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攻防4(2024年編集)

 ~ 十九時三十二分、東京都昭島市 ~


 昭島市内では、変電所を巡り、一進一退の状況が、続いている。


 変電所の、電力供給が止まってしまった為、各鉄道機関は、臨時運休に入り、帰宅難民が出始め、ニュースでも、大々的に、報じられ始めている。


 バス会社による、振替え輸送が開始されたが、運休理由が、変電所の電力供給不足としか、発表されない為、各駅に、苦情の電話が殺到し、鉄道職員たちも、対応に苦慮し、不満が噴出していた。


 一方、昭島市変電所には、この騒ぎを、一目見ようと、ネット情報を見た野次馬たちが、集まり始めていた。佐久間の指示で、交通整理をする別部隊が、派遣され、現地は、騒然となっている。


「何だよ、ここまで来たのに、この先、封鎖されてんじゃん」

「至るところに、警察がいるよ、何かあったんじゃない?」

「絶対、おかしいぞ。変電所、テロにでも、遭ってるんじゃない?」

「誰か、立て籠もっているとか?拡散しようぜ?」

「このまま進んでも、引き返せなくなるよ、帰ろうよ」

「まあ、待てよ。もう少し、様子見しようぜ?」


 交通整理をする警察官は、上からの指示で、何も語らず、淡々と、野次馬たちを、追い返す。『絶対に、余計な事を言うな』と厳命されているので、中には、異を唱えたい警察官もいたが、力業で、場を押さえている。



 ~ 変電所 操作室 ~


「谷部所長、鉄道機関は、相当、混乱しているようです。各駅舎からも、直接、問い合わせが、入り始めています。補足情報を、流しますか?」


(………)


「勝手は、許さん。実情を知るのは、政府、警視庁、変電所の上層部だけだ。外では、警視庁が、対応してくれている。警視庁(彼ら)を信じて、我々も、出来る事をする。それだけだ」


 変電所内の、警戒アラームが鳴り響く中、懸命に、電力をコントロールする職員が、一部の機能低下が、改善している兆候を、発見する。


「谷部所長!四号機の機能が、僅かですが、回復し始めました」


(------!)

(------!)


(我慢比べに、勝ったぞ)


「総員、四号機の、電源を直結して、他の電源にも、回すんだ。出力を、維持させろ!エタノール液を補充して、ラジエターのタールを、下げるんだ。全員で、取りかかるぞ!」


「はい、作業を開始します!」



 〜 五日市線、秋川駅付近 〜


「どうだ、田中大輔は、見つかったか?」


「いえ。めぼしい所には、おりません。本当に、来るんですかね?」


「四号車からの情報では、現在地は、この付近だそうだ。『隈なく探し、確保せよ』との厳命だ」


「どこかに、潜伏したのかもしれません。人数を増やして、捜索しましょうか?」


(………)


「ここで、張ってても、時間の無駄だな。仕方が無い、三班に分かれて、隈なく探そう。民家、商店にも、聞き込みを開始する。時間がないからな」


「ブッ、ブッ、ブッ、ブッ」


 警察官たちが、次の行動に移る中、高圧鉄塔のゴミ置場には、パソコンだけが、静かに作動していた。



 ~ 奥多摩 某所 ~


(何とか、ここまで到着したぞ)


 田中大輔は、自分を取り巻く環境を、逆手に取り、昭島市から奥多摩に入った、山中に来ていた。


 腕時計で、経過時間を確認し、これまでの動きを、回想しつつ、自分の行動に、落とし穴がなかったかを、自問自答する。


(捜査一課の動きは、昨年から、全て把握している。ここから、全てが始まったんだ)


 Tor中継システムの事を、捜査一課に教える事で、捜査が難航し、迷宮入りするだろうと、安心していたが、佐久間が、獅子奮迅の動きをした為、事件の全貌が、露呈し始めている。


 タクシーでの移動中、佐久間の指示内容を、傍受していたが、自分の動きを、的確に予測する言動に、戦慄が走った。


 それだけでは、ない。


 一番の誤算だったのは、佐久間が引き上げた、根本の能力が、類を見ない脅威である事だ。


(まさか、自分の仕掛けた攻撃を、受け流しながら、反撃に転じるとは、夢にも、思わなかった。奴が、普通のハッカーなら、もっと、短時間に、変電所を爆破出来たし、都心の機能を、麻痺させられた。だが、それでも、俺の勝ちだ!お前は、秋川駅辺りに、俺が潜伏していると予想し、佐久間に進言し、馬鹿な佐久間も、それを鵜呑みにした。そこで、いつまでも、見えない俺を、探すんだな。パソコンは、二台持っている。お前たちが、そのパソコンを見つけて、触った時点で、それが、起爆の合図だ。変電所は、たちまち、紅蓮の炎に包まれる。……くっ、くっ、くっ)


