麒麟児(2024年編集)
~ 翌日、警視庁 捜査一課 ~
捜査一課では、坂田利之・佐伯頼宗の新事実を踏まえ、今後の捜査方針変更について、議論している。
「…ここまでが、昨日の段階で、明らかになった事項だ。坂田利之を嵌めたのは、田所英二、小林かな子、名取雅代。田所に利用され、解雇したのが、人事部の吉田。まだ、詳細が分からないのが、小林かな子の共犯者の男だ。少なくとも、現時点では、吉田を除く、四名が関わっている。佐伯頼宗については、谷口文子が、どのように、田所と接触を持ち、どんな依頼をしたのかが、明らかになった。ただ、この犯行で、浮上しているのは、田所のみで、共犯者がいるのか、分かっていない」
課長の安藤は、頭を掻きながら、この事実に、首を傾げた。
「名取雅代は、田所英二と、どのような関係か、予想がつくか?」
「名取は、まだ一度しか、表舞台に出てきていませんが、早い段階で、氏名と、面が割れました。強請る材料として、写真が残っている点を考えると、田所は、捜査過程で、警視庁捜査一課が、この写真を入手する事を、予測しているはずです。そう考えると、名取は、捨て駒で、田所は、いつでも、尻尾を切れば良い。つまり、名取を逮捕しても、田所には届かないでしょう」
「絶対に、足が付かないから、堂々と、証拠を残した。田所も、知能犯だな」
「金銭のみの、主従関係で、娼婦かもしれません。名取を拘束したとして、そこから、田所を追う事は、時間の無駄です。逆に、浅草寺で逃走した、小林かな子と、共犯者の男が厄介です。足が付かないように、何者かが、JRの監視システムを、破壊工作してまで、証拠隠滅を図りました。田所英二にとって、捜査が進むと困るのは、後者です。追うべきは、この二人かと」
(………)
山川は、大見得を切った手前、二度目の失態に、下を向いたままだ。佐久間は、その心中を察し、言葉を選んだ。
「山さん、もう一度、手分けして、尻尾を掴もう。山さんが、失態した訳ではない。その場に、私がいても、同様の結果だったはずだ。相手の準備が、勝ったんだよ」
山川は、悔しそうに、写真を握りしめながら、佐久間に問いかけた。
「…お言葉ですが、警部。今、捜査一課にあるのは、ピンぼけした、この写真だけです。人物照会するにも、あまりに不鮮明で、利用出来ません。現時点では、勝算があるとは、思えんのですが。こう、何か、抜本的なやり方を考えないと、また勝てません」
(…抜本的なやり方か)
佐久間は、浜松町駅で入手した写真を、見つめながら、捜査二課に、協力を求める。
「…小島。確か、先日、捜査二課で、身柄確保した人間が、留置所にいたな?」
(------!)
「ええ、根本という、若者がいますが、何故、それを?」
「どの課が、誰を拘束したか、大雑把だが、把握しているよ。捜査一課で、手続きをするから、そのハッカーくんを、ここへ、連れて来てくれないか?」
「拘留中の根本をですか?」
佐久間は、満面の笑みで頷く。
安藤は、直ぐに、佐久間の考えが分かり、苦笑いする。
「…司法取引か。…勝算は?」
「まだ、何とも言えません。蛇の道は、蛇です。ハッカー技術にもよりますが。正攻法で、突破出来ないのであれば、多少、強引でも、別の角度から、突破すれば良い。小島、すぐに動いてくれ」
「分かりました、捜査一課長から、捜査二課と、総務課へ連絡をお願いします」
~ 二時間後、捜査一課 ~
「お待たせしました、根本を、連れてきました」
留置所から、詳細を伏せたまま、連れてこられた根本は、大いに、困惑している。
根本が通された部屋は、異様な空気を醸し出している。椅子以外、何もなく、両壁沿いの一列に、捜査員が、それぞれ、中央を向いて座り、奥の正面には、佐久間が待ち構えている。捜査員の視線を浴びる中、一歩、進むたびに、胸が締め付けられ、鼓動が早くなる。かつてない程の緊張が、根本を支配していた。
(今から、何が起こるんだ。何故、僕は、部屋の中心を歩いている?ここで、裁かれるのか?)
