だったよ」

「忘れてた! 便利な世界!」

「お前さん、なんかこう、いろいろと大丈夫か?」


 そのまま流れで雑談を続けていた時。


「あ……」

「ん?」


 ハオが不意に声を上げた。聞き返した僕の声はほとんど聞こえていないようで、何やらぶつぶつと呟きながら脳をフル回転させているらしい。


「そう、それなら……うん、全て成り立つ!」

「こ、これはもしや……」


 そして呟きが途切れ、最後に大きな明るい声を出したハオ。

 この流れはもう。


「オキナさん。この部屋に住人の皆さんを集めてもらえますか」

「謎解きタイムキター!!」


 真面目な顔でオキナにそうお願いするハオを他所に、僕は思わず興奮で大声を出してしまった。

 だって仕方ないだろう、こんな王道展開を目の前で見せられたら。


「お、おう……」


 僕らの様子に気圧されながら、オキナはゆっくり頷いた。



***********



「さて、皆さん集まっていただいたところで。今回の事件の真相をお話ししたいと思います」


 大家であるオキナの部屋、203号室に集まって若干窮屈そうな人々の前で、ハオはそう宣言した。


「真相って、単なる仲間割れじゃないの?」

「いいえ、これは殺人事件です。そして――」


 シアンがそう訊ねると、ハオはそれを否定する。

 そして言葉を一旦切ると、十分な溜めの後――


「犯人は、この中にいる!」


 ――このセリフ、言ってみたかった――!

 そんな感動が丸わかりの気持ちよさそうな表情で、ハオは高らかに声を上げた。

 ざわつく聴衆が、その感動に更に拍車を掛けているに違いない。


「この中にって――!」

「誰なんだよ!?」

「まあまあ、落ち着いてください。順番に説明して行きますから」


 得意気な顔、というのはこういう顔だろうという表情で、ハオは周囲の反応に答える。最高に楽しそうである。


「まず前提条件を確認しましょう。被害者は202号室の住人4人。現場となった彼らの部屋には窓が無く、唯一の出入り口である扉の前には私たちが居ました。更に魔力遮断術式が部屋の内側に沿って組まれていて、物理的にも魔法的にも完全に密室状態だったことになります」


 端的に状況をまとめるハオは、さっきまでと打って変わって冷静な探偵の顔つきになっていた。


「だから、そもそも犯人なんていないんじゃ?」

「いいえ、少なくとも彼らが亡くなったとき、部屋の中には誰かが居たはずなんです」


 胡散臭そうな顔をするイッサの言葉を、ハオはきっぱりと否定した。


「根拠は?」

「彼――リヒトくんの荷物と、部屋にあった絵です」


 クロムが短く質問を投げれば、ハオは僕を指差してそう答えた。

 一瞬どきりとするが、これは一度聞いた話だ。


「おう、分かるように説明してくれるか?」

「ええ、もちろん。まず、リヒトくんの荷物は被害者に今日盗まれていました。私たちは彼らの足取りを追ってここまで辿り着きましたが、その道筋から考えるとまだ彼らが持っていたはずなんです」


