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8話 赤龍庵

 翌日、南国へと到着した。

『白』属性には空間に関する能力がある。

 膨大な魔力量を必要とするため一日一度しか行えないが、空間転移を行うことが可能なのである。


「うわー……一瞬で着いちゃいましたね。便利過ぎませんか空間転移」


 ココノハが羨ましそうにこちらを見てくる。


「その分、制約が多くてな。そもそも先天守護属性が『白』の人間はごく僅かだ。大量の魔力も消費するから、扱えるのは片手で数えられるくらいだろうな」


「まあそうですよねー。そんな美味しい話はないですよねー。しっかし、暑いですねここ。近くに海とかないんですか?」


 強い日差しに照らされて、額から汗が流れてくる。水の中に入って涼みたいと思う気持ちはよく分かる。


「ここは山の方ですから、残念ながらすぐ近くにはありませんわね。半日ほどの距離に海と砂浜がありますから、そこでなら海水浴が出来ますわ」


 リアの言葉にココノハはがくっと項垂れる。


「あー……うー……。今から半日も掛かると夜になっちゃいますね。そうだ、ねえねえホシミさん。この件が終わったらみんなで海に行きましょうよ!」


 私の腕を引っ張って、うみーうーみーと駄々をこねるココノハ。

 そんな彼女の頭を軽くぽんと叩く。


「全部終わったらな」


「わーい」


 くるくると回るように跳ねて喜びを表す。何故そこまでと思ったが、そういえば彼女はもともと海を見に行く途中で事故に巻き込まれたのだった。

 リアは喜ぶココノハを見てくすくすと笑っている。


 楽しいことが大好きで自由なくせに、冷静な思考力と状況判断力を持つココノハ。心なしか彼女が来てから、私の周りが一層賑やかになった気がする。


「ほら、危ないからあまりうろちょろするな。まずは宿を取るから荷を下ろしたら調査に行くぞ」


「はーい」


 子どもを窘めるような口調になったが、素直に返事をして側まで戻ってくる。


「どの宿にするか決めておりますの?」


「いやまだだが」


 正直、眠るだけの拠点としか考えてなかったのでどこでも良いと思っていたのだが。


「でしたら、一度行ってみたい場所がありましたの! そこにしませんこと? 道は覚えております。こっちですわ!」


 リアが目を輝かせて私とココノハの手を引いてどんどんと歩いて行く。

 リアが泊まりたい宿とはなんだろう……?





 ーーーーーー






 南国では木造建築が一般的である。

 辺りが山であるため、材料となる木材に事欠かないのが大きい。

 しかし、目の前にそびえ立つのは、こちらでは珍しい煉瓦と石を用いた建物だった。

 それはいい。こちらでは珍しいとはいえ、まったく無い訳ではない。

 問題は別のところにある。


「なぁリア」


「如何なさいました?」


 首を傾げるリア。

 リアの顔を見て、建物を見て、また彼女の顔を見る。


「デカすぎるだろう。なんで王宮並みに大きいんだここは」


 そう、デカいのだ。高さこそ二階建てのようだが、敷地が無駄に広い。ぱっと見で本館と、本館に繋がっている別館が三つ見える。少し小さめの別館はおそらく従業員用なのだろう。


「とある貴族が山を拓いて別荘として作ろうとしたそうなんですの。ですがその方が急に亡くなられてしまいました。別荘は途中まで作られていたのですが、遺族の方が要らなくなったのか売り払ってしまってそれをシィナが買いましたの。ただ、買ったはいいのですけど、その時はもう既に塔で暮らしていましたし、住むことはないだろうということで、『なら折角だから旅館にしてしまおう!』ということになりまして」


 つまりこの建物は……。


「シィナのものなのかこれ……」


「そういうことになりますわね。もっとも、経営は信頼できる方に任せているそうですけれど」


 南国の姫君は旅館を資産として持っていました、と。

 本当、お金持ちの考えることはよく分からん。


 入り口に目を向けると、『赤龍庵』という文字。

 ココノハは豪華な旅館に目を輝かせていた。


「はぁ……。まぁ、ココノハも気に入ったようだしここにするか……」


「はいですわ! 早速参りましょう!」


 門を潜り、受付で宿泊の手続きをする。

 二階の部屋の西の大部屋を借りることになった。


「まさか一部屋だけしか空いていないとは。思ったよりも繁盛しているようだな」


「赤龍庵名物の天然温泉のおかげかもしれませんわね。様々な効能があるとかで湯治客も多いそうですわ」


「へー、温泉あるんですか。いいですね入って癒されたいですよ」


 赤龍庵と温泉の話をしながら通路を歩いて、案内された部屋へ入る。

 室内には、独特だが不快ではない匂いが充満していた。


「おおー! 広いですね! ベッドがないのはちょっと残念ですけど」


 ココノハが部屋の感想を述べる。


「ここはベッドはないんですのよココノハちゃん。西の国から取り寄せた『畳』というものの上に布団を敷いて、みんなで眠るのです」


 リアは靴を脱ぎ、畳の上に乗って荷物を置く。

 ココノハもリアに倣う。


「みんなで眠るんですか。なんか普段と違うと旅行って感じがして楽しそうです!」


「ふふっ、そうですわね。それでホシミ様。これからどうなさいますか?」


 今後の行動方針について尋ねるリア。


「ひとまず、市場で買い物でもしながら話を聞いてみよう。戦争の噂が出ているなら物価にも影響が出ているかもしれない」


「かしこまりましたわ」


「分かりました」


 二人は了承の意を伝える。

 私も荷を下ろし、必要な物だけを持つ。

 全員の準備が整ったのを確認して、市場へと出かけるのだった。



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