根本が、佐久間の前に辿り着くと、佐久間は、手錠を解くよう、小島に合図する。
「宜しいのですか?」
佐久間は、黙って頷く。
「根本。今から、手錠を外すが、おかしな真似を、するんじゃないぞ。何かあれば、両サイドの捜査員が、一斉に、飛びかかって、お前を押さえる。その為の、位置取りだと言う事を、理解しろ」
(そういう事か、これだけの、屈強の男たちを前に、逃げる馬鹿はいない)
「……はい」
根本は、手錠が解かれ、自由を得た手首を摩りながら、視線を少し上げた。正面の男が、自分に用があると、言われなくとも分かる。ただ、自分が、この男に裁かれるのだと思うと、正直、怖い。根本は、正面の男の、目ではなく、下顎を見つめる。
覚悟を決めた根本だったが、そんな心中を察してか、佐久間は、気さくに声を掛けた。
「根本くんと言ったね。年齢は、いくつだい?」
(------!)
その第一声に、根本は驚いた。高圧的な態度で、何かを聞かれると思っていた。根本は、佐久間の目を、しっかりと見つめ、受け答えをする事にした。
「…二十二歳です」
「何をして、捕まった?」
「国税局のサーバーに、不正接続して、バレました」
「今までの、余罪は?…失礼、今の聞き方は、まずいな。捜査二課が、知っている内容だけ、話してくれ。余計な事を話すと、罪が重くなるかも、知れないからな、最低限で良いぞ。それと、今から、聴取する事は、捜査記録にも載せないし、尋問でもない。それは、約束するから、安心してくれ」
(………?)
「話が、見えないのですが?」
「分かり難かったな、根本くん。端的に言うと、君の、技術力を知りたくてね。今、捜査一課で、捜査している事件が、正攻法では、突破出来ないんだ。捜査二課が、表立って、不正行為をする訳には、いかないからね。そこで、君の力を借りたくてね。公言は出来ないが、手を組む事で、罪が軽くなるかもしれないぞ」
(------!)
(司法取引か、この人、賢いな。全員の前で、暗に、『悟れ』と言っている)
根本は、全てを理解した。
「その問いに、回答は控えますが、理解しました。余罪は、主に、不正接続です」
(私の真意を、直ぐに理解した。余計な事を言わず、最低限を示す。この歳で、大したものだ)
佐久間は、根本の裁量を見抜き、質問を継続する事にした。
「例えばだ、市役所のサーバーに入って、戸籍の改ざんは、可能かい?」
「赤ん坊を、あやすより、簡単ですね。初歩に、過ぎません」
「では、警視庁のサーバーに忍び込んで、捜査記録の開示、記録の改ざんは可能かい?年々、強化されていると思うが」
「……怒りませんか?」
「安心してくれ、事実を知りたい」
「…今の、防犯システムなら、二日あれば、突破出来ます」
(------!)
(------!)
(------!)
室内が、ざわつく。捜査二課の人間も、口を開いたままだ。
「いやあ、大したもんだ。警視庁も、もう少し、抜本的な対策を、執る事にしよう。システム強化については、申し訳ないが、後で指導してくれ。どこがダメで、どこを見直すべきなのか。見直す良い機会だし、この出会いは、中々ないからね。この通り、よろしくお願いします」
(------!)
(------!)
(------!)
拘留中の人間に、躊躇なく頭を下げる、佐久間の姿勢に、根本は、心底恐れた。
(なっ、なんだ、この人。若造の言葉を、信じるのか?どうみても、偉い人だよな)
「えーと、僕は犯人で、捕まっている訳で。歳も若く、そんな、若造の言葉を、あなたの様な、偉い方が、信用してくれる。そう仰るのですか?」
「歳は関係ないさ。昔から、賢者は敬うものだ。そうでなければ、国は栄えなかったし、根本くんを、留置所から出さないさ。根本くんの力次第では、捜査協力者として、私の捜査に、加わって欲しい」
(------!)
(------!)
(------!)