 オキナに後を押される形で、ハオが説明を始める。

 その言葉で、ああまだそれは今日のことだったんだなあと思い出す。今までの人生を合わせたよりも盛り沢山な一日である。


「どうだか。あんたの知らない店で売っ払ったかもしれないし、何なら売れなさそうだから捨てたって可能性もあるだろうよ」

「そうかもしれません。ただ、絵の方は誰かが居ないと説明が付かないんです」


 随分と喧嘩腰な物言いで、ダビデが異論を唱えた。それには強く反論せず、しかしハオは自分の主張を曲げずに答える。


「その、絵っていうのは?」


 夫とバランスを取っているのか、遠慮がちにミケが質問を発する。


「これを見てください」


 ハオはそう言うと、一枚の紙切れを取り出した。


「これは事件直後の現場を紙に焼き付けたものです。私のオリジナル魔法ですが、隣の部屋に行く手間を省くだけなんでとりあえず信じてください」


 要は写真である。僕には馴染みのある物だが、この世界の人は見たことがないだろう。

 興味深そうに、あるいは怪訝な顔で、全員がそれを覗き込んだ。


「はあ……で、これが?」


 シアンは怪訝よりの表情だったが、とりあえずそう訊き返す。


「よく見てください。立てかけてある壁には一面に血が飛び散っているのに、絵には一滴も飛んでいないでしょう?」


 答えるハオに従って全員がもう一度写真を注視する。反応的には納得の色が強そうだ。


「言われてみれば、それは確かに。でも、これが何だ?」


 それを裏付ける台詞をダビデが口にするが、その意図はまだ分かっていないようである。


「つまり、この絵は彼らが殺害された後にそこに置かれた物だと?」


 しかし、妻の方は察していたらしい。ミケの言葉に、ハオは大きく頷いた。


「そういうことです。カッとなって仲間を殺した後で、そんなことをすると思いますか? そして、その後で改めて自殺か残った二人で殺し合うかなんて、もっとあり得ないことだと思いませんか?」


