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誰がために鐘は鳴る  〜佐久間警部の推察〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
誰がために鐘は鳴る
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孤高の戦士(2024年編集)

 ~ 港区 浜松町駅 ~


 佐久間たちは、JR浜松町駅で、早朝から、防犯カメラ映像の、復元を試みている。


 根本は、独自の解析ツールを、防犯カメラ映像の端末に接続し、三十分程で終わらせると、鼻唄まじりに、解析結果を、十六進法にて、バイナリ文字列に変換させ、紐解いていく。


(良し、第一段階終了。じゃあ、お次は…)


「すみません、映像システムの元となっている、サーバーはどこですか?」


「ここに、ありますが」


「では、皆さん、間もなく復活しますので、お集まりください」


 根本は、二台目のパソコンを取り出すと、集中制御されたサーバーに接続した。独自で組んだと思われる、ソフトを立ち上げ、エンターキーを押すと、駅舎内の全ての防犯カメラ画像が、十秒程、砂嵐状態となった。


(------!)

(------!)

(------!)


「砂嵐になったぞ」

「壊れたんじゃないのか?」

「大丈夫か?」


 根本は、涼しい表情で、笑みを浮かべている。


「大丈夫ですよ、まあ、見ていてください」


 砂嵐状態のモニターは、何度も、自動で再起動を繰り返し、全ての映像が、復元された。


(------!)

(------!)

(------!)


「おい、見ろよ。本当に復活したぞ」

「日時も、当時のままだ」


 駅舎内で、歓声が上がった。


「まるで、ドラマを見ているようだ。凄いな、あんた」

「暗号みたいな、画面、初めて見たな」

「駅長にも、見せたかったな」


 根本は、得意げに会釈すると、佐久間に、耳打ちした。


「ここまでは、ただの作業です。自分に求められているのは、これ以上の成果。今度は、この防犯カメラ映像を、どの場所で、遠隔操作で消去したかを、検証してみます。それと、昨日伺った、共犯者の人物が、特定出来ましたので、どの駅で降りたのかも、分析してみます。少し、時間が掛かりますが、大丈夫ですか?」


(------!)

(------!)


 佐久間と氏原は、互いに、顔を見合わせた。


「根本くんには、驚かされてばかりだよ。何時間でも、構わん。洗ってみてくれ」


「へへへ、僕、褒められると、頑張るタイプなんです。警部さんのおかげで、人の役に立てると思うと、嬉しくて仕方ありません。では、お言葉に甘えて、頑張ります!」


 根本は、腕をまくり、二台のパソコンを駆使していく。画面上では、見慣れないプログラムが、延々と立ち上がり、結果が表示される度に、メモを取っていく。


 時折、乱列する文字列を、電卓を叩いては、並び替え、解読しては、修正プログラムを走らせ、位置を絞っていく。


 四十分間、延々と、この作業を繰り返し、やがて、画面上の動きが止まった。


「…お待たせしました。五反田駅の周辺で、遠隔操作していたようですね。これを、見てください」


 根本が、エンターキーを押すと、広域地図画面が、詳細地図へ切り替わり、場所が表示された。


「えーと、ここは?」


「ネットカフェのようですね」


 根本は、解説を始める。


「この駅の、防犯カメラ映像を消した時、間違いなく犯人は、五反田駅周辺、つまり、このネットカフェ店内ではなく、店舗の近くか、WI-FIが届く範囲に、いたはずです。店外で、一時的ですが、ネットカフェのルーターを、不正接続して、使用した。これなら、誰にも、顔を見られず、足も付きません」


 佐久間は、左手で、顎先を撫でるように触った。


「そこまで、慎重な犯人なら、監視カメラが映らない場所で、作業しているな」


「ええ、自己防衛は、完璧でしょう。五反田駅と浜松町駅は、約ニキロメートルしか、離れていないし、十分、遠隔で操作出来ます。監視カメラ位置を、予め、特定していると思います。それから、これをご覧ください」