これには、全員が驚愕し、反対意見も飛び出した。
「けっ、警部、本気ですか!犯罪者を、捜査に加えるなど、前代未聞です!!」
「犯罪者?この青年は、前科があるのか?」
「いえ、まだ、起訴はしていません。だからと言って、捜査に加えるなど!」
佐久間は、モニターを見ている安藤に、頭を下げる。
「……安藤課長。不正行為は、許されない事ですが、検察に送致するだけが、捜査一課の仕事では、ありません。前途ある若者を、正しい道に、更正させるのも、職務だと思います。如何でしょう?根本くんの身柄は、私が、全責任を持ちますから、私の部下として、側に置く許可を得たく、上申いたします」
(------!)
(------!)
(------!)
安藤は、この提案に、大いに吹き出した。
「お前という奴は、本当に、やる事が大胆だな。処分保留で、送致を辞める手続きは、しておこう。好きにしたまえ、骨は拾ってやる」
「ご理解頂き、ありがとうございます」
(------!)
(------!)
(------!)
「課長の許可が下りた。これで、根本くんは、私の部下だ。当面の間、寝食を共にし、全ての行動を、私と一緒にして貰う。よろしくな」
根本は、展開の早さに付いていけず、脱力した。
(何なんだ、この人。何なんだ、この即決力と行動力。僕は、無罪になった?)
「ん?展開が早くて、理解がまだ追いつかないか。えーとだな、もう、根本くんは無罪で、私の部下だ。諸手続は、これからだが、今日から、根本くんは、警視庁捜査一課の臨時職員、つまり、準公務員となる。君の能力を、いかんなく、発揮してくれよ」
(------!)
根本は、良いとも、悪いとも、言わないうちに、佐久間の即決によって、人生が変わる瞬間を見た。ただ、それは、決して、居心地が悪いものではなく、長い間、暗闇の底で、もがいていた自分が、初めて日の光を浴びた、救われた心地だ。
(自分は、この人に助けられた。なら、自分は、自分のすべき事をする。まずは、そこからだ)
こうして、捜査一課は、強力な助っ人を、手に入れた。
~ 都内 佐久間の自宅 ~
「さあ、遠慮なく、入ってくれ。狭くて、申し訳ないが」
佐久間は、根本を連れて、帰宅した。
「あら、早かったわね。氏原さん、来てるわよ」
氏原が、既に晩酌をしている。
「よお、佐久間、遅かったな?…ん?そこの若者は?」
「紹介するよ。天才ハッカー、根本くんだ。数時間前まで、留置所にいたんだが、お願いして、部下にした。今日から、当面の間、寝食を共にする。いきなりで、申し訳ないが、そういう訳だから、仲良くしてやってくれ」
(------!)
(------!)
氏原と千春が、思わず、顔を見合わせ、根本の事を、マジマジと、観察する。根本は、人慣れしていないのか、佐久間の背中に、隠れてしまった。
「おいおい、腫れ物を見るような、扱いをしないでくれ。この少年は、前途ある、有能な部下だ」
根本は、満更でも、ないようだ。
「お前って、奴は。千春ちゃんにも、相談もせず、またいきなり決めてきて」
「それは、大丈夫よ。空き部屋は、まだあるし、今日は、真澄ちゃん、いないもの。いたら、騒がしかっただろうけどね」
「根本と申します。今日は、佐久間警部に、色々と、救って頂きました。本日より、お世話になります」
「根本くん、挨拶は済んだな?じゃあ、まず、一杯飲もう。皆、この若者に、乾杯だ!」
普通の晩酌が、歓迎会になり、無礼講で、会話が弾んでいく。
~ 一時間、経過 ~
根本は、やっと、この家の空気に慣れたようで、自分から発言するように、なっていた。
「今日は、良い日です。科捜研の方や、佐久間警部のような偉い方と、こうして僕が、お酒を飲めるなんて、午前中まで、想像も出来ませんでした。いつ、送致されるのか、不安で、押し潰されそうでした」
全員が、既に、酒が回っている。
「何を言ってるんだ、仕事を離れれば、同じ男だ。年齢も、肩書きも、関係ないさ」
「そうだぞ、俺たちゃ、ただの、中年親父だ」
「はあ、そうなんですか」
「ところで、何故、お前は、佐久間に見初められた?素面の佐久間は、観察力というか、洞察力というか、警視庁でも、鋭くて、有名だぞ。おい、佐久間、そこら辺は、どうなんだ?」
くだを巻く氏原に、酒を注ぐ佐久間は、苦笑いする。
「氏原、質問は、どちらかにしろ。…そうだな、根本くんを、初めて見た時、『直感で分かった』というか、『気になる部分』が、確かにあったな」
(------!)
