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真相を暴け(2024年編集)

 ~ 展望台 ~


「……気配を消しているのに、よく分かりましたね」


 展望台の石積裏から、一人の男が現れると、瞬時に、山川が、発砲体制に入った。


 山川の警戒も、無理もない。既に、五人を射殺した人間が、目の前に立っているからだ。


「勿論です、土屋友晴さん。やっと、真相を、究明出来ますよ」


「警部、離れて!危険すぎます!」


「よせ、山さん。もう事件は、詰んだ。土屋友晴も、現職の警察官。腹を括っている。今更、ジタバタしないさ」


「ですが!」


「大丈夫だ。何故なら、真相を知りたいのは、他ならぬ、土屋友晴だからね」


(------!)

(------!)


「…その通り。田中大輔に、情報を貰って、智洋(息子)の仇は討てた。後は、一警察官として、事の真相が知りたい。その為に、全てを捨てて、ここまで来た。…佐久間警部、真相を!」


(………)


「全員、絶対に、動くな。田中が、逃げないよう、その場で、拘束を続けろ」


 佐久間は、土谷を、側のベンチに誘う。


「もう、慌てる必要もない。腰掛けて、一服しながら、話します。その前に、事故があっては、話せるものも、話せません。その拳銃を、渡して頂けますね?」


 土屋友晴は、所持している拳銃と、ライフルを、その場に投げ捨て、ベンチに腰掛けた。


 佐久間は、タバコを、土屋に差し出すと、共に、吸い始めながら、語り始めた。


「土屋さん。あなたが真実を知ると、少なからず、心を痛める事になります。息子さんの、名誉も、傷付く事になる、それでも、聞かれますか?」


「…覚悟は、出来てます」


「よろしい。では、お話しましょう。まずは、何故、私が、あなたの事を、突き止める事が出来たのか、そこから説明します」


 土屋は、黙って頷く。


「ご子息が殺されるまでの、一連の殺人事件では、精神状態を操作(マインドコントロール)による、殺害が主でした。ところが、菊池利浩と接触してから、急に拳銃が使用されたんです。井の頭公園と、菊池利浩の自宅で、見つかった辣韮から、使用された拳銃は、捜査一課(我々)が使用する、ニューナンブM360J SAKURAではなく、特命捜査対策室の、人間が所有する、拳銃の型と一致すると、鑑識官の報告があった為、捜査一課に連絡し、全国の、特命捜査対策室の人間と、過去に紛失した拳銃を、照会したんです。…調べるうちに、聞き覚えがある名字が浮上。それが、愛知県警察本部、特命捜査対策室の土屋友晴、あなたでした。今思い返せば、『あなたが、公務員でないか』と、氏原が、ご子息の家を捜索した時に、漏らしていた事を、もっと早くに、気がついていれば、良かったのかもしれません」


「息子が死んで、あなたが、警察手帳を見せた時、本当は、有名な佐久間警部だと、分かってましたよ」


(………)


「そうですか、話しを、続けても?」


「お願いします」


「事の発端は、七年前に遡ります。あなたが射殺した、田所英二、いや、藤田敬吾が、東都大学で、船尾教授との間に、確執が生まれた事から、始まりました。船尾教授は、千葉隆弘と馬渕智仁の二人に、藤田敬吾の殺害を、依頼しましたが、間違えて、妹を殺害。この時、妹の婚約者だったのが、菊池利浩なんです。菊池利浩は、この後、千葉隆弘と馬渕智仁を、毒殺します。この毒殺は、船尾教授を筆頭に、五人の学者が、絡む事になります。ここからが、複雑な人間関係なのですが、菊池利浩は、裁判で、逆転無罪になりました。船尾教授たちの力でね。しかし、先程話した通り、菊池利浩は、大学教授たちと、繋がりがあります。また、菊池利浩と藤田敬吾は、本来であれば、義兄弟にあたります。船尾教授に、恨みを持つ藤田敬吾は、この人間関係に悩みつつも、自分を陥れてた、船尾教授たちに、鉄槌を食らわすべく、復讐を画策します。菊池利浩もまた、事件の、大元を知れば、千葉隆弘と馬渕智仁ではなく、船尾教授たちを殺していたのかもしれません。私は、藤田敬吾が、菊池利浩に、『発端は、船尾教授たちだ』と、最後まで、告げなかったのだと思います。…ここまでは、ご理解頂けますか?」


 土屋友晴は、再び、黙って頷く。


「教授と、教え子の確執が、菊池利浩を中心に、三つ巴で、殺人事件へ発展した。という事ですね」


「その通りです。そして、ここからが、本題です。藤田敬吾は、復讐のため、大学教授たちの関係者を、親族まで、徹底的に洗った。そして、親族の佐伯頼宗、坂田利之に、目をつけた。殺す対象者が、直ぐに死んでは、面白くないし、足がつく。あくまでも、警察に怪しまれないように、自殺させるには、どうすればよいか?そこで生まれたのが、逆転の発想でした」


