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「私の固定砲台になってください!!!」
と、双子の妹に土下座されたのは夏休み初日のことだった。
「良いよ」
「良いの!?え、嬉しいけど良いの!?」
「葵がなってって言ったんじゃーん」
よほど嬉しかったのか、私の手を取ってくるくると周り始めるのに合わせて私も回…
回ろうとして足をひねった。
「あっごめん。でもね、その綾の運動音痴が今回は役にたつと思って!」
「え、もしかして…やるのってVRMMO?」
VRMMO、近年めちゃくちゃ技術の発達したゲームジャンルの一つだ。
実際にファンタジーな世界を体験できるということで、ゲーム好きな私としてはすごく楽しみだったのだが、問題があった。問題しか無かった。
私はめちゃくちゃ運動音痴だ、筋肉の動かし方が下手というのもそうだし、動体視力も無ければ反射神経もない。とにかく酷い。
現実だと運動音痴でもゲームの中なら動ける、という人は甘えなのだ。
真の運動音痴はゲーム内のアバターの動く早さについていけずに素っ転ぶのだ。
熱く語ってしまったがつまり、私のことをよく知っているはずの妹がそんなことを言って来るということは何か良い方法を見付けたに違い無い。
「あのね、今度新しく出るゲームが初期に割り振るステータスによって伸びるステータスが変わるタイプなんだけど、限界までステータスを削ったら多分、綾の普段の感じと同じくらい遅いと思うの!しかも初期に振れる値がかなり多いからその分極降りしたら…」
喜色満面だが遅いと思うの!って酷くない?
妹は嬉しそうにいかに合っているかを喋っているけど、とりあえず言われた通りにステ振りするから値だけ教えて、と言って私は端末で箱庭ゲーを立ち上げるのだった。今イベント中なんだよね、収穫するだけだから基本見守ってれば良いんだけど。
箱庭ゲーは良いぞ、こっちの運動能力関係ないからね!
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そんなこんなでリリース当日、チュートリアルの綺麗なお姉さんのAIにSTR、AGI、DEXを15以下に設定した場合の注意事項について説明をされ、10以下にした場合の警告をうけたがそんなもの無視である。
そして言われた通りにステ振りしたのがこちら。
ムイ Lv.1
HP 5
MP 294
STR 1
INT 197
DEF 4
MDEF 1
AGI 1
DEX 1
LUK 7
スキル
火魔法 Lv.1
ファイアボール
隠密 Lv.1
ハイド
装備
初心者の杖
初心者のローブ
細かいことは聞き流していたのでよく分からないのだが、乱数で成長する値がどうのとか、地面から受けるダメージに耐えられるDEF値がどうとかでこういう数字になっているらしい。
平地で素っ転ぶと言いたいのか、まぁ転ぶけど。
残った値は全てintに突っ込んだらMPがすごいことになった。レベル1のMP量じゃないなこれ。
武器と防具を一個づつもらい、初期転移場所を王都の時計塔前に設定してスタートすれば、広がるのは可愛らしい雰囲気のあるレンガ造りの町並み。
完全没入型のVRはあまりやらないので、グラフィックの綺麗さに少し見とれてしまった。
と、いけない、ここは他の人も転移してくるんだ。
少し端にズレて妹を待っていれば、すぐに彼女はやってきた。
「身長も体格も変えてないっぽいね、偉い偉い。ただでさえ運動音痴の…ムイ、が現実と変えたりしたらヤバいもん絶対」
と、プレイヤーにだけ分かる頭の上の文字列を読み上げて言う。
この前から失礼だなこの妹は。
「それで、この後はどうすれば良いの?えっと、クッカ。」
「東に草原があるんだけど、そこでレベル上げながら森に行こうと思います!」
「おっけー」
そうして、私の固定砲台ライフが始まるのだった。
読了ありがとうございました
初心者の杖 INT+3
初心者のローブ DEF+1 MP+1
反映後の値です。