攻防3(2024年編集)
~ 十八時五十二分、東京都昭島市 ~
昭島市では、昭島警察署、昭島警察署 福島交番以外にも、府中警察署、多摩警察署からの、応援部隊が集結し、送電施設を完全封鎖している。
普段は、人気のない山中が、何十台もの赤色灯で、煌々と照らされ、燃えているかのようである。
ネット上で、『山火事が起きたのか?』と、騒がれ始める中、変電所内では、複数の変圧器が、機能不全に陥っており、職員たちが、復旧作業に奔走していた。
突然の機能不全に、現場だけでは、対応が追いつかず、関東全域から、技術者を集める必要があるとして、要請している状況だ。
「谷部所長、このままでは、二号機が、完全に停止します。予備発電に、切り替えましょう」
(………)
「まだ、待つんだ」
「しかし、八高線や青梅線に、送電が出来ず、間もなく、電車が止まります」
「…三号機と六号機は、どうだ?まだ、保ちそうか?」
職員は、首を横に振った。
「こちらも、サーバーダウンし始めました。このままでは、パンダグラフが、至るところでショートして、電車が止まり、変電所側の変圧器も、故障するのは、時間の問題です!」
(変電所の装置が、壊れたら、本当に終わりだ)
「…やむを得まい。鉄道への送電は、諦める。各鉄道本部へ、運休要請の連絡を入れろ。都心への送電を、第一優先とする。予備電源は、全て、都心に回すんだ。局経由で、政府機関にも報告する。上の判断を仰ぐぞ」
(------!)
(------!)
「…分かりました。念のため、全ての光接続箱を点検します。しかし、何故、こんな大規模なダウンが?今まで、こんな事は、ありませんでした」
谷部は、幹部のみ、通達されているメールを、読み返す。
「…警視総監から、この変電所が、何者かに、占拠される可能性を、否定出来ないと、局長あてに、連絡が入った。数十分前のことだ。だから、表の警察車両が、配備されたんだろう」
(------!)
(------!)
「テロですか!」
「真意は、分からん。テロってのは、国家転覆罪だ。簡単に、口にするな。無駄口を叩く暇があるなら、手を動かせ!全員、安全最優先で、残りの電源を確保してくれ」
~ 昭島市 変電所の屋外 ~
「こちら、昭島警察署の花田です。四号車、どうぞ」
「四号車、佐久間だ」
「こちらの配備は、完了しました。犯人は、今、どの辺りにいるか、分かりますか?」
「ちょっと待ってくれ。根本くん、その位置、拡大出来るか?」
「お待ちください。…国道十六号から、県道七号線に入りました。多摩川を越えた、すぐの辺りですね」
「聞こえたか?」
「はい、福生警察署の管内ですな。その場所からだと、二十分圏内です。犯人は、突入する気なのでしょうか?」
「突入はない、犯人は、頭脳派だからね。変電所の近くから、何らかの、サイバー攻撃をすると、考えられるよ」
「念のため、少し離れた場所にも、配備した方が、宜しいでしょうか?」
根本が、ソワソワして、何かを、訴えたがっている。
(……ん?)
「根本くんが、何か、聞きたいそうだ」
「根本と申します。すみません、変電所から、二キロ圏内に、無線ルーターを使用出来る、スポットがありますか?」
「無線ルーター?コンビニなら、あるが?」
「駅付近で、高圧塔が建っていて、なおかつ、漫画喫茶など、ある場所です。犯人は、ノートパソコンで、サイバー攻撃していますが、回線が不安定になるため、一時的に、無線ルーターを使用して、安定を図ると思います」
「待ってくれ、今、地図を確認する」
花田は、部下たちと、パトカーのボンネットに、地図を広げた。道沿いに、なぞる指が、ある場所で、ピタっと、止まった。
「根本くんと言ったな、見つけたぞ。JR五日市線の秋川駅から、三百メートル程、離れたところに、条件を満たす、場所がある」
(------!)
「そこです!そこを、押さえてください」
「赤色灯を回したパトカーを、乗り付けて、問題ないのか?」
「構いません。そこを押さえておけば、犯人の攻撃は、不安定のまま、完全ではなくなり、脅威レベルが、かなりの確率で下がります。佐久間警部、宜しいですよね?」
「ああ、構わないよ。身柄確保は、別の場所で行おう。戦力を下げておくのは、上策だ」
「了解しました、現場に急行します」
(しかし、田中大輔は、何を企んでいる?菊池、藤田は、既にいない。自暴自棄で、大々的に、散るつもりなのか?…根本と、攻防している時点で、もう、捜査一課が動いている事は、百も承知のはず。何かが、引っ掛かる)
佐久間は、地図を広げて、田中の思惑を、推理する事にした。
「どうされました、警部さん?」
「根本くんは、そのまま、妨害工作を頼む。私は、見落としがないかを、もう一度、検証する」
(田中大輔は、現在、多摩川を越えた。藤田を殺した犯人は、あきる野側から、昭島市に向かっている。変電所の位置は、この位置だ。サイバー攻撃は、この場所から。田中大輔は、この辺りで、足止め食らう事を、想定しているはずだ。田中大介も、警察官。捜査一課の、手の内を予想する。…という事は?)
(………)
(………)
(------!)
佐久間は、車内のパソコンを起動すると、捜査二課に、電話を入れた。
「佐久間だ。大至急、田中大輔の経歴を、調べてくれ。…ああ、そうだ。七年前のだ。それと、家族構成を調べてくれ。五分以内に、四号車に配備された、このパソコンに、送ってくれ」
約五分後、捜査二課から、分かる範囲の情報が、送られてきた。
(やはり、思った通りだ。…と、なれば)
「根本くん、分かったぞ。田中大介の真意が」
(------!)
佐久間は、無線を、握り締める。
「四号車より、全捜査官へ。このまま、配備を維持せよ。但し、各警察署で保有しているドローンを、全機使用して、制限範囲内を飛行させ、妨害電波を発信して欲しい。田中大輔の、破壊プログラムを防ぐんだ。妨害プログラムは、根本くんより、配信して貰うから、ドローンに装填させ、飛行中、根本くんの指示で、解凍して、使用を開始してくれ。くれぐれも、装填前に、解凍しないように。それと、三号車の山さんは、携帯メールにて、厳命を出すから、読み次第、破棄を頼む」
「三号車、山川、了解です」
「四号車は、根本くんを、変電所で降ろしてから、移動を再開する」
「根本くん、耳を」
「ボソボソボソボソ」
(------!)
「そういう事ですか。分かりました、手を打ちます」
「では、決戦の場に、向かおう。赤色灯は消して、走行を開始してくれ」
最後の、攻防が始まる。