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誰がために鐘は鳴る  〜佐久間警部の推察〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
捜査一課の介入
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二つの背景(2024年編集)

 ~ 警視庁 捜査一課 ~


 佐久間の招集で、捜査結果を持ち寄り、捜査会議が開かれている。


「捜査をやり直して、いくつか、新事実がある。今日は、佐伯頼宗と神崎俊夫について、現在進行形の整理を、してみようと思う。まずは、佐伯頼宗からだ」


 佐伯頼宗(三十八歳)

 ○大日本帝国印刷(株)元社員で、谷口文子に、性加害をしていた

 ○田所英二を名乗る男が、佐伯の戸籍謄本、改製原戸籍を取得していた

 ○大量の出前、風俗嬢の派遣、無言電話、怪文書で、佐伯を攻撃

 ○自治会、勤務先、兄弟に、借金の返済を催促し、佐伯に矛を向けさせた

  (電話、訪問にて、連帯保証人制を強調し、支払いを催促)

 ○佐伯の妻は、行方不明(実家の可能性あり)

 ○解雇された直後、勤務先の屋上から、飛び降り自殺を図った

 ○谷口文子の口から、佐伯に対する殺意は、伝わって来なかった 


「ここまでが、本日までに、判明している内容だ。色々な場所で、事情を聞く限り、田所英二を名乗る男は、全て、単身行動をしている。田所英二と佐伯頼宗の、因果関係は不明。性被害を受けた谷口文子と、田所英二が繋がっていると、仮説した方が、自然だ。但し、これは現時点での、仮説であって、谷口文子が、田所と接点をもった事実を、証明しない限り、成立はしないだろう。谷口文子と接触してみたが、本人からは、殺意や、自殺に対して、直接関わった、素振りなど無かった」


「佐伯の妻が、行方不明というのが、気になります」


「自治会の話では、執拗な嫌がらせに、妻の方が先に参ったらしい。鬱病を発症したと聞いた。おそらく、離婚届を佐伯に預けて、実家にでも帰ったのだろう。板橋区役所から、改製原戸籍を取得してきたから、妻の実家を訪問して、裏取りをしてくれ。では、次の、神崎俊夫を頼む」


 日下が、ホワイトボードに、書き込んでいく。


 神崎俊夫(二十九歳)

 ○板橋区内の鳩山公園で、首吊り自殺(縊死)を図った

 ○井上真奈美にストーカーし、原宿警察署より、接近禁止命令を受けていた

 ○アパートの玄関、所有車の鍵穴に、マッチ棒が押し込まれ、相談履歴あり

 ○ガスの元栓、ブレーカーが細工され、使用不可になった

 ○ドアノブに、うるし汁が塗られ、通院するのを、目撃されている

 ○玄関に人糞、動物の死骸が、置かれていた

 ○所有車のガソリンが、いくら走行しても減らず、発狂したと情報あり


「これらは、不動産と近隣の住民から、聞き込みをした結果です」


 山川は、頭を掻きながら、苦笑する。


「こりゃあ、また、度が過ぎているな。ここまで、徹底されたら、誰だって、心が折れるぞ」


「日下、この嫌がらせは、どのくらいの頻度で、行われたんだ?」


 日下は、捜査メモを、読み上げた。


「…大体、四~五日の間隔です。鍵穴の細工が行われた日から、ドアノブのうるし汁塗布は、八日間空いていますが、おそらく、本人の警戒が、解かれる時期を、見計らったのだと思います」


「そうだろうな。ここまで、周到な準備をする輩だ。監視カメラなどで、神崎の行動を、監視していたのかも、しれないな。ストーカー被害者の、井上真奈美とは、接触してみたか?」


