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135話 マヌ~首都攻略戦~其の壱~

 関での戦闘で快勝した蜂起軍は、勢いそのままにマヌの首都までたどり着いた。

 戦闘開始直前にサクヤから告げられた作戦は、至極単純明快。『全力での正面突破』だった。

 度重なる敗戦で既に敵の士気は地に落ちていること、数を大幅に減らしていること、その状態から立て直せるほどの有能な将がマヌには居ないこと、住民は蜂起軍こちらの味方であること、またちょっかいをかけてくる可能性のあったソンが完全にマヌから撤退したことを確認したこと、等々。様々な条件が重なったことが理由だった。

 とりわけ最大の要因は私たち三人の存在で、今回はヴァンだけでなく私とクルルも戦闘に参加することだ。三人が三人とも、蜂起軍最有力の戦士であったサクマよりも強いので戦力的にも余裕があることだ。

 私たちが居なければ、前から進めていた内通の策で何とかするとサクヤは言っていた。もちろん他にもいくつかの方策は考えていたようで、その辺りは流石蜂起軍の頭脳と言えるだろう。


「直接戦うのは久々だな」


「大丈夫かよ? ヘマしても助けてやれねぇぞ」


「そこまで落ちぶれているわけじゃない。ただまぁ、威力の調整を間違えたらすまないとだけ言っておこう」


「ぜってぇ当てんなよ!!!!! 味方の魔術で吹っ飛ばされるとかゴメンだからな!!!!」


 ヴァンと軽口を叩き合っていると、サクマがやってきた。なんと今回は上着をきちんと着ている。

 関での戦闘後、サクヤから「マヌでは何も知らない人たちも兄様の姿を見るのですから服を着てください!」と言われたのだそうな。愛する兄が見ず知らずの人に姿で馬鹿にされるのを嫌ったのだろう。

 なお当のサクマはとても暑そうにしており、服に空気を入れるように扇いでいる。なんとなくだが、戦闘中に「暑い!」と言って破り捨ててしまいそうな気がする。


「やはり上着は邪魔だ……。熱が篭もるし動きが阻害されるしで良いことがない」


「そんなことを言うのお前だけだっつの」


 サクマの呟きにヴァンが反応する。これが平穏な日常であるならまだ上半身裸でも分かるのだが、戦争の直前に言う台詞ではないと思う。胴部は頭部と比べて的が大きいのだ。しかも心臓という明確な急所があり、攻撃が掠るだけでも動きが鈍ってしまう可能性の高い部位でもある。そんな場所を無防備にさらけ出していれば、敵味方から「正気か?」と思われるのは間違いない。