 もし本当に仲間割れだとすれば、少なくともその行動をした後、その人物も死んでいなければ辻褄が合わないのである。


「この二つの事実からすれば、中に彼らを殺した犯人が居て、なんらかの方法で出ていったと考える方がよっぽど自然です」


 ハオの出した結論に、全員が納得するしかなかった。

 その弁論術に、僕は舌を巻くばかりである。


「あんたの言い分は分かった。だが、肝心のその方法を説明してくれないと納得できないな。何しろ、俺たち全員疑われてるわけだし」


 と、その結論を肯定しつつも苦言を呈したのはクロムだ。

 それはその通りで、僕だって疑われたら同じことを言うに違いない。


「もちろん。それをこれからお話ししましょう。そしてその方法が分かった時には、自ずと犯人が誰かも分かります」


 その言葉に、一気に周囲に緊張が走る。


「聞かせてもらおう」


 オキナが、全員を代表して静かに答えた。

 ハオは一つ頷きを落とすと、説明を始める。


「では、犯人の行動を順番に説明していきましょう。犯人はまず、あの部屋に堂々と正面から入りました」


 ここから先は、僕も聞いていない。質問があった方が話も進めやすかろうと、僕は思ったことをそのまま訊くことにした。


「被害者と顔見知りだったってこと?」

「ええ。そして、彼らを挑発してわざと魔法を撃たせた」


 その疑問にハオは簡潔に答えると、そのまま話を続けた。


「なんでわざわざそんなことを?」

「魔力残渣を誤魔化すため、そして彼らが仲間割れで殺し合ったと思わせるためです。一発で殺したら、魔力残渣は犯人の物しか残りませんからね」


 更に訊ねたのはシアンで、その問にもハオは淡々と答を返す。


「なるほど? 犯人は相当な魔法の実力の持ち主なようですね。まあそれはそれとして……問題はそこからでしょう」


 イッサは納得したような事を言いながらも、重要なことを指摘する。

 そう、そこまでの話は大した問題ではない。重要なのは、その後どうしたかだ。


「そう。そこから、犯人にとって予想外のことが起こった」

「予想外のこと……?」


 ここからが見せ場だ。そういう話の切り方で、まんまとシアンがハオの狙い通りの反応を示す。

 ハオが本当にそう思ってるかは知らないが、僕の主観ではそんな感じだ。


「私たちの訪問です。私たちが部屋に着いた時、犯人はまだあの中に居たんです」


 そして、彼女は新事実を告げたのである。

 僕からすればそれは当然そうだと思っていたのだが、周囲はそう思っていなかったのか少しざわつきが見られた。


「何故そう思う?」


 クロムがざわめきを制するように鋭い声で問いを発した。


「私たちが最初に大きな音を聞いてから、一旦音は鳴り止みました。しかし、その後部屋の前で呼び掛けている間に、もう一度大きな音がしたんです」

「確かに、一旦鳴り止んだと思ったらもう一発来ましたね。それは覚えてますよ、勉強の邪魔だとイライラしたので」


 ハオが答えると、イッサがその発言を肯定した。


「確かにその話が本当なら、犯人が中に居たと考えるのが自然だな。だが、なんで犯人はさっさと出て行かなかったんだ?」


 ダビデはその事実には納得したようで、そこから生じた疑問を口にする。

 確かに、それは僕からしても全くの謎である。


「犯人は彼らを殺害したあと、部屋を物色していたんだと思います。おそらくは、リヒトくんの荷物を探して」

「ぼ、僕の……?」


 ハオの答で、更に疑問は深まるばかりだった。突然自分が俎上に挙げられ動揺してしまう。


「ええ。実は被害者たちがリヒトくんを襲った時、彼らはこう口走っていたんです。『さっさとブツを寄越しな』と」


 その発言で、ハオの魔法はバッチリ音声も拾っていたと発覚する。できれば忘れてほしいところだが、今回はなんとその発言が鍵となっているらしい。


「どういう意味なの?」

「それから、リヒトくんの身分を探るような発言もありました。これは私の推測ですが、彼らは運び屋をしていたんではないでしょうか。そして、リヒトくんから荷物を受け取るはずだと勘違いした。たぶん、『珍しい格好をした男』とでも言われていたんでしょう」


