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碧鍵の掟  作者: 春胡蝶
10/10

10【追跡】3

「……は?」

 命がかかっている?

「俺の主が攫われたんだよ。俺のいない間に」

 ラグは歩きながら、今までの経緯を話し始めた。

「お前を宿まで送ってる間に、誰かが書庫に侵入して主を攫ったんだよ。しかも、ご丁寧に書庫に火をつけて、重要書物を燃やしてくれやがって……あれを集めるまで、どれだけ苦労したと思ってんだよ」

「ちょ、ちょっと待った! 私が知らない間にそんな事があったの!? というか、こんなにゆっくりしていられる状況じゃないでしょう! 早く助けにいかなきゃ!」

「落ち着け」

 手のひらを私の顔の前に出して、静止した。つられて私も止まった。手も大きいのね……って、当り前か。

「大体の犯人の見当は付いている。ブライス国の上層部……恐らくは上級貴族の雇った奴だろうな。というか、あいつらしか考えられないし」

 ラグは再び歩き始めた。こんな森に、いつまでも居たくないのだろう。

「じゃあ、何で早く助けにいかない!」

「行きたいのは山々だが、行けないんだって。唯一の即時救出方法も失敗したし……」

 魔法陣の件か。

「多分、相手は既に瞬間移動テレポートを使用して、ブライス国に入っていると思う。それで、恐らくは何処かの塔に主を監禁しているんだろうな」

「それって、今すぐに助けに行かなきゃならないんじゃ……」

「監禁、って言っただろ。別に殺されるわけではない。それに、塔に監禁されたんじゃ俺たちには何も出来ないんだ。世界最強と言われる軍力に、たった二人で立ち向かえると思うか?」

 それは無理だ。その上私は戦力外であるし。瞬殺されるのが目に見えている。

「じゃあ……どうするの? このままその主さんのことを諦めて、アーリス国に戻るの?」

「馬鹿か! 俺があの方を見捨てるわけがない!」

 ラグはいきなり怒鳴った。私は、怒らせるような事でも言ってしまったのか。

「さっき、城に連絡して救出を頼んだ。二、三日すれば塔に忍び込んで助けてくれるはず……だ」

「ブライス国の人が、主さんに危害を加えたりはしないの?」

「しないはずだ。両国交換条約って条約を知っているだろ? 俺の主が傷つけられる、あるいは殺されたりしたら、すぐに人柱を殺して戦争だ」

「え、ラグの主ってそんなに国の重要人物なの?」

「あ、まだ言ってなかったっけ? ヒューバート・アーリス・ブリントン、国民なら一度は聞いた事あるだろう」

 名前に国名が入っているのは、ある一族しかいない。それはつまり王族であるわけで……

「アーリス国第一四国王。アーリス国を統治する、現アーリス国王だ」

「こ、国王!? 本当に国王なの!?」

「何度も言わせるな、国王だっての。それで俺は、王の臣下ってことになるのかな」

 そんなに偉い身分だったのか! こんなタメ口で話していい相手じゃない。

「し、失礼しました、ラグレット殿。今までの無礼をお許しください」

 小さいころから叩き覚えさせられた礼儀作法を、今この森の中で使うときが来るとは思ってもいなかった。片足を地面に付け、頭を下げる。今更ではあるが、王やその臣下に会った場合は、こういうふうに頭を下げるのが常識であり、欠かしてはならない作法だ。今までの私の態度を思い出すと、過去の自分を殴り倒したくなる。私は何をしていたんだ。

「ルエラ、俺がさっき言った事、覚えてるか?」

「何でしょうか」

「敬語は無くていい。この立場と知って、態度を急変させられるのが気に食わない。この立場の嫌いな所は、普通に親しく喋ってくれる人が少ないって事だ」

「申し訳……ごめんなさい」

「早く顔あげて。ほら、さっさと行くぞ」

 腕を引っ張られ、立ち上がる。その腕を掴んだまま、ラグが歩きだした。

「俺は小さい頃に、今のアーリス王に拾ってもらって城に住み始めたから、城内に知り合いは多くても、外での知り合いは居ないんだ」

 そう話す彼は、幼い少年のようだった。

「最初は王の我儘だったんだ、城下に行きたいって。それで数日前に俺と王で城を出て、あの町の書庫に滞在することになった。もちろん城内以外は機密で。それでお前と会って、繋がりが出来て……正直嬉しかった。いつもは城で王と一緒に居たり、訓練したり、業務こなすだけだったから」

 私は彼の話を黙って聞く。聞くしかできない。

「それがこんな事になって……本当にごめん。迷惑極まりないよな。てか、何でこんなことお前に話してるんだろう……本当、いい年こいて何やってんだか俺……」

 何が言えるだろうか。私はこの人に、何か言ってあげられるだろうか。

「わ、私が……」

「……え?」

「わ、私が友達になってあげる! 私も外に知り合いとか、友達とか居なかったから……友達第一号でしょ?」

 しばしの沈黙が訪れた。彼は酷く驚いたようで、目を見開いていた。やがてその沈黙を破ったのは、ラグの笑い声だった。

「そ、そうだな、友達……ははは」

「な、何がおかしいんだ! 私は真剣だ!」

「いや、ごめん、嬉しくてさ……この年で初めての友達とか、笑っちゃうって……」

 笑われたのは気に食わないが、どうやら友達として認めてくれたようだ。咄嗟に言ってしまった事だったが、なんとか元気を出してもらえてよかった。さっきの表情……今にも泣き出しそうな表情を見ていたら、勝手に言葉が出てしまっていた。この人でもあんな表情するのか。少し新鮮な気がした。

「それはそうと、ラグ……」

「え、何?」

「いい加減、腕放してくれないと……凄い痛いのだけども」

「はっ、ごめん! 忘れてた!」

 忘れていたといっても、強く掴みすぎだ、馬鹿。


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