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誰がために鐘は鳴る  〜佐久間警部の推察〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
捜査一課の介入
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合同捜査方針会議(2024年編集)

 〜 警視庁 年末合同捜査方針会議 〜


 警視庁では、毎年、犯罪件数と、内容を分析し、翌年の重点的抑制対策を、設定している。


 この方針会議には、各警察署幹部が集まり、所轄の事件報告や、進行中の捜査状況、人員配置に関する懸案を挙げ、改善していくのが、主な目的である。


「…以上が、練馬署の報告となります」


 方針会議は、捜査一課が、司会運営を任されているため、課長の安藤は、張り切って仕切っている。


「これで、大体の状況は、把握出来たな。どの署も、特殊詐欺、違法薬物、窃盗事案が、多いな。これらの事案は、年始も増えるだろう。年末と同様、抑制強化に努めて欲しい。これらとは別に、警視庁では、新たに、取り組みたい事案がある。佐久間警部、説明を頼む」


「皆さま、お疲れ様です」


 総勢八十名の前で、佐久間は、挨拶を省略し、本題に入った。


「これまで、行方不明者や自殺者に関して、人員の確保と、捜査費の問題から、現場検証で不審な点がない場合には、捜査を打ち切ってきました。これは、警察庁でも、総合的に鑑みて、『やむを得ない』と、してきました。…しかしながら、昨今、自殺志願者を巧みに誘導し、自殺させる人間や、一緒に自殺する振りをして、自殺する様子を、動画サイトに投稿する輩が、急増しており、これまでの傾向と異なり、自殺と称した、殺人へと、変化しています。捜査一課では、昨今の自殺者の中に、他殺扱いとなる者がいないか、焦点を当てます。直ぐには、効果は得られないですが、この手の犯行を、未然に防ぐことで、未来への抑制と、減少に繋げていきたい」


 板橋警察署から、質問が挙がった。


「佐久間警部の、言わんとすることは、分かります。板橋警察署(うち)でも、先日、自殺教唆・自殺幇助の容疑で、検挙したところです。具体的に、どうされるおつもりか?」


「今から、過去三年間に、吸い上げたデータを、取り纏めたので、対象者リストを配布します。自殺者の中で、生前に、交番などへ相談が無かったか、行方不明になる前に、所轄を跨いで、相談していなかったか、などの点を踏まえ、警視庁内で、情報共有を図ります。横の連携が、まだ十分とは、言えません。捜査一課も、この点を反省し、捜査に臨みたい。ぜひとも、協力をお願いしたい」


(------!)


 対象者リストを見た、原宿警察署の幹部は、思わず立ち上がった。


「どうしましたか?」


「原宿警察署、中山です。板橋警察署に確認したいんですが、リスト者の神崎俊夫が、板橋署管轄で自殺したというのは、本当ですか?」


(神崎?……ああ、あの神崎か)


「ええ、鳩山公園の木で、首を吊っていました。鑑識の結果、自ら、首に縄を掛けていて、不審な点はなかったので、自殺と断定しました。この、被害者(ホトケ)が何か?」


「佐久間警部、話を続けても、宜しいか?」


「勿論です、何時間、討論しても、構いません。その為の、会議です」


「ありがとうございます。…では、板橋警察署に伺いたい。神崎俊夫は、女子大生の井上真奈美に、生前、ストーカー行為をして、原宿警察署(うち)で、接近禁止を命じたことがあります。ストーカー行為をする人間が、いとも簡単に、自殺するとは思えません。断定するには、早計だったのでは、ないでしょうか?」


(それは、板橋警察署(うち)に対する、挑発か?)


