第4章 湾岸パルクフェルメ
「あの17番。」隣にいる有流太が指を差す。「ん?なんだ?」コース上にスターレットが複数走っている。当時競技用ベースに人気があったFRの小型車。ワンメイクレース等が盛んに行われていた。ここは筑波だろうか?
「あの17番のスターレット、ちょっと面白いな。」「コース取りが俺に似てる。」S字を通り過ぎていく車を有流太が見つめている。
「ほらストレート前のコーナー、たぶんイン側にはいる。」「ほら。」
言ったとおりその17番はやや無理矢理にイン側にコースを取り裏ストレートを立ち上がっていった。
「ああ、あれはたぶん関だな。アグレッシヴなとこがおまえに似てる。」だから契約したんだよ。言葉にはしない。
「那緒都は遠慮しすぎてるんだよ。」「ほら、なんだっけ?あのマンガみたいにさ、何人たりともってやつ。」
「俺はお前とはちがうさ。だから監督をやってる。」「俺にはこの方が向いてる。」そうだよ。そしてお前をサポートしてやる。
「そうだな。でも俺は先に行くよ。」有流太がいつになく真剣な調子で言う。「止めるかい?」息が苦しい。俺は。俺は。
「那緒都!」
いや止められないさ。アイツが前から。ん、由香里?
「那緒都、起きなよ!」
日当たりだけは良いアパートの東の窓から朝日が目を射る。ここを探すときに由香里が拘った部分だった。おかげで駅からはかなり歩くことになったが。
由香里がダイニングテーブルとは名ばかりの狭いその上に皿を並べている。今日の朝食は由香里の当番だった。
「那緒都、今日の夜は那緒都の当番だかんね。」「私、那緒都スペシャルがいいな。あの緑のカレー。」
上の姉が大学生の頃留学生から仕入れて、那緒都に教え込んだ料理。別にスペシャルでもなんでもない野菜カレーだったが由香里のお気に入りだった。
「いいけどちょっと遅くなるよ。」「いいわよ、少しぐらい。」パジャマ姿のままユニットバスの小さな洗面台で顔を洗う那緒都。
お客さんを呼びたいからと無理矢理詰め込んだ4人掛けテーブルに由香里と向かい合って腰掛け、まだスッキリしない頭で皿の上のトーストにかぶりつく。ふと先程の夢の内容を思い出してその手が止まった。
久しぶりに見たなあの夢。有流太に相談されたとき俺は本当はどうしたかったのか?止めなかったことを後悔しているのか?
有流太がツーリングカーではなくフォーミューラーカー、F3000やゆくゆくはF1に乗ることを目指している事を那緒都は知っていた。そして応援もしていた。だから止めることはできなかった。チーム監督としては止めるべきだったができなかった。それを後悔しているのか?いや、それだけじゃないな。
「ミーティングの事考えてるの?」目玉焼きを割らない様に器用に食べていたフォークを置き那緒都を見つめる由香里。「今晩だよね?ミーティング。」
「ああ。皆には連絡してあるよ。」「由香里も遅れるなよ、当事者なんだから。」大げさに敬礼をしてみせる由香里。
先日の走行会はあれから大変だったのだ。その場で話をしても時間が勿体ないと、とりあえずチームクルーをなだめすかして予定していたテストを殆ど済ませることはできた。関はかなり煮え切らない様子だったが。
その時に約束したミーティングが今夜、多岐川モータスで行われる。対策というか辻褄あわせは麗子や由香里と話はしていた。が、那緒都の気が重いのは確かなようだ。
「なんとかなるよ。うん。那緒都みんなに信頼されてるし。」切り抜いた目玉焼きの黄身を口に入れながら由香里がこともなげに言う。
いや、お前のことでもあるんだぞ。言いかけた言葉をトーストと一緒に飲み込む那緒都。まぁいざとなれば本当のことを言うまでだ。信じてくれるかはわからないが。
考えても仕方の無いことは開き直るに限るというのは那緒都のポリシーだった。
