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53話 凶行

 喫茶店を出てからは、二人で市場を見て回った。私は食べ過ぎたせいで若干気分が悪かったが、ユキユキが楽しそうだったので水を差さないように表に出すことはなかった。


 夕暮れ時になる頃には、はしゃぎ疲れたユキユキが中央広場に置かれたベンチに座って街の喧騒を見つめていた。


「この街はすごいウサね……。まだこんなに人がいっぱいいるウサ」


「むしろこれからが本番だからな。夜は夜で仕事終わりの者たちが酒を飲んで騒ぐんだ。日頃の憂さ晴らしも兼ねているから喧嘩も多いが賑やかな催しを突発的に行うこともある」


「あー喧嘩は嫌ウサねえ。でも賑やかなのは楽しそうウサ」


 そう言ってくすくすと笑う。


「日暮れの鐘が鳴ったら、宿に入ろうか。今日は歩き詰めで疲れただろう?」


 私がそう言うとユキユキは首を横に振った。


「全然、むしろ楽しかったウサよ。明日になったら帰らなきゃいけないのが残念ウサ」


「なに、また来れば良いのだ。次は子どもと一緒にな」


「そうウサね……。それはとっても、楽しそうウサ……」


 目を閉じて私の肩に頭を乗せるユキユキ。そのまま日暮れの鐘が鳴るまで流れ行く人々を眺め続けるのだった。


 街に灯りがつき始め、日が暮れると同時にごーん……と鐘が鳴った。商会本部の最上階に備え付けられた鐘は一日に三度鳴り響く。

 初めは日の出、次は日が真上に来た時、最後は日没である。


 ごーん……と重く響く音は街中に届き渡り、人々に夜が来たことを告げていた。

 鳴らす回数は五回と決まっていた。今のが二回目の鐘の音だ。


 ごーん……。三回目。鐘の音に聞き入っていることと、雑踏に紛れたおかげでその足音に気付くことはなかった。


 ごーん……。四回目。ホシミとユキユキの背後に忍び寄る影は、もうあと数歩の位置までたどり着いていた。


 ごーん……。そして鳴らされる五回目の鐘の音。それと同時に男は飛び出す。


「──────ッ!!?」


 男が間近まで迫っていることに気付いた。しかし遅い。一瞬で手に鈍色に光るモノを握っていることを見極めたホシミは、ユキユキを庇うように男との間に入りこんだ。


 鈍色の光りを放つモノはユキユキを庇ったホシミの身体、その心臓に吸い込まれていき……。

 ドスンッと、衝撃がホシミからユキユキに伝わったのと、急に動き出した最愛の人の様子を確認するために振り返ると、そこには──。


 血を吐いて絶命しているホシミの姿と、狂笑を浮かべながら何かを突き立てている男の姿があったのだった。


「御主人、様……?」


 自分を守るように抱きすくめている主は、力無く地に崩れ落ちる。

 ユキユキには何がなんだか理解出来なかった。先ほどまで楽しく会話していた人が、胸の辺りから血を流して、血を……血……。

 身体には、鈍色に光るモノが、突き刺さっていて、突き刺した際に身体を抉られ割り開かれたことが分かってしまった。微かに見える白い物体が、理解したくもないのに何だか分かってしまう。


 下手人の姿に恐る恐る視線を向けると、暗くて良く見えないが、薄汚れた黒い髪に、兎耳を持つ獣人(ビースト)の男で。


「あーっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!」


 血走った眼で狂ったように笑い続けるその男は、かつてユキユキを死に至らしめようとした姿で。


「い、いや……ウサ……、嫌ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!」


 ガルド、と呼ばれるその獣人(ビースト)は、再びユキユキを地獄へ叩き落としにやって来たのだった。



 ユキユキの絶叫が街に響き渡り、周囲に人が集まって来た。人々の視線の先には血を流して倒れている男性を泣きながら抱きしめる少女の姿があった。綺麗な服は血で汚れてしまっている。


 そのすぐ側には、この惨状を作り上げたと思われる獣人(ビースト)の男が腹を抱えて笑い続けていた。


 その様子に、尋常でない事態が発生したのだと理解した人々は、悲鳴をあげながら逃げ惑う者、街の長にすぐさま報告をするように声を張り上げる者、興味深そうに遠巻きに眺める者など、多様だった。