「隠しているつもりは、ないのですが、やはり、怪しいですか?」
少し、落ち込む素振りを見せる根本に、佐久間は、発言の意味を、説明する。
「怪しくは、ないさ。そうだな、不正接続で、捕まったと言っていたが、私利私欲で、手を染めていたのでは、あるまい。直感なんだが、こう、何か、根本くんは、訳ありのような、気がしてな。長年、刑事をしていると、何となく、それが分かるんだ。私利私欲で、犯罪に走る者と、大義のために、仕方なく、犯罪に、手を染める者をね。根本くんは、明らかに、後者の匂いがしだんだよ。誰にだって、言いたくない、事情の一つや二つはある、あえて聞かんさ」
(------!)
根本は、佐久間の、懐の深さに、思わず涙ぐんだ。
「…父親の無実を、晴らしたいんです」
(父親?)
「何か、濡れ衣を着せられたのか?」
「……はい。父は、江東区で、中規模ながら、事業を営んでいました。しかし、一昨年の春に、突然、身に覚えの無い、脱税容疑と収賄容疑で、国税庁に捕まり、廃業しました。ちょうど僕は、IT企業でシステム開発をしていて、父が誰かに、復讐サイト経由で、嵌められた事実を掴みました。変な話ですが、自分が開発しているシステムで、父親の濡れ衣を、知ったんです」
「そうだったのか。それで、父親の無実は、晴らせそうなのか?」
「それが、相手の方が、上手でして。自分が、システムツールを駆使して、不正接続した途端、待ち構えていた、国税庁に捕まりました。そして、その後は、佐久間警部の知るとおり、警視庁に、身柄を移され、拘留されました。…つまり、自分は、罠に掛かったんです。敵は、父親だけではなく、僕のことも、知り尽くしていて、手を打たれたんです」
千春は、首を傾げた。
「そもそも、何故、国税庁が、待ち構えていたのかしら?だって、お父さんが逮捕されたのは、一昨年でしょ?あなたが、不正接続したのは、最近なのよね?どうやって、その時期を知ったのかしら?」
「いつの時点で、不正接続しても、IPアドレスを、凍結されたでしょう。相手は、父親を嵌めた時点で、ほとぼりが冷める頃、誰かが、真相を探ると予想して、手を打っていた」
「ITの世界は、良く分からないが、相手の素性に関係なく、嵌めたりするのかな?」
「株式と、一緒ですよ。売り注文をするタイミング、買うタイミング。偽情報を、仕掛けるタイミング。要は、どこまで、先読みが出来て、相手に仕掛けるか。僕が、些細なミスで、相手の力量を見破り、尻尾を掴むため、父親を嵌めた国税庁に、不正接続した。父を嵌めた者は、僕が、不正を調べるだろうと、蜘蛛のように、網を掛け、ひたすら待った。そして、犯行の瞬間に、IPアドレスを抜き取り、凍結して、警視庁捜査二課に、僕を売った」
「正に、完璧な脚本だな」
氏原たちも、黙って、当時の状況を、想像している。
「捕まる際、捜査二課に、心情を訴えなかったのか?」
「話したところで、現行犯だったから、どうせ、信じて貰えません。でも、いつの日か、父親の無実を証明し、犯人を突きとめます」
(………)
「ちょっと、待てよ。捜査二課も、おかしいぞ。国税局から、密告を受けた時点で、通報者の素性を、疑わなかったのか?捜査一課なら、両方の言い分を、公平に調べるがね」
「今は、社会的規範の、時代ですからね。一般企業でも、通報者は、立場が悪くならないよう、配慮される。警察も同じだと、思っています。だから、そこの部分は、気にしていませんよ」
「科捜研からすると、警視庁は、そこまで明るい組織には、見えんが。なあ、佐久間くん?」
佐久間は、苦笑するしかない。
「根本くん、君は、どんな底力を持っている。捜査一課では、あまり聞けなかったが、自宅なら、話してくれても、大丈夫だ」
根本は、照れ臭そうに、答え始めた。