「はい。神崎俊夫が、突然、姿を現さなくなって、逆に怖いと、不審がっていました。何でも、神崎俊夫には、接近禁止令が出されていましたが、数ヶ月過ぎたら、効力が無くなり、再度、ストーカー被害に遭っていたそうです。ある朝、目覚めたら、神崎が、目の前で、歯磨きをしていて、身体が硬直したと。でも、自分の彼氏に、別れるよう、脅迫したらしく、神崎の身勝手な振る舞いに、ブチ切れて、包丁を突きつけたら、逃げ出したと言っていました。それからは、姿を見なくなったようですが、自殺したことを告げると、嬉しそうに、握手されちゃいました」


(………)


 佐久間は、二つの自殺を対比して、ある仮説を立てた。


「犯人の真意は、まだ分からないが、現段階では、次の二つが、考えられる。①徹底的に、精神崩壊を目的とした、異常者。相手を追い詰める事にしか、興味が無い。②精神疾患の状態にさせて、自殺を強いる。①の場合は、報酬は二の次で、自分の趣味のために、犯罪を請け負っているのかも、しれない。②の場合は、精神状態を操作(マインドコントロール)した、殺人事件になるだろう」


 安藤が、首を傾げる。


精神状態を操作(マインドコントロール)の事例は、確かにあるが、北九州の事件のように、極限の監禁状態の中でなら、分かるが、今回も当て嵌まるのだろうか?」


「佐伯頼宗は、解雇通達が、引き金でした。神崎俊夫は、いくら走行しても、ガソリンが、一向に減らないことで、誰かに、悪戯されていると、思ったのでしょう。精神を病んだのが、引き金です。課長が仰るとおり、北九州の事件とは、質が異なりますが、強迫観念が、相当量、植え付けられた点では、視野に入れるべきと、考えます」


「では、②に重点を置く。その路線で、進めるのか?」


「当面は、①と②で進めようと、思います。①の補足なのですが、最近では、ネットの世界で、復讐を請負うサイトを、よく見かけますが、谷口文子と井上真奈美は、これらを利用した可能性があります。依頼は、殺人ではなく、軽い仕返しだった。だから、当事者意識がなく、加害者であった、神崎や佐伯が、死んだことを知らなかった。警察組織(我々)と、普通に、受け答えが出来たのも、頷けます。犯人は、先程も、申し上げたとおり、相手を追い詰めることに、快楽を求める異常者だとしたら、①の線が濃くなります。結果的に、追い詰められた者が、死を選択しただけであって、『殺意は無かった』と、言われれば、殺人教唆容疑まで、持って行けるかは、微妙ですが」


「警部の仰ることが、的を射ているとして、どのように、捜査をしていけば良いのでしょう?」


 会議室が、静まりかえる。


「谷口文子、井上真奈美の両人に、依頼の有無を問い、自白させることは困難だ。また、現状では、物的証拠も、状況証拠もなく、家宅捜査(ガサ入れ)の令状も取れないだろう。悔しいが、人海戦術で、聞き込みの幅を広げ、少しでも、田所英二の影を掴むしかない。まだ、断定は出来ないが、二件を追えば、田所英二に辿り着くかも、しれないからな。ここまで、周到な男だ。防犯カメラ映像の死角を狙って、行動をしているだろう。だが、どこかのカメラ映像で、姿を追えるかもしれない。その点も踏まえ、リレー捜査も行う」


 佐久間は、捜査一課のメンバーから、六名ずつ、二班に分けた。そして、ある提案を告げた。


「この二件は、当面の間、他の事件(ヤマ)と、平行して当たってくれ。直感だが、まだ、類似の事件が出て来ると、予想する。もし、同一人物による犯行なら、どこかのタイミングで、点が線へと化ける。それまで辛抱して、臨んで欲しい。他の手法として、捜査二課にも、応援を要請し、谷口文子と井上真奈美の、ネット履歴を検証するよう、打診してみる。では、明日から、よろしく頼む。解散!」


 見え隠れする、田所英二。


 藁をも掴む想いで、捜査二課への要請を、決断する。


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