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160話 ウェストランド〜其の壱〜

 ナナリーの国の名は『ウェストランド』という。西の果ての楽園を意味して名付けられたらしい。

 国の周囲は荒野と砂漠が埋め尽くし、昼は灼熱の陽射しが照りつけ夜は昼間の暑さが嘘のような寒さに変わる独特の気候をしていた。

 そんな土地の為に育つ作物は少なく、野生動物も環境に適応する為に屈強に進化していて倒すのに手間がかかることから食料品は常に不足している。幸い、水だけはオアシスと魔道具のおかげで不足することはないようだ。

 私は今、リア・シィナ・ココノハ・ユニステラの四人と共にウェストランドの城下町の入り口に転移していた。


「は〜、見渡す限りの砂と土。森精種(エルフ)としては生き難い土地ですねえ」


 ココノハがげんなりした様子で周囲の感想を呟いていた。ユニステラも同意のようで、


「ホシミ様のお住まいがいかに森精種(エルフ)にとっての楽園だったか、よく分かりますね……」


 と先ほどまでいた森の景色に想いを馳せていた。

 そんなユニステラは、真新しい濃緑色を基調とした旅装を纏っている。スカートは前と変わらず短めだが、マントでほぼほぼ隠れているのでそこまで目立たないだろう。

 普段彼女が身につけている露出の多いメイド服で外を出歩く訳にはいかないからとシィナ御用達のお店で一晩で作ってもらったのだ。特急料金としてお金は弾んだので喜んで作ってくれたが、「今度からはなるべく事前に連絡が欲しい」と言われてしまった。さもありなん。


「暑さは南国と比べると乾燥していて過ごしやすいけど、砂っぽいのはちょっと嫌ね」


 シィナは自分の国と比較しつつ周囲の様子を眺めていた。


「ホシミ様、まずは何処に向かうのですか?」


 リアが声を掛けると、三人も私の方に目を向けた。四人の視線を浴びながら、


「先ずは宿に向かう。暫くはそこが拠点になるから、王宮から女王の使者が来るまでは情報収集をしつつ待機だな」


 と答えた。街の入口の門衛にナナリーから事前に預かっていた許可証を提示して中に入る。

 暑さ故だろう、建物は殆どが丈夫な布で隠しただけの天幕のような造りになっており、一部の金持ちが煉瓦を積んで家や屋敷を建てていた。中では空気を冷却する魔道具が設置されていることは確実だろう。木材があまり集まらないせいか、木製の建造物は見当たらないのがこの国の特徴だった。

 私たちは雑談しながら目的地に向かって歩くが、途中で周囲の奇異の視線に晒されていることに気が付いた。その理由はすぐに判明した。


「なんだあの別嬪さんは……」

「見たことねえな。旅人か?」

「美人ばっかり連れてるし、どっかの金持ちだろ」

「でもアンタ、男の方も顔が良いじゃない。美男美女ってのはいるもんね〜、ウチの旦那とは違ってさ」

「母ちゃん、そいつぁ言わねえでくれよお!」

「「わははははは!」」


 軽く拾える声だけでこの始末。ずっと一緒に居るので麻痺していたが、私を慕ってくれる少女たちは皆、絶世の美女と言って差し支えない存在なのだ。騒ぎになるのも当然と言えた。

 幸いなのは、誰も周囲の声を気にしていないことだった。リア・シィナ・ココノハはそういった類の賞賛に慣れているので気にも留めないし、ユニステラに至っては周囲が美女だらけな環境だったせいで自分が言われているとは気付いていない。


「……」


 その奇異の視線の中に、一つだけこちらのことを───正確には、私のことを見ている視線があった。目だけを視線の方向へ向けるが、どうやら路地裏から隠れながら伺っているようで姿は見えない。

 リアたちは気付いていないようなので私が何か言うこともないとそのまま真っ直ぐ宿へと向かった。


 目的地は煉瓦の建物だった。五階建ての建物で、貴族の屋敷程の広さがある。私たちはその最上階に案内された。

 二階〜四階は各部屋が割り振られている普通の宿だったが、最上階には部屋が一つしかなく、私たちがこの階を自由に使って良いと言われた。

 高貴な身分の客人専用らしく、普段は開放していない部屋は空調が行き届き、家具も豪華でまさに金持ちの為にある部屋と言って良いだろう。

 落ち着いたリアとシィナとは対照的に、ココノハとユニステラは辺りをきょろきょろと見回している。やがてココノハが、


「シィナさん、ちょっとわたしに『強化』掛けてもらっても良いですか? 筋力系なんですけど」


 とシィナに声を掛けた。


「まあ、いいけど。いったい何をするのよ」


 シィナは特に何も考えずココノハの言う通りに強化の魔術を掛ける。ココノハはそんなシィナに悪戯な笑みを浮かべるだけで返し、ソファーやテーブルといった家具をずらし始めた。

