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山川の尾行(2024年編集)

 ~ 東京都 港区 ~


「身元は、分かったかい?」


(------!)


 鑑識官が振り返ると、浜松町駅に向かったはずの佐久間が、いつの間にか、戻ってきている。


 少しばかり、肩で息をしている。


「どうしたんですか?」


「…ふう。色々と、状況が変わってね。この男を、詳しく調べる理由が出来た。身元が分かるものは、所持しているかね?」


「ええ、ここにあります」


 鑑識官は、ビニール袋から、財布を取り出し、佐久間に手渡した。


「……坂田利之、四十五歳。まだ、働き盛りなのに、不憫だな。免許証の住所は、…千代田区紀尾井町か。…ここから、近いな」


「そうですね、丸ノ内線の四谷駅ですから、直ぐに、着きますよ」


「死因は、飛び降りで間違いないか?他に、気になる点は、見られるかな?」


「今のところは、何も。遺書はなく、屋上の手摺りにも、誰かに押された形跡は、見つかりませんでした。自分から、飛び越えたようです」


「…分かった。君たちは、引き続き、現場検証を頼む。私の方で、自宅を調べてみよう。何か、新事実が出てきたら、直ぐに連絡してくれ」


「はい、了解です」


 佐久間は、捜査一課に連絡を入れると、既に、何度も連絡を取っているが、誰とも、繋がらないらしい。佐久間は、自分で直接、被害者宅に赴き、捜査する旨を伝えた。


(妻は、いないのだろうか?どちらにせよ、出来るだけ早く、直接伝えなければ、なるまい)



 ~ 千代田区 紀尾井町 ~


 四谷駅を降りた佐久間は、免許証に記載された、住所を訪ねた。上智大学から、程近い所に、所帯を構えていたようだ。


(場所が、分かりやすかったのは、助かったが、人の気配が、全く無いな)


「坂田さんなら、今の時間、誰もいませんよ」


(------!)


 近隣の住民だろうか?佐久間を、警戒しながら、近づいてくる。


「あんた、坂田さんの知り合い?」


「警視庁捜査一課の、佐久間と申します。坂田利之さんのお宅に、用がありましてね。お身内の方は、誰かいませんか?」


(------!)


「警察ってことは、坂田利之(あの人)、とうとう、逮捕かい?」


(とうとう?…どういう事だ?)


 近隣の住民は、興味津々で、佐久間の言葉を待っている。


「とうとう、と仰いますと?普段から、素行に問題でも、あったのですか?」


 近隣の住民は、嬉しそうに、


「悪いっていうかね、ここだけの話、よく奥さんに、暴力を振るってたね。この前なんて、窓ガラスが、割れて、皆で見に来たもの。で、やっぱり、逮捕したのかい?」


(………)


「実は先程、坂田利之さんが、亡くなりましてね。自宅に、電話を入れていますが、ずっと不在のようなので、伺った次第です。奥さんは、どちらに?」


(------!)


 住民は、驚きを隠せない。


「奥さんにでも、殺されたのかい?」


「いえ、自殺です」


(------!)


「いやあ、たまげた、自殺かあ。…死ぬような男には、見えなかったけどなあ。奥さん、離婚なんかしなきゃ、保険金を貰えたんじゃないの?」


(離婚した?)


「それは、いつ頃の話ですか?」


「…二ヶ月、いや、もっと前かな。何でも、旦那の会社宛てに、浮気した女の、全裸写真が届いとか、奥さんが、言っていたな。『頭にきたから、離婚する』って、意気込んでいたからね」


(…痴漢疑惑に、浮気疑惑か。これはまた、事情がありそうだ)


「随分と、奥さんと、話されているようですが、他には、何か聞いていませんか?」


「……そうだねえ。坂田利之は、短気で、亭主関白だって、言っていたな。自分よりも、三歩くらい、後ろに下がって歩け。自分よりは、先に寝るな。食事は、栄養バランスを考えて作れ。自分の電話には、最優先で出ろ。とか、愚痴っていたよ」