 不本意ながらもそこを掘り下げると、ハオは詳しく説明を返す。

 運び屋と言えば、危険な物や非合法な物、あるいはその両方を金をもらって運ぶ人たちのことか。現代だと麻薬や武器がメジャーどころだろうか。

 そして『珍しい格好』と言われれば、確かにこの世界の物ではない服を着ていた僕は珍しさでNo.1だろう。


「なるほど? 確かに彼らが運び屋だとすれば、その鞄が売られてないことにも納得だ。中身を検めることすらしなかっただろうな」

「……そう。そして今回の犯人は依頼人でしょうね。被害者たちが報酬を釣り上げたから止むなくなのか、あるいは最初から殺す気だったのかまでは分からないけれど」


 運び屋は中身を知らないものだ、というのはなんとなくお約束として理解できた。

 クロムの発言を肯定するハオは、そこでまた話を一つ区切った。


「さて。じゃあ、いよいよ密室の説明ですね。私たちの訪問で焦った犯人は、扉を開けられる前にどうにか姿を消す必要があった。しかし、出入り口はその扉しかない」


 そして、いよいよ核心に触れる。密室殺人――そのトリックに。


「しかも魔力遮断術式のお蔭で、転移とかの魔法での出入りも完全に遮断されてるんだろ? いったいどうやってあの部屋を抜け出したって言うんだ?」


 オキナが重ねて密室の強固さを口にする。もっとも、それはこの世界における密室の前提条件だ。


「答は、実に単純明快だったんですよ。まあそもそも、犯人は本来密室殺人にするつもりはなかったんだから、複雑なトリックなんか思い付くはずもなかったんですけどね」


 確かに僕とハオが訪れなかったら、普通に部屋を出ていけば済んだはずなのだ。


「勿体ぶるなあ……して、そのトリックとは?」


 口元をニヤリと歪めながら語るハオに、僕も思わずにやけながら合いの手の如く問を投げる。


「鍵となるのは、もちろんあの絵。あの絵は殺害後に移動されていた。つまり、犯人にはあの絵を移動させる理由があったということです」


 一つ一つ、順序立てて説明をしていくハオ。その言葉は、確実に真相へと近付いていた。


「絵を移動させる理由……」

「元の位置にあるのが邪魔だったか、」

「あの絵をあそこに置くことに意味があった?」


 イッサ、シアン、ミケの順に発された言葉は、その道筋を正しく歩んでいる。


「正解はミケさん。大事なのはあの絵じゃなく、絵が置かれていた場所です」

「場所――確か、入って左側の壁際に立てかけてあった、だよね?」


 ハオの言葉に、僕は現場のことを思い出しながら確かめるようにそう問いかける。


「ええ。つまり――犯人は、壁を隠したかった・・・・・・・・んです。自分が部屋から出ていった痕跡を」


 それは、つまり。

 あの壁に、犯人が出ていった痕跡があった、ということ。


「ま、まさか――」


 信じられないという声音で、ダビデが気付きの声を上げた。

 おそらく、ほとんど全員が察したはずだ。


「そう、そのまさか。」


 そしてハオは、辿り着いた真相を口にした。


「犯人は、壁を壊して隣の部屋に逃げたんです! 絵で穴を隠してね!」


 全員が、驚愕に揺れた。

 確かに穴が開いたというのであれば、密室は密室ではなくなる。


「いや、確かにあの絵は大きいから人が通れる穴でも隠れそうだけど……でも、僕らは絵を退かして壁を確認したでしょ? あの時、壁に穴なんて開いてなかったよ?」

「それに、どうやって穴を開けたって言うの? 魔力遮断術式があるんだから、魔法で壊すことは不可能でしょう」


 僕とシアンが口々に疑問と疑念を口にするが、ハオは小揺るぎもしない。


「二人とも、ほとんど答を言ってますよ。まず後者の問に答えましょうか。魔法で壊せないなら、魔法以外で・・・・・壊せばいい・・・・・。でしょ?」


 確かに、シアンの言ったことは逆説的にそれを示している。

 魔法以外で壁を壊す手段があれば、その疑問は解消される。そして――


「あ……そう言えば謎の鉄球が部屋に転がっていたような!」


 僕は現場を思い出して思わず大声を上げた。

 お誂え向きにあった、壁を壊せそうな質量と硬度を持つ物体が。何たるご都合主義だ。

 しかし、実際あったのだから仕方がない。


「ええ、おそらくそれを使ったんでしょうね。部屋の中では自由に魔法を使えるわけだし、魔法で壁に鉄球を叩きつければ簡単に壁を壊せます」


 魔法は消えるが、魔法を使って物理的に生じた現象は消えないということか。

 もちろん、犯人がムキムキマッチョマンならただ手で投げつければ済む話だろう。


「それが2回目の音の正体ってわけか!」


 「そうか!」とばかりにピシャリと額を打ち、オキナが納得の声を上げた。


「ええ。同時に陶器類の砕ける音がしたのは、犯人が思い付きで手当たり次第に割ったんでしょうね。どうしても隠しきれない壁の破片を誤魔化すために」


 床にやたらめったら散らばっていた破片たちの謎もついでに明かされた。


「なるほど……で、結局穴が無かったのはなんで?」


 シアンの疑問は解消されたが、僕の方はまだだ。そして、こちらの方がよりネックなのは間違いないだろう。穴が開いていたと主張する以上、今穴が無い事に言及しない訳にはいかない。