「そう言えばカールさんは?」辺りを見回しながら「今ここに来てるのか?」
「ううん。あそこからは遠いからここまではこれないみたい。安心して。」
走行会の後、那緒都とカール、由香里の3人で少しだけ試してみたところでは、カールはキャップの有るところからそれ程遠くへは移動できないようだった。筑波のパドックからメインゲートまで直線にして3km程度、カールはそれ以上遠くへは離れることができなかった。
キャップを持つと那緒都の様な鈍い人間にもカールの言葉が聞こえる様になる。那緒都には姿は見えなかった。素質の問題かもしれないが。
そして憑依するには条件みたいなのがあるらしい。カールの話によれば由香里は体の周りに光が見え、その光に手を伸ばすと体の中に入れる。自由に操れる。
ちょっとそれ恐ろしいなと那緒都は思っていた。自分の体を乗っ取られるなんて。由香里も平気ではないだろう。無理しているのか。俺が無理をさせているのか。
今のところカールに悪意はないように思える。でももしも・・・。万一の事を考えて依り代っていうのか?あのキャップはちゃんと管理しよう。人が触るのも厄介だし。
そう思ってキャップは多岐川モータースの那緒都のロッカーにしまい込んでいた。汗臭いロッカーであるがカールには我慢してもらうしかない。
「でも今日のミーティングにはカールさんも参加したいんだって。」由香里がふと思い出してにやっとしながら付け加える。「当事者だから。」
「え?」パンを持つ手が止まる。「大丈夫なのか?誰かに見られたら?」
「大丈夫みたいよ。今日参加する人でカールさん知らないのは佐田さんと関君だけでしょ?」「あの二人には見えないって。カールさんが言ってた。」
おいおいカールさん、なにやってんだよ。麗子さんにも注意されただろうに。多岐川モータースが心霊スポットにならないように再度カールさんに言っておく必要があるな。
「わかった。ガレージに行く前に事務所によってくれ。キャップ渡すから。」
那緒都はレーシングチームの監督をしているが歴とした多岐川モータースの社員である。数年前に麗子が副社長になった時に自分直属の部署として第二営業部を立ち上げた。レース活動も営業活動の一環であるというエクスキューズの為だ。ただし部員は兼務部長の麗子と那緒都のみ。そして那緒都はレース期間以外第一営業部の手伝いとして修理見積などの事務仕事をしていた。
「了解。」テーブルを離れ既に食べ終わった食器をシンクに入れる。「じゃ、先に行くね。バイト早番だから。ゴミ出しお願い。」「了解。」
スープを手にしたまま由香里にあわせおどけた調子で返す那緒都を見て少し微笑むと、いつものように慌ただしく由香里がバイト先へと向かった。一人残った那緒都は目玉焼きを突きながら今夜のミーティングの前に片付けなければいけない仕事の事を思い出し顔をしかめる。
「まずは仕事が先だな。」独りごちると、目玉焼きを手早く飲み込み自分も出勤の準備を始めた。
その日の夜チームマクサスの主だったメンバーは、都内にある多岐川モータースに集まっていた。
そこは駅を挟んだ山側と違い古くからの工場も残る海岸沿いを埋め立てた地域で、今では再開発で様変わりをした所謂ベイエリアの一角である。
多岐川モータースは麗子の父が車の整備工場から一代で築き上げたカーディーラーで、先代から受け継いだ土地を生かしてショールームと整備工場を併設。アメリカ車や欧州車のインポーターとしては関東随一と自他共に認める技術力と販売力を誇っていた。
大きな道に接したショールームは営業時間が終わった今も防犯の為ライトアップされている。そして今夜はショールーム裏手の川沿いの道に面した整備工場にもまだ灯りがともっていた。4台まで同時に整備できるジャッキの並んだその工場の片隅にパーティションで仕切られたスペース。質素なテーブルとホワイトボードとパイプ椅子が並べられたその場所がチーム・マクサスの本拠地だった。
