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06話.封印された始まりの記憶

これは、虹色の天災が起こる少し前のお話…。


ミリーは、人を避ける様にして、山から山へと移動していた。

時には魔物たちと語らい、仲良くなることもあったが、一方では、ミリーを狙って戦いを挑んでくる魔物もいた。

そんな、ミリーを狙ってくる魔物たちは、人を殺すことに喜びを覚えていたものたちだった。

ミリーは会う魔物、会う魔物に友好的に話かけてはいたが、人を娯楽の対象としていたり、食糧としか思っていない者たちに対しては、それはもはやする意味すらなさなかった。

だが、1人の魔物は違ったのだ。


「ウフフ…さぁ、今日も妾の姿に溺れて、その身に纏う生気を頂戴な。」


そう言いながら、森に囲まれた中にある、小さな湖で、上半身を出している美しい魔物がいた。

金髪の綺麗な髪はウェーブを描いて、露わになっている上半身を隠す様にして体になだれていた。

その豊満な胸も、際どく金髪で隠されていて、逆にその姿が艶かしい。

腰から下は、オーロラを氷の結晶にした様な、美しい鱗に纏われていた。

綺麗なカーブを描くその下半身は、魚の様にヒレが付いており、妖美なその姿が美しい1つの作品の様だった。

黄金の美しい瞳が見開かれ、辺りからは若い男たちが少しずつやってくる。

そうして、笑顔になる魔物。

ペロリと細長い蛇の様な舌で、口のまわりを舐める。


「あぁ…いいわぁ、今日も素敵なご馳走よ。」


そうして、やって来た男たちを、それぞれ少しずつ生気を抜き取っていく。

段々と魔物の頬が火照っていき、その艶やかな魔物はブルッと身を震わせる。

それはそれは嬉しそうに。

そうして落ち着いてきたところで、その魔物は1人の青年をチラリと見た。

それはとても極上な生気を持つ青年だったが、他の者たちよりも生気が少なく、回復も遅かった。


"人なんてどうでもいい、ただのエサ。"


そう思っていた魔物だったが、その青年だけは特別だった。

その青年の生気を食べる度に、青年への想いは募るばかり。

だからか、その青年に対してはとても優しく接していた。

その青年を自分の近くまで呼ぶと、魔物は両手で青年に抱きついた。

そうして、優しい声音で囁いた。


「貴方はゆっくりとお休みなさい、元気になったらまたいらっしゃいな。

無理をしては駄目よ…。」


そうして笑顔で、また会えるのを待っているわと付け加えて、その男性たちを村に帰した。


そんな一部始終を見ていたミリーは、人を殺さない様に少し食べては回復させてを繰り返している魔物へと近づいた。

少しすると、名残惜しそうに青年が帰る後ろ姿を見ていた魔物は、警戒心を剥き出しにした。

その警戒先は、自分の元へと優雅にやってくるミリーへと注がれた。

ミリーが湖へと近づいて行くと、いきなり高速の水の刃が飛んできた。

ミリーは全身に纏った防御結界で、それは防げると判断して、そのまま歩いて行く。

魔物はそのミリーの姿に驚きで目を見開いていた。

そして、その水の刃を飛ばしてきた魔物が口を開く。


「貴様は何者だ!!

何故、妾の攻撃が効かぬ?

普通の人間ならば、一発ですら即死だというに!」


「初めまして、あたしはミリー。

友達になってくれませんか?」


大声で怒鳴りながら、水の刃でミリーへとひたすら攻撃をする魔物。

それを何とも思わず、そのまま歩き続けてニッコリと笑いながら、友達にならないかと言うミリー。

その言葉にキョトンとする魔物。

そんな魔物を見つめて、ミリーは再度口を開く。


「金髪の綺麗なお姉さんのお名前は何ですか?」


笑顔で名前を尋ねてくる、ミリーと名乗る少女の愛らしいこと。

魔物は一瞬で目を奪われていた。

この世に生まれてこの方、自分より美しいものを見たことがなかったその魔物は、自分以外を蔑んでいた。

だが、今、目の前にいるミリーは、そんな魔物ですら蔑めないほど、可愛らしく愛くるしかった。

それに、人間の女は、自分を見るなり化け物だと騒いだり、怯えた目で見てくるのだ。

それなのに、怯えたり騒いだりするどころか、笑顔で友達になって欲しいと言ってくるのだ。

魔物にはもう理解が追いついていなかった。

そんな魔物だか、綺麗なお姉さんと呼ばれたことに心が高揚する。

魅了をしていないのに、そんな言葉を言われたのは初めてのことだったから。

この湖一帯は、この魔物の縄張りで、自分の元へとやってくる魔物には容赦せずに、先ほどのミリー相手の様に、水の刃で攻撃して始末していた。

だから、魔物の元へとやってくるのは魅了された人間の男だけだったのだ。

気分を良くした魔物は、ミリーへの返答をする事にした。


「妾に名など無い。

それに、何故妾と友達になりたいのだ?

人は妾の事を、怖がったり化け物だと気持ち悪がったりするよのぅ…。」


そう言いながら目を細める魔物。

きっと、今までの人たちからの言葉だったりを思い出しているのだろう。

ミリーは少し首を横に傾けて答える。


「だって、お友達はいーっぱいの方が楽しいでしょ?

あたし、お友達をいっぱい作ってみたいのよ。

お喋りだっていっぱいしたいもの!」


そうして屈託の無い笑顔で魔物を見つめた。

最早魔物には、その笑顔を拒む術を無くしていた。


「ならば、妾が其方の友達とらやになってやらなくもない…。

そもそも妾の攻撃を受けても、傷1つつけぬ其方に対して、妾は手の出し様がないしのぅ。」


腕を組んで、ミリーを見つめてくるその魔物が、なんだか照れている様で、ミリーはとても嬉しかった。


「あたしの事は、ミリーって呼んで!

貴女にも、名前が必要ね…。

そうだ!

"ローラ"なんてどうかな?

だって貴女のその鱗、オーロラの様に不思議で綺麗な輝きをしているんだもん!」


そう嬉々として喋るミリー。

初めて褒められ、綺麗だとその名を与えてくれたことに胸が熱くなるローラ。


「其方の事はミリーと呼ばせてもらおう。

ローラ、か。

なんとも素敵な名前よのぅ。」


どうやらミリーが付けた名前を気に入ってくれた様だ。

嬉しくなったミリーはその後、暫くの間、ローラと語り合った。




その後、あんな事になろうとは…。

この時既に、事は起こっていたのです。

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