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誰がために鐘は鳴る  〜佐久間警部の推察〜(2024年編集)  作者: 佐久間 元三
誰がために鐘は鳴る
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九条大河の小説(2024年編集)

 ~ 東京都 府中市 ~


「宣戦布告は、終わったようね」


 背後から、聞き覚えのある声がする。


「よく、府中市の公園(この場所)が、分かったね。それにしても、今日は、尾行したつもりが、尾行される日でも、ある訳だ」


「佐久間警部の行動は、何でも、お見通しだわさ。って、千春さんに、教えて貰ったんだけどね」


(千春は、行き先までは、知るまい)


「今の君は、どちらで呼べは?」


「今は、九条大河(作家)ではなく、川上真澄(本名)で良いわ」


「では、川上真澄。千春に聞いた後、捜査一課に行ったのだろう?…課長も、よく分かったな」


 川上真澄は、クスッと笑った。


「あなたが、特命捜査対策室に潜った事で、安藤さんは、勘付いたみたいよ。菊池利浩を逮捕したのは、課長さんだって、言うじゃない。私が訪ねたら、行き先を教えてくれたわ。『佐久間のことだ、菊池利浩を追って、府中市に行くはずだ』ってね。でね、安藤さんから、一言だけ、伝言を頼まれたわ」


「課長から?」


「うん。『いつも、すまない』って。頭を下げてたわよ」


(………)


「あの事件は、実は、表立って、動かなかったんだ。課長が、張り切って、陣頭指揮していたし、私も別の事件を追っていたからね」


「ふーん、そうなんだ。それにしては、菊池利浩は、あなたの事を旦那と呼んだり、随分と、知った仲だって、感じがしたのだけど?手錠を掛けたのは、安藤さんなんでしょう?」


「その通りだよ。だが、逮捕前までの、行動の科学分析(プロファイリング)は、私がしたんだ。その事を、菊池利浩は、何故か、知っている。そして、菊池利浩とは、過去、何度か、接点がある。運命とは、皮肉なものだよ」


「まあ、少なからず、そういう関係性もあるわさ。今日は、この前、電話で話した小説を、渡そうと思って、千春さんを訪ねたの。ねえ、極力、捜査の邪魔をしないから、取材しても良いでしょう?」


 川上真澄は、ほくそ笑んだ。


(………)


「その様子だと、課長の許可を、得ているな?」


「ふふふ、当たり」


「では、断る理由はないよ。今日は、自宅(うち)に泊まるのだろう?」


「ええ、甘えるつもりよ。千春さん、『今夜は、ジンギスカンにする』って言ってたわ」


「じゃあ、早速、戻ろうか。氏原も呼んで、皆で食べよう」



 ~ 都内 佐久間の自宅 ~


 佐久間たちが、府中市から戻ってくると、氏原が、千春と晩酌を始めている。


「待たせたね、申し訳ない」

「千春さん、ただいま」


「良かった、ちゃんと、会えたようで。待ってたわ」


「いつも、お前は、唐突に誘うよな?独身貴族じゃなきゃ、こうも簡単に、来られんぞ?今日は、府中市に、出張ったんだってな?」


「ああ、その事で、氏原の意見も、聞いてみたくてな。九条大河(先生)も揃ったし、たまには、一緒に飲みたくてね。ちなみに、今日の話題は、守秘義務にあまり抵触しないから、千春が聞いていても、大丈夫だ。千春からも、意見が聞きたい」


「あら、珍しい。じゃあ、素人の意見として、聞いて貰うわね」


 酒が進み、府中市の件について、会話が弾む。


「……へえ、そんな過去が。闇が、深いねえ。佐久間、本当に、菊池利浩が、犯人で間違いないのか?物的証拠も、状況証拠も揃ってないぞ。真澄ちゃんも、同意見かい?」


(………)


 川上真澄は、首を横に振った。


「私は、半々って、ところかしら。ただ、佐久間警部(この人)には、私と違う景色が、見えていると思う。宣戦布告(ここ)からは、私の小説と違う点。ねっ、千春さん」


「真澄ちゃんの小説だと、刑事訴訟法の一事不再理で、犯人は無罪。そして、犯人が、死の直前に、ほくそ笑んで、真相を語り、物語は終わる。ホームズの惜敗って、ところかしら」


「そうなのよ。だから、書いた作者(本人)が言うのだけれど、何て言ったら良いのかな、起承転結の『結』がね、物語的に、腑に落ちないって、言うのか、満足出来ないって言うのか、納得がいかないのよ。それで、販売を見合わせたの。執筆の途中までは、中々、良い作品だと思ってたのに、完全に、行き詰まったわ。天下の佐久間警部、感想を聞かせて」


(………)


「そうだな、このままでは、ホームズは完敗だ。打つ手がなくなり、まんまと、犯人が逃げ切る形でね。でも、この小説のおかげで、二つ、妙案が生まれたよ。やはり、九条大河作品だ。切れがある」


(------!)