「それは、一体?」


「死ぬ前に、加害者に仕立てる事です。共通していたのは、まず第三者が、対象者に、ストーカーやセクハラなどの、精神的な被害を受け、復讐サイトに、相談する事です。その後、対象者は、復讐サイトから、嫌がらせを受けて、精神的に追い込まれ、自ら死を選ぶ、という流れです。これなら、サイト関係者が疑われるか、相談者が怪しまれます。当然、警察は、サイト関係者を洗いますが、そこで登場するのが、匿名化されたシステム。つまり、Tor中継システムなんです。そして、それこそが、そこにいる、田中大輔が関与した事件、とも言えます」


「私と、死んだ藤田敬吾とか言う男は、面識はない。でっち上げだ!」


 佐久間は、ほくそ笑む。


「あの男の言葉は、無視して結構です。今まで説明した中で、あなたのご子息だけは、他の対象者と違います。藤田敬吾は、復讐のため、大学教授の関係者を、洗いました。でも、土屋知洋さんだけが、無関係です。何故だと、思いますか?」


 土屋友晴は、首を傾げる。


「…そこだけが、分かりません。息子が、人様の娘さんに、危害を加えた事は、知りましたが、何故、殺されなければ、ならなかったのか。どうしても、理解出来ません」


「やめろ、それ以上、言うな。お前の、虚言で、俺を、巻き込むんじゃねええぇぇ!!」


 山川が、田中大輔の頭を、押さえる。


「それは、田中大輔の、復讐の為に、利用されたからです」


(------!)


 田中大輔は、顔面蒼白となり、真っ向から否定する。


「寝言、ほざくんじゃねええぇぇ!」


「田中大輔、今から、話す事を聞いても、シラを切られるかな?」


「何だと?」


「お前の、履歴を洗い直した。七年前、藤田敬吾の妹を殺害し、その後、菊池利浩に殺された人物。馬渕智仁の弟は、田中大輔、お前だ!母方の性を、名乗っていたから、気付くのが、遅くなったがな。お前もまた、七年前の被害者なんだよ」


(------!)


 佐久間は、話を続ける。


「七年前、真相を明らかにするため、お前は、母方の性を名乗り、警視庁に入庁した。希望通り、捜査二課に配属となったお前は、菊池利浩の事を、洗い直すうちに、藤田敬吾に、何らかのきっかけで接触した。藤田敬吾もまた、復讐サイトを立ち上げたものの、システム面で苦労しており、お前の登場で、正直、助かったはずだ。こうして、藤田敬吾は、大学教授たちに。お前は、藤田敬吾や菊池利浩に、それぞれ、復讐する絵図が、出来上がったという訳だ。しかし、どうやって、藤田敬吾や菊池利浩に、トドメを刺そうか、迷っていた時に、たまたま、土屋知洋がいた。他の対象者と同様に、土屋知洋は、他人に危害を加え、被害者から、復讐サイトに対して、仕返しの依頼が入った。戸籍を調べてみると、現職警察官の、息子だと分かり、『これを、利用しない手はない』と、考えた。土屋さん、違いますか?」


 土屋友晴は、プルプルと、拳を震わせながら、頷く。


「……そう、言われてみれば。息子は、菊池利浩と藤田敬吾の、策略で殺されたと。息子の『司法解剖を、勧めた張本人が、実は、犯人だ』と告げられ、『仇討ちを、手伝わせてくれ』と。『同じ組織だし、気持ちが、良く分かるから、協力は惜しまない』と」


 山川と根本が、溜息をつく。


「これで、合点がいったな」

「人の弱みにつけ込んで、最低ですね」


「坂田利之の事件に、絡んだ二人を、井の頭公園で、殺害したのも、あなたですね?」


「……はい。息子の部屋に、水銀をばら撒き、弱らせたのは、この二人だと。そして、命令したのは、菊池利浩と藤田敬吾だと、聞かされました」


「……田中大輔。お前は、土屋智洋の死を利用し、現職警察官の心を、弄んだ。お前の画策で、土屋友晴は、本来であれば、汚さない手を、息子の為に、汚したんだ。お前に、この罪が分かるか?これについても、たっぷりと事情聴取する。覚悟しておけ!」


(………)


 田中大輔は、全てを受け入れ、観念したようだ。


「佐久間警部、後生だ。私は、この場で、射殺されても良い。この男だけは、自分の手で、殺させてくれ、……頼みます」


 咄嗟に、拳銃を取ろうと、立ち上がる土屋に、佐久間は、覆い被さる。


「このままでは、アンタは、刑務所から、出られなくなる。残された、奥さんはどうなる!確かに、アンタは、何人も殺した。だが、叙情酌量が、きっと、適用される。ここは!…ここは、涙を呑んで、我慢するんだ!妻と息子の為に、自分を殺せ!最後ぐらい、同僚を信じろ!」


(------!)


 涙目で訴える、佐久間に即発され、土屋友晴は、腰を落とし、男泣きした。


「二十時三十八分。菊池利浩、藤田敬吾、他三名の殺害容疑、ならびに、銃刀法違反容疑で、土屋友晴、お前を、現行犯逮捕する。なお、逮捕前、警視庁捜査一課(我々)に、自首したものとみなし、検察には、報告する」


「……ご迷惑を、お掛けしました」


 静かに、両手を差し出す土屋に、佐久間自ら、手錠を掛けるところで、遠くから、サイレンの音が近づいてくる。


「変電所の方も、収束したようだな。これで、決着だ」


 長い一日が、終わりを、告げようとしていた。


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