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127話 マヌ〜現在の状況〜

 久々の宴だったことから、集落の人々は大いに盛り上がった。

 残り少ない食糧で、いつ自分が、もしくはいつ家族が餓死するか分からない……。そんな状態が続いていたのだから、開放的になるのも仕方がないと言えた。

 私は空間と時間を弄った便利袋からラナで購入していた酒樽を一つ開放し振る舞うと、更にひと段階熱が上がったように盛り上がる。

 久しぶりに酒を飲む者がほとんどのようで、酔っ払い赤面しながら踊ったり叫んだり地に突っ伏して眠りこけたりする者が現れ始めた。

 ヴァンはそんな酒飲みの輪の中心で笑いながら酒を注ぎ、クルルは私の側でちびちびと飲みながらその馬鹿騒ぎを見守っていた。

 そして私は集落の長と隣り合って座りながら食事をしていた。その席で長からマヌの置かれている状況を聞くことが出来た。

 税が何度も上げられて苦しいのは知っていたが、作物の度重なる不作にも関わらず以前よりも多くの税を求められたことでどの集落も似たような状態になっているらしい。

 このままでは家族も集落の人間も死んでしまうと、有志が集い税の徴収にきた役人を殺害したことが此度の蜂起の始まりだったそうだ。

 役人を殺したという事実はあっという間にマヌの全土に広がり、各地で同様の事件が相次いだ。そして一人の男の呼び掛けにより驚くべき速さで民たちが次々と合流し蜂起軍が誕生した。