パーティション内のテーブルの窓側の長辺には佐田、関、そして反対側に由香里、短辺に置かれたホワイトボードの前には全体を仕切るかの様に麗子が座っていた。
麗子は膝に乗せた猫をなでながらなにか話しかけている。愛猫のペルシャ猫のみみを膝に脚を組んだその姿はさながら何処かの組織のボスといった風情。そこへ作業着姿のままの那緒都が駆け込んできた。
「遅れてすいません。」「ちょっと仕事でトラブってしまって。」汗がのど仏を伝ってネクタイにシミを作る。那緒都はよれたネクタイを首から外しながら空いた椅子に腰掛けた。
「おいおい大丈夫なのかい?」佐田がいつもの調子で声をかける。大丈夫ですと言いながら周りを見て全員が揃っていることを確認する那緒都。
「女性を待たせるなんて、那緒都君もやるもんねぇ、みみちゃん。」猫がニャーと同意したかの様な鳴き声をだす。「申し訳ありません。すこし遅れましたがマクサスのミーティングを始めたいと思います。」麗子、佐田、関、由香里と順番に顔を見つめうなずく。
「まず最初に私から。」猫を床にゆっくり下ろすとおもむろに立ち上がった麗子が話し始める。
「今日マクサスの人と話しを通してきました。」極上の笑みがピンクの唇に浮かぶ。「先方様は大変乗り気でしたよ。」「女性ドライバーというところが気に入られたみたい。」
ぐるっと見渡すと「一応チーム内で整合を取ってからと、お話はしてきましたが。」由香里を見ながら「なんか新しいプロモーションを考えるみたいね、由香里ちゃんをメインにして。」
「わたしですか?!」「無理、無理、無理!無理ですよ!」大げさに首を振る由香里。
「ほら、レーシングスーツも古いし、ヘルメットだって。」お前やるき満々だな。心の中でつっこむ那緒都。佐田も少しあきれ顔をしている。
「ま、スポンサーの方はそういう状況ですんで。」テーブルの上に乗り出しながら「後は那緒都君、よろしく。」うわ。丸投げだよこの人は。いやそういう人だけど。心の中で毒づく。
指名されて渋々立ち上がる那緒都。そのとき、
「僕のせいですか?僕がだらしがないからですか?那緒都さん!」
今までうつむいていた関が椅子から立ち上がって怒鳴った。幼さを残したその顔は怒りのせいか赤い。まるで熟れたトマトみたいだと由香里は思った。
「いや、そういうんじゃないんだ。」落ち着くように促す那緒都。「説明するから。」
「でも由香里さんを話題作りでうちのドライバーにするんですよね?そうですよね?」
「違う、いや違わないけど、理由が」「僕が!」一瞬言いよどんだあとに関が続ける「僕が、遅いからですか。」関がうつむいた。言葉に詰まる那緒都。
「遅かったよな?」沈黙を破ったのは佐田だった。
「関よぉ。おまえさん由香里ちゃんより10秒も遅れてただろ?」「普段のタイムより遅かったし、なにかあったんじゃねぇの?」
佐田がいつもの調子で冗談ぽく、しかしなにげにキツイ発言をしながら関の肩に手を回す。関の顔がまた紅潮する。
「この間は調子が悪かっただけですよ!」肩に回された手をふりほどきながら関が言った。「今度は大丈夫です!」
「そうだよなぁ~。関はどんどん速くなってるもんなぁ。」「もっと自信持っていいんじゃね?」いつものサムアップ。こういう所は流石だなと那緒都は心の中で感謝した。
「ホントですか!」佐田と那緒都を交互に見る。大きくうなずく那緒都。由香里も小さくガッツポーズをしながらうなずく。そのとき不意にカールの声が頭の中に響いた。
『あし、つめ』
ん?カールさんの声がする。と、関の足元に何かがいるのを見つけてギョッとする由香里。
それは人の形をしていた。がしかし、異様に小さい。15cmくらいだろうか?手のひらサイズ。こめかみを押さえ眼をもう一度はっきりと見開いて凝視する。
