攻防1(2024年編集)
~ 東京都 港区 ~
佐久間たちは、向かいのビルに到着すると、想定通り、犯人は逃走している。
「日下、犯人は?」
「それが、予め準備していたバイクで、逃走したようです。入り口の守衛が、猛スピードで走り去る男を、目撃していました。皇居方面に逃げた、との事です」
(…皇居方面か。首都高で、郊外に逃げる気だな)
佐久間は、守衛室で、防犯カメラ画像を、確認する事にした。
「山さんは、日下と一緒に、足取りを追ってくれ。二手に分かれよう。決して、無理だけはするな。『手掛かりは、ある』とだけ言っておく」
「分かりました、日下、行くぞ!」
山川は、逃走したバイクの、車両番号をメモすると、待機しているパトカーに乗り込み、追跡を開始した。
「根本くんは、私に同行してくれ。パソコンを立ち上げ、捜索を開始するんだ。情報が分かり次第、連携を取っていく」
佐久間たちは、別のパトカーに乗り込んだ。
「警部さん、プロテクトを解除します。捜索を開始!」
「ここまで来たら、手の内を晒してでも、強引に行くぞ。もう、奴を止めるしかない。合流されたら、厄介だからな。課長へ、報告する」
「プルルルルルル」
「安藤だ、守備はどうだ?」
「お疲れ様です。田所英二は、見立て通り、藤田敬吾でした。逮捕出来ましたが、向かいのビルから、狙撃され、射殺されました。私がいながら、申し訳ありません」
(------!)
「全員、無事なのか?」
「ええ、何とか。藤田を射殺した犯人は、現在、バイクで逃走中です。首都高で、郊外へ逃げるようですが、山さんが、追跡を開始しています」
「反省は、後だ。まずは、全員が無事なら、それで良い。現場の判断は、佐久間警部に任せる」
「ありがとうございます。課長、ここまで来たら、最終手段に移ります。『捜査二課の、田中大輔』を指名手配し、警視庁総出で、押さえましょう」
(------!)
「…最後まで、信じたくなかったが、間違いないんだな?」
「…残念ながら。今から、根本くんに、田中大輔を追跡させます。こちらのプロテクトを、解除しました。田中は、こちらの動きが分かるし、こちらも、分かります。根本くんの話では、互いに解除すると、位置情報が、共有されるので、常に、把握が可能になるようです」
「腹を括ろう。捜査二課長と、警視総監には、直ぐに報告を入れる。…窮鼠、猫を噛むからな。最後まで、気を抜くなよ」
「承知しました、ありがとうございます」
佐久間は、数秒、目を閉じ、気持ちを整理すると、無線マイクを、握りしめた。
(……良し、始めよう)
「こちら、四号車。全捜査官、ならびに、通信指令室へ」
「通信指令室どうぞ」
「現在、三号車が、逃走中のバイクを追跡している。車両番号は、世田谷○○○○だ。最寄りの交通課、高速機動隊に、協力を要請する。必要に応じて、埼玉・千葉・神奈川の、警察本部にも、要請を求む」
「了解した。三号車と連携し、広域捜査を要請する」
(------!)
根本が、パソコンの画面を、思わず、両手で掴んだ。
「けっ、警部さん、ヤバいですよ。田中大輔の所在は、分かりましたが、進行方向と、目的地がマズいです」
(………?)
「話が、見えない。どうヤバいんだ?」
「進行方向の先で、不可解な現象が、発生してるんです。大型変電所を、爆破する気かも知れません」
(------!)
「詳しく、見せてくれ」
パソコン画面には、田中大輔の位置が示され、昭島市方面に、移動しているのが、分かる。根本は、パソコンの画面を二分割し、変電所の様子を、佐久間に説明した。
「この数値を、よく見てください。変電所の主要機器が、セキュリティエラーを、示し始めました。不正接続して、制御不能にするつもりです」
(------!)
(制御不能になると、どうなる?…この、変電所は、昭島市。JR線と、市営地下鉄がある。この変電所は、確か、都内への送電も行っている。…目的は、何だ?……都内全域の停電か?)
「根本くん、その、不正接続を、止められないか?」
「距離的には、田中大介に、分がありますが、先に着ければ、何とか、なるかもしれません」
「田中大介の行く手を阻めば、良いのだな?それは、私が、手を打とう。何とか、田中のパソコンに侵入して、妨害してみてくれ。都民の安全は、絶対に守らないといけない」
「承知しました。不正プログラムで、攻撃してみます。田中大介も、ハッカーですから、通用するか、分かりませんが、頑張ります」
佐久間は、再び、安藤に、連絡を入れた。
「安藤だ」
「課長、お願いの連絡です。田中大輔は、現在、昭島市方面に移動中です。変電所を、制御不能にするようです。これが実行されたら、都内全域の停電、公共交通機関が麻痺します。昭島警察署、多摩警察署、第三機動捜査隊にも、要請を入れてください」
(------!)
「直ぐに、手配する」
「こちら、四号車。全捜査官、ならびに、通信指令室へ」
「通信指令室どうぞ」
「現在、三号車が、追跡中のバイクとは、別の犯人が、昭島市方面に、移動中。変電所を、乗っ取る気らしい。最寄りのパトカーは、変電所を死守してくれ。…犯人の名前は、警視庁捜査二課の、田中大輔だ。場合によっては、発砲も許可する。警察組織の威信を賭けて、これを阻止する」
「…一号車、了解」
「通信指令室、了解。なお、一番近い八号車に、急行させる。なお、昭島警察署も、急行を開始した」
「四号車、了解。三号車へ、応答せよ」
「こちら、三号車、山川です」
「逃走バイクが向かう先も、変電所かもしれない。留意してくれ」
「了解しました、臨機応変に、対処します」
四号車は、速度を上げた。
「田中大輔は、タクシーで移動かと。電車でなく、県道を使っています」
佐久間は、運転する捜査官に、尋ねる。
「追いつけそうか?」
「五分五分です、もう少し、飛ばします。揺れるので、ご容赦を」
「分かった、よろしく頼む」
(間に合わせるさ、そして、死守する)




