■第十四章■
「翼くん、そんな駄目だよ。そんなことは許されない・・・」
「でも、夏まで持たないって言うなら、一週間だけでもいいから退院させてください!」
俺は、城山先生にかみつくように言った。
「し、しかし・・・」
しかし先生は顔を曇らせる。
俺は先生に、一週間だけでいいから退院して、学校へ行けるようにしてくれと頼んでいるのだった。
走って去っていったかと思えば翌日走って戻ってきた俺の顔を見て、城山先生は心底驚いた顔をしていた。俺がもう先生の顔など見たくないと思っていると考えていたらしい。
・・・悪いけど、俺はもうそこまで子供じゃない。
俺の心はそんなんじゃ折れない。
俺は決めた。
残りの人生は、あいつと、弥羽と一緒に楽しく過ごすんだって。
「お願いします・・・!」
俺は、頭を下げた。自分の足元を見つめた。
「・・・」
先生はまだ考えている。
「先生っ!」
俺は顔をあげて先生を見た。
俺の顔を見て、先生は一度ため息をついてから、言った。
「五日、五日だけだ。そしてちゃんと薬を飲むこと。毎日病院に通うこと。」
先生の声に、俺は息をのむ。
許してくれた!
「でもね翼くん、これだけは忘れないでほしいんだ。・・・生きる希望を捨ててはいけないよ。だからどうせ夏まで、なんて考えないでほしい。私は、君に最後まで生きて欲しいんだ。」
先生は俺の目を見て言った。
手を握られた。
「約束してくれるかい?」
俺は、先生の目をじっと見つめ、そして先生の手を握り返した。
「・・・はい、約束します。」
そう、俺はただ。
ただ生きていたいだけなんだ。
俺は、生きる希望なんて捨てやしない。
最後まで、生きてやろうじゃないか。
ふと、開けっ放しの診察室のドアの向こうが気になった。
視線を感じたのだ。
半開きのドアから外を伺うと、一人の少女が駆けて行った。
しかし、何故か足音が聞こえない。
じっと目をこらしてみたが、少女はすでに消えていた。
すると、どこからかふわりと、少女がいた場所に真っ白いものが落とされた。
白い、羽根だった。
なんだろうあれは、小首を傾げていたら、先生に名前を呼ばれた。
退院の書類を書いてあげるから準備をしろ、とのことだった。
退院は明日、月曜日。
俺はもう一度先生の顔をみて、頷いたのだった。
やっと、帰れる。
みんなのいる場所。
弥羽のいる場所へ。