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反撃の狼煙(2024年編集)

 ~ 東京都 赤坂の料亭 ~


「皆、集まったな。さあ、始めようか」


 崇城大学で、検証の確認を終えた佐久間は、川上真澄の報告を得て、捜査が、佳境に入った事を確信し、次の一手を、打つ事にした。


 帰京後、一週間、期間を空けて、佐久間が、信頼する仲間にだけ、声を掛けた。参加者は、課長の安藤、山川、川上真澄、根本、氏原、崇城大学の上妻教授である。


 全員、佐久間に言われた通り、五分ずつ、時間を空けて、入店する。


 芸能人の御用達と称される、料亭の個室は、入口も工夫が施され、案内されないと、辿り着けない構造となっている。通常の食事場所からは、見事な庭園を望めるが、死角にあたる一角に、個室が存在する事を、殆どの利用者は、知る由もない。


 佐久間は、かねてから、密談する時は、この料亭を利用しようと、手を打っていたのだ。


「今日、集まって貰ったのは、捜査が佳境に入ったからです。次の手を打つ前に、顔合わせと、情報共有する事が、目的で、課長をお呼びしたのは、内部での、情報漏れを避ける為でも、あります」


「どこで、盗聴されるか、分からんからな。それで、この個室か」


「はい。記者会見を開いた事で、犯人も、動き出していると、予想される事から、警察組織(我々)も、一気に、攻めようと思います。そのためには、ここに集まった、全員の、連携が重要です。まず、菊池利浩の裁判から、整理していきましょう」


 佐久間は、上妻教授から得た情報も踏まえ、用意した半紙に、関係性を示していく。


「香川大学の椎原、熊本大学の唐沢は、裁判の被告側。この二人に、共通しているのは、教授選考会です。徳島大学の大門、東都大の船尾、道工大の髙橋は、原告側。この三人に、共通しているのは、学会理事選です」


「七年前の、関係者だな。それで?」


「当初、私は、この中の誰かを、菊池が恐喝し、復讐に加担させたと、仮説を立てました。私が、菊池や、教授陣に接触した事で、慌てた教授陣が、菊池の口を、封じたのだろうと」


「そこまでは、私も考えたわ。でも、そうではないのね?」


「ああ。仮説を見直したのは、菊池のアルバムで、元婚約者、つまり、里香さんの写真を、見てからだ」


 山川は、黙って聞いている。


「佐久間くん、その里香には、どんな特徴が?」


「田所英二ですよ。菊池は、手紙の中で、私が、『田所と会った事がある』、と言っていました。写真を見た、第一印象が、『どこかで、会った事のある人物』でした。記憶を辿ると、兄妹なのか、『面影が似ている』と思いました。半信半疑だったので、少し危険でしたが、川上真澄に、確認を依頼しました。菊池の元婚約者が、田所の妹だと、仮定すると、手紙の内容から、察するに、菊池は、田所を、本当の兄のように、慕っていたのかもしれません。そうでなければ、『止めてくれ』と、言いません」


「佐久間、その仮説が正しければ、田所英二は、菊池の義兄で、一緒に、復讐サイトを運営していた。という事は、二人は、主犯格だった。そうなるのか?」


 佐久間は、やんわりと、否定する。


「それは、私も考えたが、手紙を読む限り、違うようだ。菊池が、関わった事件は、坂田利之だけのようだ。金を騙しとる部分だけ、関与したと、書いてあったからね。私は、それを信じようと思う。そうすると、一連の、精神状態を操作する(マインドコントロール)殺人は、何故、起きたのかと、ここで、壁が立ちはだかるんだ。だが、そこは、根本くんの出番なのだよ」


 根本は、照れくさそうに、パソコンのモニターで、捜査成果を説明する。


「佐久間警部の指示で、色々と調べてみました。まず、佐伯頼宗は、香川大学教授の椎原と親戚、つまり、甥にあたります。神崎俊夫は、熊本大学教授の唐沢と親戚、同じく、甥です。坂田利之に関しては、妻の和子が、徳島大学教授の大門と、同窓生で、不倫関係であった事が、分かりました」


(------!)

(------!)

(------!)