「何でも、出来ます。戸籍の、バツイチの、バツを取って、未婚扱いにしたり、銀行口座の預金を、他人名義に移すこと、完全に消去された、データを復元すること、幾重もの、罠を仕掛け、システムダウンさせること、ハイジャックを妨害する、電波を出すこと、ドローンを使った遠隔操作や、電波塔の破壊工作。出来ないのは、人殺しです」
「その気になれば、何でも出来るとは、そういう事か。いわゆる、麒麟児だな。ちなみに、君のような、能力を持つ人間は、沢山いるのかな?」
「そうですね。日本中を探せば、片手くらいは、存在すると思います。僕の知る限り、何名かは、暴力団に知恵を貸して、大儲けしたり、特定分野の世界で、張り合っていますよ。でも、そこまで、あからさまに、犯行を行ったら、まず、理性が崩壊するし、人では無くなります。そこそこ、金持ちになる程度しか、能力を使わないでしょう」
「根本くんは、それだけの能力、試した事があるのか?…いや、今の質問は、止そう」
根本は、自分を知ろうとする、佐久間に好意的だ。
「いいえ、佐久間警部になら、何でも、お答えしますよ。家族に誓って、そこまで、非道な事は、していません。自分の能力を試したくて、名が売れているハッカーを、手玉に取ったり、破壊工作を仕掛けた者の、妨害をした事はあります。あと、国交省、農水省、防衛省、県庁などの、官公庁サーバーへ、侵入出来るか、試した事があります。でも、それ以上は、良心が痛むので、サーバーへ入ったら、直ぐに出ましたので、被害は出ていないと、思います」
「……そうか、良心の呵責が働いて、良かったな。……ん?」
(------!)
「どうされました?」
「ちょっと、待ってくれ。さっき、『完全に消去された、データを復元する』って、言ってなかったか?」
(………?)
「ええ、出来ますよ」
「例えばだ、JR浜松町駅で、防犯カメラ画像を、何者かに消去されたが、それを、元に戻せるのかい?」
「勿論です。正確には、完全な消去など、物理的に壊さない限り、あり得ません。人間の目に、見えないだけですよ」
佐久間は、事の経緯を、根本に説明すると、根本は、自前の関数電卓で、計算を始めた。
「ふんふん、なるほど、そんな事件が。…そのデータが、消去されたのは、いつ頃か分かりますか?」
「半年前だったと思う」
「……カチ、カチ、カチ、カチ。警部さん、まだ、間に合うかもしれません。おそらく犯人は、消去したと、見せかけているだけです。実際は、見えない媒体がまだ残っていて、防犯カメラの画像が、上書きされるのを、静かに、待っている。鉄道駅の防犯カメラは、その映像を、何年も保管しません。半年ほどの周期で、上書きするので、それをされたら、流石に、復元は出来なくなります」
(------!)
(------!)
「おい、佐久間。俺も、連れていってくれ。科捜研には関係ないが、その能力を、見てみたい」
「ああ、そうだな。根本くんのおかげで、真相に、近づけるかもしれない」
「警部さん。すっかり、酔いも醒めました。僕も、何か、お役に立てそうです」
佐久間たちは、歓迎会を中断し、根本に、これまでの見えない敵、田所英二の事を話すと、根本は、『うんうん』と、頷きながらも、時折、深く首を傾げる、素振りを見せた。
「…それは、間違いなく、Tor中継システムを使ってますね」
(流石だな)
「捜査二課の見解も、一緒だよ。捜査二課の話では、そのシステムで、『仮想通貨を、海外銀行経由で使用されたら、足取りを追えなくなる』と、言っていた」
(………)
「通常のやり方では、そうなるでしょうね。でも、僕なら、その被害者から、発信元まで、足取りを掴めるかもしれません。こうみえて、このシステムには、かなりの自負があります」
「では、追ってくれるか?」
「勿論です。人生を救われたんです。恩返しを、してみせますよ」
「では、明日から、色々と迷惑を掛ける。氏原、お前もな?」
「ああ、俺の鑑定も、役立つかもしれないし、そろそろ、反撃に出ようぜ」
こうして、反撃の狼煙があがる。