 根本は、もう一台のパソコンで、行動履歴が分かるソフトを、立ち上げた。


(………)


「ん?二つの○印が、吉祥寺駅で降りたと、表示されているぞ」


「昨夜の話では、犯人たちは、浅草方面で、姿を見失ったと、伺いましたが、どうやら、捜査をかく乱させる為に、途中下車しただけですね。画面を見る限り、姿を消した二人は、浅草駅で乗車し、都営浅草線で、浅草橋駅に行くと、JR総武線に乗り換え、御茶ノ水駅で下車、最後は、JR中央線で、吉祥寺駅に向かっています」


「なるほどね、捕まる筈がない訳だ。逃走した二人は、別々に逃げたと聞いた。おそらく、初めから、こうなる事を想定して、示し合わせていたに違いない。そして、犯人たちが、浅草駅に着いた頃、山さん達は、浅草寺の、路地周辺を探していた」


「では、この二人の利用頻度を、リレー照会してみます。この画面を、ご覧ください」


 根本は、行動履歴のプログラムに、『OTHERS』と打ち込み、エンターキーを押した。


「佐久間、凄いな、これ。○印が、何度も、行ったり来たりしているぞ」


「ああ、分かりやすいな」


「新橋駅と吉祥寺駅を、かなりの頻度で、往復していますね。逆に、浅草駅には、二回しか、降りていません」


「確保出来るかも、しれないな」


 佐久間は、その場で、山川に連絡し、新橋駅と吉祥寺駅で、待機するよう、指示を出した。


「全く、大したもんだ。これで、事態が進展するよ」


(………)


 根本は、モニターを見つめ、表情を曇らす。


「警部さん、まだ、懸念が残ります」


(………?)


「何だろう、聞かせてくれ」


「犯人の真意です。佐久間警部の力量を知っていて、『佐久間警部なら、あらゆる手段で、防犯カメラ映像を復元するだろう』と、想定していたとしたら、この先、どうなると思いますか?」


「どうなる?」


「私が犯人なら、捜査の手が届く前に、二人を殺します」


(------!)

(------!)


「持論を聞こう、教えてくれ」


「念のため、解析をする際、犯人にバレないよう、妨害処理(カーテン)をかけて、作業しました。悪意あるプログラムを走らせる時に、相手は、未然に防ごうとするのが自然なので、不正認識をするセンサーみたいなものを、組んでいます。自分の作業を、悟らせない措置です」


「それならば、問題ないのでは?何を、恐れているんだい?」


「私よりも、腕の立つ者であれば、修正プログラムでバレます。それと、今の様子を、どこかで監視しているとしたら、我々の行動は、相手に筒抜けで、先手を打たれるかもしれません。となれば、逃走中の二人は、証拠隠滅のために、消される。念には、念を入れた方が、良いと思います。それくらい、情報戦に長ける者達は、賢く、厄介なんです」


(……監視されている、確かに、その線もあるな)


 佐久間は、山川に、追加の留意点を指示した。


「今日は、助かったよ。しばらく、自宅で休んでいてくれ。何かあれば、連絡する。保護観察といっても、前科がないんだ、四六時中、私の自宅にいなくても良い」


「はい、勿論です。今回、僕も、見えない敵と戦いましたが、『自分を嵌めた人物』かもと、思いました。捜査の分岐点で、声を掛けて頂けると、僕も助かります。警部さん、自分は、この住所にいますので、昼夜問わず、呼んでください」


「ああ、お疲れさん」


 根本は、何度も会釈して、帰宅していった。


「なあ、佐久間。根本は、本当に切れ者だな。しかも、あの若さだ」


「ああ、頼もしいよ。若いのに、理路整然と話せるし、礼儀も(わきま)えている。先が楽しみだと、久しぶりに思ったな。それより、氏原。根本くんの発言、どう捉えた?」


「逃走した二人以外、まだ姿が見えないんだ。田所以外に、あと何人いるのかも、分からんし、どこまでの知能犯なのかも、分からん。でも、根本が言うんだ。こちらの動きを、監視しているとしたら、逃走した二人が、消される。この点は、あり得るかもな」


「……同意見だね。私も、悪い予感がする。山さん達が、確保してくれるのを、期待しようじゃないか」



 ~ 二日後 佐久間の自宅 ~


 早朝五時、佐久間の携帯に、凶報が入る。


「警部、山川です。朝早くすみません、やられました」


(------!)