 この集落からもまだ動ける若者が蜂起軍に合流するべく出ていったようで、今もなおその規模は膨れ上がっているという。


「長殿はその男の名は知っているのか?」


「ええ、風の噂ですがの。たしか……『サク』と呼ばれている若者だそうで。まだ齢二十を超えたばかりと聞きましたのう」


 サク───恐らくは愛称なのだろうが、彼が蜂起軍のリーダーであることは間違いない。

 ただ、名前以外のことは何も知らないようで、それ以上の彼の情報は得られなかった。





 翌日、蜂起軍と合流するために移動を再開した。

 もともと集落に立ち寄ったのは、実際に住んでいる人の様子を一度は見ておきたかったからなので、用も済んだ私たちは感謝の声に背中を押されて集落を後にした。

 昨日の宴会でイノシシを丸一頭半は使ってしまったと思うが、まだしばらくは何とかなるだろう。


「ふーん。その『サク』ってのが頭なのか。せめてどんな奴か判れば良かったんだけどな」


「それは言っても仕方ない。直接会ってみてどういう人柄か確認するしかないだろう」


「ま、そうだけどな」


「むしろ名前だけでも教えてもらえたのは僥倖ですにゃ。情報は取っ掛かりさえ手に入れられれば格段に調査しやすくなりますから…にゃ」


 情報収集を得意とするクルルが言うならそうなのだろう。カンナがラナでやっているように厳重な情報統制は行なっていないだろうから、サクの情報はすぐに集まると思われた。



 しばらく歩いていると、洞窟のような場所にたどり着く。どうやらトンネルになっているようで、ここを抜けるとマヌに近付くことが出来るらしい。


「暗いから気を付けろよ、ヴァン」


「何で俺にだけ言うんだよ」


「私とクルルは暗視を使えるからな。暗くても困らんが、お前は違うだろう?」


「俺の属性は青だからな。ってなんだ、嬢ちゃんは黒なのか。そりゃまた稀有なこった」


 白と黒の先天守護属性で魔術器官を持つ者は少ない。ヴァンの言う通り、クルルはとても珍しい存在なのだ。


「ま、松明もあるし大丈夫だろ。んじゃホシミ、火」


「……私は便利道具ではないぞ」


 それでもヴァンの携えた松明に火を灯すのは必要なことだからである。そうでなければ請われてもやらない。

 そんなやり取りを経て洞窟に足を踏み入れた。

 暗視を駆使して中を見渡すと、見た限りは普通の一本道のようだった。


「上に蝙蝠型の魔獣がいるな。小型だからこちらから挑発しなければ襲ってくることはないだろうが」


「この面子なら襲ってこられても何とかなるだろ。ま、流石にこんな狭っ苦しいところで大剣振り回す訳にはいかんから魔術で応戦するけどな」


「割と万能だな」


「万能さではお前に負けるっての。だけど全員が剣も魔術も扱えるってのは珍しいことではあるけどな?」


 魔術器官は突然発生することもあるが基本的には遺伝する。親が魔術器官持ちなら子も魔術器官を持って生まれやすくなるのだ。

 だから魔術師を輩出する家系は伴侶に魔術器官の有無を条件とする所が多い。

 私はミコに拾われた捨て子なので不明だが、クルルは魔術器官のない両親から生まれたらしい。

 ヴァンは自分のことを語らないので詳細は不明だが、類稀なる剣の腕前と魔術を普通に扱えることから、それなりの家の出身であることは容易に想像がついた。


「確かにそうだ。ほとんどの場合はどちらかしか扱えないか、さっぱり戦えないかだからな。私たちは恵まれているだろう」


「恵まれすぎて怖いくらいだけどな。……どうした嬢ちゃん。立ち止まったりしてよ」


「この洞窟……通路がだんだんと狭くなっています…にゃ。具体的には、高さが先ほどよりも違います」


 先頭を歩いていたクルルが突如立ち止まり洞窟の不自然さを口にした。

 クルルに言われて見比べてみるが、言われてみれば確かに……といった具合か。言われなければ気づくことはなかっただろう。


「上の方だから気付きにくいのだろう。こんな洞窟をじっくり眺めながら歩く者も居ないだろうしな」


「そう、だと良いのですが…にゃ」


 歯切れの悪いクルルの返答に首を傾げる。何か、彼女の気になることでもあるのだろうか。


「気になるなら調べても良いぞ? 別に急いではいないのだから」


「……では、お言葉に甘えまして。主はしばらく休憩でもどうぞ。本来なら私がお世話をしたいのですが、今は先に調べ物を済ませてきますので」


 そう言ってクルルは一人闇の中に消えた。

 私はヴァンと適当に座ってクルルを待つことにした。


「お前って嬢ちゃんに甘いよな」


「そうか?」


 初めて言われたが、そうなのだろうか。

 今まではクルルと二人だったし、ほとんど人前で過ごしていなかったから言われなかっただけなのか?

 しかしまあ、別に悪いことでもないので良いとは思うが。


「自覚無しかよ……。なあ、今まで嬢ちゃんの頼みを聞いてやらなかったことはあるか?」


「……いや、無いな。クルルはあまり我が儘を言わないし、どちらかといえば自分で抱え込む方だ。むしろ私から何か要望はあるか聞いているな」


「……なるほどな。嬢ちゃんはこいつが甘すぎるのを知っているから必要なこと以外は言わないのか。言えば何でも叶えようとしちまうから、か」


 私の答えにヴァンは小声で何かを呟いた。その呟きが私の耳に届くことはなかったが、ヴァンの中では何やら得心がいったらしい。


「何か判ったのか?」


「いーや。ただ、あの嬢ちゃんはお前のことが大切だって改めて判っただけだよ。心配は要らないだろうが、大切にしてやれよ」


「もちろんだ」


 雑談をしながらクルルを待っていると、一通り調査を終えたらしいクルルが戻ってきた。

 その手には何やら不思議な石があった。


「おかえりクルル」


「はい、ただいま主」


 手招きするとクルルはさも当然と言わんばかりに座っている私の膝の上に座る。そのあまりの自然な動きにヴァンは言葉に詰まっていた。


「何かあったのか?」


「洞窟の狭くなっている部分の天井から、金属を発見しました…にゃ」


「金属?」


 クルルの手にある石を良く見てみると、土石の中に鈍色に光るものが見えた。


「おそらくはこれのせいでうまく天井が掘れなかったのでしょう。研磨してみなければ何かは判りませんが、少し採取してきました…にゃ」


 そう言ってクルルは持っている便利袋を軽く叩く。ラナに戻ってから鑑定するようだ。


「そうか。特に害の無いものでよかったな」


「はい。それに、いざとなればここで金属が採掘出来ることが判ったので何かに使えることもあるでしょうにゃ」


 クルルが少し休憩を取ってから再び洞窟を進み、反対側にたどり着く。

 そこで見たものは、つい先ほどまで戦闘があったと思われる痕跡だった……。



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