それは紛れもなくブラウンの髪、口ひげ、青いレーシングスーツに身を包んだカールだった。最初に見たとき同様にやや透けて見えるが、ちょっと様子が違う。
小さいだけでなくプロポーションがおかしいのだ。某アニメにでも出てきそうな頭身。3頭身位だろうか。頭でっかちなカールが由香里を見てウインクする。
『コのほうがこコわくないでしょうウ?』得意げにサムアップするカール。
ちびカールさんだ。由香里は思わず吹き出しそうになるが、はっとして麗子を見ると相変わらず猫と遊んでいる。どうやらこのカールの声は由香里にしか届いていないらしい。
またカールの声が響く。
『セキサン、あし、つめにけがしてます。タイムでなかったのそのせいデス。』
「爪にケガ?」思わず声に出す由香里。
「何?ケガがどうした由香里」那緒都が聞きとがめて言った。
「えっと、その・・・」ぐるぐる考えを巡らす由香里。できるだけ自然な言い方で。
「関君、足の・・・指、そう、指がおかしいのかなって。ドライビングがちょっと気になって。」えへへと笑いながら誤魔化すように答える由香里。
ケガという言葉に猫と遊ぶことを止めてこちらを見ていた麗子は、関の顔色が変わったのを見逃さなかった。
「なんですって!関君!ホントなの?」「どっちの足?」
「いやいや、何でも無いですよ麗子さん!」関は慌てて否定したが、そのあわてぶりは言葉とは裏腹にケガを肯定しているようなものだった。
「那緒都君!」麗子が声をかけるより早く那緒都と佐田が関を椅子の上で羽交い締めにして靴を脱がせる。
『ミぎですよ。』
「右足!だと思います。」「なんとなくですけど。」危ない危ない。あまりに不自然過ぎる言動は控えないといけないと思う由香里。まぁ既に十分不自然ではあるけれども。
臭い臭いと文句を言いながら右足の靴下を脱がせる佐田。そこには明らかに自分で巻いたと思われる包帯に包まれた親指が。
「なんだこれ?どうしたんだ関!」「なんやーおまえ!」那緒都と佐田が関に詰め寄る。
うなだれる関。ぽつりと「すいません・・・」
「関君、ちゃんと話して、ね?」そっと肩に手を置いて子供に諭すように麗子が言う。
「バイトで。」「荷物を落としちゃって・・・」
関はレーシングドライバーとして那由多と契約はしているが、そこは弱小プライベートチーム。レースだけでは食べていけるはずもなく普段はバイトに明け暮れていた。
筋力トレーニングも兼ねてと引っ越しのアルバイトを始めたのであるが、慣れない荷物運びで手を滑らせて冷蔵庫を足の上に落としてしまったらしい。幸い荷物は梱包材のおかげで無傷、足もワークブーツで大丈夫だと思っていたらしいのだが。
「なんか、ヒリヒリ痛むんで見て見たら・・・親指の爪が割れてました。でも少しだけです!今はもうなんとも無いですし!」
ゆっくりと関に近づいた麗子の両の手のひらが頬をそっと包む。
「関君。わかったわ。」「ごめんなさいね。」関の前にしゃがみ込むようにして顔を近づける麗子。
「でもね。」麗子の目が光る。その細い指が関の頬を引っ張る。「そういうことは、ちゃんとみんなに言いなさい!」
「ふわぃ。ふみません」口を広げられながらも返事をする関。
それから麗子は朝一番に病院に行って診て貰うことを関に約束させた。
「ま、それ程たいしたことないみたいで良かったな。運転手いなけりゃ、車はただの箱だし」場の雰囲気を和ませるつもりかおどけた調子で佐田。
「しかし由香里ちゃん。スルドイねぇ。」いきなり話題を振られて戸惑う由香里「そそそんなこと、無いっすよ佐田さん」眼が泳ぐ。
「おだてても何もでませんよ」視界の片隅にちびカールが両手でサムアップしているのが写る。
「どうよ?関」麗子にしかられすっかり勢いを無くした関にヘッドロックしながら「由香里ちゃんの可能性に頼ってみるってのは?」と佐田。
