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149話 ソンとの決着〜其の壱〜

 月を一つ跨いで、ソンは再びラナへと侵攻してきた。船団を壊滅させたのが効いたのだろう、今度はソンの全兵力を投入しての進軍だった。

 今度はユサからではなく南の大河を渡ってきており、再びユサから攻めてくると思っていたラナは若干対応が遅れ既に陸に上陸して橋頭堡を作り上げられていた。

 一度ラナの首都まで戻っていた私たちは急ぎ軍を南へ向けて出発し、ソン軍と対面する。

 ソン軍は丘の上に陣を張っており、辺りには林があるものの見晴らしの良い高台を占拠されていることでラナに不利な状況となっていたのだった。



「全力でこちらを叩き潰そうという気概を感じるな。先の敗戦がよほど堪えたらしい」


「ボクとしては頭が痛い限りだけどね。これだけの大軍をよくもまあボクたちに気付かれずに展開したものだよ」


「戦場の高低差、兵力差、林にいるであろう伏兵……。考えればキリがない。しかも私に対する対策だろうな、高価な魔道具を使用した結界も貼られている。あれのせいで直接叩く事も出来やしない」


「ホシミは船団を壊滅させたからね、ソンは君を最大の脅威とみなしているんだと思うよ。でも君ならやろうと思えば結界を破壊することも出来るんだろう?」


「出来る出来ないで言えば出来る。が、結界の破壊に専念する必要があるし、彼らもそんな隙を見逃してはくれないだろうな。間違いなく四天王の邪魔が入ると思って良いだろう」


「やっぱりそうなるか……。流石に厳しいね、これは」


 丘の下からソンの陣地を見上げながらカンナと会話していると、クルルが隣にやってきた。


「主」


「どうした、クルル」


 服の裾を摘んで引っ張るクルルに振り向いて尋ねると、彼女は私に向けてはにかんだ。


「私は先にソンへと潜伏してきます…にゃ。おそらくアヤメ・ソンの側にはヤスケが常駐しているとは思いますが、機を見て目標を襲撃してきます…にゃ」


「分かった。気を付けて行ってくれ。危なくなったら、以前渡した道具を使ってくれれば私が直ぐに助けにいく」


「はいですにゃ。主の為、身の安全を最優先に行動することをお約束致します…にゃ」


 クルルはそう言うと兵士の間を縫うようにして去り、気付いた時には姿が見えなくなっていた。

 その様子を側で見ていたカンナは感心したような声を漏らす。


「凄いね、彼女。ボクだって一応獣人(ビースト)だからね、鼻と耳は良いんだけど綺麗さっぱり音も匂いも消えて無くなったよ。完璧すぎる隠形(おんぎょう)ってああいうものなんだね」


 とても恐ろしいよ、と小声で呟いて締め括るカンナの声をかき消すように小走りで寄ってくるのはヴァンだった。

 彼にはカンナの指示の通りに部隊を展開してもらっていたのだ。


「こっちは終わったぜ。いつでも出れる」


「そうか。ありがとうヴァン。さて、状況は不利だけどソン兵を纏め上げている四天王の残り三人さえ倒せば事態は好転する筈。後方で指示を出すしか出来ないボクだけど、ラナの勝利の為に全力を尽くすよ」


 微笑みと共に決意表明のような言葉を残してカンナは陣地の奥へと戻っていった。

 残された私とヴァンはソンの陣地を一瞥し、軽口を叩き合う。


「さあて、今度の戦は大変だ。おいホシミ、阿呆な真似して勝手に死ぬんじゃねぇぞ?」


「そうそう死んでたまるか。ヴァンこそ、興が乗るのは結構だが、あまり遊ぶなよ」


「ハッ、誰に言ってやがる。俺は()る時はいつも全力だぜ? だがまあ───」


 そう言って拳を突き出してきたヴァンに合わせてこちらも拳を出す。

 互いの拳が軽くぶつかり合ってから、私たちはそれぞれの配置に着くべく歩き出す。

 背中からは、ヴァンの言葉が聞こえてきた。


「───無事に生きて帰れたら酒の一つでも付き合えや」


「……ああ」


 振り返ることなく歩を進めながら私はその言葉に同意する。

 この戦が決戦であると肌で理解しているのだろう。普段のヴァンらしからぬ言動ではあったが、私は何も言わず胸に秘めておくことにした。






 ーーーーーー






 丘の上に陣を敷いたソン軍は、陣を敷いて準備を整えているラナ軍を眼下におさめながら出陣の準備をしていた。

 アヤメ・ソンはヤスケ、シゲン、バンドウを連れて前線に近い場所でラナ軍を見下ろしている。


「一大決戦ね。これで勝てなければわたしたちは今後ラナに勝つことは出来ないでしょう」


「既に伏兵は配置についてあります。こちらの合図でいつでも出られるでしょう」


 シゲンがアヤメに報告していると、ヤスケが結界に目を向けてぼそっと呟いた。


「魔術師対策にわざわざ高価な魔道具まで使ってるもんな。お陰で直接奴が攻撃することは無くなったけどよ」


 金貨で果たして何枚使うのか。幸いにして使い捨ての魔道具ではないだけマシではあるが、再使用するには力ある魔術師に魔力を注ぎ込んで貰わなければならないという点は不便だった。そしてソンに魔道具に魔力を注げるほどの魔術師は現在居ないのだ。