「それだけサクマのことを心配しているのだろう。今回ばかりは妹の我が儘だと思って諦めろ。あまり妹を心配させるなよ」


「それを言われると弱ってしまうな……」


「必要ならば矢を弾けるくらいの強度でも付与するが、どうする?」


「……まだサクヤを置いていくわけにもいかん。頼む、ホシミよ」


「心得た」


 少し悩んだ末、自身よりもサクヤのことを考えた結果サクマは私の魔術での強化を選択した。

 サクマの服に手をかざし魔力を込めていると、私の傍でずっと見ていたクルルが、


「一応きちんとした判断は出来るんですね」


 と小声で呟いていた。曲がりなりにもサクヤの兄だ。地頭じあたまが良いのだろう。


「なあホシミ。それって俺の剣にも出来るか?」


「なんでも出来るというわけではないが、ある程度は。何が望みだ?」


 サクマの服に強化を施していると、その様子を見ていたヴァンが声をかけてくる。

 作業中なので声だけで返答するとヴァンは剣を背から外して


「籠めた魔力を敵にぶつけた瞬間に爆発させたい」


 と言うのだった。


「……」


 思わず作業の手を途中で止めてしまいそうになりながらも、気を取り直して「無理だ」と断った。


「それくらい自分の魔力でやれ。青属性だからきっと氷瀑のようになるぞ」


 材料は敵兵の血やら肉片で。血も飛び散らないし敵に恐怖を与えられるしで良いこと尽くめだ。

 しかしどうやらその答えはお気に召さなかったらしい。


「お前は悪魔か。そんな惨状見た奴は絶対精神(こころ)を病むぞ。味方にもトラウマ植え付けてどうすんだよ」


「普通の爆発でも相当悲惨だがな。まあ、そうだな。そんなにやりたいなら一度だけの使い切りで魔力を込めてやろう。暴発しても責任は取らんがな」


「……やっぱやめとくぜ」


 それが賢明だ。実力があって尚且つ状況が切羽詰まってもいないのに付加魔術アディションは不要だろう。強化ならともかく、付加はあまり得意ではない。


「よし、終わった。よほど威力が高くない限りは攻撃が当たったとしても防いでくれるだろう」


「そうか、恩に着る。この礼は戦の後で必ず支払おう」


「わかった」


 サクマはそう言って離れていった。彼にはまだ仕事がある。蜂起軍の首魁として、戦に臨む前に檄を発するのだ。

 間もなく日は中天かかる。そろそろ始まるだろう。


「クルルは別行動するんだったな?」


 今朝言われたことを確認のために問いただすとクルルは首肯する。なんでも、やりたいことがあるのだとか。


「はい、主。激戦地は避けますし、なるべく隠密行動に徹しますので直接戦う主より危険は少ないでしょうが、必ず無事に貴方の傍に戻ると約束します…にゃ」


「ああ。信じている」


 そう言って頭を撫でると、表情は変えぬまま、しかし尻尾が一度だけ左右に揺れた。


「おい、始まるぜ」


 ヴァンが私たちに声をかけるのとサクマが最前線に立つのは同時だった。

 自身に付き従ってきた同胞たちに視線を向けて、何やら満足げに一度頷いてから息を吸う。


「勇者たちよ!!! 我が同胞よ!!! 我らは遂に此処まで来た。悪逆を成し村を、家族を追い詰める者どもは、もはや目の前である!! 我らから奪った血税を貪り私腹を肥やし国を腐敗させた元凶はすぐそこだ!!! 皆様々な想いを抱いていることだろう。多くは言わん、だがこれだけは覚えておいてくれ。死ぬことは絶対に許さん!! 俺たちはこの戦で国を変え、新しき国を作らねばならないのだから!!! この戦は終点ではなく、新たな始まりである! 往くぞ!!」


「「「「「おおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


 サクマの演説で奮い立つ蜂起軍の兵士たち。

 私はその様子を見ながら、きっとサクのような周囲を巻き込んで大きな力を発揮する存在こそが未来を切り開いていくのだろうと思っていた。

 現実を変えるために武器を手に取った彼ら。

 願わくば、彼らのより多くが生還し、未来をつかみ取ることを祈りながら。






 ーーーーーー





「一体兵士どもは何をしていたでおじゃるか!!!」


 大きく膨れた腹を揺らし、同じく膨れ脂肪で弛みきっている顔を憤怒に染めながらマヌの王は周囲の人間に当たり散らしていた。

 彼らのもとに『関で蜂起軍に敗れる』という報が届いたのはなんと今日の早朝だった。

 理由は逃げおおせた敗残兵が首都に戻ってこなかったからである。

 蜂起軍の目的地が首都であることは皆が知っていることだった。ならば今回は生き延びられたが次の戦いでは死んでしまうかもしれないと思い逃げ出す者が出てもおかしくなかった。ただ、それがほぼ全員だっただけである。

 首都まで報を届けた兵士は既に死んでいた。───いや、責任を取って殺された・・・・・・・・・・というのが正解だろう。元々負傷して先の長くなかった兵ではあったが、まさか報告しただけで殺される羽目になるとは思いもしなかったに違いない。


「ああああああああもうすぐそこまで来てるでおじゃるよおおおおおお。お、お前ら、この国の重鎮なんだから何とかするでおじゃる!!!」


「そんなご無体な!!!」

「私たちにそんな力はありませぬ!」

「むしろ国主である貴方が我々を助けるべきだ!!」

「そうだそうだ!!」


 押し付け合い、擦り付け合いばかりで誰も何もしようとしない。考えているのは己の保身のみ。それはこの場に集った全員の思考だった。

 実のない不毛な言い争いの最中、国を私物化し寄生してきた彼らを討ち斃す為に集った蜂起軍が攻撃を開始したとの報告が入ると、あたふたと目に見えて焦りだした。


「勝ち目がないなら逃げるでおじゃる!! マロがいればマヌは何度でも蘇る、その為に兵士どもはマロを逃がす為の囮になるでおじゃるよ!!!」


「は?」


 お前たちは見捨てる、と言われた兵士は茫然として問い返すが、既にその命を下した人物は肥え太った身体を揺らして逃げ出していた。その後を重鎮たちも慌てて追いかけていき、戦闘開始直後にしてマヌの上層部が逃亡するという結果になっていたのだった。



スマホがご臨終なされました

下書きが消えて二回書く羽目になって絶望しましたが比較的ダメージが少なくて良かったですいや良くないけど。

バックアップはあるけど2~3か月前のなので、積極的に多分月1ペースくらいでバックアップ残しておくのが正解なんだなあと思いましたまる

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