表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/41

土谷智洋の母校(2024年編集)

 ~ 東京工業大学 ~


「警部、おはようございます。やはり、他殺ですか」


 佐久間より、連絡を受けた、捜査課長の安藤が、山川を、応援に向かわせた。


「おはよう、山さん。先程、土屋知洋の部屋で、水銀が検出されてね。父親にも、捜査了承を得たばかりだ」


「東京工業大学に、何か、手がかりが?」


「ナオという女性が、在学しているかは不明だが、交友関係を調べてみよう。建築科三年だそうだ。まずは、教務課に相談してみよう」


 佐久間たちは、守衛に、警察手帳を提示すると、教務課へ案内された。


「本日は、どのような、ご用件でしょうか?」


(まだ、公にしていないからな。まあ、当然だろう)


 佐久間は、大学側が、過度に反応しないよう、ゆっくりと説明する事にした。


「実は、昨日、東京工業大学(この学校)に在籍中の、土屋知洋さんが、他界しました。司法解剖中ですが、他殺の線で、交友関係を調べていましてね。土屋知洋さんの友人から、心当たりがないか、事情を伺ってみたいのですが」


(------!)


「土屋知洋さん、ですか。…確かに、当学の建築科三年ですね。担当教授に、至急確認を取りますので、そのまま、お掛けになって、お待ちください」


東京工業大学(うち)の生徒が、事件だって?」

「殺人事件らしいよ」

「土谷智洋って、知っているか?」

「いや、これだけ、人数が多いんだ。分からんよ」


 教務課の中で、他の職員が、動揺し始める中、受付の男性職員は、努めて冷静に、連絡を入れる。


 十分後、土谷智洋の担当教授が、血相を変えて、やって来た。


近藤研究室(うち)の土屋くんが、亡くなったって、本当ですか!先週の講義では、あんなに元気だったのに、信じられません!」


「警視庁捜査一課の、佐久間と山川です。市販の解毒鎮痛剤と、アルコール多量摂取で昏睡し、救急搬送されましたが、昨日、亡くなりました」


(------!)


(土屋くんが、飲酒を?)


土谷智洋()は、酒を飲めない。近藤研究室(ゼミ)の飲み会でも、ジュースを飲んでいましたから。挨拶が前後して、すみません。担当教授の、近藤と申します」


(やはり、飲酒はしないか)


「近藤教授。捜査につき、憶測で申し訳ありませんが、土屋知洋さんに、付き合っている女性は、いませんでしたか?」


 近藤は、首を横に振った。


私的事項(プライベート)は、流石に、分かりかねます。交遊がある研究生なら、何か知っているでしょう。丁度この後、講義があります。講義後に、聞いてみたらいかがでしょうか?私から、捜査に協力する旨を、伝えてみます」


「よろしくお願いします。警察組織(我々)は、目立たないように、廊下の片隅で、待たせて頂きます」


 近藤教授は、講義を開始する前に、土屋知洋の死について触れ、教室は、一時騒然となった。教室内が、落ち着きを取り戻すと、『交遊がある者は、警察への捜査に協力して欲しい』と訴え、講義後、二人の生徒が、佐久間の元へ、やって来た。


「あの、土屋が、死んだって、本当ですか?」


 二人は、刑事を見るのが、初めてなのか、緊張の色を隠せない。


(殺人事件だし、刑事っていうものは、怖いというイメージがあるから、仕方が無いな)