 そんなヤスケの呟きが耳に入ったアヤメは驚きと共にヤスケを見る。


「驚いた。ヤスケがそんなことを心配するなんて思わなかったわ。でも気にする必要ないわよ、どうせご先祖様が買ってから今まで一度しか使った事のないものだもの。折角あるのだから使わないと勿体無いわ」


「お前が良いってんなら別にいーけどよ」


「それよりヤスケ、ソン様は某たちの主君だぞ。敬語くらい使った方が良い」


 バンドウは相変わらずの口調で話すヤスケに苦言を呈するも。


「ガキの頃からの幼馴染だからなあ……。正直、今更直せって言われても厳しいぜ?」


「そうね、今更ヤスケに敬われてもはっきり言って気持ち悪いわね。ヤスケが公的な場以外で敬語を使うなんて何か悪い事が起こる前触れじゃないのかしら?」


「人を厄病神みたいに言うんじゃねーよ!」


 アヤメの言葉とヤスケの叫びにシゲンとバンドウが苦笑を漏らす。

 馬鹿馬鹿しいやり取りではあったが、彼らの肩の力を抜くことには大いに貢献した。

 アヤメは程良い緊張感に心地良さを感じながら自身を慕い着いてくる四天王に振り返る。


「さて、これが決戦よ。貴方たち覚悟は良いかしら?」


「おう」


 ヤスケはいつものごとく気楽に。


「はっ」


 シゲンはノーズヴァンシィとの再戦に燃え。


「ははっ」


 バンドウは己が役割を果たすことを使命として、アヤメの問いに返答する。

 彼らの応えに満足したアヤメは、眼下に広がるラナ軍を視界におさめてから


「決戦よ。ソンの強さ、勇壮さをラナに見せ付けてきなさい!」


 開戦の号を唱えるのだった。






 ーーーーーー







 ラナとソンの戦が始まった。

 まずソンは高所の利点を生かして矢を、石を飛ばしてくる。

 少なくない兵が倒れるが、被害は次第に軽減し始めた。

 本陣に集まる『緑』の魔術師が風を操っているのだ。彼らはホシミが育てたラナの魔術部隊である。

 一人一人は大した能力を持たないが、複数人で魔術を重ね掛けすることでホシミに匹敵する魔術を行使することが可能となったラナの奥の手だ。

 初の実戦だったが思った以上の成果を上げる魔術部隊。ソンはすぐに無駄と悟り騎兵による突撃を選択する。

 ソンの騎兵はラナの兵を紙くずのように切り裂いていくが、そこに立ちふさがるのはヴァンだ。

 大剣で馬ごと兵を斬り飛ばしながら損害を与えるが、ヴァンの姿を見た騎兵たちは即座に転進し敵陣に逃げ帰る。

 そして再び矢と石の応酬が始まるの繰り返しだった。


 ホシミは林の伏兵を全滅させてから本陣に強襲する役目である。

 だが林の中は既に敵陣、どんな罠が仕掛けられているか分からない。

 焼き払えれば楽なのだが、ここはラナの地。あまり土地に被害を与えることを良しとしなかった。だからこそ少数精鋭で背後に回り込み奇襲を仕掛けるつもりでいた。林を外から大きく迂回して攻め込むホシミたち。

 だが、それを予測していたバンドウに待ち伏せされることとなったのだった。


「全員伏せろ!」


 気付いたホシミが叫ぶと同時について来た兵は伏せ、その上を無数の矢が飛んでくる。

 何人かの兵が間に合わず飛来物に串刺しにされ絶命していった。

 伏せながら矢が飛んできた方向を見ると、其処には巧妙に茂みに隠された大弩があった。

 飛んできた矢は人の胴体程に太く、速度も凄まじかった。こんな林の中に配置するよりは本陣に配置して敵集団に放ったほうが戦果を発揮するだろう。何故こんな物があるのかと疑問に思っていると、男の声が聞こえてきた。


「見事なり。よくぞ見破った魔術師よ」


 声と共に薙刀を担いだ男が茂みから現れる。ホシミたちは林に入った時点で半包囲されていたのだ。


「攻城兵器をこんな林の中に隠しておくなど、普通はあり得ん。嫌がらせにしてはやや過剰ではないか?」


 ゆっくりと起き上がりため息混じりに男に話しかけるホシミ。だが男はさして気にした様子もなく、


「何、船団をたった一人で壊滅させた怪物には丁度良いだろう。初めから一度きりしか使うつもりは無かったのだ。仕留められれば良し、そうでなくともそれで良し」


 と言って呵呵と笑った。しばらく笑った後、男は名乗りを上げた。


「某はバンドウ。ソンの四天王が一人。魔術師よ、某と共に暫しここで踊ってもらおうか」


 バンドウはホシミを見据え、そう宣言するのだった。


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