 私たちが忙しなく動いているココノハを眺めていると、ベッドの隣に空いたスペースが出来た。その場所に、少し離れた場所にあったベッドを次々押し付けて一つの巨大ベッドへと変貌することとなったのだ。


「ここを愛の巣出張所とします!!」


 高らかに宣言するココノハはやり切ったと言わんばかりに達成感溢れる表情をしていた。


「あの子バカでしょ」


 シィナが呆れたため息を吐いていたがリアには好評だったようで、


「ここがわたくしたちの新しい愛の巣ですのね!!」


 と喜びの声をあげながらココノハと手を繋いで回り出した。

 困惑しているユニステラは彼女たちが落ち着くまでおろおろとしていたのだった。


 少ししてようやく落ち着いたリアとココノハがソファーに座ったことでこれからのことを話し始める。


「さて、先も話した通り暫くの間は待機となる。皆も自由に過ごしてくれて構わないが、何があるか分からないから一人での外出は控えてほしい。部屋には簡易だが結界を張っておくから、もし此処に異常があればすぐに判るようにする。初めての土地、異国で気になるものがあったなら、好きに見てくると良い」


 私がそう言うと、皆少し考え込んでいた。


「あたしはどうしよっかな〜。ぱっと見だけど面白そうなお店も無さそうだったしな〜」


「ではシィナ、早めにお風呂の準備でも致しませんこと? お部屋に浴槽はありましたから満たしてしまえば直ぐに入れますわよ。それに少し砂っぽい気がして早く洗い流したいですわ」


「それもそうね。じゃああたしたちはお風呂の準備しましょうか」


 リアとシィナはやる事が決まったようだ。

 ユニステラはうんうんと唸っていたが、


「わたしはお料理の下ごしらえでもしようかな……。ホシミ様から頂いた便利な袋もありますし」


 と言って出掛ける時に便利だからとユニステラに渡した時間と空間を捻じ曲げた小さな袋を手に取った。私たちの食事はユニステラが作ってくれることになったので彼女の持つ袋の中にはかなりの量の水と食料が入れられていることを確認している。


「ホシミさんはどうするんですか?」


 最後に残ったココノハも特に自発的にやりたいと思ったことはないようで私に尋ねてきた。


「私は少しだけ単独行動をさせてもらう。何、一時間ほどで部屋に戻ってくるから気にするな」


「となると別行動なんですね。ちょっと残念です」


 ココノハの声色に心底とまではいかないがそれなりに残念がっているようで、ほんの僅かだが拗ねているのが感じられた。


「すまないな。だが先に調べたいこともあるんだ。お詫びと言ってはなんだが、出来ることなら───」

「何でもしてくれるんですか!?」


 まだ『出来ることなら』とまでしか言っていないのだが。


「一応聞くが、何か希望でもあるのか?」


 私の言葉にココノハは立ち上がり、


「リアさんとシィナさんがお風呂の準備をしてくれるとなればこの愛の巣でやることは一つだと思います!」


 と宣言するように言い放った。


「わたしが思うに、ここにいる女の子はホシミさんが『今』もっとも『子を作りたい』女の子だと思うんです。なので子作りすることを希望しまーす」


 そういうつもりで選んだわけでは断じて無いのだが、ココノハの勢いに閉口していると両隣からココノハへの助勢が加わった。


「わたくしも是非ホシミ様との子作りを希望いたしますわ」


「まあ、あたしも……ほら、早くお父様とお母様に孫の顔を見せてあげたいし……」


「今わたしに赤ちゃんが出来ればフューリの子どもと幼馴染みになるんですよね……。わたし、親子揃って親友になれたら素敵だなって思います」


 四人からの期待の篭った熱視線に私は抗うことが出来なかった。


「……分かった」


 降参するように両手をあげると、四人は歓喜の声をあげるのだった。


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