「井の頭公園の湖面に、小林かな子と共犯者が、遺体で見つかりました」


(やられた、根本の言うとおりだ)


「自殺か、他殺か、どちらだ?」


「他殺です、拳銃で、頭を撃たれていて、即死です」


(拳銃で?何か、変だな)


「…ん?山さん、ちょっと待ってくれ。日下からも、着信だ。直ぐに、折り返すよ」


 佐久間は、山川との会話を中断し、日下の電話に出た。


「佐久間だ、どうした?」


「けっ、警部。菊池利浩が、死にました!」


(------!)


「話が見えない、落ち着いて、端的に話せ」


「すみません、気が動転していて。えーと、菊池利浩は、自宅で死亡です。張り込みをしていたんですが、銃声が聞こえたので、急いで、踏み込んだんですが。妻と二人、即死です」


(菊池が、死んだ?)


「日下、菊池は、自分で妻を撃った後、自殺したのか?それとも、誰かに撃たれたのか、どちらだ?」


「明らかに、他殺です。二人とも、襲われた形跡があります」


「怪しい人影、逃走車両、何でも良い、何か見たか?」


 日下の声が、小さくなる。


「それが、ウトウトしていて、状況があまり、把握出来ていません、…申し訳ありません」


(………)


「……分かった、直ぐに、機動捜査隊を送る。日下は、菊池家(そこ)で待機だ」


 受話器の向こうで、すすり泣く声が、聞こえる。


「日下、反省は、後だ。今こそ、足元をしっかりと見ろ。警察官たる者、現場保全に努めるんだ、良いな?」


「……はい、…申し訳ありません」


 佐久間は、安藤に、報告を入れる。


「課長、早朝から、申し訳ありません。只今、現場から、相次ぎ凶報が、入りました。まず、逃走中の小林かな子と共犯者が、井の頭公園の湖面で、遺体で発見されました。……ええ、他殺です。拳銃による射殺です。それと、菊池利浩も、何者かに射殺されました。妻も、巻き添えになったようです。これから、総員で、現場検証を行います」


「…分かった、私も、少し動いておく。無理は、するなよ」


「承知しました、ありがとうございます」


(とりあえず、一旦、落ち着こう。慌てる程、犯人の思う壺だ)


 佐久間は、縁側に腰掛け、薄らと、白み始める空を、苦悶の表情で見上げた。


(…菊池。お前と、もっと、色々な話を、したかったよ。お前は、どんな気持ちで殺された?それとも、気が付かぬ間に、殺された?お前は、裏切られたのか?誰と繋がっていた?婚約者の仇を討って、裁判では、見事、逃げ切った。私が、接触したせいで、殺された?教授陣に、殺された?…結局、府中の宣戦布告が、最後じゃないか?…必ず、お前の仇は、討ってやる。先に、あの世で、待っていろ)


 七年前に、不起訴となった、孤高の戦士は、佐久間の知らぬところで、いとも簡単に、この世を去り、想定を上回る凶報に、新たな壁が立ちはだかる。


 裁判の背景に、見え隠れする教授たち。


 監視カメラ映像を復元させ、見えない敵の、犯行心理を訴えた根本。


(根本の、懸念通りの展開だ。タイミング的に、根本を疑う者も出るだろう。だが、私が出さなければ、根本は、ずっと、拘留されていたはず。それよりも、捜査一課の手の内が、漏れているのでは、ないだろうか?川上真澄とも、善後策を、話合おう)


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