■第十二章■
「嘘、でしょ?」
またデジャヴか。
ガシャンと嫌な金属音を響かせて、弥羽は椅子から転げ落ちる。
まだ弥羽の膝に残っていた苺と苺が入っていたパックが、転がりながらべちゃりとつぶれた。その潰れた苺の赤が、今日俺から抜き取られた注射に入った血の色に少し似ていて、吐き気がした。
「嘘じゃねぇよ。」
思わず目をそらして、口元を押さえる。
苺の甘い匂いが、血の鉄の臭いに変わりそうで、恐ろしかった。
「今日の午前中検査の結果がでたんだ。」
弥羽は黙ってる。地べたに馬鹿みたいに転がって、呆けた顔をして俺をただ見上げていた。
「・・・夏まで、持たないって。」
「そ、そんな」
弥羽の瞳に、涙が浮かんだ。
「嘘だよ!そんなの嘘だよ!だって、だって翼はちゃんと大嫌いな薬を毎日ちゃんと飲んでて、学校だって本当は行きたいのに、みんなとサッカーしたいのに、太陽の下校庭を思いっきり走り回りたいのにっ!・・・嘘だよっ!嘘だあぁああああああああっ!」
弥羽がしゃくりあげながら叫ぶ。
弥羽の声が、耳に痛くて、ただ悲しくて。
俺はただ下くちびるをかんで耳をふさいでいた。
「嘘だよ、翼!そんなの嘘だよ!!嘘だよぉおっ!!」
必死で弥羽が首をぶんぶんと左右に振る。涙が舞った。
「嫌だよ、翼!そんなの嫌だよっ!」
「・・・るさい。」
「え?」
「うるさいんだよっ!」
思わず俺は叫んでいた。
駄目だ、そんなこと弥羽に言っても無駄だ、言っちゃ駄目だ。
そんなこと、こいつに言ったら・・・
「出てけよ!こっから出てけ!!!うるさいんだよ!嘘じゃねーんだよ!!出てけよぉおおおおおおおおおおっ!」
駄目だ、駄目だ。そんなこと言っちゃ駄目だ。
駄目なのに。
俺は弱くて、ただ叫ぶことしかできなくて。
「た、翼・・・?」
「出てけっ!ここから出てけっ!」
ただ叫んでた。
喉がかれるくらいに、泣き叫んでた。
心が、壊れていく音が聞こえた。
でもそれは、俺の心じゃなくて。
弥羽の心だって俺は知ってた。
でも叫ぶことしかできなくて。
「出てけよっ!」
最後にそう叫んだら、パリンとどこかで音がして。
弥羽は今まで見たことないような酷く気づ付いた顔をして、わなわなとふるえながら、俺から後ずさって
「翼の馬鹿っ!」
そう叫んで、飛び出していった。
真っ白な病室に取り残された俺は
「うわぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」
一人、泣き叫んでいた。
喉がかれても、涙はかれなかった。
そして、またどこかで。
俺の
心が壊れる音がした。