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170話 黒き双子〜其の参〜

 リア、ココノハ、ユニステラの三人が其々行動を開始した後。私はシィナと共に人のいない大通りで待機していた。

 ここは市街地のほぼ中心部なので、合図さえあればどの方角でもすぐに移動できる。

 透視して位置を確認したところ、ココノハたちはどうやら細い路地に分散して調査しているようだった。


「はあー……」


 隣から聞こえるため息に目を向けると、シィナはしゃがみ込んで項垂れていた。


「なんであたしが留守番なのよぉ……」


 留守番とはいうが、何かあれば応援として駆けつけなければならない予備戦力である。理由も説明されたが納得し難いようだった。

 因みにその理由とは、シィナの得物が槍で狭い場所では取り回しにくいからというのが一つ。シィナの疾駆する速度が今いる面子の中で一番速いというのが一つ。たまにはリアもお転婆したいという可愛いワガママが一つ。そしてもう一つの理由が───。


「そりゃあ、寝惚けてたとはいえ抱きついたけど、にゃんにゃんしてたけど、だからってそれを理由にして待機は無いわよ……」


 寝起きでぼんやりしたシィナが私に抱きついて色々としたことでからかわれているから、であった。

 私の感想としては、『甘え盛りの子猫みたいで可愛かった』である。


「というか別に槍以外にも剣だって使えるし、剣もリアよりも強いし……」


「シィナとリアでは才能が違うからな。勿論、努力の方向性も違うが。リアには圧倒的な魔力量があるから本来ならば剣など握る必要も無い。にも関わらず当時のリアが剣の鍛錬を積んだのは、シィナともっと親密になりたかったからだ。それは理解しているだろう?」


「うん……。そのおかげで、朝から晩までずーっと一緒だったからね。眠る時も一緒だし、離れてる時間の方が少なかったかも」


 かも、ではなく実際に少なかったのだが。リアとシィナが離れるのは、それこそトイレのときだけだった。それ以外は食事もお風呂も勉強も訓練も就寝時も二人一緒に行動していたのである。立場上初めて得られた友人だからというのは理由の一つとして間違いなくあるだろう。

