63話 フューリとユニステラ
美少女エルフとお風呂に入りたかった(欲望ダダ漏れマン)
星見の塔最上階、大浴場の間にやって来た。
良い思い出などないであろう、只人の男と一緒に入るというのに何故か森精種の二人がとても乗り気に見え、何とも言えない気持ちになる。
「二人の身体を洗えば良いのだろう、私はこのままでも構わないのではないか?」
身体を洗ったらさっさと退散しようと思ってそう言ったのだが……。
「ダメよ。それじゃ誘った意味がないもの」
「そうですよ。だから、諦めてくださいねホシミ様」
どうやら二人は逃してくれないようだ。
リアが用意してくれた新しい服を持って来ている二人は、ボロ布のような服をさっさと脱ぎ捨ててしまった。
身体を一切隠すことなく白い綺麗な肌を惜しみなくさらけ出すフューリとユニステラ。
二人は顔を見合わせてから一度頷きあい、いつまでも脱がない私に一糸纏わぬ姿でにじり寄ってきた。
「さあ、私たちの裸を見たんだからあなたのも見せなさいよ」
「ホシミ様ー、脱ぎ脱ぎしましょうねー。わたしもお手伝いしますからね」
「お前たちに恥じらいというものは無いのか! おい待てそれくらい自分で出来るこら服を引っ張るな!」
「恥じらいなんてとうの昔に無くなったわよ!」
「そういう訳なので観念してください!」
抵抗したが二対一では分が悪く、結局フューリとユニステラによって服が脱がされてしまった。
「……お、大きいのね」
「すごいです……」
「……ほら、さっさと入るぞ」
二人はやや頬を赤らめながらも目元を隠すことなく凝視してくる。
二人の一部分に向けられた視線を無視して先に浴場の中に入っていった。
大浴場とは、その名の通りである。最上階を丸々浴場にしてしまった大胆な設計で、動力は魔力だ。そのおかげでいつでも温かいし綺麗な湯が張られている。
大理石の床を歩いていくと、大きな黒曜石をくり抜いたものに湯が敷き詰められていた。
たったの六人……いや、双子を合わせて八人か。たったの八人しかいない塔にその倍は余裕で入れそうなほど広い風呂という、これこそまさに無駄の極致であろう。
余談だが、リアとシィナは毎日使っている。ココノハとユキユキは自室の風呂と半々ほどだ。クルルは塔にいる間は使っているが、最近はいないことの方が多い。
そんな大浴場に入ってきたフューリとユニステラは驚きの声をあげた。
「すごい……なんでこんなのが中にあるのよ……」
「まるで貴族みたいだね……」
大浴場を見渡しながら私の側まで近寄ってくる。
「それで、私をこうして一人にした理由はなんだ。まさか本当にただ一緒に風呂に入りたいだけという訳ではないのだろう?」
柔らかい布を石鹸を使って泡立たせながら告げると、二人は押し黙ってしまった。
「……さあ、どうかしらね」
小さな声でそう言ったフューリはシャワーの蛇口を捻り、身体をお湯でさっと洗い流す。その隣で同じようにユニステラも身体を流した。
「ほら、早く洗ってよ。私だけじゃなくてユニもいるんだから」
フューリは私に背を向けて早く洗えと催促する。私はため息を一つ吐いてからフューリの小さな背中に泡まみれの布を当てた。
「……」
「……」
「……」
誰も一言も発さない。私は黙々とフューリの身体を優しく洗っていく。背中をある程度終えると、今度は前を向いてきた。控えめな胸の先端がツンと立って生意気そうに自己主張していた。フューリの顔を見ると、まるで噴火する寸前の火山のように顔を真っ赤にしている。
恥ずかしいなら止めればいいと思ったが、フューリは途中で止める気はないようだ。背中と同じように優しく洗っていく。敏感なところに触れる度に艶かしい声をあげられるのは精神衛生上よろしくなかった。
「終わったぞ」
私がそう言うとフューリは下を指差した。
「まだ……足が残ってる」