「分からない? 私たちが見た時には、確かに穴は無かった。でも――血が途切れているのも見たでしょう?」

「それが……?」


 それはその通りなのだが、僕にはどういう意味を持つのかさっぱり分からない。


「あ……」


 しかし、ミケには分かったようだ。

 別に僕が特別鈍いという訳でも、ミケが異常に察しがいい訳でもない。


「そう。犯人は部屋から脱出した後、|土魔法で(・・・・|)壁を治した(・・・・・)の」

「忘れてた! 便利な世界!」


 ただ、僕に馴染みのない方法だっただけだ。いや、今日一度は聞いたのだけど。

 魔法というものに今日初めて触れた僕には分からないのも当然で、逆に常日頃から魔法と共にあるこの世界の住人には分かるのも当然だ。


「で、でも、魔力遮断術式は!?」

「部屋の内側・・に沿って組まれた術式よ。外側・・からなら、普通に魔法は使える。絵は壁が治るまでの時間稼ぎさえしてくれればよかった」


 制約を思い出して思わず問いかけた僕に、ハオは明快に答を返した。

 言われてみれば当たり前で、反対側からは壁に魔法が通じるのだ。


「2回目の音、転がっていた鉄球、散らばった置物の破片、途切れた血痕、そして動かされた絵。全てのピースが、この方法を示しているんです」


 ハオの言う通り、全てのピースがパッチリと嵌った。そしてそこには、犯人が密室殺人という状況を作り上げた絵が綺麗に描かれていた。


「た、確かに……それなら全部説明がつく。って、ことは……」


 ダビデが、戸惑いながらもハオの推理を認めた。

 そして、そのトリックを使えたのは――


「そう。犯人は――あの部屋の左隣、201号室のクロムさん。あなたしかあり得ないってことですよ!」


 ビシリ、と勢いよく指を差し。

 堂々と宣言したハオの姿は、どこからどう見ても名探偵のそれだった。


「い、いやいや。そのトリックなら、見落としているだけで他の壁だって床だって同じことができるはずだ!」


 周囲がじりじりと距離を取る中、孤立したクロムは見苦しく言い訳を始める。


「そうかもしれないですね。お望みなら、衛兵を呼んで虱潰しに探してもいいんですよ?」

「いや、待ってくれ! そもそも全部君の推測だろ!? 証拠は何一つないだろう!」

「今のところは。でも、あなたの部屋の魔力残渣を調べればすぐにわかります。それに、リヒトくんの荷物だってあなたの部屋にあるはずです」


 その言い訳を一つ一つ、微に入り細を穿ち潰していく。


「か、壁の修理くらいするさ! それに鞄なんて、誰だって持ってるだろう。似たような物だっていくらでもある! ほら見ろ、確固たる証拠は無い!」


 そして、追い詰められたクロムが苦し紛れに放った言葉は。


「あ……」

「あ?」


 僕にすら分かる、余りにもお粗末な矛盾を孕んでいた。

 声を上げた僕に、彼は間の抜けた音を出す。


「まだ気付いてないんですか? 犯人としては三流もいいところですね」

「何を……」


 ハオは軽く鼻で笑い、目を細めるとじっとりと見下す視線をクロムに投げた。

 未だ失言に気付かず困惑するクロムを――


「私たちは、リヒトくんの荷物・・としか言ってません。何故、それが鞄だと・・・・・・知ってるんです・・・・・・・?」

「――っ!」


 一刀両断、ハオの言葉が断罪したのだった。



*************



「く……」


 罪を白日の下に晒され、全ての事実を暴かれたクロム。

 彼は顔を伏せると、悔しそうな声を上げて諦めを示し――


「くっくっく……はーっはっはっは! バレたんならしょうがない。おやっさんには申し訳ないが、ここに居る全員を殺して出ていくだけだ」

「な……!」


 た訳ではなかった。

 開き直る狂った殺人者。これも黄金パターンではある。


「死ねえっ!」


 そんなことを思っている場合ではなかった。

 ほぼノータイムで発言を実行に移したクロムの周囲には、何十もの鋭い石片が展開されている。


「うえええっ!?」


 驚きの声を上げる僕とその周囲――つまり、全員に向けて石片が一斉に発射された。

 やばい。これは死んだ。


「ごめんなさい、一つ訂正しなきゃ。犯人としてだけじゃなく、魔法使いとしても三流なんですね」


 しかし、その攻撃が僕らに届くことはなかった。

 目の前、見えない壁にぶつかったかのように全ての石片が粉々に砕け散ったのだ。

 その壁は、片手を上げたハオを境目として存在しているらしい。


