プロローグ
この話はぼくが生まれる少し前の話だ。
父も母も若くて、麗子おばさんは今にもまして綺麗だった。
その頃3人がやってたカーレースの事は、物心ついたときから何度も聞かされてきた。
全日本ツーリングカーレース。市販されている車を改造して全国のサーキットで速さを競う。
ちょうどF1とかもブームになっていたらしくて結構お客さんも見に来ていた。
当時の写真とかも父や母の自慢話と共に幾度となく見せられたもので、
懐かしそうに写真を見る母や目を輝かせて話す父が羨ましかった事を良く覚えている。
けれど父や母、そして麗子おばさんが決して話そうとしない青い瞳のレーサーの存在をぼくは知っている。
―― いや、覚えていると言った方がいいのかな。なぜならそれはぼくの事でもあるのだから。
今ではそのもう一人のぼくの記憶はちょっと、いや、かなりあやふやになってきている。
すべてを忘れてしまうまでにもうそんなに時間はないと思う。
その前にぜひ、このもう一人のぼく、カール=ハインツ・シュナウザーの話しをここに書き止めておこうと思う。
これは若かった父、母、麗子おばさん、そしてブルーの瞳のもう一人のぼくのおとぎばなしのような、そんな話しだ。