言われるままに足を洗おうとして膝をつくと、視線の高さが極めてマズイことになっていた。なるべく意識の外に追いやってなんとか足を洗い終えると、シャワーの蛇口を捻ってお湯を出す。
「流すぞ」
「……うん」
身体に取り付いた泡を丹念に洗い流す。そして今度はユニステラにもフューリと同様に身体を洗ってやった。
ユニステラはフューリよりも胸が小さいことを気にしているようで、隠すことはしなかったが、胸の辺りを洗うときは熱視線を感じた。
二人の身体を洗い終えると、今度は髪もと言われたがそれは流石に自分で洗ってもらった。
髪を洗い終えた二人は湯船に肩まで浸かっている。髪は湯に浸からないように上に上げて纏めているようだ。ユニステラの髪は特に長いから大変だったろうに。ちなみに二人の顔が赤いのは湯が熱いせいだけではないだろう。
「これで満足か。なら私は戻るぞ」
精神的に疲れたのでさっさと戻ろうとしたのだが、そう簡単には許してくれなかった。
「まだダメ。一緒にお風呂に入って。早く。ほら」
「あの……お願いします」
いったい二人は何を思ってこんなことをしているのだろう。
森精種だけあって二人とも美人なのだが、今日会ったばかりで先ほどまでは敵意を剥き出しにしていた相手に一緒に風呂に入れとは……。
考えても仕方がない。聞いてみるしか答えはわからないのだ。
「何故こんなことをしたのか、説明してくれるのか」
諦めて湯船に浸かると、二人が会話がしやすいように近くに寄ってくる。
「それは……」
ユニステラが何か言おうとするが、フューリに肩に手を置かれて言葉を止める。
「私が話すわ。ねえ、あなたは森精種にとって純森精種がどういう存在なのか分かるかしら?」
問いかけるフューリの瞳は真剣で、彼女たちにとっては深い意味を持つものであるだろうことが推測出来た。
「森精種の上位種。金の髪を持ち、森精種よりも遥かに長い時を生きる者。森精種族から数千年に一度産まれてくる貴重な存在」
「そこまで知っているのね。でも完全じゃない。いや、只人でそこまで知っていることは素直に賞賛されるべきだけど、大事なことが抜けてるわ」
「それは?」
私が先を促すと、フューリはユニステラと一度目を合わせて頷いた。
「純森精種は森精種にとっての王族なのよ。森精種を従える者……それが純森精種。森に生きる者にとって、森からの寵愛を受けた純森精種は森と同じくらい敬意を払う存在なの。……私たちは、その相手から『敵』と言われてしまったのよ」
泣きそうになるフューリと慰めるように抱き寄せるユニステラ。
なるほど、敬意を払う相手から直々に『敵』と言われてしまえば落ち込みもするだろう。
「……それは分かった。しかしそれとこの風呂には何の関係がある?」
だが風呂に一緒に入るという要求の意図は分からない。その答えはユニステラが教えてくれた。
「ホシミ様はココノハ様にとって良い人であるご様子でした。ですので、ホシミ様を通してわたしたちの心象を少しでも上げたいと思ったのが一つです」
「……他には?」
一つ、と言うからにはまだ何かあるのだろうと思い尋ねると、ユニステラは胸に手を当てて視線を逸らす。
「その……。わたしたちは半年ほど、奴隷として売られるために調教を受けてきました。運良く競売にかけられる前日にクルクル様より救われて今此処に居ります」
クルルのやつ、ふらりと出かけたと思ったらそんなことをしていたのか。やることがあると言っていたが……まさか人助けとは。
そんなことを思っているとユニステラは私の手を取り握ってきた。
「……ホシミ様は、こんな穢れきったわたしたちを綺麗だと仰ってくださいました。今までそんな事を言われても嬉しくなかったのに、良かった、嬉しいと……そう思ってしまったのです」
フューリに視線を向けると、ふいと逸らされる。しかしちらちらとこちらを覗き見ているのが分かった。