「よく聞く、亭主関白の典型ですね。奥さんが、逃げたのも頷けます。他には、どうですか?」


「…いつも、旦那とは、早く別れたい。とぼやいていたな。愚痴以外は、聞いたことないな」


(………)


「そうですか、では、奥さんを探してみます。情報提供、ありがとうございます」


 佐久間は、事情を話した住民に、坂田利之の死に関して、周囲に公表しないよう依頼して、その場を後にする。


(口止めしても、守秘義務が無いからな。住民の、あの性格では、今日の内にも、広まるだろう。盗難対策を執っておくか)


 佐久間は、住民から姿が見えないところで、捜査一課に電話を入れ、坂田利之の自宅警備と、勤務先の照会、肉親の調査を指示しつつ、戻ることにした。



 ~ 一方、その頃、東京都 台東区 〜


 小林かな子の後を追い、山川は、台東区の浅草寺に来ている。


 小林かな子は、浜松町駅で、誰かと電話した後、そのまま、山手線で東京方面に乗った。


(どこに行くんだ?東京から、地方に行くとは思えんが)


 神田駅で、下車した小林かな子は、東京メトロ銀座線に乗り換え、上野方面に向かう。


(…上野方面に向かうのに、わざわざ、神田で乗り換えたってことは、……浅草か)


 山川の読み通り、小林かな子は、六駅先の浅草駅で下車すると、商店街に向かっていく。時折、周囲を警戒するかのように、見回す仕草は、明らかに不審だ。


(怪しいな、何を探している?)


「山川さん、やっと、見つけましたよ」


「おお、お疲れさん」


 浜松町駅で、連絡を受けた日下と、尾行を交代する。


「日下、あの事件対象者(マルタイ)は、小林かな子と名乗っていたが、偽名かもしれん。気をつけて、尾行してくれ。かなり、警戒しているから、ひょっとして、浅草寺(この)付近で、誰かと、落ち合うかもしれない。浜松町駅で、逃げた男がいる。監視カメラの写真を貰ったから、よく見ておけ。見かけ次第、身柄を確保するんだ」


(………)


「どこにでも、いそうな、面構えですね。この男が、主犯格なんですかね?」


「どうだろうな。ただ、小林かな子と、共犯者(グル)とみた。共犯者なら、必ずどこかで、接触するはず」


「それなら、この商店街は、怪しいですね。人混みで、接触は容易でしょう」


 正に、その時。


(------!)


「山川さん、あれ、違いますか!」


 三十メートル前方の骨董店で、物色している小林かな子の元へ、フード姿の男が近寄る。何となくだが、写真の男に似ている。小林かな子は、胸元から、紙切れのような物を取り出し、手渡している。


(やはり、共犯だったな。状況証拠は押さえた。後は、物的証拠だ)


「日下、お前は、小林かな子を確保しろ。俺は、フード男の方を、確保する」


 山川たちが、飛び出そうと、踏み出した時、小林かな子の携帯電話が鳴り、状況が一変する。


 瞬時に、山川たちに視線を向けると、一斉に、離散していく。


(------!)

(------!)


「勘付かれた、追うぞ!!」


 二手に分かれ、執拗に追うが、人混みと路地裏の地形が、行く手を阻む。追った数秒後には、完全に、二人の前から、姿を消したのである。


「はあ、はあ、はあ、山川さん。すみません、逃げられました」


「はあ、はあ、俺もだ。まんまと、やられた」


 山川は、下唇を巻き込んで、噛むような仕草を見せると、


「日下、もう少し、周囲を探してみてくれ」


「了解です。山川さんは、どうされますか?」


「……俺は、この不始末を、佐久間警部に報告してくる」


「了解です」


(…警部、申し訳ありません。…自分が、付いていながら)


 側の暖簾が、揺れることに、気付けない二人であった。

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