 佐久間は、口調を改める。


「君たちは、タバコは、吸うのかな?」


「はっ、はい、吸いますが」


「おっさん達もだ。一服しながら、話さないか?先程から、無性に、吸いたくてね」


 喫煙所を案内されると、佐久間は、生徒が緊張しないよう、心掛ける。


「急な依頼で、すまないね。二人は、土屋くんと、よく遊んでいたのかな?」


「はい、アルバイトも一緒だし、よく買い物や、クラブで踊ったりしてました」


「クラブか、おっさん達の時は、ディスコだったな。マハラジャって、知ってるかい?」


「聞いた事あります、お立ち台で、ジュリアナですよね?」


「よく知っているね、土屋くんに、彼女は、いたのかな?一緒に、踊っていたとか?」


「ええ、いますよ。…って、あれは、彼女かな?お前、どう思う?」


「うーん、彼女と言えば、彼女だし。まだ、違うと言えば、違うし」


「何か、微妙な、言い回しだね。どうしたんだい?」


「土屋は、伊藤直美っていう、一緒にバイトしていた()に、夢中でした。何度も口説いて、やっと、デート出来たって、言ってましたから」


(伊藤直美。…ナオミ、…ナオ。おそらく、該当(当たり)だ)


「色々と、すまないね。良かったら、コーヒーも、飲むかい?」


「良いんですか!ありがとうございます」


 二人は、すっかり、緊張も解けて、気さくな佐久間に、心地良さを感じていた。


「同じアルバイト先だって、言ったね。君たちは、どこで働いているんだい?」


「居酒屋です。十五時から入ると、晩ご飯が、賄いで、安く食べられるから、人気なんです」


「それは、いつの時代も一緒だね。当時、貧乏でね、飯を食うのが、一番大変だった。ちなみに、居酒屋は、どこにあるんだい?」


「自由が丘です。純連っていう、居酒屋です」


「居酒屋、純連ね。自由が丘ってことは、山さん、ここから、どのくらいだい?」


「自由が丘駅なら、東急大井町線ですから、大岡山駅から二駅ですな」


(近いな)


「君たちは、伊藤直美っていう、女性のことは、どのくらい知っているのかな?仲は良いのかい?」


「今年の初めから、一緒です。すらっと、華奢な可愛い娘ですよ。好みではないですが、土屋は、『一目惚れだ』って、言ってました」


「一目惚れか、あるあるだね。見てみたいな。伊藤直美(彼女)は、今日、アルバイトの日かい?」


「はい、シフトが入ってるはずです」


「そうか、色々とありがとう。喫煙所(ここ)で話したことは、四人だけの、秘密にしてくれないかな。近藤研究室(ゼミ)でも、話さないで欲しいし、近藤教授に聞かれても、世間話しか、していないと言ってくれると、助かるよ」


「そこまで、徹底するという事は、…あの、…伊藤直美が、犯人なんですか?」


(………)


「うーん、事情を知っている、知らないは、会ってみないと、何とも言えないかな。土谷くんのように、事件に巻き込まれる、可能性だってある。それを、おっさん達が、実際に会って、確かめるんだ。だから、悪戯に、周りが騒いでしまうと、伊藤直美(彼女)の、身の危険に繋がる事に、なりかねないから、決して他言しないと、約束してくれ」


「大人の世界ですね、分かりました。今日、刑事さんと話して、怖い人ばかりじゃない、って、よく分かりました。何か出来る事があれば、協力します」


「うん、ありがとう。その時は、助けてくれ」


 大学の敷地から出ると、山川が、満足そうな表情を見せる。


「警部、当たりですね」


「ここまではね。一つだけ、腑に落ちない点があるんだ」


「腑に落ちない?」


「土屋知洋は、飲酒しないって言ったね。救急搬送された時、市販の解毒鎮痛剤と、多量のアルコールを摂取していた。つまり、酒を飲まされたんだ」


「水銀で、あらかじめ、身体の自由を奪われていて、飲まされたのでは?」


 佐久間は、首を横に振った。


「藤田医師は、麻痺していたのは、右手だけだと言っていた。つまり、少しは、抵抗出来たはずだ。部屋を見る限り、アルコールが、溢れた形跡がなかった。無理矢理、摂取させるには、かなりの確率で、抵抗されるはずだから、到底、女性一人の力で、出来るとは思えないんだよ」


「つまり、協力者がいると?」


「おそらくね。とりあえず、伊藤直美が、居酒屋に現れたら、身柄を押さよう。念のため、日下たちには、建物の周囲で、待機するよう指示してくれ」


「分かりました、手配します」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