 それはさておき。


「シィナ。むくれているところ悪いが、どうやらもう終わったようだ。直に戻ってくるだろう」


「……早くない?」


 別行動を始めてからまだ三十分も経っていないのでシィナがそう思うのも仕方ないことである。


「一瞬だがリアの魔力を感じた。理由は不明だが凍らせたのだろう、相変わらず捕獲にはうってつけの魔術だな」


「あ〜なるほど。それなら直ぐに終わるわね。……戻ってきたら褒めてあげれば? 尻尾があったらぶんぶん振り回すくらい喜ぶわよきっと」


「……龍人(ドラゴニュート)に尻尾が無くて良かったと思うよ」


 龍には尻尾はあるが、龍人(ドラゴニュート)には無い。理由は諸説あるが、『邪魔だったから取った』というのが定説となっている。

 長く硬い龍の尻尾が人の身体になっても残っていればぶつかるたびに邪魔と思うのも何となくではあるが理解出来た。


「あっホシミさーん。今戻りましたー」


 シィナと雑談しながら待っていると、ココノハ、リアとユニステラが揃って戻ってきた。向かった時と比べて人数が増えている。


「それは?」


 指したのはココノハとユニステラが背負っている子どもたち。どうやら完全に気を失っているようである。


「この子たちが子どもを誘拐していたんです。でも、何処に置いてきたのかとか動機を聞く前に倒しちゃったので連れてきました」


「殺気に反応してたから普通の子どもじゃないと思いますけどね」


「ええ、明らかに訓練を積んだ動きでしたわ。二人ともまだ年端もいきませんのに……」


 ユニステラの言葉にココノハが付け加え、更にリアも感想を述べた。


「なら、場所を変えよう。仲間がいる可能性もあるし見られない方が良いだろう」


 私の言葉に皆が頷き、場所を変えてから話をすることにした。







「どうしましょう。叩き起こします?」


「容赦ないわね。やめてあげたら?」


 ココノハが腕を素振りして、シィナが突っ込む。しかしシィナも本気で止めようという訳でもなく、どちらかと言えば『どうでもいい』という気持ちが見え隠れしていた。

 現在は、私たちが滞在している宿の部屋である。

 幸いなことに人目につく事なく戻って来られた。


「拘束してあるから起きるまで待っても良いが、攫われた子の居場所を聞き出さなくてはいけないからな。手荒だが叩き起こしても構わないぞ」


「じゃあ仰向けにして湿った布巾を顔に載せても」


「それは死ぬからやめなさい」


「じゃあ濡らした布巾を捻って、思いっきり振る!」


「ねえもっと普通に起こせないの?」


 私が許可したことで、どうやって起こそうか話し始めるココノハとシィナを眺めていると、リアが唇に人差し指を当てて「んー」と声をあげた。


「リア様?」


 ユニステラがリアに声を掛けると、リアはおもむろに


「えい」


 という気の抜けるような掛け声と共に子どもたちの顔の上になる位置で水を形成し、シャワーのように降り注がせた。


「「……──────ッッッ!!!?!?!???」」


 結果として飛び起きる二人の子ども。その姿を見てココノハは感嘆の息を漏らし、シィナは呆れ、ユニステラは「鬼畜……」と呟いていた。

 ともあれ、リアのお陰で意識が覚醒した二人の子どもである。寝ている姿も似てはいたが、起きている姿を見ると仕草もよく似ている。二人は双子なのだろう。


「さて、起きて早々だが聞きたいことがある。子どもを痛めつける趣味はないので手短に答えてほしい」


 二人からは睨み付けられたが、逃げ出せないことが分かっているのか抵抗はない。返答もなかったが。


「攫った子は何処に隠した?」


「「……」」


「沈黙か。お前たちが子どもでなければ手足の数本でも切り飛ばすんだがな」


 脅しも兼ねてわざと聞こえるように言うと一瞬だが身体が震えた。そして、探るような視線を向けてくる。

 こちらが何処まで本気か確かめようとしているのだろうか。


「では次の問いだ。誰の命令で実行した?」


「「……」」


 答えはやはり沈黙。ココノハとシィナから、『やっちゃってもいいですか?』と言いたげな視線が送られるが、首を横に振って返答する。


「では最後。何の目的があって誘拐を行った?」


「「……」」


 結局、沈黙しか返ってこなかった。

 まあ予想していた通りである。


「ココノハ、シィナ。二人にコレを飲ませるんだ」


 そう言って手渡すのは黒い錠剤。ココノハは初めて見た不思議な薬品に首を傾げた。


「何ですかこれ?」


「自白剤だ。魔力を持つ相手には効果は薄いが、そうでなければ何でも話してくれる便利なものだ」


「副作用とかはあるんです?」


「副作用と言ってもな。大した薬じゃないし、魔力が無ければ一日で死んでしまうことくらいか」


「じゃああたしたちには関係ないわね」


 シィナはそう言うと錠剤を持って近寄っていった。


「あんたたちに恨みはないけど、まあ運が悪かったってことで。ユニス、手伝って」


「わかりました」


「わたしの方も飲ませますねー」


「「んーー、んんむぅーー!!!!」」


 双子は口に入れられないように固く閉じるが、無理矢理こじ開けられて放り込まれる。吐き出そうにも口は閉じられるし、放っておけば口の中で溶けていく。

 口の中に入った時点で負けなのだ。

 飲んでいなかったとしても完全に溶けるまでの時間を置いてから再び双子の前に立つ。


「さて、では質問に答えてもらおうか」


「誰がお前なんかにッ」

「この鬼畜外道め!」


「何とでも言うといい。そら、答えろ。まずは攫った子どもの隠し場所だ」


「……知らないわ」

「ぼくらは運ぶだけだ。その後のことは知らない」


「次。誰の命令だ?」


「……ご主人様よ」

「名前は知らない。あの人のことはご主人様と呼ぶように躾けられたから」


「次。目的は何だ?」


「……神様に捧げるの」

「イケニエには純真無垢なタマシイとやらが必要だって言ってた。それ以上は知らない」


 先程とは打って変わって私の質問に答える双子。

 ココノハたちが驚嘆していたが、私はため息を吐いた。


「捨て駒か」


 私の言葉に反応したのは、双子のうちのどちらだったか。

 欲しい情報は得られなかったが、目的は達せられた。後で細かいことも尋ねなければならないだろうが、もう夜も遅い。私は兎も角、皆は眠気が襲ってきているだろう。

 攫われた子も、神様とやらの供物にされるのであれば儀式の準備がある筈。時間がないのは間違いないが、今日明日で生贄にされる可能性は低いと見た。

 続きは翌朝にすることを告げて、今日のところは休息を取ることにしたのだった。




「───ああ、そうだ」


 ココノハたちが寝静まった後。身動きできないように縛られて床に転がされている双子に目を向けた。気配を探るとまだ起きているらしい双子に向けて声を掛ける。


「あの自白剤は黒砂糖という物でな。ただの甘味だ。薬じゃないから自白を促す効果なんて無いし、副作用で死ぬこともない。実際に口にしたから分かるだろうが、甘かっただろう?」


 返答は返ってこなかったが、苦虫を噛み潰したような表情をしているだろうことは容易に想像できたのだった。


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