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64話 隠密クルルからの情報

「クルル、少し良いか」


 森精種(エルフ)の二人との入浴を終えた私は、リビングで足を伸ばしてゆっくりとしているクルルに話しかけた。クルルは私に気付いて、琥珀色の瞳を向けてくる。


「もうお風呂は良いのですか…にゃ?」


「ああ。それよりも、クルルが今まで何をやっていたのか知りたい」


「はいですにゃ。元々話そうと思っていましたので、ちょうど良かったです…にゃ」


 クルルが姿勢を正して椅子に座ると、私も正面に向かって座る。

 ちょうどその時に、ココノハがリビングにやってきた。


「あ、ホシミさん。もう上がったんですね。ちょうどご飯が出来ましたよ。ところで、あの二人は?」


「あの二人とはフューリとユニステラのことか? それならまだ大浴場にいるだろう」


「そうですか。じゃあちょっと呼んできますね。もう少しだけ待っててくださいね」


 そう言ってココノハは大浴場に向かっていった。どうやら先のフューリの暴言はとうに流したようだ。あれでココノハは賢い。彼女らが直接的な行動に及ばない限りはココノハも手をあげることは無いだろう。

 改めてクルルに向き直ると、そこには風呂に行く前には居た人物の姿が無かった。


「……そういえばリアは?」


 クルルと一緒にリビングにいた筈だが、何処に行ったのだろうか。クルルに尋ねると、すぐに答えをくれた。


「リアならユキユキとシィナのところに行きました…にゃ。やっぱり子どもが好きみたいです…にゃ。ちなみに、『わたくしも早く子どもが欲しいですわ』って言ってから出て行きました…にゃ」


「そ、そうか……」


 リアはさっきは私の代わりに怒ってくれたし、お礼に望みは叶えてやりたい。しかし子どもか……。何度も言われているし迫られてもいるが、正直龍人(ドラゴニュート)の出生率の低さを舐めていた。結構長い付き合いだが、なかなか恵まれないものだ。

 まあ、実際に言われてから対応すれば良いか。まずはクルルから話を聞いておかなければ。


「じゃあクルル。頼む」


「分かりました…にゃ。私はユキユキの出産を見届けてから、すぐに様子を見ておきたかった場所へ出向きました…にゃ。隠すことでもないので正直に言いますが、その場所はシンですにゃ」


「……」


 シン国。只人(ヒューマン)至上主義を掲げ、他種族を排斥する国家である。

 つい最近も動きがあり、国境付近にあった獣人(ビースト)の村を焼き払い住人は弄んだ後で皆殺しにしたのだ。笑いながら陵辱と殺戮を繰り返す様を見て、嫌悪感を抱いたのは言うまでもない。


「シンが何処かへ攻め込もうとしているのは何となく知っていましたにゃ。私はその場所を特定する為にシン国に潜り込みました…にゃ。結果分かったのは、シンが森精種(エルフ)の集落を狙っていることでした…にゃ。あの娘たちを救ってきたのは、明日競売に掛けられると噂になっていたからですにゃ。森精種(エルフ)の奴隷は性奴隷としてかなりの高級品となっていましたから、嫌がらせも込みでちょっと攫ってきました…にゃ」


 そう言って、獣人(ビースト)の種族的特徴である耳と尻尾を隠す腕輪型の魔道具を振りかざす。

 黒属性の魔術の達人で、更に獣人(ビースト)として高い身体能力を誇るクルルなら問題にならなかったのだろう。ちょっと攫ってきたと軽く言えるのはクルルの凄いところだが、そうか、シン国を見てきたのか。