 この意見に、板橋警察署は、真っ向から反発する。


板橋警察署(我々)は、断定するにあたり、神崎俊夫のアパートも、確認しました。聞き込みから、神崎は、誰かに嫌がらせを受けて、鬱病を発症していたと、情報を得ました。この点を考慮し、現場検証でも、不審な点が、無かったことから、『衝動的に、自殺を図った』と結論付けた。ストーカーだからといって、精神が強いと思うのは、間違いです。他人との不協和音、心の葛藤で、死を選ぶこともある。板橋警察署(うち)の捜査は、間違っていない」


(………)


「『誰かに、嫌がらせを受けて』と、仰いましたね?神崎から、ストーカー被害を受けていた、井上真奈美が、誰かと手を組み、神崎を追い詰めた。その、可能性だってある。井上真奈美から、事情聴取を行ったんですか?」


板橋警察署(我々)は、神崎が、ストーカー行為をしていた、とは知りませんし、近隣住民も、そんなことを、言ってませんでしたよ。言及は避けますが、第三者と、意思疎通が出来ず、言葉が悪いですが、『虐められて、死を選んだ』と、解釈しています。神崎の死に対して、井上真奈美の事実は、本当だったとしても、結果論であって、それを問うのであれば、原宿警察署(そちら)で、捜査すれば良かったのでは?」


(………)


 ここで、佐久間が、仲裁に入った。


「事件の究明は、されるべきなので、捜査一課としては、どちらが正しいとか、どちらに非があるのか、問うつもりはありません。この件は、両者の意見を採用して、捜査一課にて、改めて検証します。皆さんも、今の一件で、良くお分かりになったと思います。自殺者が、実は、ストーカーだったり、犯罪予備軍だったり、結果的に、新事実が出て来ることも、あり得ます」


 板橋警察署の佐藤から、意見が出る。


「今の件は、佐久間警部に、一任いたしますが、別件で、愛宕警察署に確認したい。リスト者の佐伯頼宗ですが、板橋警察署の交番に、セクハラの被害を訴えに来た、女性の上司だったと、記憶しています。交番から、報告を受けていたので、覚えていましたが、どんな経緯で、自殺と断定を?」


通信指令室(本部)からの情報で、現場に急行したところ、佐伯頼宗が、職場の屋上から、自殺を図ったことが、分かりました。会社の関係者から、任意聴取しましたが、佐伯は、あちこちに、借金をしていて、債権者の取り立て屋が、社長にまで、押しかけたようです。佐伯が、自分の解雇を知った、直後に、自殺を図ったことから、『衝動的に、自殺した』と、結論付けました」


 板橋警察署の佐藤が、この意見に、更問いしようと、挙手した時点で、静観していた安藤が、口を挟んだ。


「先程と同じように、水掛け論になりそうだな。…この件も、捜査一課で預かるとしよう。両所轄署とも、それで良いな?」


(------!)

(------!)


 これには、板橋警察署が、難色を示した。


板橋警察署刑事課(うち)で、捜査しては、如何でしょう?何も、そんなに細かい捜査まで、捜査一課が、手をつけるのは。捜査一課は、強行犯を追っている最中です。所轄署としては、流石に、ご迷惑かと…」


「迷惑?…何も、分かってないな?……佐久間警部、少し、解説してやりなさい」


(………)


「結果論からですが、自殺者に、被害を与えた者がいる。自殺者から、危害を受けた被害者がいる。つまり、単なる自殺ではなく、殺人事件かもしれない。要約すると、セクハラの被害者、ストーカーの被害者が、犯人(ホシ)の疑いもある、ということです。自殺と断定した事情、言い分は、分かりますが、自殺者の身辺照会に、もっと、力を注ぐべきで、『因果関係を、見極める配慮が乏しい』と、判断したため、課長が、口を出したのですよ」


(------!)

(------!)


「…そう言うことだ。確かに、自殺した捜査に対して、多大な時間と、労力を費やすことは、他の捜査に、しわ寄せが行き、全体の捜査量に、影響を及ぼすから、早めに、見極めるべきだ。だが、因果関係を、その都度、掘り下げていけば、手戻りにならず、もう少し、違う結果になったんじゃないのか?誰も、所轄署に責任を押し付けるとは、言っていない。判断が難しい場合は、捜査一課に、忌憚なく、相談して欲しい」


(………)

(………)


 安藤の正論に、誰も、言い返せない。


「…理解して頂き、感謝する。この二件は、佐久間警部の指揮で、捜査する。各警察署は、要請に応じて、柔軟に、指揮に従うように。……良いな?」


 板橋警察署、原宿警察署も、従うしかなかった。


「…分かりました」

「承知しました」


「では、次の事案に、移ります」


 年末合同捜査方針会議は、深夜まで続く。

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