「震えているフューリに上着を掛けてくださいました。散々に罵倒された相手なのに、です。あなたは普通の人とは違うのではないかと思って、お風呂に誘いました。……もしここで犯されるのなら、保護して頂く恩を返す意味で我慢しました。犯されないのなら……あなたは普通の人とは違う、信頼出来る人だと。そう思ったのです。だからわざと誘うように色々と要求したのです」
つまり、私が彼女たちにとって信頼に値する人物か見極める為の試験だったと。
男の醜い部分を見て生き抜いた二人は、自分たちを餌にしてまで私が本当に信頼出来るのか、私を試したのか。
こんなことを仕出かした理由が判明し、脱力して天井を見上げる。
「ホシミ様は、信頼出来る方であるとわたしたちは確信しました。あの……呆れましたか?」
上を見上げる私を見て、ユニステラは小首を傾げて尋ねてくる。
「呆れるさ。どうせしばらく過ごすのだから、信頼出来るか見極めるのはこんな急にではなくても良かっただろうに」
「申し訳ありません。ですがわたしたちも怖かったんです……。男の人と一緒に暮らすことになるのが……」
そう言ってユニステラは目を伏せた。その様子を見てこれ以上言うのは止める。
「真意は分かった。……私は先に上がらせてもらうよ。元々長湯をする方ではないのでね」
方便であるが、二人で話し合う時間も必要だろうと思い気を遣ってさっさと脱衣所まで戻る。
あ、という声が聞こえてきたが、それ以上の言葉は聞こえてこなかった。
ーーーーーー
「ホシミ様、行っちゃいましたねフューリ」
ホシミが去り大浴場に残されたフューリとユニステラ。
ユニステラの若干名残惜しそうな言葉にフューリは驚く。
「ユニ、あなた……。あの人のことが気に入ったの?」
「誠実で、理知的で、とても心優しい……。善い人だと思いますよ? それにフューリこそ、男の人に対して"あの人"だなんて……。ふふっ、珍しいこともあるものですね?」
「───ッ!?」
ユニステラのからかうような笑い声にフューリは息を詰まらせる。そしてなんてことを言うんだという意味を込めて睨みつけた。
「そんな可愛い顔をしても誤魔化されませんよー。あーあ、こんなことならもう少し身体が成長してくれれば良かったと初めて思いましたね。今更どうにもなりませんけど」
フューリの視線を軽く流してから、自分の薄い胸元に手を触れて悲しげな表情をする。
その様子を見たフューリは同情するような視線を向けた。
「まあ、たしかにユニの胸は貧相だもんね。私も人のことは言えないけどさ……」
フューリもユニステラと同じように胸に触れてから、二人揃ってため息を吐いた。
「それにしてもユニがそんなことを思うなんて意外だったわね。あんまり自分の身体のこと気にしていなさそうだったのに」
「それはまあ……あの調教生活を生き抜くのにこの貧相な身体はあまり男たちの興味を引かなかったので大変役に立ちましたけど。気になる異性を振り向かせるには少し魅力が無さすぎるかなあと思いますよ」
「うーん……心配しなくても大丈夫じゃない? ココノハ様だってほら、その……あれだし」
言い澱むフューリの姿にユニステラは微笑んだ。
「そうですね、希望はまだありますよね。わたしもココノハ様とそう胸の大きさは変わりませんし!」
「へぇ〜。お二人はわたしにそんなことを思っていたんですね」
突如聞こえる三人目の声。フューリとユニステラが恐る恐る振り向くと、そこには氷の微笑を浮かべたココノハが居たのだった。
「そんなことを言う生意気なおっぱいには、お仕置きが必要ですね……?」
手を握ったり開いたりを繰り返しながら微笑を浮かべたまま二人に近寄るココノハ。
あ、死んだ。
フューリとユニステラは同時にまったく同じことを思ったそうな。
その後何があったのかは、フューリもユニステラもココノハも語らない。しかし何故か熱い眼差しでココノハを見つめることが増えたのだった。