「確かに由香里ちゃんは今までは亀だったかもしれねぇ。」「でも開眼したんだよ!おまえのドライビングの違いも見つけられる様な観察力?それにあの走り!」
ありゃすごかったよな?と関の顔をのぞき込む。
関は憮然とした表情のままぽつりと「確かに凄かったっす・・・」素直に認めた。
いやいやそれはチガウ。由香里は心の中で否定する。
関君をおとしめるつもりはないし、くさすつもりも無い。実力でもないし。まぁカールさん実力だけど。いやいや彼は幽霊だし。
あくまで自分は繋ぎでいいのだ。新しいドライバーが見つかるまでの。
「佐田さん、関をいじめるのはそれ位で良いでしょう。」那緒都がおもむろに口を開いて、掛けていた椅子を関の近くに寄せた。
「関、なにもずっと由香里を走らせるわけじゃないんだ。」「あくまで新しいドライバーが見つかるまでの繋ぎだ。」言いながら関の肩に手を置く。
「おまえはまだ若い。可能性がある。でもチームが存続出来なけりゃ生かすことは難しい。わかるだろ?」
「ええ、わかります。」素直に関は言った。
「由香里の走りはまぐれだ。たまたまタイミングが良かったんだよ。」那緒都は言いながら由香里に目配せする。大きく何度もうなずく由香里。
「それに、」那緒都は続けた。「由香里は家庭の事情でドライバーを続けることはできないんだ。」昨晩由香里と二人で考えた筋書き。少々無理があるが押し切るしかない。
「元々由香里のご両親はレースをしていることを心配しているんだ。ライセンス取ったのも秘密だ。」これはあながち嘘ではない。ライセンスの取得は特に報告していないと由香里は言った。
「なのでご両親にばれた場合、ちょっと面倒なことになるかもしれない。ま、ご両親はレースには関心は無いようだけれど。」
これは半分嘘で半分本当。レースに関心は持ってくれないが、那緒都を信頼しているから面倒な事は起こらないとの由香里の言。ちょっと責任重大ではあるが信頼されているのは素直に嬉しいと那緒都はそれを聞いて思った。言葉には出さなかったが。
「中継が入る今シーズンの最終戦。そこが隠し通せる限界だと思う。なので、」言葉を切り、麗子を見やり「ドライバーは探し続けて欲しい。」那緒都は言った。筋書き通りに。
「え~?」麗子が不満の声を出す。いやいや麗子さん。昨晩話したときは納得したでしょう。焦る那緒都を差し置き麗子は続ける。
「マクサスさんの方はとーっても乗り気なのよ。」「でも由香里ちゃんを3人目のドライバーにしてもいいのよね。わかったわ。」那緒都にウインクする麗子。まったくこの人は。
「そういう事だ。」関の方に向き直り那緒都は続ける。
「うちの1stドライバーはおまえだ。」「おまえがうちを引っ張るんだ。それを由香里に少しだけ手伝ってもらおう。な、関。」上気させた顔でうなずく関。次は。
「佐田さん。」先程からの成り行きを面白そうに見ていた佐田に那緒都は声をかけた。「色々言いたいことはおありでしょうけれど、」
続けようとする那緒都を静止して「いいよいいよ。」「面白そうだし、俺は由香里ちゃんを2ndドライバーにすることに異論はないよ。この前のタイムは速かったし。」
クルーの方は自分が説明すると佐田。佐田が納得している事に異議を唱えるクルーはいないだろう。少しほっとする那緒都。
ただし、と佐田は続ける。「親御さんが心配しているなら、早いとこ別のドライバーも見つけて欲しいね。麗子ちゃん?」麗子は佐田の真似をしてサムアップで答える。
やれやれといった顔の那緒都を見てほっとする由香里。那緒都の足元ではちびカールがサムアップしている。それを見つけてしまった麗子が目をむく。
麗子さんにはもう少し慣れてもらわないとばれちゃうわね。来週からのレースの事と同じくらいにその事が心配になる由香里だった。