 しかし、誰もその場には近寄ろうとはしなかった。


 数多くの視線に晒されながら、ガルドはユキユキに笑みを浮かべる。微笑み、などと呼ばれる生易しいものではなく、獲物を前にして獰猛な笑みを浮かべる肉食獣のそれだった。


「くっ、ひひっ……! どうだぁ、ユキユキ。大切なものを失った気分は。って言っても聞いてないなこりゃあ」


「御主人様……嘘、ウサ……。ねえ、返事してウサ……、ねえ、御主人様……」


 ホシミの頭を抱きかかえるようにしてホシミを揺すり続けるユキユキ。ガルドはユキユキの腹部が膨らんでいることを目ざとく見つけた。


「何だお前、そいつのガキ孕んでたのか?」


 子どものことを言われた瞬間、ユキユキの肩が跳ね上がる。その様子を見てガルドはにやりと笑った。


「俺様を傷付けてくれやがった糞野郎のガキか……。なら、落とし前付けさせるために殺さなきゃいけないよなぁ?」


 ホシミに突き刺さったままのナイフを抜き、血塗れの刃を見せ付けながら舌舐めずりをする。


「こ、子どもは、関係ないウサ!」


 腹部を守るように手で覆う様子を見て、つまらないものを見るかのように鼻を鳴らす。


「それは俺が決めることなんだよ!」


「きゃあっ!!?」


 そしてユキユキの肩を蹴り上げた。

 ユキユキは体勢を崩して地面に倒れ込む。


「安心しろよ、お前は生かしておいてやる。まあ、腹の中はぐちゃぐちゃにしてやるし、二度と子を孕むことは出来なくなるだろうが……どうせ一度死んでるんだ。どうでもいいだろう?」


 ナイフをしっかりと握り直しゆっくりとユキユキに歩み寄る。

 痛みと恐怖で身体が竦んでしまったユキユキは、動くことも出来ずにガルドが近寄ってくるのを見つめることしか出来なかった。


「運が良いなあ、お前はよ。どんな目にあっても命だけは助かる。本当に、訳わかんねえガキだよ」


「嫌……助けて……助けてよ、御主人様……!」


「お前の御主人様とやらはもう死んだんだよ!! さっき! お前の目の前でなぁ!!」


 ナイフを振りかぶり、腹部を狙って振り下ろす。周囲で見守っている人々が短く悲鳴をあげる。


 ───ごめんなさい御主人様。私と御主人様の赤ちゃん、守れなかったウサ……。


 来るべき激痛に備えて目を瞑る。

 しかし、いつまで経っても肉を突き破る金属の感触は身体に届かなかった。


「なっ……てめぇ……なんでッ!」


 ガルドの慌てるような声に目を開くと、そこには、振り下ろされたナイフを左腕に突き刺して受け止めるホシミの姿があった。


「ご……御主人様……?」


「ああ。ユキユキの御主人様だ。良く、頑張った。あとは私に任せておけ」


「良かった……本当に、御主人、さま……」


 ユキユキは気絶してしまった。右腕で彼女を支え、ゆっくりと地面に寝かせる。

 本来ならこんなところに寝かせたくはないが、少しだけ我慢してもらおう。


「何で生きてるんだよっ、てめぇはああぁぁぁ!!!」


 ナイフを引き抜こうとする腕を掴み、『強化』の魔術で握力を強化し、骨ごと握り潰す。


「っぎゃあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!」


 激痛にのたうち回るガルドの様子を冷めた瞳で見つめながら、ゆっくりと立ち上がる。

 身体は淡い光りを放っており、まるで治癒魔術(ヒーリング)を受けているかのようだった。

 実際には、不老不死である身体の機能で、ただ元に戻ろうとする力が働いているだけなのだが。


「貴様などに理由を説明する筈が無いだろう。まったく……準備をしていなかったせいで復帰に少し時間が掛かってしまった。おかげで一度死んでしまった(・・・・・・・・・)よ。私を殺したと思ったようだが、見事成し遂げたのだ。魔術も使えない、鍛えてもいない人間にしては誇っても良いと言えるだろう」


 氷槍を出現させ、両の太腿を貫くと、更に悲鳴をあげるガルド。それを無視してユキユキを抱きおこす。

 周囲の人々は急展開に着いて来られず、唖然としている者が多かった。

 死んだ、と思っていた人物が立ち上がったのだ。驚くなという方が無理である。


「どうせ貴様は終わりだがな。私が手を下すまでも無く、法で裁かれる」


 人混みを割ってゴア老人がやって来るのを見て、今回の件はこれで終わることを確信した私は気絶したユキユキをしっかりと抱き寄せるのだった。


(´・ω・`)女の子に乱暴するの良くない


どうでも良いですが、ユキユキに蹴りを入れるか入れないかで小一時間悩みました。


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