 田中大輔は、菊池利浩が死んだ時点で、佐久間のプロファイルで、田所英二や自分の足元まで、捜査の手が及ぶだろうと、捜査記録を確認すると、捜査の、進展の早さに動揺し、逃走の準備に入った。


 捜査二課のパソコンには、自分の、個人パソコンへ、データを転送出来るよう、隠しプログラムを仕込み、第三者が、無闇に調査したら、物理的にショートするよう、細工を加えておいた。


 佐久間が、石川県に飛んだ時点で、再度、捜査一課のサーバーに忍び込み、捜査記録を確認すると、足元どころか、喉元まで、詰め寄られている事を知り、形振り構わず、捜査二課を飛び出す、タイミングを窺った。


 時間休で、帰宅しようか、迷っている時に、運良く、サーバー攻撃を受けた市役所から、要請があり、外出する理由が出来た為、この要請に便乗して、警視庁の外に、脱出した。


 自宅に立ち寄り、今後の逃走生活に必要な、最低限の持ち出しと、証拠隠滅を行い、タクシーに乗り込んだ。


 このまま捕まったら、間違いなく、死刑、良くても、無期懲役だろう。


 安全に、海外逃亡するには、一時的に、首都圏機能を麻痺させ、警視庁の隙をつく必要がある。佐久間が、根本のような、ハッカーを、懐に入れるのであれば、逆に、その能力を利用して、虚を突けば、良いのだ。


(普通に逃走しても、監視カメラからは、逃げられない。不正接続して、映像を消しても、根本が、復元してしまう。空港にも、手配写真が回り、足がつく。正攻法では、絶対に、佐久間からは逃げられない。…そもそも、ここまで、計画が頓挫したのは、アイツが、菊池と田所を、次々と始末してしまったからだ。いつかは、自分の手で、殺そうと思っていたから、その手間は省けたが、あんなに簡単に、殺すとは、非情にも、程があるだろう。お陰で、足が付く、危険性が高まって、結局、国内には、いられなくなったからな。合流したら、報酬の金を渡して、まずは、九州まで行って、長崎県辺りから、韓国へ、船で渡航しよう)


 懐中電灯は、周囲の目にとまるから、使用出来ない。


(ここでは、ダメだ。何とか、展望台まで行こう)


 田中大輔は、暗闇の中、手探りで、スロープの手摺を掴むと、慎重に、階段を上がる。


 常設された、歩行者用道路照明は、経済的な理由なのか、点灯していない。


(だから、役所は嫌いなんだよ。こんな事で、税金をケチるなよ)


 スロープを登り切ると、やっと平場に着いた。昼間であれば、眼下に、ダム湖が広がり、景観を楽しめる事だろう。


(くぅぅぅ。早く、馬鹿どもが、俺のパソコンを、調べないかな。調べた瞬間に、変電所が、まずドカン。直ぐに連動して、あそこのダムも、ドカン。ダム湖の水は、勢いよく、昭島市を飲み込み、その余波で、西関東は、全滅。警視庁が、オタオタしている間に、長崎県経由で、韓国に行く。…完璧すぎる)


(………)


(………)


(…開こうかな、もう、大丈夫かな。…いや、待て、田中大輔。お前は、完全犯罪を、成し遂げるんだろう?ここで、パソコンを開いては、位置がバレる。捨ててきた、パソコンの意味が、無くなるぞ)


(………)


(………)


(…開こうかな、もう、大丈夫だろう。いつまで経っても、爆破の合図もないから、ちょっと、確認するだけだ、ちょっとだけ)


 田中大輔は、勝ちを意識した、慢心から、もう一台のパソコンを起動して、警視庁の挙動を確認する。


(どれどれ、奴らの、断末魔は?っと)


(------!)


(------!)


(------!)


 何度も瞬きし、食い入るように、画面を見つめる。


 佐久間たちの、位置情報が、田中大輔の位置と、重なっているのだ。


(はああ?こんな大事な場面で、故障だと?この、軟弱パソコンが!)