(------!)

(------!)


 全員が、顔を見合わせた。


「おい、佐久間、勿体振らないで、教えろ。この後、お前は、何を、どうする気だ?俺は、宣戦布告の話を聞いた時、相手を動揺させて、『捜査するから、周囲に気を配れよ』と、圧力を掛けておいて、行動を御しながら、相手がボロを出すように、仕向けるのだと、思ってるんだぞ?」


 佐久間は、微笑する。


「それは、プランAだね。宣戦布告して、菊池利浩が、どのような行動に出るかを、監視して、先手を打っていく手は、常套手段だ。このプランAは、既に、動いているよ」


(------!)


 川上真澄は、驚いた。


「あの時、話掛けたのは、私だけだった。既に、手を打ったというの?」


「このプランAは、特命捜査対策室(特捜室)で、練った作戦だ。菊池利浩は、小さな橋を渡った。声を掛ける前、欄干の側に、一名配置しておいた。菊池の自宅近くに、空き家があったので、契約しておいたしね。当面は、交代制で、監視していくつもりだ。人間というのは、策を講じている時は、自分が上という認識だから、気持ちに余裕があっても、人から見張られていると思うと、視野が狭くなるものだ。宣戦布告されたことで、菊池は、間違いなく、『監視され、捜査されている』と、脳裏をよぎるはず。正直、精神的に落ち着かないだろうし、何らかの行動に出るかもしれない。だが、百戦錬磨の菊池だ。並みの相手じゃない。耐えるのも、人並み以上だし、下手をすれば、何ヶ月も耐久戦になる。当然、菊池も、私の性格を知っているから、簡単に根をあげようないだろう。でも、それで良いのさ。足止め出来れば、御の字だ」


「本当に、知恵と我慢比べだな。どこまで、相手の心理を深く読むか。佐久間、プランBは?」


「皆、耳を貸してくれ。小声で話すよ、その方が、気分が出るだろう?」


「ボソ・ボソ・ボソ・ボソ」


 佐久間は、雰囲気を出すため、小声で、プランBを説明する。


 全員が驚きを見せる中、川上真澄が、大いに食いついた。


「これは、九条大河(作家の私)では、出ない発想だわ。流石は、我が好敵手(ライバル)ね。これなら、完全決着(ハッピーエンド)だし、私の小説にも、活かせるわ。こんな絵図を書けるとは、まだまだ、九条大河も、未熟ね」


「真澄ちゃんは、喜ぶかもしれないが、相当、設定条件(ハードル)が、高いぞ。科捜研(うち)だって、当時、科学的な立証を、出来なかったんだ。当ては、あるんだろうな?」


 佐久間は、真顔で、氏原に詰め寄った。


「氏原、お前は、何を言っている?当ては、氏原が見つけるんだ。千春のジンギスカンを、腹一杯、食べただろう?それが、駄賃だよ」


(------!)


 全員が大笑いする中、当の本人は、頭を抱える。


「はああ、千春ちゃんのジンギスカンは、高いなあ。……とりあえず、学生時代からの人脈(ツテ)と、業務提携している機関を、総浚い(そうざらい)するか。千春ちゃん、君の亭主は、年々、人を使うのが、粗くなるな。一応、親友なんだけど、俺」


「氏くん、ありがとう、力を貸してね」


「礼は、いらん。来世は、佐久間ではなく、俺を選んでくれ。良いだろう、佐久間?」


伴侶(それ)は、千春が決めることだ」


「私が、感心するのは、もう一つの手ね。いつから、そう感じたの?」


「捜査整理しながら、ふと、思考が止まったんだ。『何か、おかしい』って直感が働いて、仮説を立てたら、しっくり来たんだ」


「ふーん。じゃあ、明日から、一対一(マンツーマン)で、行く末を、見届けさせて頂きます」


「私の見立ては、三ヶ月~半年程、掛かるがね。円満解決といこうじゃないか。明日の捜査会議では、捜査二課にも、声を掛けて、引き続き、連携していく。その時に、九条大河(先生)も、捜査協力者という体で、紹介するから、ぜひとも、捜査に加わってくれ」


「楽しみだわ。生の捜査を見られるなんて、滅多にないから、貪欲に行くわよ」


「良かったわね、真澄ちゃん。旦那をよろしくね」


「任せて、千春さん」


「あーあ、俺だけ、過酷かよ。佐久間、覚えておけよ」


「氏原にしか、出来ない事案だ、頼んだぞ」


 晩餐は、深夜まで続いた。

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