■第十五章■
荷物の整理をしながら、俺の母親は、ベッドの上を心配そうに見た。
「翼、あんたどういうつもりなの?」
「俺が自分で決めたことなんだから、口出ししないでくれよ」
「でもね・・・私は翼の体が」
「わかってるっ!」
そんなことは痛いほどわかる。わかりすぎてこっちが辛くなる。
思わず叫んでしまい、驚いた母親の顔と目が合って、俺は頭を垂れた。
「ごめん・・・」
いつだって一番つらいのは親だった。俺は自分の両親に何をしてあげられたんだろう。小さい頃から、親が俺の体を心配している顔しか、俺の思い出には残っていない。それはとても辛くて。
「さ、そろそろ行こう?」
母親が鞄を持って立ち上がった。
差し出された手に、安心する温もりを感じ、そして昔と比べて小さく感じる母親の手に、自分がこんなんでも成長したんだなぁなんて思った。
そうだ、俺は生きている。
ちゃんと、生きているんだ。
五日だけの退院ということで病室には荷物を置いておけることになった。母親と一つずつボストンバッグを肩からぶらさげ、病院の長い廊下を歩いた。
やっとここから出られると思うと、五日だけでも天国と感じられるのだろう。
俺の足は心なしか弾んでいた。
母親が城山先生と看護師さんに挨拶をしている間、俺は診察室の前の椅子で待っていた。すると、この間の母子が俺の前を通りがかった。ピアノを上手に弾いていた男の子だ。
「ちぇっ、また入院かよ。」
「涼、」
「はいはい、もう聞き飽きました。」
「涼!」
俺とは逆に、この子は入院するのか・・・。"また"という言葉に、自分と似た境遇を感じた。
何故か俺は、この子がとても気になった。
もしかしたら、あの日聞こえたピアノの音が天使が奏でていたかのように美しかったからかもしれない。
悲しげな彼の俺より少し小さな背中を、俺はじっとみつめていた。
「翼、行くよ。」
母親の声で立ち上がり、俺は再び長い廊下を歩きだした。
この道の先に、何かを見出すかのように。
お久しぶりの投稿です><
ニューヨークから失礼しますー
早く春終わらせたいなぁー
学校の忙しさに参ってるまひろでしたー(´・ω・`)