「凄いな、一体、どうやって、そこまで調べた?探偵並じゃないか」


 根本は、種明かしをする。


「簡単ですよ。佐久間警部が、プロファイリングしてくれたんです。その結果を受け、安藤課長経由で、関係者の市役所に連絡し、住民課のサーバーを、公式に、検索させて頂きました。戸籍を洗っていったら、該当(ヒット)したんです。坂田利之の妻、和子については、改製原戸籍から、住所を割り出し、それを起点に、過去の出身校を辿り、大門と同窓である事を、突き止めたんです。関係者から、運良く、話しが聞けた事が、功を奏しました」


「課長、色々と、骨を折って頂き、ありがとうございました。一件ずつ、紙で確認したり、現地を回っていたら、数ヶ月掛かるところです。根本くん、短期間で、良くぞ、ここまで、成果を挙げたな」


 根本は、満面の笑みを浮かべた。


「前にも、お話した通り、僕は、褒められると、幾らでも、頑張るタイプなんです。それに、川上さんのおかげで、赤羽駅の周辺で、学会のサーバーを、不正接続(ハッキング)できたのも、幸いしました」


(------!)


 山川は、興味津々で、根本に尋ねる。


「おい、根本。サーバーに侵入し、何が分かった」


「七年前の教授選考会、学会理事選の順位結果です。教授たちが、何票を得て当選したかの記録が、残っていました。それと、もう一つ」


「何を見つけた?」


「田所英二の、欠片です」


(------!)

(------!)

(------!)


「…課長、機は、熟しました。一気に、巻き返しましょう。今度は、警察組織(我々)が、攻める番です」


「反撃は良いが、状況証拠だけで、大丈夫か?今日の内容は、ある意味、違法捜査だ。裁判用には、使えないし、失敗は、警視総監(布施さん)の失脚に繋がる」


 佐久間は、ほくそ笑んだ。


「その点なら、問題ありません。物的証拠なら、ある人物が、握っていますよ」


「ある人物?一体、誰だね?はて、今日の中に、それらしき者は、見当たらんが?」


 佐久間は、紙に、人物名を挙げた。


(------!)

(------!)

(------!)


 これには、捜査一課のメンバーが、驚愕した。


「一体、何故、そんな事が、あり得るんだ?素振りすら、無かったはず」


「私も、最初は、耳を疑いました。でも、根本くんが、全部、押さえてくれましたよ」


「良くやった、根本」


「そんな、褒めないでください。僕は、自分に出来る事をした。それだけです」


「課長、今回の立ち回りには、多少なりとも、関係者全てが、火傷します。報道機関(マスコミ)に悟られる前に、決着をつけるのが、得策かと思いますが、課長の承認が必要です」


(………)


 安藤は、その場で、警視総監の布施へ、事の経緯と、捜査の進捗、今後の展望を述べる。捜査の落としどころと、報道機関への対応、後始末など、布施からの問いには、佐久間が代わりに、説明した。


「とりあえず、了解だそうだ。賽が振られたら、もう、後戻り出来ないぞ」


「承知しました。やるからには、絶対に勝てる、喧嘩を売りましょう」


「……良し、やるか。それで、どれから、手を付ける?」


「まず、学会から、決着を付けましょう。上妻教授の助力を得て、学会連中を黙らせます。学会の勢力を抑えてから、後ろ盾を無くした、田所英二と対峙します。物的証拠を握る者については、こちらの動きが、見えないように、警視庁の外で、暗躍する必要があります。教授会の開催日と場所は、上妻教授に一任して、宜しいですか?」


「勿論じゃ、おそらく、金沢市になると思うが、大丈夫か?」


「ええ、問題ありません。どこへでも、伺います。よろしく」


「大筋は、決まったわね。じゃあ、当日の流れと、教授陣を抑えた後の、立ち回りについて、佐久間警部(あなた)の考えを、聞かせてちょうだい。各自の持ち場と、動き方を決めておくべきよ。それと、当日までに、する準備も、色々と大変そうだから、分担しましょう」


「助かるよ、やはり、九条大河(先生)に参加して貰って、良かった。九条大河にしか、見えない、景色もあるだろうから、ある程度は、方針を決めるが、詳細は、任せたいと思う」


「それで、良いわ。じゃあ、始めてちょうだい」


 こうして、賽を振った後の展開について、様々な状況を想定し、何案も、策を練り上げていく。参加メンバー総出による、意見交換は、深夜の閉店まで続いた。

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