「な、魔力防壁!? 今の魔法を受け止めるだけの強度を持つ壁を、一瞬で……お前、何者だ!?」


 驚愕に目を見開くクロムの言葉を、涼しい顔で聞いているハオ。


「探偵よ。探偵たるもの、自分の身くらいは守れなくっちゃ」


 最高級にかわいくて決まってるドヤ顔、いただきました。

 なんかもう、勝ちパターンに入った気がして完全に安心してしまう。処刑用BGMが流れてそう。


「上等だ……本気でやってやる!」


 しかしクロムはその宣言通り、先ほどの倍以上の石片を即座に展開した。

 それはさすがにちょっと焦る。


「ちょっ……大丈夫なの!? 魔法の撃ち合いとか止めてよ!?」

「全くだ! 部屋が壊れたらどうしてくれる!」


 思わず不安の声を上げる僕と別方向に不安を抱えるオキナだが、ハオは指をちっちっと振る。

 いつか見たそれは、やっぱり彼女に嵌る仕草だった。


「大丈夫大丈夫。これから起こるのは戦いじゃなくて、一方的なお仕置きだから」

「何を……」


 ウインクすら見せながら、彼女は余裕の言葉を発する。

 噛みつくクロムの声を遮るように、彼女の肩にずっと乗っていた猫らしき生き物――フリが二人の間にしゃなりと降り立つ。


 そして、そこを中心として光る魔方陣が浮かび上がり――ハオが詠唱を始める。


「来たれ、深淵の門番、業火を宿す冥界の住人よ。その身は炎、その息は灼熱。大火の爪にて大地を裂き、地獄の扉を今開かん!」


 彼女の声に呼応するように、フリの身体が炎に包まれ、それは段々と勢いを増していく。

 そこから放たれる威圧感に、僕はもちろん他の誰も微動だに出来ず、魅入られたように炎を見つめた。


 そして、ハオは最後の一言を放った。


「顕現せよ――イフリート!!」


 同時、炎が大きく膨れ上がり、そして霧散する。

 そこに居たのは、可愛らしい姿をした猫のような生き物ではなく。


 紫の炎を纏った、美しい悪魔だった。


 見た目は、黒い礼装を身に付けた中性的な人間にも見える。

 女性的な美少年か、男装の麗人か。時々揺らめく小さな紫炎が、妖しくその姿を照らし出していた。

 褐色の肌に黒い長髪。引き締まった体からはすらりと細長い手足が伸び、元と変わらず頭から生えている角以外は人間のていを成している。


 しかし、僕の本能が、問答無用でそれが『悪魔』だと叫んでいた。


「我が主人に刃を向けるとは愚の極み。三下風情が図に乗るな」


 聞いても男女の区別が付かない、だが間違いなく美しい声で悪魔はそう告げた。


 そして、フウ、と息を吐く。

 それだけで、クロムの周囲に無数にあった石片が一瞬のうちに消し炭になって蒸発した。


「な――」


 呆気にとられるクロムのもとに、悪魔はゆっくりと歩み寄った。

 しかし、彼はその場に釘付けになって動けないようだ。


「さて。歯向かうのであれば、貴様も消し炭にするが?」


 指先でつるりと、悪魔は彼の頬を撫でた。

 唇をぺろりと一舐めし、耳元で囁き目を細める。その瞳は、完全に獲物を前にした獣のそれだ。


「うん、そーゆーことだからさ。大人しく捕まってくれると嬉しいかな」


 そしてその空気を破るように、ハオが軽すぎる声を上げる。

 「ん?」とにっこり答を促す彼女に、クロムは言葉も無く青ざめ、コクコクと頷いた。


「ふん、つまらんな」


 腰が抜けたようにへろへろと座り込むクロムを見て、悪魔はそう吐き捨てた。


「まあまあ。ありがとう、もう戻っていいよ」

「承知した、我が主」


 ハオが苦笑いでそう言うと、悪魔は素直に答えて再び炎に包まれた。

 一瞬の後に炎は消え去り、そこには元のフリの姿があった。


「にゃーご」


 可愛らしい鳴き声だし、なかなかの毛並みでいつかモフってやろうと思っていた僕だったが。

 今はもう、恐れ多くてそんなことできそうになかった。


「さ! これにて一件落着ね!」


 最後に彼女がそう言って、この事件は幕を閉じたのだった。



***********



 以上が、僕が初めて立ち会った、彼女が解き明かした事件の話だ。

 そしてこの物語は、ここから更に続いていく。僕は彼女と行動を共にし、元の世界に帰るまで、様々な事件と出会うことになるのだ。



 しかし、それはまた別の機会に語ることにしよう。



――――END――――

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 感想・評価・ブクマいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