154話 森精種たちの実情把握
仕事だったりレズールでアーンなゲームしてたりで遅くなりました。
亀みたいな速度ですがまた再開していきますのでよろしくお願いします。
あと、いつの間にか仕様変更されていて、慣れるまでは大変そうだと思いました。
暗闇の中、ぼんやりと光る魔法陣。その周囲を囲むよう集う人々がいた。
彼ら彼女らは皆一様に黒いフード付きのローブで身を包み、顔も見ることは叶わない。
何やら怪しげな文言を唱えつつ、一心不乱に祈りを捧げる。
そんな者たちの前に、漆黒のローブに朱に染まった羽衣のようなものを纏った人物が現れた。その手には同じく黒のローブを纏い、目隠しと猿轡をされた、子どもの姿もあった。
「今宵も我等が御神に祈りを捧げる敬虔なる信徒たちよ。喜びなさい。贄が届きましたよ」
男性とも女性とも取れる声。しかし身長の高さから恐らく男性と思われる。仮にその人物を男性ということにしよう。彼は信徒たちの感嘆の声を聴きながら子どもを魔法陣の中心に寝かせ、両手足を鎖に繋いだ。
子どもは先ほどから暴れる素ぶりすら見せずされるがままだ。もしかすると、自意識が奪われているのかもしれない。
「では、今宵の儀式を始めよう」
男がそう言うと、信徒たちは跪きながら先ほどよりも熱心に何やら唱え始める。男はその様子を一瞥して頷いてから、鈍色に光るモノを取り出した。
「神よ、我等が御神よ。どうか我等に祝福を与え給え」
鈍色に光るモノは子どもの身体に吸い込まれるように突き刺さり、真紅に染まる。しかし一切の悲鳴すらあげないまま、子どもは受け入れ続けた。
「我等に安息を。我等に楽園を。御神に背く者共全てに血の粛清を。我は剣。御神に仇なす総てを切り払う剣。我は盾。御神の下に集う者たちを守護する正義の盾」
何度も何度も子どもに突き入れて、徐々に人の形すら留めなくなっていくがまだ突き入れる。その間も言葉は途切れることはなく朗々と紡がれる。
「我等は御神の加護の下、この世の一切を貴方様に捧げます───。女神、セレスフィラ様」
子どもだったモノは既に肉片と化し、周囲の信徒たちは変わらず文言を唱え続けている。
血の匂いに包まれた空間は狂気に満ちていた。
ーーーーーー
秋が深まり、各所で紅葉が見られるようになった時節。
大陸中央部よりやや北西に位置する人の寄り付かない森の中。そこに一つの塔が建っていた。
石造りで六階ほどの高さの円柱型の塔。その一階で、私は茫然とする羽目になっていた。
「おはようございますホシミさん。気持ちの良い朝ですね。じゃあ早速ですけど子作りしましょうか」
肩辺りで切り整えられた金の髪と、宝石を思わせる翠の瞳。そして特徴的な長い耳。
十人中十人が美少女だと確信する美貌に、小柄な体躯。純森精種という稀有な種族の少女ココノハは、下着の上からエプロンだけを付けた状態で満面の笑みを浮かべながらそんな言葉を言ってのけるのだった。
「おはよう、ココノハ。料理をするのにその格好は危ないから何か着た方が良い。油が跳ねたら火傷してしまうぞ」
「朝ごはんは何にしましょうか。わたしにしますか? それともわたし? わたしにしときましょうよ〜?」
意図を無視して返答したものの、ココノハもこちらの言を無視して話を進めてくる。笑顔のままにじり寄ってくるココノハは私の側まで来ると抱きついてきた。
「会話が成立していないぞ。……それで、どうしたんだ。朝から子作りしようなんて言い出して」
埒があかないと思ったので抱きしめ返しながら問い掛ける。身体のほとんどを露出しているせいか、肩も背中も冷えてしまっていた。
「身体も冷えているじゃないか。ほら、しばらく私の服の中にでも包まっていろ。風邪を引いてしまうぞ」
ローブの前を開けてココノハを包むように覆ってやると、「はぁ〜」という心地好さそうな声を漏らしながら更に強く抱きしめてきた。
「あったかいです……」
すりすりと頬を腹部に擦り付けていたココノハは寒さがだいぶマシになった所で中から顏を出す。
「えーっと、何でしたっけ。ああ、子作りの件ですね。強いて言うなら子どもが欲しいからでしょうか」
ココノハはそう言うと体の向きを変えてこちらに背を預けてくる。
「森精種族は自身が認めた相手の子どもしか産まないんですよ。そもそも出生率が低すぎて望んでも産めないんですけど。で、どうしても子どもが欲しい相手が見つかった森精種は、獣人で言うところの発情期のようなものになります。わたし以外の娘たちにも、結構迫られたりしてるんじゃないんですか?」
ココノハの言葉に思い当たる節があった私は少し呻く。
以前、二十数名の森精種を保護したのだが、彼女たちは私を誘惑しようと露出の多い服を着たり直接迫ったりしてくるのだ。
「だが何故だ。私は彼女たちを保護しただけだぞ。それがどうして私の子を産むことに繋がるんだ」
「それはですね」
私の言葉にココノハは人差し指を立てて説明しだした。
「まず第一に、わたしとアリエスティアさんの存在があります」
アリエスティアとは、ココノハと同じく純森精種の女性である。保護した森精種たちのまとめ役のようなことをしていた古い友人だ。
「わたしとアリエスティアさんという二人の純森精種から好かれて、且つ関係を持っている。それだけで森精種である彼女たちにはホシミさんを信頼するに値する人物であると判断出来ます。わたしなんて夫婦の契りまで交わしてもらいましたしね」
そう言うと右手を伸ばして手を上にかざす。その手の薬指には、紫色に煌めく指環がはめられていた。
「そして第二に、フューリの存在……いえ、どちらかと言うとあの子の娘のラズリーの存在でしょうか」
調教を受け、奴隷として売られる直前だったフューリとその友人のユニステラ。彼女たちは私の従者である黒猫の獣人、クルルの気紛れによって助け出された。その後色々あった末、彼女たちはこの塔に居着くことになる。
フューリとは、ココノハと同じく夫婦の契りを交わし、娘まで授かったのだ。
「森精種は全員で子育てをします。理由は産まれる子どもが少ないとかそもそも種の絶対数が少ないから助け合いが必要だと理解しているからだとか色々ありますけど、子どもが貴重だと知っているから子ども好きがとても多いんですよ。で、彼女たちはラズリーの……というよりも赤子の愛らしさにメロメロになって、自分も子どもが欲しいと思った訳です。そして此処には都合良く男性が一人、しかも純森精種のお墨付きが居ました」
「だから私が種馬として選ばれたと」
「最初はそうだったんですけどね〜」
ココノハはため息をつきながら寄りかかってくる。
「ホシミさんが優しすぎて、床上手すぎて、絶倫すぎて、みーんなホシミさんの虜になっちゃったんですよ。心と身体を溶かされて、もうホシミさん無しじゃ居られなくなったんです」
非難するような口調ではないものの、どこか呆れのような感情を覗かせる言葉だった。
「まあ、そういう訳で森精種たちはホシミさんの子種を求めてます。好きに襲っていいですし、誘われたら出来るだけ応えてあげてくださいね」
「……ああ」
最近の森精種たちの目付きが獲物を狙う目だった理由の説明がついたことに納得しつつ、いつの間にかそんな事態になっているとは思わなかったことでため息を吐いた。
その後、ココノハに押し切られ彼女の当初の言葉通りの展開になるのだがそれは割愛させて貰う。