「私は、高台(ここ)だぞ?どこを見ている?画面ばかり、見ているから、肝心な物を、見落とすんだよ、田中大輔」


(------!)


 完全な、漆黒に包まれた展望台が、眩いばかりに、ライトアップされ、田中大輔と、佐久間を照らす。


(------!)


「こんな所で、サイバー捜査か?お疲れさん、さぞ、難儀しただろう?」


 田中は、硬直し、動けない。


「なっ、何故、アンタが、展望台(ここ)にいる?秋川駅(あそこ)にいたはずじゃ?」


 佐久間は、首を傾げた。


「何故って?展望台(ここ)は、お前にとって、関係がある場所じゃないか?…菊池利浩が、復讐を遂げた場所。千葉隆弘と馬渕智仁が、殺害された場所だ。違うか?」


(------!)


 佐久間が、ほくそ笑むと、山川たちが合流し、拳銃を構えた。


「お前が、複数のパソコンを、持ち出した事など、見抜いていたさ。こちらのプロテクトを解除し、双方で、位置を把握した時点で、お前なら、偽情報を流す事も、予想出来たよ。警察無線を傍受して、こちらの、虚を突くだろうとね」


(------!)


 山川が、凄い剣幕で、詰め寄る。


「おい、田中。組織を騙すなんて、良い度胸だな。お前は、終わりだ!」


(------!)


「ちっ、近寄るんじゃねえぇぇ。俺が、エンターキーを押すと、全てが終わるぞ!西東京は、壊滅なんだよ。一歩でも動いたら、終わるのは、お前らだ。分かったら、下がるんだ!!」


(………)


 山川は、この言葉に、『ちっ』、と舌打ちし、動けない。


 逆に、佐久間は、大笑いした。


「良い啖呵だ、褒めてやるぞ、お前にも、大きな声を出せるのだな?良いぞ、押せ。一緒に、死んでやる。お前の恥は、組織の恥。大恩ある、捜査二課長の代わりに、付き合ってやる」


(------!)


「ハッタリは、やめろ!下がれよ!!」


 佐久間は、明確に、否定する。


「おいおい、お前は、何年間、私を、側で見てきた。犯人の脅しに、私が屈した事が、今まであったか?怯んで、後退した事は、あったか?」


 佐久間は、真顔で、一歩一歩、田中大輔に、近寄る。


(もうダメだ、到底、逃げられない。刑務所は、ゴメンだ。なら、地獄に堕ちてやる!!)


 観念した田中は、自暴自棄になり、目を瞑ると、エンターキーを押した。


(------!)

(------!)

(------!)


(………)


「シ-----ン」


 爆音と共に、爆風が駆け抜けるはずが、何も感じられない。


(あ……れ?)


 目を開けた瞬間。


「ドカァ!」


(------!)


 凄まじい拳が、田中の顔面に、飛んでくる。


「ひぃぃぃ。なっ、何で!何で、起爆しない?」


「何故、起爆しないかって?…根本くん、この馬鹿に、説明をしてやってくれ」


 根本を見つけた田中は、愕然とした。


「お前は、根本!変電所に、いるはずじゃ?無線で、そう言っていたじゃないか!」


「あなたの動きは、佐久間警部が、全て、予測していましたよ。僕も途中まで、騙されてました。秋川駅だって、『田中大輔は、自分の位置を、騙す為に、ダミー用のパソコンを、捨てるはずだ』って、プロファイリングしたのも、佐久間警部です。全く、この警部には、敵いませんよ」


(------!)


(何だって?じゃあ、起爆は…)


「起爆なんて、させないさ。お前のパソコンは、対テロ組織に使用する、防爆仕様のアタッシュケースに、移したからな。核爆弾でない限り、影響は受けんよ」


 田中大輔は、ガクッと、跪坐いた。


「田中大輔。復讐サイトによる、殺害ほう助、公務執行妨害、公共工作物爆破容疑、詐欺容疑、その他余罪につき、二十時十八分。現行犯逮捕する!」


 山川により、田中大輔に、手錠が掛けられた。


(………)


「腑に落ちない顔だな、田中」


(………)


「なら、強引にでも、幕を下ろしてやろう」


(------!)


「まだ、事件は終わっていない。何故なら、もう一人いるからだ。出てこい、隠れているのは、分かっているぞ!お前の前で、真相を明らかにして、本当の意味で、事件が解決だ!」


 展望台の、石積に向かって叫ぶ、佐久間であった。

 

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