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14話 龍人戦争:謁見の間の出来事

 豪奢な調度品や絵画の並ぶ廊下をダーラストについて歩く。

 踏みしめる床の絨毯は柔らかく、自身の体重を優しく受け止めてくれるかのようだった。


 階段を登った先の大扉の前にたどり着く。

 どうやらここが謁見の間のようだ。


「心の準備はよろしいか?」


「大丈夫です」


「では、参ろうか」


 そう言って大扉に手をかけて押し開く。

 重厚な扉が軋みながらゆっくりと開いていった。

 扉の先には玉座に座るこの国の王『氷龍皇ノーズヴァンシィ』と、通路に並ぶ騎士たち。そして、王と同じ薄青の髪色をした少女の姿が王の隣にあった。


「騎士ダーラスト! 剣士殿を連れて参りました!」


 玉座に登る階段の下へたどり着いた私たちは、並んで跪く。


「面を上げよ」


 その言葉に顔を上げる。

 王は私の顔を呆れた表情で覗いていた。


「名前を聞いてもしやとは思ったが……、お主こんな所でなにをしとるんじゃ」


「私をどなたかとお間違えではありませんか?」


「よく言うわ! かつての仲間を間違えるはずなかろうが!!」


 国王がいきなり大声をあげたので、周囲が雑然とし始めた。それに構わず言葉を続ける。


「お主と儂と猫の娘の三人で戦地を転々とした日々を忘れるわけなかろうよ」


「くくっ、冗談だ。久しいなヴァン、いや今は国王様と呼べばいいかな?」


 私の変わりように周囲は驚くが、彼だけは呆れていた。


「以前と同じで構わんわ。お主に国王様と呼ばれるなんぞ考えるだけで寒気がする」


 そう言ってヴァンは周囲の人々に説明するのだった。


「今から六百年ほど前か。王位を譲られる直前の頃、父王から実際の戦場を見てこいと言われて国から追い出されたことは知っておるな? こやつとはその時に知り合い共に戦った戦友よ」


「ですが陛下。ホシミ殿はどこからどう見ても只人(ヒューマン)にございます。龍人(ドラゴニュート)でも森精種(エルフ)でもないのにそんなに生きられるはずが……」


 ダーラストがヴァンの言葉に異を唱える。

 周囲の者も彼に同意するように声をあげはじめた。


「だ、そうだ。どうするヴァン。私なら構わんが」


 暗に、証明するなら好きにやれと伝える。

 少し迷った末、ヴァンはダーラストから剣を奪い取り私に向けた。


「こやつはな、不老不死なのよ。その証拠を見せてやろう」


 そう言って私の首を一閃する。

 凄まじく速く力強い一撃が私の首を刈り取り、大量の血を撒き散らす。

 周囲は悲鳴をあげる者や私たちから離れようとする者などが多数だったが、ヴァンとダーラストだけは側で私の死体を見守っていた。


「ほれ、何か言えい」


 剣の切っ先でツンツンと突いてくるヴァン。


「じゃあ、まずは首を取ってくれ。痛覚を遮断したとはいえ、あまりこの状態でいるのはよろしくない」


 遠くに転がった首から声が出て、周囲は恐慌状態に陥った。このままではまずいと思ったダーラストがなんとか場を鎮めようとする。

 ヴァンは私の頭を掴み、元あった場所に乗せる。すると淡い光が傷を包み込み、収束する頃には切断面も傷痕も何も無い首があった。


「はぁ、服が血だらけだ」


 首に触れ、何事も無かったかのように言葉を発する。

 ヴァンは右手で頭を抱えた。


「こっちは服と床が血塗れだっつの。誰が片付けると思っとるんじゃ」


「やるならやれと伝えたが本当にやるとは思わなかったぞ。それくらい自分で……?」


 服を引かれる感覚に気付き下に目を向けると、ヴァンの隣にいた少女が私の服を引っ張っていた。


「ヴァン、この娘は?」


「儂の娘じゃ。まだ300も生きとらん」


 少女の表情はひたすら無機質で、何の感情も表してはいなかった。

 空虚な藍色の瞳にじっと見つめられる。

 私はしゃがんで彼女に目線を合わせて話しかけた。


「どうかしたのか?」


 私が尋ねると首を傾げる少女。

 訳が分からずヴァンを見る。


「昔、力の暴走した反動でな。人形のようになっちまったんじゃ」


 申し訳無さそうに少女を見るヴァン。


「今までは能動的に、機械的に動くだけだったが、自分の意思で動くのは久しぶりに見た。なぁホシミ、お主しばらくこの国にいるんじゃろ?」


「ああ。南国の件を影ながら解決する為に来たんだからな。まぁ、お前に見つかってしまったが」


「なら丁度いい、しばらく娘の相手をしてくれんかの」


 少女を眺める。波のように揺れる長い薄青の髪を揺らしながら変わらず服を掴んでいた。


「構わないが、元に戻す方法は分からんぞ」


「んなこた期待してないわい。ただ、もしかしたら元に戻る可能性があるかもしれんからの」


 そう言って少女の頭を撫でる表情はとても優しかった。


「娘の名前はウィリアーノース。まぁ大変なことはなかろうがよろしく頼む」


 そうして、リアの世話役兼お守りをすることになったのだった。






 ーーーーーー







「は? 初対面が首チョンパ? 頭おかしいんじゃないんですか?」


 ココノハの瞳がものすごくこちらを蔑んでいるのが分かる。


「私に言われても困る。やったのはリアの父親だからな」


「あはは、普通だったらドン引きよ。その頃の感情がないリアはあたし知らないけど、あったら引いてたんじゃない?」


「さぁ、どうでしょう……? あの時の記憶は曖昧ですし、何とも言えませんわね」


 笑うシィナに困惑するリア。

 まあ衝撃的過ぎるだろう。下手をしたら一生もののトラウマになる。


「まあそういう訳でリアと出会った訳だ」


「しかし、リアさんの感情が無くなって人形のようになっていたなんてビックリですよ。力の暴走って言ってましたけど、何があったんです?」


「北の大地の天変地異。四季のあった国が凍土に変わった大天災『ウィリアーノースの涙』。ココノハは知っているだろう」


「え。ああ、あーあーあー! そう言えばそうでした。リアさんと天災がまったく結び付きませんでしたよ!」


 普段のリアを見ているせいか、伝承に残る大天災を起こした人物像と一致しなかったのだろう。


「わたくしのせいで多くの人々に迷惑をかけてしまったのですわ。残念ながらあまり憶えていませんけれど」


 そう言って申し訳なさそうにするリア。

 そんなリアの頭を優しく撫でる。


「まだ幼かったからな。あまり気に病むな。話に聞けば有り余る魔力の制御が出来ずにとうとう暴発しただけのようだしな」


 もっともそのせいで長らく感情を失うことになってしまったが。


「でもどうやってリアさんを元に戻せたんですか?」


 今のリアは表情豊かで感情もしっかりある。

 昔のような人形では無くなった。


「それは今からホシミ様がお話しになってくださいますわ。ねっホシミ様」


 満面の笑みで私を見つめるリア。


「そうだな。じゃあリアのお守りをすることに決まったあとのことから話すとしようか」



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