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11話 南国での三日目

 晴れ渡る澄んだ青空。爽やかな風が吹き抜けていく。今日の朝は少しだけ涼しく、とても過ごしやすい気温だ。


「今日は随分と涼しいな」


 部屋のベランダで風を浴びながら呟く。

 昨日は帰ってから温泉に入って直ぐに寝てしまったが、二人の様子を見ていると距離が縮まったように感じる。

 私がいない間に何かあったのだろう。

 どこかあったよそよそしさが消えて、とても仲の良い姉妹のように見えた。


 さて、今日は何から始めようか。今日もあの二人を置いて行ったら怒るだろうか。

 未だ布団ですやすやと寝息を立てて眠る二人に目を向ける。

 昨日の駄々のこね方を鑑みるに、間違いなく怒るだろうな……。もしくは暫く会話を交わしてもらえなくなるかもしれない。特にココノハは何をしてくるか分からないのが怖い。却下。

 単独行動は出来ないとなると、危ない手段は取りづらくなってしまう。

 どうしたものやら考えていたが、そういえば今日はシィナがやってくる可能性があったことを思い出す。

 折角来たのに誰もいないなんて可哀想な目には流石に合わせられない。もしそんなことをしたのなら絶対に泣かれるという確信がある。


「来るかは分からんが、待っていた方が良さそうだな……」


 奥方から間違いなく説教を受けたであろう炎龍皇が我々のことをシィナに伝えたことを祈ろう。

 これで、今日の行動方針が決定した。

 室内に戻り、お湯を沸かして茶を淹れる。

 そして、読みかけの本の頁を開くのだった。





 ーーーーーー






 昼になった。シィナはまだやって来ていない。これは炎龍皇がやらかした可能性があるな?

 リアは久方ぶりに会えるだろう友人を待ってウキウキしている。ココノハは起きてはいるが、布団から出てこない。


「ホシミさん。シィナさん遅くないですかね。もうお昼ですよ」


 ココノハのだるそうな声が聞こえる。


「もしかしたら伝達されていないかもしれんな」


 頁をめくりながら答える。

 あるいは、炎龍皇がシィナに余計なことを言ってしまった可能性もある。むしろこちらの方が高い気がしてならない。


「大丈夫ですわ、あの子は来ますわよ」


 しかしリアは断言するような口調でそう言った。


「それはいったい……」


 どういうことだ? と尋ねようとしたが、外からドタドタと急ぐ足音が聞こえて来た。音はこちらへ近づいて来て、部屋の前で止まる。

 数瞬遅れて、部屋の扉が思い切り押し開かれた。


「ちょっとリア! あんたなにやってんのよ!?」


 焔のように赤い髪を左右で結んだ少女は、外出用なのだろう、赤と白を基調としたカジュアルな衣服に身を包んでいた。服の背面は大きく開いており、そこから赤い翼が覗いている。


「あら、シィナ。お久しぶりですわね」


 未だ浴衣のままのリアは、鬼気迫る表情のシィナに呑気に挨拶をする。


「お久しぶりですわね……じゃない!」


 怒りのボルテージを一段階上げたシィナがリアの肩を掴んだ。


「あ・ん・た・はぁ……、人の部屋を氷漬けにしといてそんなこと言える立場かああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 そして悲鳴に近い声をあげながらリアを揺さぶる。

 ココノハは『うわぁ、何やらかしてんですか』と言わんばかりの複雑な表情をしていた。

 なるほど、シィナがやって来ることに自信を持っていた理由が分かった。そりゃあ部屋を氷漬けにされたら来るだろう。こんなことが出来る人物なんて一人しかいないのだから。


「シィナぁ、これ以上揺らされると胸が痛いですわあ」


「あんたいっぺん死んできなさい!」


 そうして始まる第二ラウンド。

 シィナはリアの胸を恨めしそうな表情で鷲掴みにするのだった。


「ねえホシミさん。一応聞いておきたいんですけど」


「なんだ?」


 そのままじゃれ合う二人をひとまず置いておいて、いつの間にか隣にやって来ていたココノハへ向き直る。


「どうやって部屋を氷漬けにしたんですか? 朝からずっと一緒に居たのに不思議だなあって」


「ああ、それなら簡単だ。もともとリアは辺り一帯の気候を一変させるほどの強大な魔力を持つことは知っているだろう? 北の一帯を凍土に変えた伝承まで残っているくらいだからな」


 私の言葉にココノハは頷く。


「ここから王宮のシィナの部屋までの距離はしっかり把握していたのだろうな。座標さえ分かっていれば、そこだけに冷気を放出することができる。今回の件はそれだけだ」


 もっとも、そんな離れ業が出来るのはリアだけなのだが。私だってそんなことは出来ない。

 二人が起きてからシィナが来るかもしれないという話をしたが、その後すぐにリアの魔術器官が稼働しているのを感知したからまず間違いないだろう。

 最初はなにをやっているのかと思ったが、まさか部屋を凍らせているとは思わなかった。


「なんというか、デタラメですねえ……」


 ココノハと共に二人に目を向けると、攻守が逆転していた。


「誰がおっぱいおばけですの? シィナだってこんなに良いもの持ってるじゃありませんの!」


 そう言ってシィナの胸を揉みまくるリア。


「ひゃぁっ! ちょ、やめなさいっ! そんな強く揉むなぁ!」


 抵抗するようにシィナもリアの胸を揉む。


「ぁあんっ! シィナぁ…、んぅっ、触るならもっと優しくがいいですわぁ」


「ええぃ、そんな艶っぽい声を出すなぁ! あたしまで変な気分になるでしょうが!」


 ぎゃーぎゃーとわめく二人。


「そろそろ止めませんか、あれ」


 そう言いながら自分の薄い胸元を悲しげな表情でペタペタと触るココノハ。

 たしかにこれ以上はほかの客にも迷惑になるだろう。


「ほら、お前たちいい加減にしろ」


 二人の頭を抱き寄せる。鼻と口を衣服で塞ぐ形になった。

 じたばたする二人の耳元にそっと囁く。


「これ以上オイタが過ぎると、お仕置きするぞ」


 二人が急におとなしくなる。それを見計らって頭を解放した。


「そんなに過剰な反応をされると傷つくぞ」


「あんたのお仕置きは洒落になってないのよ……」


「丸一日寝たきりになってしまうのはちょっと……」


 二人は過去を思い出して苦い顔をする。

 そこまで酷いことはしていないのだが……。


「お仕置きってなんですか?」


 何も知らないココノハが知的好奇心から質問してくる。


「何、猫と遊ばせるだけだ。全力でな」


「猫? 塔には猫なんていませんでしたよね?」


 ココノハは首を傾げる。

 塔の中はおろか、外の森に至るまで、我々以外は住んでいない場所だ。疑問に思うのも当然かもしれない。


「今はいないな。呼べば直ぐにでも戻って来るが……まあ、そのうち会えるだろう」


 頭に疑問符を浮かべるココノハ。更に謎が深まってしまったかもしれないが、いつかは会えるだろうからまあいいだろう。

 これで騒ぎは収まった。さて、シィナには何と話しかけようか……。



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