攻防2(2024年編集)
~ 都内 池袋 ~
十八時を回った。
逃走中のバイクは、新板橋、板橋本町を経由して、首都高速五号池袋線を、北上している。
速度のリミッターを、解除しているのか、山川たちは、中々、追いつけない。
(何て、速さだ。一般車両が邪魔で、離される)
山川は、無線で、中間報告を入れる。
「こちら、三号車。通信指令室どうぞ」
「こちら、通信指令室、三号車、どうした?」
「逃走中のバイクは、戸田方面に移動中。進路によって、東北自動車道、関越道に分かれる。分岐点で判断し、改めて要請する」
「通信指令室、了解。各班は、続報を待て。浦和、和光、大泉インター各所で、交通機動隊が待機している。号令で、追跡を開始する」
逃走バイクは、嘲笑うように、疾走していく。
~ 一方その頃、都内 高井戸 ~
山川が、首都高速道路の北ルートで、逃走中のバイクを追跡している頃、佐久間たちは、中央自動車道で、国立府中、八王子経由で、昭島市を目指していた。
「根本くん、少しは、妨害出来ているか?」
「一進一退です。向こうも、反撃してきているので、隙を見せれば、悪意のあるプログラムで、お陀仏です」
揺れる車内で、根本は、必死に、田中大輔と闘っている。
「警部さん、何故、田中大輔は、昭島市に目をつけたんでしょうか?」
「送電線を担っている地区は、昭島市、川崎区、鶴見区と、分かれるが、昭島市は、八王子・府中・相模原に隣接していて、送電範囲が広い。地理的には、神奈川県・埼玉県・山梨県に移動しやすい。一番は、送電施設が、人目につきにくい点だろう」
「なるほど、合点がいきます」
(昭島市は、府中市の隣。菊池と関係があるのかも、しれないな)
パソコンの画面上で、田中の位置は、国立府中を示している。
「こちら、四号車、全捜査官へ。現在、田中大輔を乗せた車は、国立府中にいる。このままでは、追いつけない。高速機動隊の白バイで、先回りしてくれ」
「通信指令室より、府中警察署に指令。直ちに、国立府中より合流し、捜索を開始せよ」
「こちら、府中警察署。了解した」
「どの車両で移動しているかは、不明。捜査二課より、田中大輔の顔写真が、一斉配信されているはずだ。困難を極めるが、確認作業を頼む」
「府中警察署、了解した。捜索を開始する」
(ピンポイントで分かれば、早いのだが)
~ 十八時四十分 埼玉県川越市 ~
「こちら三号車、山川。逃走中のバイクは、現在、川越から圏央鶴ヶ島に、向かっている。南下して、八王子方面に、向かう模様。四号車で追っている田中大輔と、合流する可能性あり。黙視は出来るが、渋滞で、追いつけない」
「通信指令室より、八王子警察署、第三機動捜査隊に指令。挟山日高インター、挟山PA、青梅インターより合流し、確保されたい」
「八王子警察署、了解。第三機動捜査隊と連携し、捜索を開始する」
待機中のパトカーが、一斉に出動し、挟み討ちを、試みる。
(良し、これで、袋の鼠だ)
応援部隊が動いた事で、山川は安堵したが、それを見透かしたかの様に、逃走中のバイクは、圏央鶴ヶ島のバスレーンに入ると、意外な行動を見せた。
バイクを降り、高速バス出入口から、素早く脱出し、姿を消したのである。
(------!)
「おい、あのバスレーンに、入るんだ」
「この渋滞で、急な進路変更は、危険です。少し、過ぎたところに、停車します」
虚をつかれた山川は、第二走行帯から、バスレーンに入ろうとしたが、通り過ぎてしまう。
(やられた、第一走行帯にいたら、間に合ったのに。こうなる事を見越して、ずっと、第二走行帯を、走っていたのか)
バス停から、三百メートル過ぎた路側帯に、何とか停車し、辿り着いた時には、後の祭りであった。
逃走したバイクが、乗り捨てられ、足取りが追えない。山川は、息を切らせて、車内に戻ると、無線を入れた。
「はあはあ、三号車、山川だ。犯人は、高速バス乗り場より、外へ逃走。走って逃げたのか、別の交通手段で、逃げたのか不明。消息が消えた!」
「通信指令室より、四号車へ確認を取る。三号車は、そのまま待機せよ。八王子警察署、第三機動捜査隊も、最寄りの、安全な場所で待機せよ」
「八王子警察署、了解」
「第三機動捜査隊、了解」
「通信指令室より、四号車へ」
「こちら、四号車どうぞ」
「三号車より、報告あり。逃走中のバイクが、圏央鶴ヶ島付近で、高速道路上から消えて、一般道で逃走した模様」
「警部さん?」
(………)
(…圏央鶴ヶ島という事は、あきる野経由で、合流する気だな)
「こちら、四号車、佐久間だ。三号車、八王子警察署は、最短ルートで、昭島市を目指してくれ。高速道路と、一般道、両方でだ。私の推理が正しければ、田中大輔と、逃走中の男は合流する」
「通信指令室、了解。各班へ、指令を回す」
通信指令室より、各所へ指示がいく。
(まだ、何かあると、考えるべきだ)
「根本くん、気をつけてくれ。向こうは、後手に回った。逃走経路に、替えの交通手段を、準備していたのだろう。こちらにも、何か、仕掛けてくるぞ」
(………)
「…気をつけます、としか言えないです。既に、集中砲火されている、状況なんで」
「それは、済まないな。更なる攻撃を受けるとして、最悪の想定は、何が、脳裏に浮かぶ?」
(………)
根本は、力無く、笑った。
「…物理的な攻撃ですかね。現在、電波で闘っていて、一進一退なんで。車が飛んでくるか、爆弾が降ってくるか、これが、一番嫌です」
(………)
「それは、確かに、嫌だな」
田中大輔の位置は、昭島市に入ろうとしていた。