森精種(エルフ)の集落に攻め入るのは、やはり奴隷を集める為か?」


「おそらくは。女はなるべく生かして捕らえて男は奴隷用の一部を除いて皆殺しにする、なんて言ってましたから、その可能性はとても高いです…にゃ」


 クルルから伝わる内容に、どうしても表情が厳しくなる。

 今でこそ身体の構造自体違うが、私もかつては只人(ヒューマン)だった。彼らの愚かな行為のせいで他の善良な只人(ヒューマン)を貶める訳にはいかないのだ。

 それに多種族による共存が当然となっているこの世界でこのままシンを放置するのは、新たな火種を呼び込むことに繋がりかねない。


「それは……見過ごす訳にはいかないな。種族は違えど同じ人なのだ。どうもシンの連中はそうは思っていないようだが。そうか、よりにもよって森精種(エルフ)か……」


「何か問題があるんですかにゃ?」


 私の思わせぶりな言葉にクルルが反応する。が、首を横に振って答えた。


「いや。問題はないんだが……ついさっき二人ほど森精種(エルフ)を保護したばかりだからな。あの二人にどんな顔で話せば良いのやらと思ってな」


 ようやく奴隷から解放されて自由になったばかりのフューリとユニステラに森精種(エルフ)の集落が狙われているなんて伝えるのは気が引ける。

 ならば説明しなければ良いとは思ったが、彼女たちがシンから逃げてきたのを知って、一応伝えた方が良いと思った。

 彼女たちのような境遇の森精種(エルフ)が増えるのは、とても悲しむと思ったから。


「……主は優しいです…にゃ」


 クルルはとても穏やかな慈愛に満ちた瞳で私を見つめるのだった。

 クルルとは一番長い付き合いである。幾度も私の我が儘に付き合ってきてくれた。だから止めても無駄だということは理解しているのだろう。何も言ってこないのはその証左である。

 しかし慈愛に満ちた微笑みから一転、からかうような表情を向けてくる。


「そういえば、あの二人はもうお召し上がりになったんですかにゃ?」


「は?」


 クルルは口角を少し上げてこちらを見てくる。普段はあまりこういうことはしないのだが、どうしたのだろう。

 とりあえず私は何もやましいことはしていないのでありのままを話す。


「普通に身体を洗ってやっただけだぞ。少し話はしたが、後は何もしていない」


「そうなんですか…にゃ」


 一瞬すごく残念そうや表情をするクルル。すぐに表情を元に戻し、再び問いかけてくる。


「主、主。じゃああの娘たちが自分の意思で主を求めたらそれは応えますかにゃ?」


 男に良い感情を持っていないだろうフューリとユニステラがそんなことを伝えるとは思っていないが、もしその可能性があるのならば。


「そうだな……。それがあの娘たちの意思ならばな。無理強いはあまり好きではないんだ。というか、どうしてこういう流れになった」


 先ほどまでの重苦しい雰囲気とは打って変わり、今ではどこか締まりのない雰囲気が周囲を漂っているように思える。

 雰囲気を変えた元凶は、私のぼやきに当然と言うように答えてくれた。


「それは簡単です…にゃ。私もリアとおなじく、主のハーレムを作りたいのですにゃ。ユキユキを虜にした戦果もありますし、今度の二人も落とせるんじゃないかと」


 私が疑問に思ったことを、クルルは真顔で答えてきた。

 正直、ユキユキのことを言われると少し分が悪い。勿論後悔はしていないし、ユキユキはとても大切で愛している。産まれた子どもも可愛い。一度死んだりと色々あったが彼女と結ばれて良かったと思っている。

 だがクルルがユキユキのことを言うのはとても卑怯であると思うのだ。


「ユキユキのことはクルルがけしかけたのだろうに……」


 しかし私は苦し紛れの言葉を発するのが精一杯だった。



 そんなことを話していると、フューリとユニステラを連れたココノハが戻ってきた。

 フューリとユニステラは、龍人(ドラゴニュート)用に(あつら)えられた、翼を阻害しないように大きく背の部分が開けられ、下はミニスカートになっているメイド服を着ていたのだった。スカートがとても短いので私を気にしながら何度もスカートの位置を直している。

 リアが渡したのがメイド服だったとは思わなかった。というか、姫なのに何故持っていたのだろう。

 それは後で聞いてみるとして、フューリとユニステラの表情は、どこか締まりがないというか、恍惚として蕩けているように感じる。そしてココノハにとても熱い視線を向けているような気がした。


 対するココノハも、いつも以上に上機嫌のようだった。いったい何があったのだろう……。


「なあ、ココノハ。あの二人と何があったんだ?」


「んふふー、こればかりはホシミさんでも秘密です。でももう心配いらないですからね、あの二人はわたしがしっかりと飼い慣らしますから」


 ココノハは教えるつもりはないようだった。とても満面の笑みで私に語りかけてくる。

 そっとフューリとユニステラの二人に視線を向けると、相変わらずココノハを熱視線で見つめ続けていた。私の視線に気付くと、頬を紅潮させながら目を逸らし、何度もちらちらと見てくる。

 ───深く追求しない方が身の為だろうか。



 フューリとユニステラも風呂から上がってきたことで、私の部屋にいるリア、シィナ、ユキユキを呼んで少し遅い朝食となったのだった。


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